90年代~00年、ミレニアムをリードし続けた窪塚洋介と降谷建志――その時代に生きた若者は、「時代の寵児」「カリスマ」と呼ばれる両者を焦がれ、才能に羨んだ。型にはまらない言動と自由自在に操る感情豊かな表現で、映像界で光彩を放つ窪塚と、ロックバンドDragon Ashにてパフォーマンスと音楽を融合させ、「サーカス軍団のように」華やかなスタイルで、唯一無二のヴォーカリストとして君臨する降谷。このふたりが、2017年、映像の中で初めてコラボレーションを果たした。
共演作『アリーキャット』は、プロボクサーを引退し、今は警備員のアルバイトで食いつなぐマルと、自動車の整備工場で自由気ままに働くリリィが、ゆきずりで運命を共にしていくロードムービー。大人でもない、子供でもない「コドナ」なふたりが語った、彼らの運命とは。
――撮影はいつ行われたんでしょうか?
窪塚:2016年の1月でした。『沈黙ーサイレンスー』の撮影が終わって、舞台「怪獣の教え」をやって、その後です。のっぴきならない感じになるだろうなっていうのはあったし、自分の人生にとっての大きな出会いになるっていう流れを感じていたというか。そして、それは確信に変わりました。仕事は終わったけど、今も会って酒を飲んだり、音楽を作ったりするようになっているから。そのときの出会いが、無限の可能性を生んでいるんですよね。
――出演の決め手になったものは、お互いの存在ですか?
窪塚:建志くんの引力じゃないですかね。
降谷:マルが窪塚洋介だったっていうのが一番大きいです。あと、監督にお会いして、「なぜ自分にオファーがきているんですか?」っていう話をしたら、内容がすごく誠実で、クリエイティブなものだったので、「ぜひやらせていただきます」と。マルにも、「こういう話がきてるんだけど」って相談したんです。そうしたら、「脚本も面白いし、何ならリリィは俺がやりたいくらいだから、物理的にできるならやろうよ」って言われたから、「うん、やる♥」って。
窪塚:「っしゃー!」みたいな。
――窪塚さん的には、マルでも、リリィでもやりたかったんですね。
窪塚:逆でも面白いかなとは思う。
降谷:うん。
窪塚:どちらかと言うと、リリィのほうが自由自在にできるし。
降谷:ちょけてるんでね。
窪塚:ちょけてる=ふざけてるってことね。マルのほうが受けというか、相手の芝居で変わってきたりもするし。もうちょっとクールにやっても面白いだろうなっていう意味のことを話しました。
――窪塚さんは国外での撮影も経験されていますが、違いは感じますか?
窪塚:『沈黙ーサイレンスー』は台湾で撮影していることもあって、ハリウッドの、いわゆる自分たちのレギュラーではなかったんだと思うんです。「超低予算で、本当にごめんね、10億しかなくて」みたいな現場だったんですけど、「俺、そんな現場やったことがないし」と思っていて。マーティン・スコセッシの30年撮りたかった特別な現場にいられたという誇る気持ちはあるけど、僕も「ハリウッドを見てきました!」という気分ではない。
今回は、1回舞台を挟んだこともあって、随分ナチュラルに戻してもらって、ニュートラルな状態で臨めました。久々の主演映画ということも含め、いい流れがきているなっていう感じだったんです。とにかく最大限楽しんで、感謝して、自分たちの財産になるような時間を過ごすことが大事だったし、それができて今に至っているので、最高です。
――今、がっつり演技に挑戦した降谷さんの感想をお聞きしたいです。
降谷:撮っていたのは2週間だけですけど、毎日休みなくやっていました。俺のクランクインの日って、記録的大雪で。電車が止まったりして。俺、初めて地下鉄の外まで並んでいましたから。
――びっくりなんですけど、並んだんですか(笑)?
窪塚:フラッと電車で来るんですよ(笑)。
降谷:「まじか」って。行って、中止というのが初日だったんですけど(笑)。それ以外は、ずっとマルと一緒で。楽屋で寝ていたときもあったけど、本当に寝るとき以外は、飯も現場も全部一緒。全て一緒にいるなんて、ほかの職種ではあまりないと思うんです。俺はバンドを20年やってるけど、寝るとき以外2週間ずっと一緒にいるなんて1回もないし。人間的にも魅力的だし、いろいろ勉強になったし。人生ひっくり返るくらいの経験でした。
――そうやって共に過ごす時間は、役作りの助けになったんでしょうか?
降谷:うん。
窪塚:絶対的にある。元々持っていたもの、プラス、その2週間で過ごした時間が熟成させるっていうか。ふたりともアーティストで、ふたりともこういう道を歩いてきているから、そこの作用は早かったと思うんです。ステージでやっている人だし、俺もそうだから。あのときの研ぎ澄まされている時間って、ひょっとしたら1分、1時間とかがすごく長い尺度で感じられるほど集中していて。現場でカメラの前でシェアできる感覚は似ていると思うけど。だから、本当に高みでのコラボレーションが楽しかったです。
降谷:ふふふ。
――物語のクライマックスにさしかかる前の、マルとリリィと羽柴康夫(火野正平)の場面がマルとリリィの絆を感じられて、すごく好きなんです。
(C)2017「アリーキャット」製作委員会
降谷:ありがとう。俺、あのシーンで、思いっきりオフカメラでぶん殴られていますからね。「えっ」と思ったんですけど、それでスイッチを入れてもらったなあ、みたいな。
窪塚:俺をかばってくれていたシーンだったので。俺は最初はやられているんだけど、後半、火野さんが盛り上がってきてから、蹴りくらっているのは建志くんだから。
降谷:そう、なんか親父(※古谷一行)が、すげえ(火野さんと)仲よかったみたいで。
窪塚:言ってたね~(笑)。
降谷:年賀状……の……。
窪塚:漢字、間違ってるってやつ。
降谷:そう、「火(野)」なのに「日」を書いていたらしくて、俺の入り口0点にされた覚えがあります(笑)。
窪塚:建志くんの親父のクレームが、建志くんに入ったんだよね。
降谷:そうそう、そうそう(笑)。俺は、普段すごく排他的なところに生きているんですよ。同じようなバンドと、同じような仲間たちとジプシーみてえにいろんな地方に行っているだけで、すっげえ狭いところで生きているんですよ、俺らは、かなり。だから、バンドマンの現場では、あんなに年上のあれだけのオーラを放っている方とご一緒する機会が本当にないんです。レジェンダリーな人と一緒にタバコを吸ってみたりだとか、それだけでも刺激的でした。火野さんは優しいけど、オーラ自体がやっぱいかついしね。すっごいいろいろなことをやってきているだろうから。
――降谷さんは、今後も俳優業をやっていきたいと思いますか?
降谷:はい、思います。『アリーキャット』が終わってから、「精霊の守り人」最終章をやったんですけど。
窪塚:どういう基準で作品を選んでるの?
降谷:俺はもともとアニメ「攻殻機動隊」を作っている神山(健治)さんの超ファンなんだけど、彼が「精霊の守り人」というベストセラー小説をアニメ化していたの。だから、知っていたんだよね。初めて出演した「八重の桜」は元々東北の復興の意味でやらせてもらったんだけど。綾瀬はるかさんが頭でやっていて、今回も綾瀬さんが頭だったから「それならぜひやります」って。だから、人で選んでいます。
――『アリーキャット』に入る前に、降谷さんはソロ活動をやっていましたけど、その間に自分の中で変化はありましたか?
降谷:求められる喜びみたいなものを、めっちゃ知っちゃったというか。
俺は音楽をやっていることじゃなくて、「ロックバンドをやっていることが格好いい」って思っていたんです。20年バンドをやっていて、ひとりで板の上に立つことに、無関心を通り越して拒否していたっていうのが強くて。でも、先輩たちに言われて「東北LIVEHOUSE大作戦」をソロで行かせてもらって。恥さらす覚悟でしたけど、「何でこんなことを怖がっていたんだろう」って思うくらい、俺もやれてよかったって思ったんです。さっき話したように、普段排他的なところに生きている分、新しいことをやるのがどんどん苦手になってくる。ひとつのことを極めていけば、どんどんほかのことを忘れていってしまうんだよね。
「0~100まで自分で脚本を書いて、自分でメガホンをとって、主演して」っていうのが作詞作曲をやっているフロントマンの仕事なので、それとは全然違う。いつもは誰もジャッジしてくれないけど、(映像の仕事は)皆がどんどん要求してくれる。ひとりで防音のスタジオに何十時間いるわけじゃなくて、何十人もの人たちで、小さいコマで「せーの」と1秒動かすのが映像の仕事だと思う。あと、17歳まで実家にいた俺を食わせてくれた父親の仕事でもあって、その背中を見ていたので、人より仕事に対して尊敬の念は強いと思うんです。限られた時間ではあるけど、垣間見れるのはいいなと思ったんです。
窪塚:(うなずく)向いてるもん、絶対。
――窪塚さんは、今回一緒にやられて「向いている」と思われたんですね。
窪塚:役者より役者だなっていうところが、いっぱいありました。現場にすごい熱を入れてくれて。すごいわかりやすい言い方をすれば、俺が泣くシーンで、俺より先に泣いている、みたいな。「えっ、早」みたいな。
降谷:「早」というか「おまえ!」みたいなね(笑)。
窪塚:「持ってった!」って。
降谷:(笑)。
窪塚:それが決してよこしまなことではなく、本当にピュアに役に向かっているがゆえに、そうなっていて。例えば、撮影期間が終わっても、俺のことをずっと「マル」、「マル」と呼んできたりすることも含めて、ハッとさせられることが現場でも多々あったし、終わってからもいまだにあるし。持っている素質が、すごく役者に向いているなと単純に感じたんですよ。
――降谷さんのパワーは、窪塚さんのお芝居にも影響していそうですね。
窪塚:うん。芝居と演技は別だと思うんです。芝居って「そのもの」だから。芝居って「居る」と書くじゃないですか。建志くんは、芝居しながら演技をすることができるというか。演技だけになっちゃうと、すごく薄っぺらいし、それこそ髭を生やして丸眼鏡をかけて「窪塚でーす」みたいなことを言っている若い子とか、Instagramに上げている子がいるけど、そういうことじゃなくて。こっち(心臓を指す)だから、大事なのは。そういうふうに生きてきている人だから、映ったときにすでに芝居になっているというか、ちゃんと映れてオーラがある。そうじゃない人もたくさん見てきたので、俺はそう思っていますね。建志くんは、もちろんリスペクトを捧げながらやってくるけども、かっさらっていくところは、かっさらっていくから。喰らわせてやるという感じは、すごい好きだし。
――ちなみに、窪塚さんは、どのような基準で作品を決めているんですか?
窪塚:俺はね、直感です。今回は監督と台本と建志くんがあったから、それだけでよかったっていう。
降谷:合わせ一本、みたいな。
窪塚:うん。でも正直、一緒にやる人によって「ない」こともあるし。場合によるけど、出る:出ないで、1:9~2:8くらいじゃないですか。
――30代に入って、大人になってから競演することの運命は感じていますか?
降谷:うん。皆が感じてくれているくらいか、それ以上に、運命的なものは本人たちのほうが感じているよ。
窪塚:でも、皆が思っているより、ふたりとも大人になっていないなっていう(笑)。
降谷:(笑)。
窪塚:「大人になったのか?」って疑問が残る感じも似ていると思うし。俺はそれを「コドナ」と呼んでいるんですけど。うちの子供にも「コドナになれよ。子供の心を持った大人になって」って。
降谷:うーん。俺は「コドモ」かもしれない(笑)。
窪塚:「ナ」と「モ」の間かもしれないね(笑)。
――映画のタイトルにもある「アリーキャット」=「野良猫(=alley cat)」は「何度も生まれ変わる、再生」という言い伝えもあり映画のテーマにもなっていると思うんですけど、生まれ変わるなら何になりたいですか?
窪塚:俺はよく言うんだけど、もう1回自分になってみたいと思う。
降谷:オーランド・ブルームっす。
――(笑)。
窪塚:ピンポイントだな(笑)。
降谷:絶対Kjよりもオーランド。
――好きな俳優なんですか?
降谷:全然好きじゃない(笑)。好きな俳優はライアン・ゴズリング、リヴァー・フェニックス、ゲイリー・オールドマンの3人が自分のアイドルだし憧れているんだけど。でも、生まれ変われるなら、オーランド・ブルーム。
窪塚:リヴァー・フェニックスっぽいもんなあ。けど、それめっちゃおもろいんだけど(笑)。
降谷:1個も入れ墨入れないし、モヒカンにもしないし、ただただモテるっていうバイブスで今度は攻めたいです!(取材・文:赤山恭子/撮影:岩間辰徳)
『アリーキャット』は7月15日(土)より公開。
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