LGBT映画30年の移り変わり〜時代とセクシュアリティ〜

2018.04.25
映画

腐女子目線で映画をフィーチャーしてみる。

阿刀ゼルダ

君の名前で僕を呼んで

イタリアの避暑地を舞台に、17歳の少年(ティモシー・シャラメ)が24歳の美しい青年(アーミー・ハマー)と恋に落ちる物語『君の名前で僕を呼んで』が4月27日(金)より公開されます。
本作の脚本を担当してアカデミー賞脚色賞を受賞したのは、『モーリス』(87)の監督としても知られるジェームズ・アイヴォリー

自らもゲイであることを公表しているアイヴォリーが、公私のパートナーである故・イスマイル・マーチャントと共同で、自身と同じセクシュアリティを生きる青年たちの物語『モーリス』を製作して、30年。LGBTがこれまでになく注目を浴びる今、89歳になったアイヴォリーが再び純愛の物語を手掛け、高く評価されたことは、それ自体感慨深いものがあります。

この30年間で社会のLGBTに対する認識は大きく変わりました。
その中で、セクシュアリティを描く映画はどう変わったのか?

今日は、日本における映画配給の大きなウエイトを占めるアメリカ映画と邦画を中心に、80年代以降のLGBT映画を振り返ってみたいと思います。

※ここで言及する「LGBT」とは、女性同性愛者(レズビアン、Lesbian)、男性同性愛者(ゲイ、Gay)、両性愛者(バイセクシュアル、Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)の各単語の頭文字を組み合わせた表現で、最近はこれに自分の性自認や性的指向を持たない人(クエスチョニング、Questioning)を加えて「LGBTQ」とも言われます。

前史:LGBT映画の黎明期

前史

ハリウッドのLGBT映画史をテーマにしたドキュメンタリー映画『セルロイド・クローゼット』によると、欧米で初めて製作された本格的なゲイ映画はダーク・ボガード主演の『Victim(原題)』(61)だとか。

その後、同性愛を禁じる法律(いわゆる「ソドミー法」)を定めていた国が徐々にソドミー法を廃止したことや、1968年にハリウッドの映画検閲基準「ヘイズ・コード」の廃止により同性愛表現が規制されなくなったことなどがきっかけとなって、欧米で多くのLGBT作品が製作されはじめ、日本でも観賞の機会が増えました。

ウィリアム・フリードキン(『真夜中のパーティ』/72)、ボブ・フォッシー(『キャバレー』/72)、シドニー・ルメット(『狼たちの午後』/75)などの名だたる映画監督が続々とゲイを描いた作品を発表、ルキノ・ヴィスコンティの『ベニスに死す』(71)や『ルードヴィヒ/神々の黄昏』(72)もこの時期の作品です。

ただし、キリスト教をはじめとする一部宗教が同性愛を認めていなかったこともあり、同性愛者への差別・偏見が依然続く中での製作。当時のゲイ・レズビアンを主人公にした映画が悲劇的な結末を迎えることが多いのも、こうした社会の逆風を反映したものでしょう。

一方、古くから同性愛文化があった日本でも、1950年代にはすでに木下恵介の『惜春鳥』(59)などのゲイ映画が製作されていましたが、その数はまだまだ少数でした。
その中で、1969年に松本俊夫が当時のゲイ・カルチャー台頭に着目して製作した『薔薇の葬列』は、今もカルト映画の1つに数えられている人気作品です。

1980年代:ハード・ゲイものからロマンチックな純愛作品まで

80年代

1980年には、『真夜中のパーティ』に続いてウィリアム・フリードキンが手掛けた2本目のゲイ映画『クルージング』がリリースされます。
アル・パチーノを主演に迎え、当時のハード・ゲイの世界のクルージング・シーンを深海のようなブルーの映像で映し出した本作は、当時としてはかなりの衝撃作でしたが、一方で、同性愛が犯罪に結びつくと誤解されかねない内容を含んでいたために上映ボイコット運動に発展。
内容を修正して公開されたものの、こうしたいきさつにも、過渡期ならではの価値観のせめぎあいが垣間見えます。

『クルージング』のようなゲイ・カルチャーに踏み込んだ作品が出てきた一方で、この時期ロマンチックなテイストで女性ファンを熱狂させたゲイ映画がブームを巻き起こします。
このブームの火付け役の1人が、前述のジェームズ・アイヴォリー。

20世紀初頭の英文学を原作に、ケンブリッジ大学で出会った青年2人の恋の顛末を描いたアイヴォリー監督作『モーリス』のほか、イギリス階級社会の縮図としてのパブリック・スクールとそこで繰り広げられる生徒たちの愛憎劇を描いた『アナザー・カントリー』(83)などの作品は、竹宮恵子・萩尾望都らの漫画で少年愛に親しんだ日本の女性にとりわけ支持されました。
このブームは音楽・映画など広範なジャンルにわたる当時の「英国ブーム」とも、結びついています。

1980年代のゲイ映画はとても多様で個性派作品が揃っています。
このほかにも、淀川長治をして「この映画は非常にホモセクシャルな男を知っている」と言わしめた『蜘蛛女のキス』(85)や、戦争と同性愛というタブーに挑んだ、大島渚の『戦場のメリークリスマス』(83)など、優れた名作が。
個性というより圧倒的な共感性で攻めた『トーチソング・トリロジー』(88)も根強い人気作ですが、日本ではDVD化されていないのが惜しまれます。

一方、レズビアン映画はどうでしょう。
日本で初めてレズビアンであることをマスメディアで公表した文筆家が現れたのが1988年。
1980年代、邦画では樋口可南子主演・谷崎潤一郎原作の『卍 まんじ』(83)など、耽美主義的な文芸作品もあったものの、当時の邦画の女性同性愛作品は男性向けエロチシズムを主眼としたものが中心でした。

そんな中で、黒人差別・女性蔑視をテーマにしたスティーヴン・スピルバーグの力作『カラーパープル』(85)は、主人公女性の同性への恋愛感情の目覚めを「男性の支配からの解放」に重ね合わせ、ポジティブに描いた作品でしたが、当時は本作に同性愛要素が含まれること自体ほとんど認識されなかったようです。

ピックアップ作品1:『モーリス

モーリス

原作はイギリスの小説家E・M・フォースターの同名小説。まだ同性愛が犯罪だった20世紀初頭のイギリスを舞台に、主人公モーリス(ジェームズ・ウィルビー)の2つの恋愛を描く。
名家に生まれたが故に社会の偏見から自分を解放しきれないクライヴ(ヒュー・グラント)との恋と、訣別までの長い苦しみは、フォースター自身の体験にも重なりあう。
一方、クライヴに仕える使用人の少年アレック(ルパート・グレイヴス)との恋は、1912年の執筆当時には許されなかったハッピーエンド。(そのため、本作は1971年まで出版されなかった)
モーリスとの恋に終止符を打ち、貴族の女性と結婚して政治活動を始めるクライヴは、アレックの若さとイノセンスの前に色褪せて見えるが、ラストシーンでは再びクライヴにスポットが当たり、彼の深い喪失感が情感をさらう。
現在も第一線で活躍するヒュー・グラントの出世作。

1990年代:エイズ危機と才気あふれるLGBT映画人の活躍

90年代

1990年代のゲイ映画は、1980年代から吹き荒れたエイズ危機を抜きにしては語れません。
当時HIVに関する正しい情報が周知されていなかったこと、HIV感染者に男性同性愛者や薬物常用者が多かったことから、同性愛差別などとエイズに対する偏見とが結びつき、エイズ患者は病魔との闘いに加えて社会の激しい偏見にも晒されました。
そうした現実を反映して、この時期『ロングタイム・コンパニオン』(90)や『フィラデルフィア』(93、『マイ・フレンド・フォーエバー』(95)など、エイズをテーマにした作品が数多く製作されています。

エイズが暗い影を落とす一方で、LGBTがLGBTを描く当事者目線の作品が続々と生み出されたのも1990年代の顕著な傾向です。
ガス・ヴァン・サントの『マイ・プライベート・アイダホ』(91)、アン・リーの『ウエディング・バンケット』(93)、トッド・ヘインズの『ベルベット・ゴールドマイン』(98)などの名作が、当時雑誌が火付け役になって巻き起こっていた「ゲイブーム」に乗って、日本でも人気を博しました。

そんな中でも、映画評論家のおすぎが「生涯ベストワン」と絶賛したペドロ・アルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)は、母性という観点からセクシュアリティや血縁関係を超えたあまねく人々への愛を描いた異色作品。

当事者によるゲイ映画という意味では、ゲイであることを公表していた人気俳優レスリー・チャンを起用したウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』(97)も。愛を失った悲しみと未知の未来への希望を1998年の香港返還にオーバーラップさせた、センチメンタルで詩情あふれる作品です。

邦画では、橋口亮輔が監督デビュー。『二十歳の微熱』(93)、『渚のシンドバッド』(95)など、当事者視点から等身大のゲイの心情を描いたオリジナル作品で力量を示しました。

またこの時期大島渚は、遺作となった『御法度』(99)で、新鮮組というホモソーシャルな組織に同性愛がもたらす波紋を描き出しています。
石井隆の『GONIN』(95)も、やはり同性愛が重要な要素になっている作品。

レズビアン映画でも、ローズ・トローシュの『Go Fish』(94)やパトリシア・ロゼマの『月の瞳』(95)のような、レズビアンを公表する監督が当事者目線で手掛けた作品が小規模ながら日本でも公開されています。

余談ですが、1989年に世界でいち早く同性パートナーシップ法を成立させたのはデンマーク。2009年に世界初のレズビアンを公表する首相が誕生したのがアイスランドです。
北欧はLGBT関連の話題を先取りしてきた感がありますが、1998年に少女同士の初々しい恋愛を描いた『ショー・ミー・ラヴ』が大ヒットしたというのもまた北欧はスウェーデンのお話。
この件に関しては、北欧は日本より四半世紀進んでいる感があります。

1990年代、トランスジェンダー映画で特筆すべき作品と言えば、やはりヒラリー・スワンク主演の『ボーイズ・ドント・クライ』(99)でしょうか。
これまで映画の中ではエンターティナー的なポジションの脇役として登場することがほとんどだったトランスジェンダーを主人公に据えた作品。
性同一性障害の女性(性自認は男性)が、男性として振る舞っているにもかかわらず身体的には女性だということで虐待に遭い、惨殺された実際の事件を題材にした本作は、社会派作品として映画賞でも高く評価されました。
一方、同じトランスジェンダーが登場する作品でもガラリと変わって底抜けに陽気でパワフルなのが、ドラァグクイーン3人が登場するロードムービー・『プリシラ』(94)。今も多くの映画ファンに支持されている作品です。

ピックアップ作品2:『フィラデルフィア

フィラデルフィア

『羊たちの沈黙』で知られるジョナサン・デミが監督した社会派作品。
フィラデルフィアの大手弁護士事務所に勤めるアンドリュー・ベケット(トム・ハンクス)は、事務所に将来を嘱望される有能な弁護士だったが、エイズを発症したことが事務所に知れた途端に掌を返したように冤罪をでっちあげられ、事務所を解雇される。
残された時間はわずかという中で、ベケットが選んだのは、恋人のミゲールと過ごすことではなく、エイズ差別に苦しむ人々に先例を残すため、命を削って事務所の不当解雇を訴えること。
ベケットの弁護を引き受けるミラー弁護士(デンゼル・ワシントン)の、ユーモアたっぷりの弁舌と鮮やかな法廷戦術が見どころ。

ピックアップ作品3:『月の瞳

月の瞳

敬虔なクリスチャンであり、大学で神話学の教鞭をとるカミール(パスカル・ビュシエール)は、同僚のマーティン(ヘンリー・ツェーニー)と婚約中。幸せの絶頂のはずなのに、なぜか結婚に踏み出せない。
そんな時、偶然出会ったサーカスの女性ダンサー・ペトラ(レイチェル・クロフォード)に熱烈にアプローチされ、深い仲に。
キリスト教的な倫理観と自分自身のセクシュアリティ、マーティンとペトラとの間で揺れ動くカミールの想いを、エロチックかつ幻想的な美しい映像で描く。

ピックアップ作品4:『プリシラ

プリシラ

シドニーで人気のドラァグクイーン3人(テレンス・スタンプヒューゴ・ウィーヴィングガイ・ピアース)が、西部のリゾート地でのショーを依頼され、バスを調達して砂漠横断の旅に出発。口が達者な3人のかしましい毒舌応酬に加えて、行く先々でトラブル続出!の珍道中ロードムービー。
同じドラァグクイーンでもセクシュアリティは三人三様で、それぞれにこだわりがあり、それ故の衝突も。ただ、ドラァグクイーンとしての矜持、世間の偏見を物ともしない強さ・しなやかさは3人に共通で、彼らのポジティブな生き方に元気をもらえる。
オーストラリアの剥き出しの大自然の中に原色のドレスを纏ったドラァグクイーンという取り合わせが鮮烈。

2000年以降:かつてないLGBT映画繚乱へ

2000年以降

1980年代末以降同性婚に代わる制度としてのパートナーシップ制度が各国で徐々に制度化されましたが、2000年にオランダで、世界で初めての同性婚法が成立したことは、新たなミレニアムの始まりにふさわしいニュースでしたね。
世界的にLGBTに注目が集まる中、LGBT映画も百花繚乱の時代を迎えます。
遅ればせながら日本でも、2015年に渋谷区から始まったパートナーシップ制度の導入を契機に、テレビドラマ・映画等でLGBTが登場する作品が飛躍的に増えました。

ゲイ映画の金字塔、続々更新?

1980年代以降吹き荒れたエイズ危機も、1990年代半ばに画期的な治療法が発見されたことで徐々に沈静化に向かう中、2005年にその後のゲイ映画の金字塔となるアン・リーの『ブロークバック・マウンテン』が登場します。
当時、映画界やマスコミから絶賛を浴び、同性愛を前面に打ち出した本作がアカデミー賞作品賞を受賞すれば異例の快挙と騒がれましたが、残念ながら作品賞はノミネートどまり。監督賞を含む3部門の受賞となりました。
LGBT映画としての作品賞受賞は、昨年『ムーンライト』(16)がその悲願を果たしています。

また、ゲイであることを公表する映画人たち、中でも若き天才映画監督グザヴィエ・ドランの登場や、フランスの鬼才フランソワ・オゾン、ファッション界で大成功を納めたのち今度は映画製作に参入してきたトム・フォード、演技派俳優として知られるベン・ウィショーらの活躍も、21世紀のゲイ映画を多彩に彩っています。
とりわけグザヴィエ・ドランは、甘いマスクと相まって、映像・音楽のセンスが幅広い年齢層に支持され、日本でも人気の高い映画作家。
半自伝的処女作『マイ・マザー』(09)や、トランスジェンダーを主人公に据えた『わたしはロランス』(12)など監督作品の過半はLGBTを扱っており、今後のLGBT映画の潮流を担う1人と目されています。

ピックアップ作品(5)『ブロークバック・マウンテン

ブロークバック・マウンテン

舞台は1960年代初頭のアメリカ・ワイオミング。ひと夏の間山で寝泊まりしながら羊を放牧する仕事を請け負ったカウボーイのイニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ギレンホール)は、厳しい大自然の中で助け合いながら生活するうち、自然に肉体関係に。
しかしそれが愛だという自覚はないまま、夏が過ぎると別れ別れに。2人はそれぞれ結婚し、子供も生まれる。
ところが、何気なく再会したことがきっかけで関係が再燃。
幼い頃から植え付けられた同性愛への嫌悪感に縛られ、自己嫌悪に苦しみながらも、ジャックと縁を切れないイニス。中途半端な関係が続くうちに、お互いの家庭は崩壊していく。
ひと夏の思い出を胸に生きた2人の20年間の軌跡。

レズビアン映画が身近に

2000年以降、レズビアン映画への注目度は着実に高まっています。
2016年にイギリスのBBC Cultureが発表した「21世紀の偉大な映画ベスト100」で堂々の1位に輝いたデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』(01)は、非常に複雑で完成度の高いストーリーがファンを熱狂させた作品ですが、主人公がレズビアンという点でLGBT映画でもあります。
恋人を男性に奪われる主人公の苦しみを迫真の演技で見せつけたナオミ・ワッツは、本作で一躍人気女優の座に躍り出ました。

また、2002年の『めぐりあう時間たち』でニコール・キッドマンが、2003年の『モンスター』でシャーリーズ・セロンが、それぞれゴールデングローブ賞・アカデミー賞で主演女優賞を受賞。作品への注目も集まりました。
特に『モンスター』は、リドリー・スコットが手掛けたフェミニズム映画『テルマ&ルイーズ』(95)と同じ人物をモデルにしながら、『テルマ&ルイーズ』ではフェミニズムの後ろに押しやられていた同性愛という要素を前面に出し、主人公女性の恋人に対する一途な想いに寄り添った目線で描かれている点が目を引きます。
また、2013年のフランス映画『アデル、ブルーは熱い色』も、女性同性愛をテーマにしてカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞。監督だけでなく主演女優2人にもパルム・ドールが贈られるという異例の賞賛を浴びました。

しかし、レズビアンの恋愛を正面から描いた上で、日本でも一定の規模で公開された作品と言えば、やはりトッド・ヘインズの『キャロル』(15)が最たる1作ではないでしょうか。
ケイト・ブランシェットルーニー・マーラという人気女優を起用した本作は日本でも大手シネコンで上映され、レズビアン映画の新時代を印象付けました。

ピックアップ作品6:『キャロル

キャロル

原作は、バイセクシュアルだったことでも知られる人気作家パトリシア・ハイスミスで、本作は彼女の半自伝作品とも言われる。
1950年代のニューヨークで、デパートに勤めるテレーズ(ルーニー・マーラ)は、売り場に買い物に来た美しい女性・キャロル(ケイト・ブランシェット)と運命的な恋に落ちる。
キャロルは夫(カイル・チャンドラー)と離婚調停中だったが、離婚をしぶる夫の画策で、2人の仲は引き裂かれて……。
同性愛に対する偏見が2人を苦しめる状況もさることながら、2人が全身から発する恋する女のオーラに心を奪われる。
女神の水浴びを盗み見るような妖しいときめきのうちに過ぎていく2時間。

同性夫婦ものが広く共感を呼ぶ

同性愛作品の新しい傾向として、『キッズ・オールライト』(10)や『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』(15)のような同性夫婦が直面する問題を描いた作品が登場してきたことも見逃せません。
口コミで人気に火が付いた感動作『チョコレートドーナツ』(12)も、夫婦関係ではありませんが、ゲイのカップルが育児放棄された少年を育てる話です。
同性夫婦特有の問題だけでなく、生活感あふれる日常風景や、多感な子供との関係を描いて、セクシュアリティを超えた共感を集めています。

ピックアップ作品7:『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気

ハンズ・オブ・ラヴ

有能な女性刑事ローレル(ジュリアン・ムーア)と整備工のステイシー(エレン・ペイジ)はスポーツを通じて知り合い、恋人関係に。やがて2人は州のパートナー法に基づいてパートナー登録、実質的な夫婦になる。
ところが、ローレルが末期ガンに冒され余命いくばくもないことが分かった時、婚姻関係がないと郡からの遺族年金が受給できないことが判明。自分の死後、家のローン・治療費などの負担がステイシーに重くのしかかることを心配したローレルは、彼女に年金を残すため、瀕死の病状の中、郡議会を相手取って闘う。
2015年に全米で同性婚が認められる以前、過渡期の制度の欠陥に苦しめられたカップルの実話に基づいた作品。2人を支える人々の温かさが心に沁みる。
エレン・ペイジはレズビアンであることを公表している女優の1人。

トランスジェンダー映画に画期!

もうひとつ、ここ数年めざましいのが、トランスジェンダーを主人公にした作品の増加です。
実話をベースに世界初の性転換手術に挑んだリリーとその妻の苦悩を描く『リリーのすべて』(15)や、トランスセクシュアルの女性リンコの母性を描いた『彼らが本気で編むときは、』(17)、今旬の女優エル・ファニングが性同一性障害の主人公を演じる『アバウト・レイ 16歳の決断』(15)、ロサンゼルスの路上で娼婦として働くトランスジェンダーを全編iPhoneで撮影して話題を呼んだ『タンジェリン』(15)。
さらに、今年のアカデミー賞では、恋人に先立たれたトランスジェンダー女性を主人公にした『ナチュラルウーマン』(17)が外国語映画賞を受賞しています。
『タンジェリン』と『ナチュラルウーマン』ではトランスジェンダー役にトランスジェンダーの役者を起用していることも注目すべき点。今後映画界でも彼らの活躍シーンが増える気配です。

ピックアップ作品8:『ナチュラルウーマン

ナチュラルウーマン

サンティアゴのナイトクラブの歌姫、トランスジェンダーのマリーナ(ダニエラ・ヴェガ)は、夫婦同然だった恋人・オルランドの突然の死に見舞われる。
オルランドがいなくなった途端、敵意をむきだしにしてマリーナから住まいも財産も奪い取ろうとするオルランドの妻子、その上、オルランドが倒れた時一緒にいたことで警察からは容疑者扱いまで。
恋人を失った悲しみに追い打ちをかけるように、2人の愛だけでなく自身の存在までも否定されていく中で、マリーナはどう生きるのか?
心無い人々の仕打ちに負けず、強く、しなやかに生きていくマリーナの女性としての美しさを描いていく。

LGBTの人権のために闘った先人たちの物語も

LGBTの人権問題への認識が社会に浸透しはじめた中で、LGBT問題のために闘った先人たちの物語も製作されています。
オープンリー・ゲイとしては全米初の代議士に当選、その後凶弾に命を奪われたハーヴェイ・ミルクの生涯を描いた『ミルク』(08)(ミルクに関しては1984年にドキュメンタリー映画も)をはじめ、1980年代のイギリスで炭鉱労働者のストライキ運動とタッグを組み、マイノリティを切り捨てようとするサッチャー政権と闘った運動家たちの物語『パレードへようこそ』(14)、エイズの猛威が吹き荒れる中、感染防止対策や治療薬認可の迅速化のために闘った運動家たちの記録『BPM ビート・パー・ミニット』(17)など、どれもLGBT運動史を知る上で観ておきたい作品ばかりです。

ピックアップ作品9:『BPM ビート・パー・ミニット

BPM ビート・パー・ミニット

舞台は1990年代初頭、エイズの猛威が吹き荒れるパリ。エイズに対する国の対応の遅れに業を煮やした活動家たちが、HIV感染の予防法の周知や新薬認可の迅速化のために結成した団体Act Up Parisの活動を、かつてメンバーの1人でもあったロバン・カンピヨ監督が、ドキュメンタリー・タッチで追っていく。
エイズ闘病中のメンバーたちは次々に命を落としていき、新薬認可が一刻を争う状況の中で、時に苛烈を極める運動は、彼らの生きたいという叫びであると同時に、今この瞬間たしかに生きていることの証そのものにも見えてくる。
死に瀕して一層輝きを増す命の鼓動に魅せられ、言葉を失う衝撃作。

結び

今、世界はLGBTに目を向けています。ロシアなど一部の国ではいまだに同性愛に対する弾圧が続いており、決して楽観は許されないものの、少なくとも日本では確実にLGBT問題への取り組み・意識改革が始まっています。
そんな中で、数多くのLGBT関連映画が公開され、今やLGBTが登場する映画は、数えあげるのが難しいほど。
そもそも10人に1人がLGBTと言われていることを考えれば、ようやく映画業界のダイバーシティが正常化に向かいはじめたともいえます。
LGBT映画という枠組みを設けること自体が無意味になる日も遠からず訪れそうです。

かつて『モーリス』が公開された当時、パンフレットには「ホモセクシュアルという世間では異常視されている関係」という表現が当然のように使われていました。
そんな時代に、さまざまな逆風を乗り越え、あえてハッピーエンドの同性愛映画『モーリス』を製作したジェームズ・アイヴォリー。
その後『最終目的地』(09)でも添い遂げるゲイカップルを描き、今回の『君の名前で僕を呼んで』でも、互いを想い続ける2人を描いた彼の姿勢からは、どんな逆風も乗り越える愛の力を信じたいという強い思いが伝わってきます。
今回のアカデミー賞受賞は、時代が追い風になった、というだけではなく、アイヴォリーの一貫して変わらない信念の力が、彼を晴れ舞台へと押し上げたのではないでしょうか。

『君の名前で僕を呼んで』公開記念として、『モーリス』の4Kデジタル修復版も今週末から上映されます。
ぜひ、この30年間の時代の流れを意識しながら、両作品を味わってみてください。

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