是枝裕和は何故、ホームドラマの名手と呼ばれるのか?【フィルムメーカー列伝 第七回】

ヒットガールに蹴られたい

竹島ルイ

誰も知らないが第78回キネマ旬報ベスト・テンで第1位に選出され、第57回カンヌ国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞。そして父になる』は累計興収30億円を突破する大ヒットを記録し、第66回カンヌ国際映画祭の審査員賞を受賞。いま、国内外で高い評価を受けている日本の映画監督といえば、是枝裕和のほかを置いていないだろう。

是枝裕和は、一貫してホームドラマを撮り続けてきた作家だ。彼は決して、夢の中で身体が入れ替わってしまう少年と少女の物語は撮らないし、巨大不明生物が蒲田に上陸する特撮映画も撮らない。

彼の関心は常に、極めてミニマルな家族の物語。そのブレない姿勢は、2012年にフジテレビ系列で「ゴーイング マイ ホーム」というテレビのホームドラマ演出を手掛けていることにも顕著だ。

という訳で【フィルムメーカー列伝 第七回】はホームドラマの名手・是枝裕和にスポットを当て、過去のフィルモグラフィーを参照しつつ、その作劇術を解き明かしていこう。

テレビドキュメンタリーからスタートしたキャリア

是枝裕和は、ストレートに映画業界に入ってきた訳ではない。むしろ学生時代は映画よりも文学に耽溺していて、小説家を目指して早稲田大学第一文学部に入学したくらいだ。

ところが突如映画の面白さににハマってしまい、授業にも行かずにずっと映画館に入り浸る日々を過ごす。その後、番組制作会社のテレビマンユニオンに入社し、しかし… 福祉切り捨ての時代にもう一つの教育「公害はどこへ行った…など、社会派のテーマを扱ったドキュメンタリー作品を手がけることに。

やがて仕事で知り合ったプロデューサーから、「こんな作品に興味はないか」と宮本輝の小説を手渡されたことをきっかけにして、デビュー作『幻の光』を監督することになる。

幻の光

おそらく是枝裕和“リアルを徹底的に探求する”姿勢は、ドキュメンタリーの現場で培われたものだろう。「どう社会を捉えるのか」、「どう人を見つめるのか」という視点は、ノンフィクションであるがゆえに磨き上げられ、鍛え抜かれた。彼自身、作品でキャラクターを掘り下げる際には「デッサンを描くときのような視点で人間を観察する」という方法論の実践を語っている。是枝作品には、ステレオタイプなキャラクターなど誰一人登場しないのだ!

「内発的な言葉」を重視する独特な演出術

ドキュメンタリーから出発した是枝裕和の演出は、非常に独特だ。『幻の光』に続いて撮った『ワンダフルライフ』では、台本なしで一般人に即興芝居をしてもらい、それに対してプロの役者がリアクションをするという方法が採られた。

DISTANCE/ディスタンス』では、簡単な状況設定と人物設定だけを出演者に共有し、即興で創り上げられた芝居をカメラに収めている。

ワンダフルライフ

お仕着せのセリフを喋らせるのではなく、人物自身から自然と生み出された言葉を発してもらうこと。是枝裕和「内発的な言葉」という表現を使っているが、これこそが「自然にセリフを言ってもらう」ための演出術なのだ。

その方法論は作品を重ねるごとに深化の一途を辿り、子供たちのあまりにも自然な演技に誰しもが感嘆した『誰も知らない』では、子役たちには台本は一切渡さず、セリフを口頭で伝えるという手法が採られている。

誰も知らない

当時14歳だった主演の柳楽優弥は、この一作で世界に衝撃を与え、第57回カンヌ国際映画祭において史上最年少で男優賞を受賞! それは、是枝裕和の演出術の確かさを証明するものでもあったのだ。

福山雅治との邂逅、そして日本代表するヒットメーカーへ

知る人ぞ知る存在だった職人監督・是枝裕和が、名実共に日本を代表するヒットメーカーとして認知されるきっかけとなった映画がそして父になる』だろう。

そして父になる

元々是枝作品のファンだっという福山雅治サイドからのオファーを受けて、是枝裕和はいくつかのプロットを練ったそうだが、スーパースター福山に用意した役柄は“一流企業に勤めるエリートで、やることなすこと全てに自信が満ちあふれ、それゆえに相手を見下す態度を(無意識的に)とってしまう、イヤミな父親”役。

福山はこのプロットを渡された際に「僕は父親には見えないと思いますが、いいんですか?」と尋ねたというが、是枝の返事はズバリ、「父親らしくないからいいんです」だったという。

福山雅治は非現実的なまでに美しすぎる容姿ゆえに、テレビでも映画でも収まりが悪かった。「ガリレオ」の湯川教授くらいに突き抜けた変人でないと、バランス的に他の役者との釣り合いが取れないのだ。是枝裕和はその問題を充分理解したうえで、完全すぎるゆえに浮いてしまう共感しにくいキャラを福山に割り当てた。

そのもくろみは結果的に大正解。『そして父になる』は累計興収30億円を突破する大ヒットとなり、批評的にも高い評価を得た。

卓越したフレーミングと動線

批評家からの評価が高い職人作家であるばかりか、“客を呼べるヒットメーカー”であることも証明した是枝裕和監督は、これを契機とばかりに、ディア・ドクター永い言い訳で知られる映画監督の西川美和らと共に制作者集団「分福」を立ち上げる。これは、自らがイニシアチブをとって映画製作に邁進するための第一歩だった。

より自由な創作活動に舵を切った是枝監督が、独立後の第一弾作品として原作に選んだのが、吉田秋生の漫画『海街diary』。

鎌倉の古い木造一軒家を舞台に、四姉妹の何気ない日常を切り取った作品で、「マンガ大賞2013」を始めとして数々の賞を受賞した傑作。原作の大ファンだった是枝監督が、「他の人に映像化されるくらいなら」と自ら名乗りをあげた。

海街diary

この作品では、是枝監督のフレーミング(画面の構成)と動線(役者の動き)の素晴らしさが際立っている。例えば、主人公の四姉妹が三回忌から自宅に戻るシーンがあるのだが、個々のキャラ設定がフレーミングと動線だけで明示されているのだ。

・大叔母である樹木希林と実母の大竹しのぶが、画面中央に鎮座している。長女の綾瀬はるかは少し離れた位置で二人の会話に参加している(カメラのピントはここに合っている)
・画面の右端で、次女の長澤まさみがストッキングを履き替えていてる(生足が艶かしい!)
・画面の左側で、三女の夏帆が仏壇に手を合わせている​
・画面奥に、四女の広瀬すずが背中を向けた格好で配置されている。会話にはほとんど関与しない

しっかり者の長女、だらしない次女、天然で人のいい三女、どことなく疎外感を感じている四女の立ち位置が、このショットだけで完璧に分かるようになっているのだ!

家族というミニマルな共同体を描くホームドラマ制作に当たって、フレーミングと動線を使いこなすことは映画作家の必須テクニックといえるだろう。

ホームドラマの名手が法廷サスペンスに挑戦!

是枝裕和の最新作は、9月9日(土)から全国ロードショーされる三度目の殺人』。

三度目の殺人

それまで良質なホームドラマを作り続けてきた彼が、司法制度に対する疑問から着想を得て、初めての法廷サスペンスに挑戦。フィルムノワール風の映像を創り出すため、ミルドレッド・ピアース』(45年)、『天国と地獄』(63年)と並んで、サイコ・スリラー『セブン』(95年)を参考にしたという。静謐な絵作りで知られる是枝監督が、まさか『セブン』をルックの手本にする日が来ようとは!

彼は、ホームドラマの名手という立ち位置に安住していない。新しいステージに自分の身を置くことで、さらなる映像表現の深化を探ろうとしているのだ。

日本を代表する映画作家として、是枝裕和匠は巨匠としての風格を帯び始めている!

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    2020/04/04 日本アカデミー賞総なめ!カンヌ国際映画祭でパルムドール《最高賞》を受賞した「万引き家族」の是枝裕和監督が深い闇の先にある〈真実〉に挑んだ、本映画史に残る、サスペンス大作。 それはありふれた裁判のはずだった。 殺人の前科がある三隅(役所広司)が、解雇された工場の社長を殺し、火をつけた容疑で起訴された。犯行も自供し、死刑はほぼ確実。しかし、弁護を担当することになった重盛(福山雅治)は、なんとか無期懲役に持ち込むため調査を始める。何かが、おかしい。調査を始めるにつれ、重盛の中で違和感が生まれていく。三隅の供述が、会うたびに変わるのだ。金目当ての私欲な殺人のはずが、週刊誌の取材では被害者の妻・美津江(斉藤由貴)に頼まれたと答え、動機さえも二転三転していく。さらには、被害者の娘・咲江(広瀬すず)と三隅の接点が浮かび上がる。重盛がふたりの関係を探っていくうちに、ある秘密にたどり着く。なぜ殺したのか?本当に彼が殺したのか?得体の知れない三隅の闇に飲み込まれていく重盛。弁護に必ずしも真実は必要ない。そう信じていた弁護士が、初めて心の底から知りたいと願う。その先に待ち受ける慟哭(どうこく)の真実とは? 後ろからスパナで襲い、火をつけた。 供述がコロコロと変わる。 減刑を望んでいるが、そうは見えない。 旅費は出ないし、寒いし。 十字架みたいな焼跡。 手紙を持っていくが、破られる。 なんでかばうんですか? そーゆー仕事。 怨恨。給料で揉めた。 普通だったら警察を呼ぶんですけどね。 ママに連絡しなかったのか? こーゆー時、弁護士の方が使えるから。 ニモはどうした? 死んだ。 トイレに流したりしてないだろうな? さっきなんで泣いた? あーゆーの上手いんだよね。って泣いて見せる。 結構みんな引っかかるって。 あなたみたいな弁護士が、犯罪者が罪と向き合うのを邪魔するのよ。 罪と向き合うってなんですか? 真実から目を背けないってことじゃないですか? みすみさんの家へ。 たまに女の子が来てた。足の悪い。 鳥のお墓を作っていた。石で十字架。 差し入れにピーナッツバター。 掘った。五羽いっぺんに病気にはならないですよね? 家賃を払うのは楽しい。刑務所は家賃が無いから。 手を見せて下さい。 今、何考えてるか当てましょうか? おいくつになったんですか?娘さん。 16です。 娘のことは誰もはなしていないのに、当てた。 足が悪いことを周りには工場の屋根から飛び降りたと。 お父さんがきた。 親子でもわかんないのに、ましてや他人のことなんて...。 手紙。 冷たくて暖かい思い出。 雪遊び。 行くなら行くって言って欲しかったですね。 娘さんを証人に。 話してる最中に火傷の皮を剥く。 生まれて来ない方がよかった人間てのは世にいるんです。 だからといって、殺して全て解決する訳じゃないじゃないですか? お巡りさんたちはそうやって解決してるじゃないですか? ...死刑のことを言ってるのかな?それは。 いないですよ。そんな人いないですよ。生まれて来ない方がよかった人なんて。 さっきの本気で言ってんの? 俺は思わない。 人間の意志とは関係なく、命は選別されてるんじゃないか? 本人の意志とは関係ないところで、人が生まれてきたり、理不尽に命を奪われたりしてるってこと。 ピーナッツバターを見てた。 話しかけた。 家族のことは聞いた? 娘の話をした。 娘に抱きよる。 こんな時にお金の心配?そんなに心配なら、本当の事言えばいいじゃん?あのお金は、殺人じゃなくて、食品偽造。 あだ名その汚いお金でここまで大きくなったんじゃない。 余計なことって何? 何?お父さんのことって? 裁判が始まる。 焚き火をしていたみすみさんに誕生日 14歳の時から、性的暴行を受けていた。 みすみさんは私の為に。 心のどこかで父を殺して欲しいって思ってました。それがみすみさんに伝わったんです。 どうやって伝わったの? 伝わったんです!分かります! どこでそういう関係を持ったの? 根掘り葉掘り聞かれるけど、耐えられる?辛いよ?大丈夫? 今までの方が...誰にも話せなかった時の方が...辛かったから...。 ありがとう、話してくれて。でも、どうして? 私は母みたいに見ないフリしたくないから。 古い小話で、目の見えない人たちがみんなで、ゾウに触るって話。 鼻に触ったやつと、耳触ったやつが、自分の方が正しいって言い争う話。 今、お前、そんな気分じゃない? 俺は今、どこ触ってんだろうな? 写真も手紙も見せた。 彼女の殺意をあなたは忖度した。 社長があなたについてくるはずが無い。 大事な話があると。食品偽造。 出処のよく分からない小麦粉が運ばれてくる。 私は河川敷には行ってない。殺してません。 だって...なんで今頃?どうして最初から否認しなかったんですか? しましたよ。言いましたよ、やってないって。刑事さんにも、検事さんにも、弁護士さんにも... 弁護士にも? 嘘つくな、認めれば死刑にはならないからって。 あの工場で、人の弱みに漬け込んで生きてるより、刑務所の方が嘘をつかずに済むから。 信じてくれますか? 今回だけ信じてくれって言われても...ちょっと待ってくれよ... やっぱり、やっぱり信じて貰えませんか? みすみさん、ここに誰か来たの?あなたに会いに! 今度こそ本当のことを教えてくれよ!!! 盗んだ金は娘に送った。 火傷は前の晩の焚き火。 信じてくれますか? あなたは私の依頼人だから、あなたの意思を尊重します。だけど、今ここで否認をするのは戦術的に不利なんです。 戦術なんてどうでもいいんだ!信じるのか信じないのかって聞いてるんだ! 分かりました。 分かってくれましたか? いいんですね?本当に! はい! こんな父親は殺されて当然なんだよ! お前みたいな弁護士が犯罪者が罪と向き合うのを妨げるんだよ。負けるぞ。 本人が否認してる以上、弁護士としてはその主張に沿うべきなんじゃないのか? さきえは全てを話そうとするが、止められる。 裁判長を含めて、話し合う。 公判はこのまま続行ということで。 みんなで目配せして、阿吽の呼吸って感じでしたね。 今更やり直したって結論変わらないよってサインを裁判長が出したからさ。 みすみが殺してないって誰も信じないですね。 仕方ないよ。裁判官だってスケジュール通り数こなさないと評価に響くわけだし。立場違うけど、みんな同じ司法って船に乗ってるわけだから。 鳥にごはんをあげる。 死刑判決。 あの人の言った通りでした。ここでは誰も本当のこと話さない。 誰を捌くかは、誰が決めるんですか? 辛い証言をさせずに済むと思って。 あなたはそう思ったから私の否認に乗ったんですか? それは良い話だ。 私はずっと生まれてこなければよかったと思ってました。 なぜですか? 私は傷つけるんです。いるだけで周りの人を。もし今、シゲモリさんが話したことが本当ならこんな私でも役に立つことが出来る。 それが例え、人殺しでも? もし、本当ならなんですけどね。 それは、つまり、僕がそう思いたいだけってことですか? ダメですよ、シゲモリさん僕みたいな人殺しにそんなこと期待しても。 あなたは、ただの、器? なんですか?器って?
  • 吉田
    -
    結局なにがなんだかスッキリしないまま終わった。
  • chiisakattaonna
    4
    本当のこと、なんて存在しない。どんなに足掻いても理解しきれないし、伝えきれないから。朧気なものを無理やり形にした真実に、嘘に、一体どれだけの人が殺されているのだろう。拘置所の窓から伸ばした手、面会室での反射表現が美しい。
  • たけしブライアン
    3.6
    難しかった。 伏線がきれいに回収されない映画は好きだが、この映画は少し回収されなかった伏線が多い。 でも見終えた後に色々考えられるので良かった。
三度目の殺人
のレビュー(44330件)