山田孝之×長澤まさみを主演に迎え、偶然の出会いを運命の恋にしたふたりの純愛を描く大人のラブストーリー『50回目のファーストキス』が誕生した。脚本・監督は、2017年ヒットメーカー・オブ・ザ・イヤーに輝いた、今もっとも多忙な監督・福田雄一。コメディの王者である福田監督が初めて、渾身のラブストーリーに挑戦したことでも話題の一作だ。
とはいえ、そこは福田作品。随所に福田ワールド炸裂の笑いを散りばめ、しっかり笑えてしっかり泣ける、本格的なラブコメディに。福田流のテイストを消さずに、ハリウッドの名作『50回目のファースト・キス』(アダム・サンドラー×ドリュー・バリモア主演/04)をどうやって映画化していったのか。本作に込めた想いをはじめ、さまざまな話を聞く。
ーー主演の山田さんのコメント「福田雄一に泣かされたことが少し納得いかない」という言葉通り、大多数の人がそう思う映画になりましたね。
うれしいですね。でも、途中までは福田組独特のノリで笑えると言ってくれる人も多くて、僕としてはそっちのほうもアピールしてほしい。だって途中、バカみたいにふざけていますから。最後は本当に泣けますけど。
ーーそのおふざけや笑いは、あえてなのですか?
そうです。僕の中では、途中に笑いがないと最後に泣けないだろうという思いがあって。ラブコメと言っている以上はコメのところが笑えないとしょうがないし、福田のラブコメのコメが笑えないと、この先お仕事が来なくなってしまう気がしたので。それで頑張りました。
ーーもともとアダム・サンドラーが主演の映画ですからね。
その力もあったかもしれないですが、言ってみれば病気の映画なのに、悲壮感が全然ないんですよ。主人公の女性をみんなでなんとかしたくて頑張っているけれど、でもその底辺に哀しみがまるでない。「一生治らない病気だから絶望だ」という表現がオリジナルの映画にもなく、そこがこの映画の愛されるゆえんだと思っていたので、だからこそ途中で笑うシーンが必要であると思っていました。
ーー悲壮感に全部シフトしていく選択肢は?
まったくなかったですね。仮にそっちに行ったとして、観る価値がないものになるなと思いました。ひとつの面白味としてはドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズのキャスト&スタッフが贈るラブストーリーなので、そうであれば「裸の銃を持つ男」をやるべきじゃないですか。山田くんも僕も、裏をかくようなことが好きなので、僕とのラブストーリーは「笑えますねー」と言っていて。その時点で「笑える」と言っていましたから、反対の方向に行くわけもなく。
ーーおっしゃるように“挑戦”の意味合いが、福田組ならでは、ですからね。
僕の中で山田孝之、ムロツヨシ、佐藤二朗がいるラブストーリーは笑えること以外のなにものでもないので、やってみようよと。本当にいわゆるラブシーンは、そういう思いで撮ってはいますが、そういう思いで撮っている自分が面白いという視点も客観的にあって、山田くんの芝居を見てボロボロに泣いている自分も、それはそれで面白いという。
ーー実際に、真面目な部分のラブは、演出・撮影してみていかがでしたか?
実際にラブストーリーど真ん中って初めてで、いままではフリとして使ったことはあったんです。「勇者ヨシヒコ」なんかではフリとしてラブストーリーを使っていて、とんでもないオチが待っているフリとしてのラブですよね。だから、楽しくて仕方がなかったですね。
ーーそれにしてもしっかり笑えて、しっかり泣けるって、すごいですよね。過去の例はたいがい泣けはしますが、笑いの部分が完全に呑み込めないことも正直少なくなく、本作の完成度は高いと思いました。
そこなんですよね。重要なんです。それこそ僕にとっても挑戦で、笑って泣けるっていっぱいありましたけど、どこが笑えんねん!みたいなことですよね。こういうこと、書かないでくださいね。
ーーでも、いつもそういうインタビューですよ。
いやいや。どこが笑えるの?みたいなことはあるじゃないですか。だから、それはよろしくないないなあと思っていましたよ。洋画では成立していることが多かったですが、日本では難しいのかなと思いますね。
ーー山田さんのような喜劇もこなせる俳優の、絶対的な条件などはありますか?
それは努力で身につくものだとは思いますが、僕が思う絶対的な条件は、好きじゃないとダメですね、絶対。人を笑わすことが好きじゃないと、上手くはならない。それと笑わせる人と見ているだけで笑ってしまう人がいて、おそらく後者は最初から資質がある人ですね。この2パターンしか知らない。本当に真面目すぎるあまり滑稽になるということもありますが、これはなかなか珍しく、やっぱりコメディをする人間は笑いが好きであったほうがいい。技術的にいたってなくても、結果的に面白くなることもありますから。
ーーそういう意味で、いま注目の俳優はいますか?
まさしく太賀くんですよね、もともと面白い俳優だなと思っていて、今回実際に面白かったんですよ。だから太賀くんがこの映画でコメディ俳優としてハネたらいいなと思っています。最近、若い子でコメディをやりたいという人が多いから、頑張ってほしいですね。
ーーそう考えると、山田さんは凄まじいですよね。もともと演技派で確固たる実力と地位を得ていて、柔軟に立ち回れる才能に今回も驚きました。
彼の本当に面白いところは、今回も撮影中に僕のところにいきなりやってきて、「この秋、ミュージカル俳優になります!」と言ったんですよ。あなたナニ言ってるんですか急に、ということなんですけど、その後、実際山田くんと僕とでミュージカルをやることになりました。僕たちは話が早いことが取柄でもあって、それから10日間くらいで企画もまとまりました。確かに深夜ドラマではいろいろと遊び尽したし、映画も映画でいろいろな挑戦ができていましたが、その中での急にミュージカルスター発言。だから、好きなんですよね。好きだから人にも伝わるし、物事も動く。これが大事ですね。(取材・文・撮影=鴇田崇)
映画『50回目のファーストキス』は2018年6月1日(金)より、全国ロードショー。
(C)2018「50回目のファーストキス」製作委員会
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