【ネタバレ】映画『THE FIRST SLAM DUNK』原作との違いは?海南メンバーが映る?胸熱ポイントを徹底解説

魚介類は苦手だけど名前は

スルメ

原作者の井上雄彦がみずからメガホンを取った『THE FIRST SLAM DUNK』を徹底考察! 原作ファンなら涙せずにはいられないシーンとは?

桜木花道ほど、他人とは思えないキャラクターはいない。

筆者には『SLAM DUNK』の影響を受け、バスケ部に入り、毎日ダムダムしていた時期がある。

正直、練習は辛く、現実は漫画のようにうまくはいかない。しかし、そんな辛い日々の中でも、筆者の目には体育館を駆け回る花道の姿が見えていた。その大きすぎる背中に、何度励まされたことか。

“漫画のキャラクター”なんて、無機質な枠で括りたくない。筆者にとって、花道は親友であり、先輩であり、苦楽を共にした仲間なのだ。そんな花道が『THE FIRST SLAM DUNK』でスクリーンに帰ってきた。流川の後輩と共闘して以来、実に27年ぶりの帰還となる。

本記事では原作ファンとしての視点から、『THE FIRST SLAM DUNK』について考察していきたい。

THE FIRST SLAM DUNK』(2022)あらすじ

キャプテン・赤木剛憲(三宅健太)のワンマンチームだった、湘北高校バスケ部。

1回戦敗退が常の弱小チームだったが、桜木花道(木村昴)、流川楓(神尾晋一郎)、三井寿(笠間淳)、そして宮城リョータ(仲村宗悟)の加入によって、全国レベルのチームに成長していく。

そして迎えた重要な一戦。湘北は圧倒的に格上のチームを相手に善戦するが、徐々に綻びが生じてきて……。

※以下、ネタバレを含みます。

オープニングの秀逸さ

本作は「湘北vs.山王工業」を描いた作品である。山王が登場する事実は公開まで伏せられており、映画冒頭で多くのファンを驚かせた。

山王戦は原作の中でも屈指の人気エピソードだが、本作までアニメ化はされていない。90年代に放送されていたTVアニメは、陵南戦で終了しており、インターハイ編は映像化されなかったのだ。原作ファンは山王戦のアニメ化を、20年以上待ち続けていたといえる。

そんな状況の中、満を持して山王工業はコートに降り立つ。王者の貫禄はそのままに、ヌルヌルと動くアニメーションになって、湘北の前に立ちはだかった。

この試合における湘北の役割は「ワルモノ」である。試合会場は山王のファンが大多数だ。湘北の勝利なんて、誰も期待していない。そんな湘北の役割を示唆するように、メンバーの登場と同時にThe Birthdayのロックナンバー「LOVE ROCKETS」が流れだす。まさに「ワルモノ見参!!」のセリフがふさわしいオープニングである。

そして、宮城&花道の“奇襲”シーンへと続いていく。

TVアニメ版を観ていた方は、この時点でテンポのよさに気がつくだろう。TVアニメ版は連載中の放送ということもあり、1話1話にかなり時間をかけていた。「バスケのコートってそんなに広かった?」と思うほど、走り続けることも多い。

しかし、本作は違う。バスケットボールというスポーツを、アニメの中で完璧に再現しようとしている。バスケ愛にあふれた、井上雄彦先生にしかできない挑戦的な作風といえるだろう。そんな本作の方向性が、花道のアリウープとともに観客に叩きつけられる、完璧な“奇襲”シーンだった。

さらに、本作は完全に“原作ファン向け”の作品である。花道がどんな経緯でインターハイに来たのか、そもそも山王工業がどんなチームなのか。いっさいの説明がないまま、物語が進行していく。原作を読んでいない方にとっては、かなり不親切な作品に映ってしまうはずだ。一方、原作ファンにとっては、“当たり前”になっているストーリーに時間を割かれないため、嬉しい選択だといえる。

以上のことが、映画開始わずか10分に詰め込まれている。

山王戦が開始する前、原作では安西先生がこう発言していた。

攻撃的に 絶対に受け身にならない 常に先手をとる

(出典:「SLAM DUNK」より一部抜粋)

本作は安西先生の言葉どおり、オープニングから先手をとり、観客に「これまでのスラムダンクとちょっと違うぞ」と思わせることに成功している。

原作からの変更点

ギャグ要素が減らされている

漫画「SLAM DUNK」は、試合中のギャグシーンが、大きな魅力だった。試合の緊張感を一時的に緩和させ、読者にも“タイムアウト”の時間が与えられる。このメリハリの良さこそ、「SLAM DUNK」がバスケ漫画として成功した理由のひとつだろう。

しかし、本作ではギャグ要素がかなりカットされていた。伝説の「顔面シュート」ですら、サラッと終わらせている。

これは主人公が宮城に代わり、“シロート”桜木花道の視点で描かれなくなったことが大きい。また、漫画的な演出よりも、リアリティーを重視した作風に変化したこともギャグの減少に影響している。

目立ったギャグこそ減ったが、画面の隅で花道が流川へのパスに反応したり、ゴリのタッチで手が腫れたりと、愉快なリアクションが映し出されていた。

重要エピソードのカット

本作は“後半戦にすべてを賭けた”映画だった。前半戦はダイジェストのごとく、早々に終了してしまう。そのため、河田美紀男(通称・丸男)と花道の勝負が丸ごとカットされてしまった。

後半戦では、花道が流川のシュートを邪魔してしまう場面がカットされている。ラストのパスに繋がる伏線でもあり、花道がバスケット選手になったことを示すシーンでもあるのだが、残念ながら……。

また、山王戦屈指の名ゼリフ「大好きです 今度は嘘じゃないっす」も描かれていない。晴子や桜木軍団の面々がコートに降りてくることもなく、大人しく観客席に収まっていた。

ほかにもカットされたシーンは多いが、「井上先生が決めたことだから……」と自分を納得させるしかない。

キャラクターのカット

原作には、神奈川県代表の海南や、陵南の魚住などが登場していた。特に魚住は試合に乱入し、赤木を助ける役割を果たす。かつてのライバルに救われる、少年漫画らしい熱い展開だが、本作ではその役割が三井に代わっている。

ちなみに、海南の面々は客席には来ているようだ。目を凝らせば、海南カラーのユニフォームを着た集団を見つけられるだろう。

そして、当然ながら、花道のライバル候補だった森重寛も登場しない。もし、本作がオリジナルストーリーになっていたら、森重vs花道だと予想していたが、登場すら叶わなかった。

No.1ガード

本作は山王戦と宮城リョータの過去が、同時に描かれていく構成になっていた。

そもそも原作では、宮城の過去にほとんど触れていない。宮城の過去が描かれているのは、井上先生が書き下ろした読み切り「ピアス」のみであるが、残念ながら現在は正攻法で読むことが非常に難しい。

宮城は自由奔放に見えて、実は家庭環境に問題を抱えていた。幼少期に亡くなった兄・ソータの背中を追い、バスケを続けるが、母親との関係に亀裂が生じてしまう。背番号7番をつけてバスケをプレーするリョータの姿は、母の中で亡くなったソータと重なるからだ。

インターハイに出発する前日も、母親への手紙の中に、自分の想いをしたためていた。

「生きているのが俺ですみません」

手紙はごみ箱に捨てられ、母親が読むことはなかったが、宮城の中からそんな言葉が生まれてくること自体、誰も予想できなかっただろう。

宮城は苦しんでいた。本当はただバスケが好きなのに、兄と比較されてしまう。自分の中でも、数歩先を走る兄の姿が常に見えていて、バスケがやりたいのか、兄の背中を追いかけたいのか、わからなくなっていたのかもしれない。

宮城は劇中で、沢北のことを「バスケのことだけを考えて生きてきたんだろうな……」と評している。バスケ以外にも考えることがあった宮城と、バスケのことだけを考えている沢北を対比させているのだ。

パスで仲間を活かす宮城と、“へなちょこシュート”を使ってまで果敢に点を取りに行く沢北。ふたりはプレースタイルひとつとっても、真逆である。バスケの経歴においても、沢北は負けたことがなかったが、宮城は牧や藤間に後れをとってきた。しかし、ラストで明かされたように、ふたりは同じ場所にたどり着く。

本作をとおして、宮城は大きく成長している。ソータの背中を追いかけていた宮城は、兄を追い越し、「宮城家のキャプテン」になった。彼はようやく兄の死を乗り越え、“バスケのことだけを考える”選手に成長したのだろう。圧倒的に背の高い選手が多いアメリカでも、“切り込み隊長”として活躍してくれるはずだ。

左手はそえるだけ

THE FIRST SLAM DUNK』を観ていて、何度涙を流しただろう。

山王が動いているだけでも泣いてしまうのに、いちいち演出がニクい。涙をこらえるなんて、不可能である。

特に原作ファンなら誰もが涙したであろう、試合時間残り10秒を切った場面は、結末を知っているにも関わらず、息をするのも忘れてしまった。原作においてもセリフがまったくないページが続くのだが、本作でも“無音”の映像が流れ続ける。

湘北が1点リードしている状況で、沢北がジャンプシュートをきめてしまう。しかし、花道は動揺しない。まっすぐに「右45度」を目指して走り抜ける。そこは花道が最も得意とするポジションだ。

そして、流川が全速力でボールを運ぶ。相手コートまでボールを進め、ジャンプシュートへと移ろうとした瞬間、「右45度」で待ち構えている花道が目に入る。

「左手はそえるだけ」

花道はこの有名なセリフを言わなかった。映画では最後まで“無音”を貫いた。

しかし、確かに聞こえていた。劇場にいる、おそらく原作ファンであろう人々が、いっせいに心の中でこのセリフを発したのだ。誰も口を開いていないし、声も出していない。それでも、劇場の中には、確かに花道の声が響いた。

その瞬間、筆者は「SLAM DUNK」という作品の偉大さを痛感した。冒頭で「花道が他人とは思えない」と書いたが、ほかの観客の方々も同じような気持ちを抱えて、劇場を訪れていたのだろう。中には不安を抱えたまま、映画に臨んだ人もいたかもしれない。映画に満足できなかった人もいたかもしれない。けれど、この瞬間だけは、観客がひとつになった。

「SLAM DUNK」は、筆者の青春そのものだった。ド直球世代ではないが、学生時代を振り返ると、いつもそばに花道たちがいたような気がする。『THE FIRST SLAM DUNK』が公開されたことで、湘北メンバーとスクリーンで再会できるようになった。それも……山王工業も同時にだ。「SLAM DUNKのファンとして、これ以上に幸せなことはない。

『THE FIRST SLAM DUNK』の作品情報

監督・脚本・原作:井上雄彦
公開日:2022年12月3日(土)
公式サイト:https://slamdunk-movie.jp/

(C)I.T.PLANNING,INC.

(C)2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

※2022年12月9日時点の情報です。

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