美女と野獣』のディズニーが贈る奇跡の物語『プーと大人になった僕』が9 月14 日(金)、いよいよ公開!
そこで今回、映画はもちろん、「くまのプーさん」の原作者A.Aミルンについてや監督マーク・フォースターについてなどのディズニーや映画に詳しい3名に集まっていただき、本作『プーと大人になった僕』の魅力について語ってもらいました。その座談会の模様を以下ご紹介します!
<座談会メンバー>

よしひろ まさみちさん
(映画ライター、編集者)
■プロフィール
インタビュー、レビューの連載多数。テレビ、ラジオなどでも映画の紹介を手がける

林田 周也さん
(フリーライター)
■プロフィール
ウレぴあ総研ディズニー特集サブディレクター。くまのプーさんに異様な愛を注ぐ。

宮田 健さん
(ライター)
■プロフィール
広義の“ディズニー”を追いかけるディズニージャーナリストとして、個人でできる範囲の活動を行う。
<モデレーター>

鴇田 崇さん
(ライター)
■プロフィール
「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経て現在フリー。世界のディズニーリゾートを取材しまくる家賃が無駄な日々。
この作品は本気ですごい!プーさんの原作を知らない人にこそ観て欲しい!
――ディズニー作品について一家言をお持ちのお三方におうかがいしますが、『プーと大人になった僕』、まずはご覧になっていかがでしたか?
よしひろ:何年か前まで、うちはプー屋敷でしたよ。あたし。それくらいのファンなので、今回シンデレラ城IDが絵本になった瞬間にもう涙! 2月の「D23 Exop Japan(ディズニーファンの祭典)」では定番の黄色いぬいぐるみの造型だけのお披露目でしたが、きちんとクラシックのプーも使ってくれたんだって。始まりがこれだったので、「最後には脱水症状で死ぬ!」って思ったほど。
林田:基本的に最初から最後まで通してよく出来ていたと思うので、どの立場のファンも泣くと思います。特にオープニングがすごかったですね。原作のタッチとディズニー映画が融合していて。『魔法にかけられて』のアニメーションのシーンの1曲目みたいに、いままでの歴史も最初にグッと凝縮して見せる工夫をしていて、よく考えていますよね。
宮田:わたしはプーの専門家ではないのですが、舞台となったロンドンの街並み、空気感も素晴らしかったです。それこそ同じロンドンで言うとディズニーって『メリー・ポピンズ』で『ウォルト・ディズニーの約束』を作って、今回もプーで映画を作った。そもそもファンタジーの世界の続編を作る理由がない、冒険をする必要がないところで、よく作ったなあと感心します。そして出来がいい!
よしひろ:前作が売れたのでリメイクしたはいいものの、失敗して屍がゴロゴロ、なんて例はゴマンとある。けれど、そういうリスクがあるのにディズニーは手堅く、見事に攻めてきた。この作品は本気ですごいですね。一気に引き込むパワーもあって、プーの世界そのまま。
宮田:そこまでのリスクを冒してでも映画化して、現代的なメッセージも投げかけるのってすごいことですよね。興行はもちろんですが、作品を重視している感じもすごい。それこそ若い人にはグッズが入り口でいいので、まずは観てほしいですね。
林田:これを観るとプーがわかるという意味でも、初心者に観てほしいです。
仕事に忙しい現代人にこそ刺さる!クリストファー・ロビンを演じたユアン・マクレガーはハマリ役!
――家庭か仕事かの狭間でクリストファー・ロビンが苦悩する姿は、普遍的なお題ではあるけれども、いまの日本にドンピシャのテーマでもあります。
宮田:わたしも家庭を持ち、自分ごとになりました。お父さんも実は仕事を放り出したいはずですが、そういうわけにはいかないじゃないですか。クリストファー・ロビンの苦渋の選択の演技は素晴らしかったです。
よしひろ:いろいろな理由があっても、子どもにとっては言い訳にしか聞こえないのよね。家に帰る時間があるなら、わたしの相手をする時間もあるだろうと、あの子の気持ちもよくわかる。
宮田:いやあキツかった。世のお父さんもキツいだろうなあ。
林田:実は本作って、いままで描かれるこ? ??が無かった大人になったクリストファー・ロビン像で、ディズニー作品では彼がいなくなり、『ティガームービー/プーさんの贈りもの』以降は、プーの話を描いていて、クリストファー・ロビンについては語られていないんです。逆にA.Aミルン原作のほうは実際のクリストファー・ロビンのゴタゴタした話がメインなので、100エーカーの森にいたクリストファー・ロビンを描いたことがまずなかった。それらからよくこのアイデアを切り取ったなあと思いますね。
――その点、ユアン・マクレガーが適役でした。クリストファー・ロビンという有名で確固たるキャラクターでしたが、彼は無色透明に近い表現力で観客の代表として存在していたと思います。
よしひろ:クリストファー・ロビン役は、年齢不詳感が絶対に必要ですよね。その点、ユアンは永遠の少年で、何を演じていても歳がわからない。ファンタジーの世界でも生きられるし、『トレインスポッティング』みたいな世界でもハマる。いいキャスティング。あの立ち位置の役者はなかなかいないのよ。
マーク・フォースター監督の手腕が光る!
――また、クリストファー・ロビンの子ども時代から描くので、大人になった彼の描写にも説得力がありましたよね。
よしひろ:まさにそう。冒頭にクリストファー・ロビンの子どもパートがなければ、大人になって人でなしになったことへの説明が薄まってしまう。寄宿学校に入るシーンでも、両親の愛の差がわかるでしょ? その後の、おばあさんの一言も重い。まだ未熟な彼に父親の代わりに家族を支えるように促す、そういうトラウマがあったからああなるみたいな説明を、たった5分で語り切る手腕が凄かった。
林田:今回は上手く考えていて、<100エーカーの森にいたクリストファー・ロビン>だけを切り出しています。A.Aミルンの原作では父親が著者で彼が書いている物語で、(ディズニー・アニメーションだとナレーターが父親にあたるところ)今回はその存在を早めに隠している。
よしひろ:原作者A.Aミルンも父親として人でなしだったから、その背景を今回の大人になったクリストファー・ロビンに投影しているようにみえますね。
――ところで、監督のマーク・フォースターって、こんなに名匠感ありましたっけ(笑)? そうとう時間かけて準備したことがありありと分かるというか、あらゆる層にリーチしていく作品って、そう作れるものではないのかなと。
よしひろ:きっと“大人になった”のよね。もともと寡作の人なのに、実写版プーの監督を引き受けたと聞いて、急にどうした? みたいな感は確かにあった。
宮田:だから当時はうわさレベルで、ほぼ力も入れていないと思ってましたが、フタを開けたら完全に名作!
林田:今回、フォースター監督の『ネバーランド』に近い感覚だったと思います。時代的にも近いし、A.Aミルンが有名になるために劇作家ジェームス・マシュー・バリー(『ネバーランド』のモデルになった人物)が手を貸したほどで、実際に交流もありましたし。
よしひろ:いい話だわ。そもそも彼の作品の中では『ネバーランド』以外は別ものというか、『プーと大人になった僕』撮るなら『ネバーランド』でやったことをおさらいしちゃえ! って、ところはあったと思います。
林田:あの当時のイギリスの空気感とファンタジーの融合が素晴らしかったと思いました。きっとディズニーも『ネバーランド』を観てオファーしたのかも。
キャラクターの描き方が秀逸!クリストファー・ロビン版『インサイド・ヘッド』だ!
――プーをはじめ、キャラクターの造型や存在感、クリストファー・ロビンとの距離感も素晴らしいものがありましたね。
よしひろ:そうなの。単にかわいいだけではなくて、OVをずっと観ていた者からすると、自己紹介だけでなくて、キャラクターが立っている点がすごいと思った。いいタイミングで入って来る!
林田:細かいセリフなどが、いちいち刺さりますよね。各キャラクターの性格がバラバラであるところなど、ちゃんと描かれていると思いました。そもそもこれクリストファー・ロビンの『インサイド・ヘッド』みたいな感じの話で、クリストファー・ロビンが100エーカーの森の仲間たちの司令塔で、プー達には何でもできる友だちって思われているんですよね。だから、プーを100エーカーの森に連れて戻るっていうシーンで、“そんなことができるわけがない”、ということでも“クリストファー・ロビンならできる?” とプーに期待されてるんです。クリストファー・ロビン自身が「僕って何なんだろう?」っと、自分像を考えさせられる話なんですよね。
よしひろ:プーにとっては万能の友だちですからね。
宮田:日本におけるくまのプーさんの存在感って、プーというキャラクターがすごくかわいいということは国民レベルで皆知っているけれど、ほかのキャラクターの背景や、どういう物語があるのかを、知らない人が圧倒的に多そうじゃないですか。
林田:だからこそ最初のシーンが重要なんですよね。ファンにはあれはあれで衝撃なんですけど、一般の人にはそのことを伝える役割があって、どっ ちの方向も同時に向いていた5分だったと思います。
よしひろ:油断すると見逃しがちだから、気をつけてね。なんたってプーとのお別れパーティを見せつけられるんだから、もう涙、涙!
林田:あれは原作の最終章の話で、ディズニー作品では今まで扱っていなかったんです。ほぼセリフ準拠で、すごいシーンになっています。
宮田:東京ディズニーランドのプーさんしか知らないような層でも、本質に迫るプーを知るいい機会になる。かわいい、癒されるという入り口でもぜんぜん問題ないと思いますし、むしろそこからでもいい。
世代によって見え方が変わる名作!
――掘り下げて行くと、『プーと大人になった僕』は、ディズニー映画史上に残る名作と言えそうですね!
宮田:この作品は公開タイミングで観てほしいですが、ライフステージやファンの度合によっても見え方が全然違うという、すごい作品になっていると思いました。サラッとも観られますが、受け止め方でずっしりもくるというトンデモない作品だと思います。
よしひろ:世代によって見え方がまったく違うよね。そのなかで大人も変われるという、いつでも自分を取り戻せるというディズニーらしい作品にもなっています。
林田:詳しくはエンディングまで観ていただくとわかると思いますが、プーを昔好きだった人が、改めて立ち返る映画でもありますよね。
よしひろ:最後、マーベル作品みたいなサプライズもあります。
宮田:あんなにいいプレゼントはないですよねえ。わたしなど自分の頭の中にいたプーとまったく変わらなかったので、ありがたかったですね。ディズニーのマニアで言うと、どういう理由でも観たほうがいいですね。ここ最近のディズニー映画でよくあるヴィランズ(悪者たち)をはっきり決めない展開で、自分の中の敵と向き合うみたいなテーマも見逃せないです。
よしひろ:最近だと『インクレディブル・ファミリー』もそうでしたね。続編では夫婦仲も悪くなりそうなほど、自分と向き合うという。
林田:そもそも100エーカーの森に悪役がいないんですよね。勝手に妄想したズオウにおびえているだけなので。あと特に今回すごい点は、プーのとんちんかんなかけあいにクリストファー・ロビンがうんざりするんですけど、その言葉のかけ違いみたいなことはいつものことなのに、最終的に逆転してクリストファー・ロビンたち人間のほうがヘンなことをしているというロジック。映画版ならではのポイントですね。
よしひろ:そういうプー原作ファン目線に立ってももちろんですが、初見の人たちへのエクスキューズもすごく上手です。プーと知っているけれども、どういうぬいぐるみかまでは知られていないので、その説明がちゃんと今回入っているじゃない?
宮田:下手をすると、ぬいぐるみだってことさえ知らない人もいそうじゃないですか。それこそ舞浜に行けば朝など会えるわけですが、ここまで深いメッセージを与えてくれることを知っている人って、あまりいない。そこに脚光を浴びさせたってこともすごい。ベーシックで、オリジナルに戻った。プーマニアも太鼓判を押すほど!
林田:ディズニー作品を観ていたファン、原作を観ていたファン、その両方から入って来られる作品になっていますが、これを機にプーが広がってくれることはうれしいですね!
(取材・文/鴇田崇)
クリストファー・ロビンとプーさんの変わらない友情は、私たちに“本当に大切なモノ”を届けてくれる。多忙な日々を送り疲労している人は特に共感すること間違いない傑作をぜひお見逃しなく!
◆映画『プーと大人になった僕』 information
あらすじ:プーの親友クリストファー・ロビンは、大人になり妻と娘とロンドンで暮し、仕事に追われる忙しい毎日を送っていた。そんな彼の前へ数十年ぶりに、プーが現れる。プーに、森の仲間たちを一緒に探してほしいと頼まれたクリストファー・ロビンは、子供の頃プーたちと過ごした“100エーカーの森”へ。森の仲間たちとの再会の喜びもつかの間、仕事に戻らなければならないことを思い出す。「仕事って、僕の赤い風船より大事なことなの?」と悲しむプーたち。急いでロンドンに戻ったクリストファー・ロビンだったが、重要な書類を森へ忘れてしまう……。一方、彼の忘れものに気づいたプーと仲間たちは、親友のため “100エーカーの森”を初めて飛び出し、ロンドンへと向かう。クリストファー・ロビンが忘れてしまった、本当に「大切なモノ」を届けるために──
上映時間:1時間44分
2018年9月14日(金)より、全国ロードショー!
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:disney.jp/Pooh-Boku
(C)2018 Disney Enterprises, Inc.
※2022年2月26日時点のVOD配信情報です。