「お芝居どうこうより、ちゃんと自分の言いたいことが伝わっているかどうかが一番大事。役者なんていっぱいいるだろうに、ひとりくらいこんなやつがいてもいいんじゃない」
インタビューで、役者として活動する上でのポリシーを問えば、長瀬智也はそう答えた。俳優は何色にも染まれない、何者にだってならない――だから、彼らの多くは「カメレオン俳優」になることを一心不乱に目指すイメージもあるが、長瀬は真逆のスタンスで自らの正攻法を掴んだ。自分にしかできないことをやっているか、伝えられているのか。作品と役に忠実に向き合い続けた結果、様々な作品でリードする長瀬の存在こそが、胡坐をかいていない彼の生きざまを照らす。
一方、ディーン・フジオカは日本発、海外仕込みの役者。透き通るような瞳には、これまで様々な国籍のスタッフ、俳優と交わり合った経験と、きっといくつもの試練を乗り越えて生まれたのであろう潔さや覚悟が、ほの見える。同じ問いには、「好きだから続けているし、好きじゃなきゃこの仕事は続かないと思うんです」と穏やかに語り、長瀬は隣でうれしそうに「うん、うん」とうなずいた。
そんな長瀬とディーンが初共演した『空飛ぶタイヤ』は、池井戸潤による同名小説の映画化。トレーラーの脱輪事故で、整備不良を疑われた運送会社社長・赤松が、無実を証明するために製造元のホープ自動車の不正を暴く、社会派エンターテインメントだ。劇中、にらみ合う間柄のふたりだったが、インタビューでは、終始微笑み合っては真剣に語り、耳を傾け、笑い、また語り尽くした。運命が引き合わせたように思いたい、真っすぐな眼差しと美しい姿勢が似ている同年代ふたりの俳優道を聞いた。
――おふたりのイメージで共通しているのが、女性から人気があることに加え、「男が惚れる男」という点です。お互いだからこそ知り得る魅力を、教えていただけませんか?
長瀬 もう……話し出したら止まらないっすよ(笑)?
ディーン (笑)!
長瀬 褒め殺ししますよ?
ディーン ははっ(笑)。
長瀬 僕ら、同年代なんです。今までのバックボーンもお互いあるけれど、同年代ということで、ひとつグッと近くに寄れることがあって、大きい気がしますね。
ディーン そうですね。
長瀬 溶け込みやすさみたいなものは最初からありました。ディーンさんは海外でずっとお仕事をされていたからか、見ているものや感じるものが、どこか面白いなと思うところがあるんです。お芝居にしても、大きな観点ですべてを見ている印象を受けました。別に、「ここは、ちょっと間をあけるから」とか、ふたりで話しているわけじゃないんですよ?
ディーン ああ、それはないですね。
長瀬 そんなことは一切しなかったので。お互い話し合うわけじゃない、人間だから感じられる部分があったので、僕は純粋にすごくうれしかった。正直、芝居をする相手の人間性がどうかもわからないまま、僕らはお芝居をやっていくこともある。そんなことを話している暇もないというか。
ディーン うん、そうですよね。
長瀬 赤松と沢田(ディーン)のように、言葉にしていないけど、どこかで思っているところはあるんですよね。それをディーンさんからも感じる。たくさんある出会いの中で、そういうのはなかなか見つかるものでもないと思うので、一緒にお仕事できたことがうれしかったです。
ディーン こちらこそ!
長瀬 また違う形でも、今回のように、きっと何も話さなくてもできる面白さがあると思いますね。
――おふたりにとって、とても貴重な出会いだったんですね。ディーンさんは、いかがでしょうか?
ディーン 僕だけが知っている長瀬さんの魅力は……あるとき、長瀬さんが髪にスプレーをバーッとかけた後に、鏡を見てスプレーよけ(※)をつけたんですよ(笑)。 ※通常、スプレーをかける前に装着する道具、フェイスガード
長瀬 あのスプレーの霧からどう逃げるかって……。
ディーン あれを見たときに、お茶目な人だなあって(笑)。そういうのがハプニングとして起こるのが、僕としてはうれしいわけです。長瀬さんもお話されていましたけど、皆、ちゃんと仕事をしようとプロとして現場にいるから、やるべきことをやるのが先決になって、どうしても人となりがあまり見えないまま「はじめまして」「ありがとうございました」で終わることが多いので。
僕は10代の頃から長瀬さんのことをいち視聴者として存じ上げています。日本のこの業界の中で、すごく結果を出されて、ずっと挑戦し続けているのは並大抵ではないと思います。継続させることって、すごく難しいじゃないですか。長瀬さんにお会いできたことも、今、隣でこういう話をさせてもらっていることも、自分にとっては「格好いい先輩にちょっと近づけた」みたいな。子供心を思い出すような方なんです。
長瀬 僕はいなかったんですけど、1回ロケで控え室がカラオケボックスだったときがあったそうで。
ディーン ああ、ありましたね。
< strong>長瀬 後々聞いたんですけど、その待機部屋でディーンさんがガンガン、カラオケを入れて歌いまくっていたって(笑)。最高じゃないですか? そういうところっすよね。もちろん仕事のこと、芝居のことは考えますけど、そればかりを考えたからって、いいシーンが撮れるわけではないと、僕は思っているから。メリハリというか、やるときにはガツッとやる、というのがいい気がします。そのフィーリングが合うのは救いでした。
ディーン あの日、楽しかったですよ。皆ではっちゃけて(笑)。
長瀬 あまり、そういうキャラに見えないでしょ!?
――確かに、そうですね。抜くところは抜いてくださるというか。
長瀬 それをね「抜いてあげている」という感じじゃないんですよ。
ディーン 自分が楽しんでいるっていう(笑)。
長瀬 そうそうそう! わざと場を和ませるためにやっていたら、わかるじゃないですか。「ありがたいな……」と思いつつ、こっちも気を使っちゃうけど(笑)。逆にそれが本当のおディーンな感じ!
ディーン (笑)。いやあ……待ち時間があったし、ちょうどカラオケがあったから「どうしようかな?」と思いつつ、最初に3曲くらい入れちゃいましたね。
長瀬 ただでさえ、カラオケに行っても最初に歌うの、嫌でしょ(笑)!? そこを先陣切っていくあたり、最高っすよね。
ディーン 途中で中村(蒼)くんがメイクを終えて入ってきて、「中村くん、歌う?」って聞いたんだけど、ずっと「僕は聴いています」って(笑)。あれ、苦痛だっただろうな~。
――ちなみに、井崎一亮役の高橋一生さんも「同年代」というくくりですよね?
長瀬 高橋さんとは、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』で共演して以来でした。お互い年を取ったけど(笑)、同世代だから分かることもあるし、実際、絡みがなくても通じ合っていたところがあったような気がします。井崎は、企業の要の立ち位置なんですよね。自分なりの正義を貫いて闘う男を、高橋さんはすごくクールに演じていましたよね。こういう男がいてほしいな、と思いました。
ディーン 井崎はすごく大事な、ひとつの大きな作用を担う役ですけど、高橋さんがそんな井崎を素晴らしいお芝居で表現されていたと思います。人は直接コミュニケーションを取って「こうしようよ」と言わなくても、何か根本的に通じるものがある人同士なら、バタフライエフェクトじゃないけど、お互いに見えない力が作用し合って大きなムーブメントやポジティブな流れを生み出すことがありますよね。それを、高橋さんはすごく象徴的に演じられていたと思います。今回は現場でお会いすることができなかったので、いずれ一緒にお芝居ができるといいな、と思っています。
――長瀬さんの演じた赤松は家庭を持ち、奥さんも子供もいらっしゃいますが、ディーンさんの演じた沢田はバツイチの独身と、対照的です。
長瀬 僕からしてみたら、結婚して子供もいて家もあって、というのはすごく羨ましく見えますね。家族とのシーンや、奥さんから言われる何気ない一言とかは、すごく響いてしまったりして。今の自分にはないものなんでね、すごく大きな愛や救いのような気がします。それが赤松を動かしていたんだろうなあ……。やっぱり社員には見せられない顔って、きっとあるだろうし、「男だから」みたいなところもあるだろうから。きょんちゃん(深田恭子)がやった奥さんなんか、すごく大きい器というか、やわらかい綿のような感じで。赤松個人としては、すごく大きかった気がするんです。赤松だけじゃなくて、日本中の所帯を持っている人は気づくべきだ、と思いますよ。
ディーン (笑)。家族平和は世界平和ですもんね。
長瀬 そうそうそう! 僕なんて、猫しかいないからね(笑)。
ディーン 僕は沢田を演じていて「本当にひとりって寂しいなあ……」って思って。
長瀬 (笑)。
ディーン (沢田は)部屋でピーナッツとかをひとりで食べて、企画書を書いているんです。毎日家に帰ってこれだったら滅入るなって思いました。私生活では、僕は家族がいるので、エネルギーをもらっている実感があります。
長瀬 いいっすよね、所帯を持つってね~。
――物語では、沢田は実名で内部告発をします。何でも匿名が横行する今の世の中で、ひとつの強いメッセージを受け取りました。実名、匿名については、どのように考えますか?
ディーン 発言に責任を持たずに、好き勝手にものを言うのは、そこだけを見るとどうなのかなと思います。
長瀬 匿名の人って、大抵ムカついているんでしょうね?
ディーン (笑)。
長瀬 怒っているのを見られたくないから、名乗らない、みたいなことなのかね? 言わないだけで、心の中では「絶対そんなやつになりたくねえな」と思うっすよね。
ディーン 匿名の人って、どういう日常を送っているのかな、と考えてしまいます。家の中にいるのが一番好きなのか、すごくアクティブに豪華ヨットに乗りながらやっているのか? ??笑)。
長瀬 想像できないよね、その人たちのことは。
ディーン 1回腹を割って話してみない?という気持ちになりますよね。できれば、そこからスタートしたいです。
長瀬 匿名は、まあ、でも悪いことだけじゃなくて、僕らからしてみれば「こう思う人もいるんだ」という、ある意味参考材料になる。
ディーン そうですね。そういうこともありますね。
長瀬 厳しいお言葉、ということもあると思うので、一概には悪いと言えない……わかった(指を鳴らす)! たぶん、匿名の人って、すごくシャイなんじゃない?
ディーン (笑)。
長瀬 シャイだから匿名なのかな(笑)。
真面目なことを言えば、いろいろな人のやり方や思いがあるだろうから、一概に僕が押しつけがましく「こうだ」というのも違うと思うので、そこは興味がないふりをしているような気がします。僕は、名乗ることは当たり前だと思うんです。今の時代が、こういう「匿名とは」という会話にさせている話で。だから匿名だけでしかものを言わないやつの正義にしてもいないし、そいつらが「違う」とも思っていない。そうさせているのは社会なだけの話。そんな社会だけども、赤松にとっては沢田のように「こんなやつがいるのか」と足を止めることもあるだろうし、それが少しの生きる喜びや頑張りに変わったりして励まされながら、自分の家族や友達も生きている気がします。そもそも何のしがらみもなく普通に生きていたら、そんな難しい問題って生まれないと思うんですよね。
――ありがとうございます。『空飛ぶタイヤ』は仕事の向き合い方に関しても考えさせられる映画です。おふたりが役者として活動する上でのポリシーは、どのようなことでしょうか?
長瀬 根本的に、僕は役者という考え方ではないのかもしれないです。自分の中のルールがあって、僕の人生には、僕しかできないことがあると思っているし、役もひとつの役をやれば、自分にしかできない形のものができると思っているんです。お芝居どうこうより、ちゃんと自分の言いたいことが伝わっているかどうかが一番大事で。そこに関しては、僕は手立てを選びません。それが役者としてタブーだったとしても、「俺は役者じゃねえ」って突き進みますから。そこを変えてしまったら、自分の積み上げてきたものをすべてぶっ壊してしまう。……それが自分の悪いところだな、とも思うし、それでいいんだ、とも思っています。
役者なんていっぱいいるだろうに、ひとりくらいこんなやつがいてもいいんじゃないのって思いながら、やらせてもらっています。どういうふうに見られるかより、芝居も音楽も果てが見つからないというか……、年をとればとるほど難しいと感じているんですよね。例えば、カメレオンのように人格も変えられて、どんな人間でもお芝居のできる人が、僕は偉いとも思わないですね。それよりも不器用にひとつの役しかできないけど、言いたいことがちゃんと言えていたり、伝えたいことが伝わっている人のほうがパワーがある気がします。そうでありたいなと思うところは、こういう仕事をやっていて強く思いますね。
ディーン 俳優の仕事って、自分の持てる力を全力で受け身に仕事をしている感じなんです。「こういう役があります。演じてみませんか?」というオファーをいただいてから始まり、プロデューサー、監督と作り上げる。その作りたいものを全力でお手伝いする感覚があります。音楽をやっていると、ただ自分が不器用にコツコツとできることを直球でやり続ける感じですけど、俳優をやっているときは、それまで生きてきた自分の経験、思ったことを全部導入して、そのキャラクターを存在させるために全身全霊でお手伝いしている感じなんです。
だから「こういう役をやってみたいな」と考えることもないし、演技のお仕事のオファーをいただいたときは、いつもドキドキ、ワクワクするわけなんです。「こういう役は考えたことがないな」「どんな日々になるんだろう」と。自分の人生の中で、その撮影期間に関しては役として生きている時間だから、不思議なお仕事だなと思います。でも好きだから続けているし、好きじゃなきゃこの仕事って続かないと思うんです。
長瀬 うん、割に合わない。
ディーン すごく肉体労働だし。
長瀬 そう。意外に役者って現場仕事ですからね?
ディーン ただ好きだから、こういう作品を世に出して、こういうメッセージを打ち出したいという熱意やビジョンに惚れて、僕も一部分として全力でやる、という感じです。
長瀬 「名曲に参加できる」という感じじゃないですかね。
ディーン うん。
長瀬 そういう喜び、クリエイティブができることに対しての喜びが、僕らにはあるような気がします。(インタビュー・文=赤山恭子)
映画『空飛ぶタイヤ』は2018年6月15日(金)より、全国ロードショー。
(C)2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会
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