オリンピック・ロゴ問題や漫画のアイデア盗用やトレース疑惑など、「パクリ問題」が世の中から尽きることはありません。映画でもパクリ問題は常に取り沙汰されています。それら映画におけるパクリ問題についてまとめてみます。
オマージュとパロディ
「パクリ」と混同されることの多い「オマージュ」と「パロディ」ですが、それぞれ明確な方向性を持っており、「パクリ」とは決定的な違いがあります。
タランティーノとオマージュ
クエンティン・タランティーノの代表作『キルビル』が多くの映画的記憶の断片で構成されていることは良く知られています。日本の特撮や空手映画、中国のカンフー/武狭映画、イタリアのマカロニ・ウェスタンやジャッロ映画などなど、世界各国のジャンル映画が取り上げられています。
それらは「オマージュ」とされています。訳すと「敬意、賛辞」なので、「好き過ぎなのでマネさせてもらいました!」という意味になるでしょう。特徴としては、元ネタとなる映画のワンシーンをそっくりマネしたり、全く同じ小道具や音楽を使っているものになります。
タランティーノの場合、聞けば「アレはあの映画だよ!」と自分からバラしさえします。他の監督でも、例えばマーティン・スコセッシは『タクシー・ドライバー』でゴダールの『彼女について私が知っている二、三の事柄』へオマージュを捧げています。スピルバーグもリメイク版『宇宙戦争』ラストで1953年版『宇宙戦争』と全く同じカットを撮っています。
「パクリ映画」の多くは、観客やオリジナルの制作者に元ネタが伝わらないことを願っていますが、「オマージュ」は願わくば観客と同じ想いを共有し、元の制作者に伝えたい。という明確な違いがあるのです。
Z.A.Zとパロディ
1970年、オールスターキャストでグランド・ホテル形式の群像劇パニック映画『大空港』がヒットすると、『大地震』『タワーリング・インフェルノ』など、同様にオールスターキャストの群像劇パニック映画が作られることになります。
その後「パニック映画」はジャンルとして確立されますが、さすがに10年も同じ様式の映画が作られると飽きもするし茶化したくもなります。そこに現れたのがジェリーとデビッドのザッカー兄弟とジム・エイブラハムズたちです。
頭文字を取って「Z.A.Z(ザズ)」と呼ばれる彼らは『大空港』後に雨後のタケノコのように生まれたパニック映画や流行りの映画を取り込みまくった、壮大なパロディ映画『フライング・ハイ』を作ります。
また、パロディ映画といえば『ブレージング・サドル』や『スペース・ボール』のメル・ブルックスがいます。ブルックス監督作の中でも特に『ヤング・フランケンシュタイン』はパロディである以上に、優れた作品として多くの映画賞も受賞した傑作になっています。
これら「パロディ映画」は、そもそも元ネタを知っていないと楽しめない作りになっているのが特徴です。
パクリ映画の功罪
「パクリ」映画には大きく分けて2つの種類があります。1つは「バレないように功績をかすめ取ろう」と作られる「コピータイプ」。もう一つは「流行った映画に似せておこぼれにあずかろう」と作られる「二匹目のドジョウタイプ」です。
上手くやれば傑作も生まれるコピータイプ
今となってはマカロニ・ウェスタン元祖であり傑作とされる『荒野の用心棒』ですが、物語はあからさまに黒澤明の『用心棒』からの流用で、西部の世界へ翻案したものだというのが解ります。実際、製作配給元の東宝から訴えられ敗訴もしています。ただ、イーストウッドの佇まいや、セルジオ・レオーネの演出力があったからこそ「マカロニ・ウェスタンの元祖で傑作」たりえたことが、後に作られた「ドル箱三部作」で証明されることとなりました。
日本発の作品では、『バトル・ロワイヤル』が『ハンガー・ゲーム』に翻案されたり、『新幹線大爆破』の設定が『スピード』にそのまま流用されています。
また、ディズニーは『ライオン・キング』で手塚治虫の『ジャングル大帝』をごっそりパクりやがっています。世界に名だたるディズニーですが、その一方でパクリや版権強奪など“猛々しい”ことを平気にやってのけることでも有名です。
コピータイプの多くは構成や物語構造など核になる部分を他の作品から流用し、設定など枝葉にあたる部分をオリジナルにアレンジして、違う映画として認識してもらおうという魂胆があります。いわゆる悪質な「パクリ作品」が、このコピータイプと言えるでしょう。
ただ、上手なアレンジが施されれば、優れた映画の核を持った別の作品が生まれることになるので、一概に「悪」とも言い切れません。
早く!安く!うまさはどうでもいい!二匹目のドジョウタイプ
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『マッドマックス2』が公開されると全世界的に「核戦争後に荒廃した世界」を舞台にした物語が生まれます。日本では漫画『北斗の拳』がその最有力でしょう。アメリカ、ハリウッドでは舞台を砂漠から海へ変えた『ウォーター・ワールド』がUSJのアトラクションと共に有名です。
このブームの中で一番作品を生産していたのがイタリアです。『ブロンクス・ウォリアーズ』『サイボーグ・ハンター』『マッドライダー』などなど。80年代のビデオブームで日本に輸入された作品だけでもこれだけ(これ以上)あります。
『マッドマックス2』が提示したのは「だたっ広くて草木の生えていない場所は核戦争後の世界っぽい」という映画的な“発明”です。この“発明”自体に著作権的な権利が発生しなかったこともブームを後押ししました。
また、このブームがそれなりの支持を受けたのは、多くの人が「マッドマックス2っぽい映画がもっと見たい!」という需要に対する供給として機能していたところです。
このタイプの他の作品は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズに対する『ナルニア国物語』や、『トワイライト』シリーズに対する『ダレンシャン』など。二匹目のドジョウタイプには大手会社による、それなりの原作を持った作品が多くあるのも特徴です。
一匹目が生まれる前に二匹目登場!? モック・バスター
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近年有名な「二匹目のドジョウタイプ」といえば、アサイラム・スタジオの制作する「モック・バスター」と呼ばれる作品群です。
大手スタジオが巨額の費用をかけて制作し、シネコンのスクリーンをいくつも占拠し、公開週で一気に収益を上げる「ブロック・バスター映画」という作品群があります。有名俳優を起用したり、大規模なロケ撮影をしていると自然と情報も洩れて1~2年前から、どんな映画を作っているのかバレてしまいます。
そこで、リークされた情報を元に、早く、安く、同じ様な作品を作って元の作品が出来あがる前に公開してしまうのです。つまり「一匹目」が生まれる前に「二匹目」を生んでしまうのです。
『トランスフォーマー』に対して『トランスモーファー』や、『地球が静止する日』に対して『地球が静止した日』、『パシフィック・リム』に対して『バトル・オブ・アトランティス』などなど。
ポスター・アートも本家の色合いソックリに作り、映画に疎い人々に「おっ! これ話題になってる映画じゃ~ん!」とニセモノを掴ますのです。
アサイラムはこのスタイルで10年以上映画製作を続けているので、それなりの数の人々が毎回ダマされているのでしょう。訴えられたという話も聞いていないので、元ネタ側も黙認するのが通例化しているのかもしれません。
パクリは文化発展の糸口(でも叱られたら謝ろう)
一般的に「パクリ」は悪いこととされています。人の努力を横取りして、本来利益を得るはずの人からお金をかすめ取るのですから、もちろん悪いことです。ただ、観賞する客でしかない我々にとっては、作品が完全無欠のオリジナルかどうかは問題ではありません。『用心棒』も『荒野の用心棒』もそれぞれが面白い様に、映画の面白さは発想がオリジナルであるか、パクリであるかに起因していないのです。
パクリだから「悪い」としても、それは単に制作者側の権利的な負い目があるというだけで、作品の評価とは全く別です。
例えば世界中にファンの多いゲーム『メタルギアソリッド』シリーズ主人公の名前やアイパッチ姿、「こっそり入ってこっそり出る」というゲーム性など、ジョン・カーペンター監督作『ニューヨーク1997』からパクっています。『キングコング』が無ければ『ドンキーコング』は生まれなかったでしょう。幽霊を掃除機状のもので吸って退治する『ルイージ・マンション』は『ゴースト・バスターズ』無しでは生まれなかったはずです。
それぞれゲームとして面白いですが、パクリがゲーム性を損ないはしません。
映画も全く同じです。
ことほど左様にパクリというのは新たな創造性を育む行為として、直接利害関係の無い我々は広い心で見守るのが良いでしょう。ただ、海賊版DVDやネットに落ちてる作品のダウンロードはパクリというか泥棒だし、違法なのでやめましょう!
※2021年3月28日時点のVOD配信情報です。