前作『アバター』(2009年)から13年の時を経て、12月16日より全国公開中の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』。前作に引き続きジェームズ・キャメロンががメガホンをとり、サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーバー、スティーヴン・ラングが出演。『タイタニック』(1997年)でキャメロンとタッグを組んだケイト・ウィンスレットが、新しくキャストとして加わっている。
という訳で今回は、2022年の超重要作間違いなしの『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』についてネタバレ解説していきましょう。
映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022)あらすじ
元海兵隊員のジェイク(サム・ワーシントン)は、惑星パンドラでナヴィの女性ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と結ばれ、幸せな家庭を築いていた。だが再びパンドラを制圧するために再び地球人が来訪し、ジェイク一家は森を抜け出して海の民メトカイナ族に助けを求める。だがその海辺の地にも、侵略者の脅威が迫っていた…。
※以下、映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のネタバレを含みます。
第1作に匹敵するほどの技術革新
1895年12月28日、パリのグラン・カフェにて、リュミエール兄弟による世界最初の有料映画上映会が行われた。出し物は『列車の到着』(1895年)。画面奥から列車が手前に近づいて来るだけの映像なのだが、紳士淑女の皆様は「スクリーンを突き破って、列車が飛び出して来るんではないか」と錯覚し、パニックに陥ったというのは有名な話である。
映画の歴史は、技術革新の歴史と言い換えてもいい。無声映画はトーキーとなり、白黒映画は総天然色となった。そしてジェームズ・キャメロンは、『アバター』においてデジタル立体映像技術を駆使し、2Dを3Dに刷新しようと目論む。
歴史的な大ヒットをおさめた『タイタニック』以降、12年間劇場用映画の製作から離れて、もっぱら視覚効果のテクノロジー開発に情熱を傾けてきたキャメロン。それは、新しい知覚体験を創造するにあたって、ソフトではなくハードのイノベーションが必須の条件だったからだ。彼は21世紀のリュミエール兄弟たらんとしているんである。
そしてさらに13年の時を経て、キャメロンは『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』でさらなる技術革新を押し広げた。『アバター』の続編が製作されることは、2009年12月の時点で発表。当初は2015年とアナウンスされていた公開日は、1年、また1年とずるずる延期されていく。それだけ、キャメロンが納得する映像の実現に時間がかかったということだろう。俳優の表情を正確に補足するフェイシャル・キャプチャー、俳優への演技指導を円滑に行うためのバーチャルカメラ、CGキャラクターのリアルタイム合成……。第1作に匹敵するほどの革新性が要求されたのである。
最も困難だったのは、俳優の演技のニュアンスを損なわずに水中でのシーンを撮影することだった。最初は、モーションキャプチャー・スーツを着たパフォーマーが、空中でワイヤーに固定されたまま、水中での動きに近い状態で撮影。だがキャメロンは、そのアイディアをソッコーで却下する。彼は本当に水の中で撮影するリアリティを望んでいたのだ。
通常モーションキャプチャーには赤外線が使われるのだが、水中だとそれを読み取ることが難しい。アクアラング(スキューバダイビングで用いられる器材)から放出される泡を、赤外線が間違って補足してしまうからだ。だったら、そもそもアクアラングなんか使わなければいーじゃん! 俳優はみんな素潜りで撮影だ!……ということで、俳優たちは全員素潜りで演技する羽目となった。
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015年)で、トム・クルーズが6分間の息止め潜水アクションに成功したことが話題になったが、御年70歳近いシガニー・ウィーバーも、特訓に次ぐ特訓で6分以上息を止めることに成功。もっと凄いのはロナル(メトカイナ族のリーダー、トノワリの妻)を演じたケイト・ウィンスレットで、何と7分14秒も息を止めるシーンを演じてみせた。
ケイト・ウィンスレットは『タイタニック』でキャメロンと仕事をしたことがある仲だが、この時も冷たい水の中で何時間も待機させられ、おかげで低体温症になってしまったというエピソードが残っている。7度のアカデミー賞ノミネート経験を持ち、『愛を読むひと』(2008年)で主演女優賞に輝いた大女優に対しても、キャメロンはいっさい容赦しないのだ。
『ゴッドファーザー』を参考にした家族の物語
『アバター』シリーズは、全5作で作られることがアナウンスされている。とてつもなく巨大なプロジェクトだ。ジェームズ・キャメロンはまず、パンドラの設定を細かくメモ。その後脚本家のチームを立ち上げて、4作ぶんのシナリオを一気に開発する。
招集されたメンバーは、ジョシュ・フリードマン(代表作:『チェーン・リアクション』、『ブラック・ダリア』)、リック・ジャッファ&アマンダ・シルヴァー夫婦(代表作:『猿の惑星: 創世記』、『ジュラシック・ワールド』)、シェーン・サレルノ(代表作:『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』)。まずは、皆で大枠のストーリーを共有することから始めたという。
「私たちは7ヶ月間ミーティングを行い、全作品の全シーンをホワイトボードに書き出したんだ。先に脚本を決めてしまうと、他の作品の話をするたびに、彼らが調子を崩してしまうと思ったからね」
キャメロンはこの巨大サーガを作るにあたって、参考にした映画があった。言わずと知れた名作中の名作、『ゴッドファーザー』(1972年)である。
ニューヨークを牛耳る五大ファミリーの中で、最大勢力を誇るコルレオーネ・ファミリー。偉大なドンからファミリーを継承することになったマイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)の葛藤と苦悩の歴史が、堂々たるタッチで紡がれる。そしてこの作品はマフィア映画であると同時に、親子や兄弟の絆を描いた家族映画でもあった。
「5児の父として、『アバター』の物語がもし家族ドラマだったら、『ゴッドファーザー』だったら、どんなものになるだろうと考え始めている自分に気づいたんだ。もちろんジャンルは全く違うけど、そのアイデアに興味を持ったんだ。(中略)これは世代を超えた家族の物語なんだよ」
さらにジェームズ・キャメロンはTotal Film誌のインタビューで、こんなコメントも残している。
「新しい映画では、キャラクター、ストーリー、人間関係、感情に重点を置いているんだ。1作目では、2作目ほど人間関係や感情に時間を割くことはなかった。登場人物の数も多いし、ストーリーも長い。しかし、何よりも『ウェイ・オブ・ウォーター』は家族の物語なんだよ」
この作品でジェイクは4人の子供の親となり、地球を救うか家族を救うかの究極の決断を迫られる。思えば、彼が1994年に発表した映画『トゥルーライズ』は、主人公ハリー・タスカー(アーノルド・シュワルツェネッガー)が凄腕のスパイであることを隠して、家族の前では普通のサラリーマンを装っている物語だった。まさに、「家族の前で仕事と生活のバランスをどう取るのか」というお話なのである。その発展形として、今回の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は作られたのかもしれない。
母性と母性との対決……『エイリアン2』との共通性
筆者が『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で最も興味深いキャラクターだと感じたのは、マイルズ・クオリッチ(スティーヴン・ラング)である。
一作目ではマッチョで好戦的な典型的悪役キャラだったが、今作ではナヴィ族の身体にクオリッチの人格を移植したクローンとして復活。そして、パンドラで生まれた地球人スパイダー(ジャック・チャンピオン)の父親である、という事実が新しく提示される。「スパイダーとは身体的な親子関係はないが、精神的には父親である」という凄まじい設定なのだ。前作とは一転して、非常に複雑で内面に奥行きのあるキャラクターと言えるだろう。
印象深いシーンがある。クライマックスで、クオリッチはキリ(シガニー・ウィーバー)を、ネイティリはスパイダーを人質にして対峙する。ネイティリがスパイダーの喉を切り裂かんばかりの態度を示し、慌ててキリを解放するクオリッチ。筆者はこの瞬間、彼に母性の芽生えを感じてしまった。
一般的に母性とは「その存在を絶対的に肯定して愛すること」、父性とは「社会的規範を教えること」とされている(もちろん男性に母性は存在するし、女性にも父性は存在する)。この瞬間クオリッチは宿敵ジェイクに対して優位性を保つことも忘れ、母性が発動してスパイダーが心配でたまらなくなり、思わずキリを解放してしまったのだろう。つまりこのシーンが指し示すものは、母性(=クオリッチ)と母性(=ネイティリ)との対決なのである。
そこで思い出されるのが、キャメロンが監督した『エイリアン2』(1985年)だ。57年間の漂流生活によって、主人公リプリー(シガニー・ウィーバー)の娘はすでに死んでしまっていた。母性は新たな対象を探す。それが小惑星「LV-426」で唯一生き残った少女ニュート(キャリー・ヘン)だ。彼女を救うためなら、シガニー・ウィーバーはどんな努力もいとわない。クライマックスのリプリーと女王エイリアンとの対決は、お互いの子を守るための母性と母性との対決。そう、まさに本作と全く同じ構造なのである(キリを演じているのがシガニー・ウィーバーというのも何かしらの符号を感じてしまう)。
横転した船の中でのアクションという設定は完全に『タイタニック』だが、そこで描かれるテーマはむしろ『エイリアン2』に近いのである。
4作目以降の撮影ができない可能性も?
ジェームズ・キャメロンは、「全5作の脚本は全て執筆済み」であること、「3作目の撮影も完了して、現在ポストプロダクション中」であることを明言している。だがあまりにも莫大な予算がかかっているシリーズだけに、興行的な成功が収められなければ、4作目以降の撮影ができない可能性も示唆している。5部作の3作ぶんしか見れないなんて、映画ファンとしてこんなに悲しいことがあるだろうか?
我々が、『アバター』ユニバースの完結を支援する方法はたった一つ。映画館に出かけて、この驚異的な映像体験を体いっぱい浴びることだ。心ゆくまでパンドラの世界を味わうことだ。願わくは、キャメロンの旅が無事に終着地まで辿り着けますように。
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※2022年12月23日時点の情報です。