幽霊でもいいからもう1度会いたい…霊との交流を描く映画10本

映画マニアと呼ばないで

夏りょうこ

あなたには、もう1度会いたい人がいますか? それが幽霊であっても。

もうすぐお盆の季節。日頃は忘れがちなご先祖様のことを思い出し、霊を祀ってお迎えの準備をする日がやってくる。

普段は忙しくてなかなかお墓参りに行けなくても、このときだけは仏壇に手を合わせようという気持ちになる人も多いのでは?

そこで今回は、そんな季節にふさわしく、先祖や家族の幽霊が登場する映画10本をご紹介しよう。

以降は一部ネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。

異人たちとの夏』(1988)

お墓参りに行きたくなる

異人たちとの夏

妻子と別れて1人暮らしをしている主人公がある日、幼い頃に住んでいた浅草で、12歳のときに交通事故死した両親に出会う。

異界へと紛れ込んでしまい、そこで再会した懐かしい両親の姿は死別したときのまま。今の自分よりもかなり若いという不思議な感覚と、あの世では時間が止まっているのだという切なさが身に迫る。彼は、自分も12歳の頃に戻り、両親に甘えたい気持ちでいっぱいになる。

大人になった息子に再び会えたことを素直に喜び、昔のように愛情深く接してくれる両親。とまどいつつも、奪われた時間を取り戻すように通いつめる息子。しかし、時間が経つにつれて彼はだんだん衰弱していく。これはもしや、あのお決まりパターンでは……でもちょっと違うんだよなあ。

幽霊ではなく異人。怪談という言葉では括れない親子の物語。片岡鶴太郎と秋吉久美子の飾らない演技に、懐かしさを感じて胸がきゅんとなる。

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夫婦フーフー日記』(2015)

まだそばにいる

夫婦フーフー日記

知り合って17年後に結婚し、それから1年9か月後に、子供を残して病死した妻。慣れない育児と仕事の両立に格闘する夫の前に、死んだはずの妻が現れる。

原作は、結婚生活や闘病生活を綴った夫のブログだという。もちろん妻が幽霊となって登場するなんていうのは実話ではなく、大胆に設定が変更されている。妻の幽霊が出てきても違和感なく話をしている夫は、まだ妻の死を受け入れられないようだ。

プロポーズしてから妻が亡くなるまで、この夫婦に何があったのか。それが夫と幽霊による回想という形で描かれる。生まれたばかりの赤ちゃんが遺されているのがつらいが、幽霊が生前のままあっけらかんとした性格なので、全体的にはコメディタッチ。たくましいような達観しているような永作博美が、物語を引っ張っていく。

幽霊が見えるというのは、その人が心の中でまだ生きている証拠だと思う。それはべつに悪いことじゃない。彼はこれからも自分のなかにいる妻と会話をしていくのだろう。

父と暮せば』(2004)

娘が心配で

父と暮らせば

1948年の広島で、父と2人暮らしをしている娘。実は父は原爆を受けて死亡しているのだが、あるとき幽霊となって彼女の前に現れたのであった。

井上ひさしの戯曲で「戦後“命”の三部作」の1作目。原爆投下で生き残ってしまったことへの罪悪感を抱いている娘が、幻だと知りながら、生前と同じように父と日常生活を送るという不思議な物語である。

もし父が生きていたら、どんな風に考え、何と言うだろう。そう思いながら、彼女は生きていたのかもしれない。だから亡き父がそばにいる。父との対話は自分との対話。静かで優しい空気に包まれながら、本当の喪が明けたとき、彼女が幸せであってほしいと願わずにはいられない。

宮沢りえと原田芳雄という組み合わせは、父と娘としてはなかなか理想的だ。臆病になってしまった娘の背中をそっと押しつつもどこか寂しそうな風情が、いつまでも心に残る。

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母と暮せば』(2015)

静かな怒り

母と暮らせば

1945年8月9日、主人公は長崎で被爆し、死亡した。しかしその3年後、彼は母のもとに亡霊となって現れる。

井上ひさしが晩年に構想していた「戦後“命”の三部作」のうち、「ナガサキ」をテーマにした戯曲。その意思を山田洋次監督が受け継いで脚本を手掛け、映画化した。タイトルからもわかるように、広島を舞台にした父と娘の物語『父と暮せば』と対になっている。

一瞬で溶けてしまった息子。そんな死に方をされては、親は幽霊でもいいから、もう1度会いたいと願うだろう。その息子が、ひょっこりと帰ってくる。しょうがないなあという感じで。もちろん未練もあっただろう。初々しい恋はまぶしすぎる。そして、輝かしい未来が奪われたことがただただ哀しい。

悔しさや怒りを声高に叫ぶのではなく、心の機微を丁寧に描くことで反戦を訴えているかのよう。被爆シーンが静かなだけにかなり怖い。

フィールド・オブ・ドリームス』(1989)

野球と父親と

フィールド・オブ・ドリームズ

自分のトウモロコシ畑で謎の声を聴いた主人公は、突然取り憑かれたようにその畑を切り開きはじめ、周囲のあざけりに耐えながら野球場を作りあげる。

古き良きアメリカの美徳をこれでもかと詰め込んだファンタジー。謎の声とは“If you build it, he will come.”。「それを造れば、彼がやってくる」。“それ”って? “彼”って? 主人公は“それ”を察することはできたが、“彼”が誰なのかはなかなかわからないので、最後までじらされる。

でもそれがわかったとき、ああ、全てはこのためだったのかと観客(特に男性)は感涙するのである。彼の心に長い間ひっかかっていた強い後悔が、このような奇跡を呼んだ。幽霊でもいいから会えたことによって、わだかまりが浄化することもある。

ちなみに『木更津キャッツアイ ワールドシリーズ』(06)は、この映画のパロディである。それほどまでに影響を残した作品。ケビン・コスナーがカッコイイ。

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ブンミおじさんの森』(2010)

お迎えが来た

ブンミおじさんの森

腎臓病を患い、死を悟った男が、亡き妻の妹を自宅に招いて夕食を囲んでいると、いつのまにか妻の霊が同じ席に座っていた。

タイ映画として初めてカンヌ国際映画祭最高賞・パルムドールを獲得し、世界中に衝撃を与えた話題作。独特の死生観によってストーリーが展開され、スクリーンいっぱいに広がる深い森と澄んだ川が黄泉の国につながっているよう。

最初は窓ガラスに映っているように透けていた姿が、少しずつクリアになっていく幽霊の登場シーンが、妙にリアルだ。一方、行方不明だった息子も帰ってくるのだが、こちらは全身毛むくじゃらに光る赤い目がシュール。愛する2人が来たので、彼は森に入っていく。

死ぬとは何だろう。そのときが来たから、甘んじて身を任せる。霊魂があの森にいると思えば、死ぬのは怖くない。淡々としたその姿は、アジア人には親しみのある世界観だ。

いま、会いにゆきます』(2004)

あじさいのような

いま、会いにゆきます

最愛の妻を亡くし、幼い息子と暮らしていた男の前に、死んだはずの妻とそっくりな女性が現れる。

びしょぬれで登場したその女性は、見た目は妻そのものなのだが、記憶をすっかり失くしていた。なので、まずは彼女に過去の出来事を教えていくところからスタート。彼女はとまどいながらも、夫の妻、息子の母親としての生活を始める。

同じ人とまた恋に落ち、夫婦になる。つまり、2回目のファーストキスみたいな話だ。夫の方はつらい別れを2回も経験して大丈夫かなと思うが、だからこそ癒されることもあるのだろう。雨の季節ゆえに何かとロマンティック。竹内結子が理想の女性を演じている。

なぜ雨の季節だったのかな。幽霊と雨は似合うけど。こんな風に、愛する人が定期的に帰ってきてくれたらいいのにと思う。死んだ者と遺された者の気持ちがピッタリと合わさったとき、幽霊は現れるのかもしれない。

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居酒屋ゆうれい』(1994)

前妻の幽霊はこわい?

居酒屋ゆうれい

死んだ妻から「後妻を取らないというのがもしウソだったら、化けて出てやる」と言われていた居酒屋の主人が、数年後に再婚。すると、2人の前に前妻の幽霊が現れるようになる。

主人と前妻と後妻のヘンな三角関係。前妻を室井滋、後妻を山口智子が演じ、この2人がやきもちを焼いたり仲良く酒を酌み交わしたりする間を、主人である萩原健一がオロオロするのが面白い。のちリメイク版『新・居酒屋ゆうれい』(96)が作られたが、やはりキャスティング的には本作の方がオススメだ。

前妻は幽霊なので後妻の体に乗り移ることができるし、これから起こる出来事もわかる。そこらへんのコミカルな展開がありつつも、しょせん生きている人間には適わないという幽霊の哀しみやこの世への未練に、胸がじんとくる。ひと騒動後の愛と情けもいじらしい。

生きている者と死んだ者。一体どちらが大切なのだろう。笑って泣かせて、最後はニクイ演出。これがもし男女逆の設定なら、また違った展開になりそう。

リメンバー・ミー』(2017)

もう1度死にたくない

リメンバー・ミー

死者の国へ迷い込んでしまったミュージシャンを夢見る少年と、死者の国で暮らす骸骨の男が繰り広げる冒険と、家族の絆の物語。

音楽が禁止というワケありな家訓。それがかたくなに守られてきただけに、どんな因果が隠されているのか興味をソソられるのだが、意外とダークなヒミツでビックリ。ファミリーヒストリーもわりと複雑で、こじれにこじれた家族関係がほぐれたら、音楽そのものに罪はなし。

命が終わり、そして忘れられたとき、人は2度死ぬという。だから忘れないで。そう言われて思い出したあの人のこと。この人のこと。スクリーンには陽気な音楽とポップな骸骨があふれているが、大人の心にじ~んと突き刺さる深い映画である。

ご先祖様たちがいるから、今の自分がいる。なので、良くも悪くも彼らの因果の報いを受けてしまうけれど、それもひっくるめて家族の歴史だから。スクリーンいっぱいに流れる南米の音楽が気持ちいい。

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岸辺の旅』(2015)

あなたとどこまでも

岸辺の旅

3年間行方をくらましていた夫がふらりと帰宅し、妻を旅に誘う。それは、彼が失踪中に関わってきた人々を訪ねる旅だった。

薄いグレーがかった色彩が、この世とあの世の境目にいるかのよう。幽霊だとわかっていながら、妻は夫と旅をする。自分の知らない土地。自分の知らない夫。自分の知らない時間。なぜ夫は自分の前から消えたのか。その理由はわからない。でも今はただ、そこにいる夫のそばにいたい。

死者の生者への未練と、生者の死者への未練。その違いは何だろう。死んだように生きている人。死んでも生き続けている人。生と死は一体となって私たちの世界にある。それは恐ろしくもあり、美しくもあり。

静かであいまいで、寂しいような洗い流されるような。成仏という言葉の意味について考えてしまう。ホラー映画の名手が世に送り出したラブストーリー。

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いかがでしたか?

たとえ幽霊であっても、愛する者にもう1度会えた喜びが伝わってくる映画。その幽霊の描き方も、映画によって実にさまざまで、登場シーンにも監督のこだわりが見え隠れして面白い。

彼らはみな生前と同じように語り合い、笑い、泣く。誰にでも言い残したことや伝えられなかったことがある。

こういう映画を観て「お墓まいりに行こうかな」という気持ちになったら、それはご先祖様が呼んでいるのかもしれませんよ。

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