人生を写し出し、時代をも描き出す。特異な写真家のドキュメンタリー作品3選

映画も音楽も本も好き。

丸山瑞生

みなさんは、ドキュメンタリー作品をご覧になりますか?
近ごろは上映の機会も増え、以前よりも観やすいとは思うのですが、それでも腰が重いと感じるのが、正直なところではないでしょうか。
ただ、昨今では、レンタルはもちろん、Netflixなどの配信系の媒体でもドキュメンタリーの取り扱いは増えているので、敷居は下がったようにも思います。

事実は小説よりも奇なり
たまにはノンフィクションだからこそのおもしろさを味わうのはどうでしょう。

今回は、写真家のドキュメンタリー作品をご紹介です。

旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス(2012)

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9月9日より公開中の『旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス』。
公式サイトはこちら

世界最高峰の写真家集団<マグナム・フォト>に在籍する写真家で、なおかつ、映像作家の顔も持つフランスの巨匠、レイモン・ドゥパルドンが自身の過去と現在をつづったドキュメンタリー作品。フランスの田舎を車で巡りつつ、写真を撮影するドゥパルドンの現在の姿や、共同監督とナレーションを務めた妻、クローディーヌ・ヌーガレが発掘した未発表の映像を織り交ぜて、その偉大な足跡を辿る。

恥ずかしながら、筆者は彼のことを知りませんでした。ただ、劇中に出演する人物を見るだけでも、彼の偉大さがわかる。アラン・ドロンジャン=リュック・ゴダールエリック・ロメールなど、名だたる役者や監督たちを彼は捉えているのです。しかし、彼が写真におさめたのは華やかな世界ばかりではありません。紛争地帯にも赴けば、アフリカの砂漠など、さまざま。また、近年は「ガイドブックには載らない」風景写真を発表しています。これらの写真が素晴らしくて、旅に出たいという気持ちを掻き立てられます。まさに、旅する写真家と呼ばれるにふさわしい

ドゥパルドンの夢は「世界中を旅したフィルムのかけらで一本の映画をつくる」こと。
旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス』は、そんな彼の夢を実現した作品です。本作は、現在のドゥパルドンの活動の様子と、奥さんのクローディーヌが発掘した映像とナレーションが交互に描かれています。ドゥパルドンの過去の仕事は危険なところも多く、現在の風景写真を撮るところとはギャップも大きい。驚かされる方も少なくないでしょう。

なによりもこの作品を素敵だと思ったのは、作品を通して感じられるクローディーヌから、ドゥパルドンへの愛情。ドゥパルドンのこれまでの足跡をコラージュのようにつなぎ合わせ、見事なドキュメンタリー作品に仕上げています。本作は、世界中の景色を捉えたドゥパルドンの私的な旅行記であると同時に、客観的に世の中を見た記録にも思えます。旅に出たいと思わせてくれる、素敵な作品です。

ビル・カニンガム&ニューヨーク(2010)

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ニューヨーク・タイムズ紙で人気のファッションコラムと、社交コラムを担当する名物フォトグラファー、ビル・カニンガムを追ったドキュメンタリー。50年以上にわたり、ニューヨークの街角でトレンドのファッションを捉え、ニューヨーカーたちに愛されるカニンガム。しかし、親しい間柄の業界人ですら、そのプライベートを知らず、全貌は謎に包まれている。本作は、そんなカニンガムの知られざる私生活や仕事ぶりを映し出した、2年間の貴重な記録映像。

パッと見は非常にエネルギッシュなおじいちゃんという印象のカニンガム。真っ青な作業着に、首から下げたカメラ。トレードマークの自転車でどこへでも乗りつけ、80歳を超えても現役で街角に立ち、コレクション会場にも自転車で赴きました。ニューヨークの生けるランドマーク、また、彼のコラムは「ニューヨークの非公式な年鑑」と称されました。

ファッションの街、ニューヨーク。本作のおもしろいところは、カニンガムの捉えた写真がニューヨークのファッションの歴史を物語ること。インタビューに応える多くの著名人のファッションよりも、時代ごとにカニンガムが撮影した写真からそれが垣間見られるのが楽しい。また、カニンガムの審美眼も本作のポイントのひとつでしょう。借り物のドレスを着こなすモデルよりも、自前のファッションを着こなす一般人に焦点を当てることもある。それがとてもリアルに思えるのです。

本作は、ファッションのフォトグラファーのドキュメンタリーですが、洋服への関心や興味が疎くても、非常に楽しめます。それは、ひとりのフォトグラファーの情熱と、無邪気なファッションへの愛情が伝わるからなのだと思います。好きなものへの愛着を感じられるドキュメンタリーなので、そういった対象がある方にお薦めの作品。

ヴィヴィアン・マイヤーを探して(2013)

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シカゴのオークションで発見された、大量の写真のネガ。シカゴに暮らす青年ジョン・マルーフは、それらを380ドルで落札した。15万枚以上の写真を撮影したのは謎の女性写真家、ヴィヴィアン・マイヤー。マルーフが写真の一部をブログに載せると、世界中から称賛の声が寄せられた。同時に、ヴィヴィアン・マイヤーとは誰なのか。どんな人物なのかという疑問も。第87回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にもノミネートのアートドキュメンタリー作品。

写真の良し悪しは難しいですが、ヴィヴィアン・マイヤーの写真は素人目にも非常にクール。上から覗き込み写真を撮る、あまり馴染みのない形状のカメラ、ローライフレックス。ポスターのジャケットでヴィヴィアンが持っているのがそれ。胸の位置から撮るので、被写体を見上げた構図が特徴的で、そそり立つような迫力を与えます。多くの作品を残しながらも、マルーフが彼女の作品を見出したとき、ヴィヴィアンはすでに他界。ひとつの作品も自ら発表することはありませんでした。まるで、ヘンリー・ダーガーのよう。

マルーフがヴィヴィアンの人生を辿ると彼女のことが少しずつわかってきます。そのひとつが異常とも言える収集癖です。ネガやフィルムはもちろん、洋服やアクセサリー、細々な雑貨など、多くのものを残していました。しかし、本作を観ると、それらのガラクタにも思える物たちが、彼女の人生を物語る断片に見えてくるのです。もしかしたら、写真もその収集癖のひとつだったのでは、と思わせられます。

ヴィヴィアンの撮影の場はおもにストリートだったからか、残された膨大な写真は街並みや人間たちが多かった。人間模様を写し出した写真は、それぞれの人生をも写し出しています。ユーモアと悲哀。現代のプロのフォトグラファーは、それらを切り取れる写真家は本物だと語ります。ぜひ、劇中で映し出される写真から感じてもらいたいです。

ちなみに、本作の監督もネガを落札した、ジョン・マルーフ本人。彼は、ヴィヴィアンのことを知るごとに写真を公表したことに少なからず罪の意識を覚えたと語っていますが、彼女の写真を世の中に送り出したいと思ったその情熱は素晴らしいと思います

さいごに

それぞれが持ち味も人となりも異なりますが、共通点は時代性を感じることでしょうか。
写真は芸術でもあり、歴史の記録でもある。

どれも素晴らしい作品ですので、この機会にぜひ。

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  • m73
    3.8
    記録。
  • Anna
    -
    緑の光線の撮影風景が一瞬映った✨
  • 上海十月
    2
    オープニングのじっくり待つのが良かったですね。後はもう色々で自分史を見せられてるんで大変疲れる。
  • YAMATO
    3.5
    写真もっと観たかった〜
  • Chie
    3.7
    映画鑑賞も8月24日に100本目を達成しました!そこで、101本目からは多趣味なことを活かして映画を探して行けたらと思っています。 具体的には、アルトサックス、ウクレレ、油絵や水彩画(筆のタッチがみたい)、写真、読書、美術館巡り、タップダンス これらのモチーフが、がっつり出るものから何気なく出るものまで探しています。良ければ皆様のお知恵をお貸し下さい(^^)プロフィールの方に今まで見たものなど書いてみました! ちなみに、これらの趣味は広く浅く、自分が楽しめるくらいなので、披露できるような何かはありません笑 でも、全部大好きな趣味です。 さてさて、本題へ… ●静謐な映像を撮るレイモン・ドゥパルドンの世界 ○20歳のときに写真と映画、どちらに進むのか悩んだレイモン・ドゥパルドン。最終的に写真家の道に進んだが、この映画では倉庫に眠ってた映像と、現在の写真活動をまとめている。 ○映像の方では、各国の色んな時代を写していて、戦争や精神病院もあれば、何でもない街並み、歌い出すアフリカの人々、裁判の様子など多岐にわたる。 映像と言っても写真家が撮っただけあって、フレーミングやモノクロのザラザラした感じやコントラスト…どれを取っても美しい。 ○写真の方では、キャンピングカーに乗りながら写真を撮って回っている活動に密着したドキュメンタリー。 昔の写真館にあったような、三脚の上のカメラに赤い布がかかっていて、布の中でピントを確認するような「ビューカメラ」を使用。 もちろんその場で出来上がりは確認出来ないし、シャッターが降りるまでに1秒かかるので、人や車が通ると(ブレるので)写真が撮れない。手順も、とても手間がかかる。 作中でおもむろに広げた一枚の写真があまりに美しくてハッとしました。建物の写真だけど、構図とかそういうのを越えて、ただただ見入っていまう素晴らしい写真でした。 ■感想 学生時代に一度だけ暗室で写真を現像する機会があって、それを思い出しながら現像するシーンを見ました。浮かび上がってくる瞬間…たまらないですよね。 最近sx70という世界初のポラロイドカメラを手に入れました。1974年製のものなんですが、アンディー・ウォーホルとかジョン・レノンが使っただけあって、折りたたみ式の洗練されたデザインです。 今のカメラとは違い、ズーム機能もない、画質も粗い、オートフォーカスもない…できる事が少ないからこそ研ぎ澄ませるものもあるなと気づきました。今は色々出来すぎて使いこなすのが難しいです。 フィルム一枚300円くらいするので、シャッターを押すまでに、すごい時間をかけます笑 現像までに20分かかるので、その場では見られないけど撮れてたらラッキーくらいの気持ちでその時の感動を焼き付けています。 そんな体験もあり、ビューカメラを愛用する気持ちがちょっとわかります。こんなふうに時が止まったような静寂が撮れたらなぁ…! 101本目
旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス
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