アカデミー賞「外国語映画賞」受賞!現代イランの社会を写し出す濃密な心理サスペンスとは?

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2009年の『彼女が消えた浜辺』でベルリン国際映画祭「銀熊賞」を受賞、2011年の『別離』でアカデミー賞「外国映画賞」、ベルリン国際映画祭「金熊賞」・「銀熊賞」を受賞。そして、2013年の『ある過去の行方』ではカンヌ国際映画祭の女優賞を受賞。

手がけた作品が世界で絶賛を浴び、いま最も注目されるフィルムメーカーとなったアスガー・ファルハディ監督の最新作『セールスマン』が、6月10日(土)より全国順次ロードショーされます。

本作は、ふとしたことをきっかけにしてテヘランに住む若夫婦が衝撃的な事件に遭遇し、日常が激変する様子をヴィヴィッドに描いた濃密な心理サスペンス。この作品も世界中で賞賛を受け、見事に監督2度目となるアカデミー賞「外国語映画賞」を受賞。カンヌ国際映画祭でも脚本賞、男優賞をダブル受賞しました。

アスガー・ファルハディ監督による新たな傑作、『セールスマン』の魅力をご紹介しましょう!

 

授賞式ボイコットの渦中で受賞したアカデミー賞

『セールスマン』は、主演女優のタラネ・アリシュスティやファルハディ監督がアカデミー賞授賞式をボイコットすることを表明したことでも、すでに話題になっていました。

今年の1月24日、アカデミー賞外国映画賞に『セールスマン』がノミネートされたものの、ドナルド・トランプ大統領がイランを含む特定7カ国からの入国制限命令を検討しているというニュースを受け、それに抗議する形で授賞式の出席を拒否したのです。

そんな状況の中でも作品の評価が揺らぐことはなく、映画は見事アカデミー賞「外国語映画賞」を受賞。監督は受賞の際、こんなメッセージを寄せています。

「アメリカへの移住者の入国を禁止する非人道的な法律によって、敬意を払われていない私の国と他の6カ国の人々に対する尊重から、私は欠席することにしました。(中略)映画はカメラを通して国籍や宗教の固定概念を壊すことができます。これまで以上に共感が必要とされている今、映画は共感を生み出すことができるのです」

世界の枠組みが大きく変わろうとしている今こそ、「イランの今」をありのままに活写した『セールスマン』は、リアルタイムで観るべき映画なのです。

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  • ■イランの国情や文化に立脚しながらも、どの国でも起こりうる性的犯罪事件をキッカケに露呈する夫婦の価値観の違いや深層心理をえぐり出す、緻密なサスペンスドラマ(Terrraさん)
  • ■一般的に想像しているより遥かに現代的なイランに驚く。横軸には見事なサスペンスミステリーがあり、真相に近づいていく様に心臓が痛くなるほど惹き込まれました(湊さん)
  • ■よくあるアメリカ的な驚かしてやろう的サスペンスではなくて、ねっとりした伏線が余韻として残る。俳優たちの演技が逸品だった(kapoさん)
  • ■その夫婦役のシャハブ・ホセイニとタラネ・アリドゥスティの演技が素晴らしいし、スリリングなサスペンスタッチで、夫が犯人と対峙するクライマックスまで観る者を飽きさせない、監督・脚本のアスガー・ファルディも素晴らしいです(ママコさん)

近代化するテヘランを舞台に展開される、濃密な心理サスペンス

映画の舞台は、近代化が進むイランの首都テヘラン。地元の小さな劇団に参加している国語教師のエマッドとその妻ラナは、近隣の強引な建設工事によってアパートが倒壊寸前となり、急遽別のアパートに引っ越すことになります。

ところが、彼らが出演する舞台が初日を迎えた夜、新しいアパートで正体不明の侵入者にラナが襲われるという事件が発生。一命をとりとめた彼女はなぜか事件について多くを語ろうとせず、エマッドは犯人が置き忘れた携帯電話と鍵束から、その正体を掴もうと躍起になります。

無秩序に都市開発を行う行政。復讐心に燃える夫。他者の目を気にして、なるべく事件を公にしたくない妻。イランの社会状況、女性が置かれている立場が映画に巧みに織り込まれ、物語に深みを与えています

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  • ■まだまだ根強いイスラム社会の男尊女卑。なぜ警察に届けないのか、始めは歯痒く感じたけれどこの国ならばそれもあるのだ。それを細やかな演出で観客に納得させていくのが上手いと思う。脚本・監督・役者が揃うとこれだけのパンチのある作品になるんですね。2時間全くだれずに一気にエンドロール。素晴らしかったです(オトマイムさん)
  • ■この監督のすごいとこは、サスペンス映画としてただただ面白い!ということ。精神的にじりじり来るサスペンス。あまりにもイランのこと知らないけど、感情は人間共通なんだと教えてくれる(フクイヒロシさん)
  • ■アカデミー賞の(代読)スピーチで感動して絶対に観たいと思っていた作品。素晴らしかった。「たった一夜の出来事で、2人の運命が狂い出す」なーんてよくある文句は似合わない、上質なサスペンス(Kanoさん)
  • ■パートナーと観るのもいいかもしれない。男女の考え方の違い、隣にいるこの人が同じ経験をしたらどうなるのか…重ね合わせながら観るのもひとつだと思う(Shihoさん)

戦後アメリカを代表する戯曲「セールスマンの死」が表象するものとは?

エマッドとラナは、所属している劇団でも夫婦役を演じています。彼らが出演している舞台「セールスマンの死」は、アメリカを代表する劇作家アーサー・ミラーによる全2幕の戯曲。「年老いたセールスマンが時代の波に取り残されて仕事を失い、夢を託した2人の息子も自立することができず、全てに絶望してついに自殺する」という物語です。

1949年に初演を迎えたこの作品は、戦後アメリカのニューヨークで資本主義社会に取り残された男の悲劇ですが、その状況を今のイランを重ね合わせています。

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ファルハディ監督自身、インタビューで「(「セールスマンの死」は)都会であるアメリカの突然の変化によって、ある社会階級が崩壊していく時代の社会批判です。(中略)その意味で、この戯曲は、私の国イランの現在の状況をうまく捉えています」と語っています。

映画内の物語と、劇中劇が重層的に交錯しているからこそ、『セールスマン』は単なるサスペンス映画ではなく、優れた社会派ドラマとしても機能しているのです。

観る者に先読みを許さない濃密な心理サスペンスの傑作をぜひ劇場でご覧ください。

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  • ■人間の性は深いです。赤い自転車が持つ意味に泣けてきました。今年のマイベスト映画です(KawaKurさん)
  • ■犯人は一体誰なのか?舞台と現実がリンクして実にスリリング。計算され尽くした細かい演出や小道具や伏線がニクイ!オスカー獲得も納得の上質なサスペンス(tkred204さん)
  • ■本作が纏っている夫婦の「仮面」と、舞台で「演じる」事の共鳴に気付くと、胃の辺りがグッと掴まれる様な気持ちで、居たたまれなくなる。ファルハディ先生、今回も本当に底意地悪いです(takeman75さん)
  • ■惹き込まれる。芝居と脚本に。決定的な部分を見せないような撮り方にも。心理描写が繊細で、役者のどの表情も見逃せない。鏡やガラスのどれをとっても重要な表現材料になっていて、映るもの全てで何かを表しているように見えた。一度見ただけでは追いきれてない部分がある気がしたので、もう一度見たい(れいかさん)

 

◆映画『セールスマン』information

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あらすじ:作家アーサー・ミラーの戯曲「セールスマンの死」の舞台に出演中の夫婦。夫は教師をしながら、小さなの劇団で妻とともに俳優としても活動している。 ある日、引っ越ししたばかりの自宅で、夫の留守中に妻が何者かに襲われ、ふたりの穏やかだった生活は一変する。事件を表沙汰にしたくないと警察への通報を拒否する妻の態度に納得できない夫は、自分自身で決着をつけるべくひそかに犯人捜しを続ける。 演劇と犯人探し、夫婦の感情のずれがスリリングに絡み合い、やがて物語は思わぬ展開に…。

上映時間:124分

〈2017年6月10日(土)、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー〉

公式サイト: http://www.thesalesman.jp/
配給:スターサンズ/ドマ

(C) MEMENTOFILMS PRODUCTION?ASGHAR FARHADI PRODUCTION?ARTE FRANCE CINEMA 2016

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  • なくに
    2.9
    イラン映画を初観賞。 作中のテーマになっている戯曲「セールスマンの死」を観たことが無いため、観ていたらまた違う視点で観れると思った。 展開も相まって、ディスプレイ越しでも良い意味で不快な蒸し暑さを感じられる映画。
  • doji
    -
    鮮烈なイメージを残す事件が起こる一連のシーンから、ショッキングなことは起こらないにせよ、どうも不穏な空気が流れ続ける。男性主人公はいたわりや優しさではなく、怒りを原動力に犯人探しを続けるがその動機が描かれず、さらに被害者である妻は頑なに実際になにが起こったのかを語ろうとしない。そのことから、ありゆる起こりえたことが観客の頭の中をめぐり、心理的なスリリングさに満ちたまま全編は進んでいく。 これはあくまで解釈ということになるかもしれないけれど、主人公がもつ苛立ち、それは芸術を志しながらも教師としての職をこなさなくてはならないことや、住宅や子どもを持つかどうかということ、そういった男性としての自我にゆさぶりをかけるようなできごとが続くなか、もしかしたら他の男性性による被害を妻が被ったかもしれないという疑惑が、彼の男性性へうずきにつながったのではないだろうか。そしてそれは、アーサー・ミラーの劇である『セールスマンの死』の中でえがかれた、セールスマンとしての生き方がその人の人生のすべての意味に成り代わってしまったというストーリーラインと見事に呼応している。 イランというバックストーリーをそこまで知らないままの鑑賞とはってしまったけれど、やはり社会的地位における性差というものが大きく感じるし、世界的な状況と古典でされる『セールスマンの死』がいまだに呼応してしまう現状を批判的にあぶり出すような、そんな意図を感じた。
  • yumi
    3.4
    冒頭の建物がミシミシして、そこの住民が避難しているシーンが衝撃的。なのに、それについてはその後ノータッチ。イランではよくあることなの!? 劇中劇が面白い!あのキャストでのアーサーミラーの『セールスマンの死』も全編観たいし、戯曲も改めて読み直したくなった。 そして、男と女が見事にすれ違っていく様子が切ない。どちらも決して自分勝手になっている訳じゃない。でもこういう事ってあるよね。 いきなり行動するんじゃなくて、こう思うからこうするつもりだよとか会話が必要なのかな。
  • 笹もね食べるよ
    -
    難しすぎてわからないので途中でレビューを漁る始末。脚本が大味で写す必要の無いものが多いと思ったがどうやら違うらしい。体験したことのないネチョネチョした事情があるのは日本人の男でもわかった。初見の素人が観る作品じゃない感
  • GoofyGrape
    4.3
    「誰もがそれを知っている」のアスガー・ファルハディ監督作品。 とても難しい映画で、観賞後劇中劇の「セールスマンの死」はどういうメッセージが込められているのかなど解説などを読んだりして考えてしまった。 妻ラナが暴力の被害にあい、夫のエマッドは憎悪を抱き犯人を独自に探し復讐をする。犯人判明後、緊迫したシーンが続き目が離せなかった。この映画を観終わって、「スウィーニー・トッド」を思い出したが、(ストーリーは全く異なるが)相手に復讐しても結局悲しい結果に終わるのだと改めて思った。
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のレビュー(4107件)