『銃』村上虹郎×広瀬アリス 混沌とした世界の中でモノクロ“映え”する、うら若き俳優たち【インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

銃』の主人公・西川トオルのようにバランスを欠いてしまうこともあるのだろうか。ただの“モノ”ではなく、心を支配するような存在になり得てしまうのだろうか。

銃

平凡な大学生活を送るトオルは、ある日、夜の河原で銃を拾う。警察に届けることはせず、何とはなしにひとり暮らしのアパートに持ち帰ったトオルは、その日以来、毎日銃を磨いてはスリリングな妄想をしたり、所持して出かけたりして浮き足立っていた。やがて彼は、銃口を標的に向ける意識から逃れられなくなる。

銃を武器に、根拠のない自信に包まれていくトオルという人物は、奥山和由プロデューサーたっての希望で村上虹郎がキャスティングされ、アンバランスな魅力全開に演じた。そして、トオルと学内で距離を縮めながら、現実世界につなぎ止める唯一の存在ヨシカワユウコを演じたのは、モノクロームのスクリーンに映える広瀬アリス。人の欲望、本能、闇に迫る物語を、両者はどう受け止めたのだろうか。

村上虹郎×広瀬アリス

――おふたりは、いつぶりですか?

村上:超! 久しぶりです。

広瀬:うん。超久しぶり!

村上:もしかして、撮影ぶりかな? 僕はメディアでは見ていますけど。

広瀬:私も。

村上:ふたりでの取材も初めてです。この前、リリー(・フランキー)さんに、ばったりお会いしたときに「リリーさん、『銃』の取材と宣伝お願いしますね!」と言ったら、「いや、もう虹郎に全部任せるわ」と言われて(笑)。

広瀬:(笑)、では、今日いっぱい私たちが話しましょう(笑)!

――ぜひ、お願いします。本作は中村文則さんのデビュー作の映画化です。原作は読まれましたか?

村上:僕、基本的に映画などの作品出演において、原作をあまり読まないんですね。脚本があればいいかな、と思うので。けど今回は、奥山さんから話をいただいてから脚本ができあがるまでに時間があったので、待ちきれなくなって読みました。
自分がトオルという役を演じるとわかって読んでいるから、最初から当たり前のように感情移入をしてしまって。だから、すぐ読めましたし、すごく面白かったから、良くも悪くも、この作品に共感できない人たちの気持ちがわからなくなったというか。映画では、トオルという人間の生態を追って、それに関わる人たちの人間模様が描かれているので、トオルの愚かさも、実は優しいんじゃないかというところも、ここは救えるんじゃないかというところも、「ヨシカワユウコ」という存在と出会ったときの「トオル自身が知らない感情に出会う」ということも、見える。そんなことの繰り返しという作品だと思うんです。面白いですよね。

銃

広瀬:そう。ヨシカワユウコは、トオルに振り回されまくるんです。ユウコという女の子を主観で観ていて、もう笑ってしまいました。言葉で表現できない感情だったりとかが、すごくたくさん描かれているなと思ったので。だからこそ、どういう感じで虹郎くんは来るのかなとか、そんなことばかりを考えていたから、怖かったですね。文字だけであんなに怖くなったの、初めてです(笑)。

広瀬アリス

――実際、おふたりの最初の対峙はどのシーンだったんですか?

広瀬:食堂だった気がします。

村上:ですかね。

広瀬:クランクインは(岡山)天音くんと3人で、何でもないシーンから始まったので、心の準備が少しずつできたから、そこは助かりました(笑)。

村上虹郎

――食堂のシーン以降、ふたりの関係性は少しずつ変わっていきますよね。

村上:この作品はヨシカワユウコ以外にも、母親がいて、隣の女がいて、トーストの女がいて、たくさんの女性が出てくるんですけど、そこには恋愛はなくて。たぶんトオルは、ヨシカワユウコにしか恋愛感情がないんですよね。でも、その間には、絶対銃があるんです。むしろ、銃が一番ヒロインっていう。

広瀬:……負けた。

村上:(笑)。その銃に、トオルは食われてしまうし、救おうとしてくれたヨシカワユウコがいて。……けど、ヨシカワユウコって定義づけられない存在なんですよね。意外性を持った人だし、陽なキャラクターだけど、ただの陽じゃなくて闇も持っている。飛び道具ではなく、ちゃんとそこに人間として存在している。あいだが描かれていないし、感情も説明していないので、僕からしてみたら、ヨシカワユウコのほうが演じる上で、全然難しいはずだと思います。

広瀬:武(正晴)監督には、初めてお会いしたときから、「ヨシカワユウコは唯一、トオルに救いの手を差し伸べてくれるような、天使のような……」とずっと言われていました。だから、すべてのシーンにおいて、そこだけは絶対にぶれないようにしようとは、ずっと思っていました。学生ならではの孤独感みたいなものがあったりもするんだけど、お互いが心の拠りどころであるというか。

広瀬アリス

――そのあたりの関係性については、現場でお話になったんですか?

村上:あまり話さなかったですね。

広瀬:そうですね。実は……今日、こんなに(村上さんが)しゃべっているの、すっごくびっくりしているんです(笑)。「すごいしゃべるんだな!」と思って(笑)。

村上:(笑)。

村上虹郎

――トオルとしての印象のほうが強かったんですね。

広瀬:強かったです。本当にしゃべり込んだ感じではなかったので。思い出としては、喫茶店でのトオルとユウコのシーンのときに、「虹郎くん、ずっとブツブツブツブツ言っているな……」と思っていて。

村上:僕が!? こわっ(笑)。

広瀬:何を言っているか、本当にわからなかったんですよ(笑)。その印象が本当に強す ぎて。私は撮影日数がそんなに多くなく、飛び飛びの参加だったんですね。最初は割とラフな印象だったのに、久々に『銃』の現場に行って、虹郎くんとかけ合いをすると、毎日、毎回違う人と会っている感覚になっていました。日を追う毎に、どんどんどんどんトオルに飲み込まれていっているな、という……。

村上:そうですね。やばい奴ですね(笑)。

村上虹郎×広瀬アリス

――トオルに浸透していく感じは、村上さん自身あった?

村上:ありました。 “中村文則ワールド”と僕は呼んでいるんですけど。あと1週間いたら、本当に体がぶっ壊れていたかもしれないです。思考もだし、きつい……。お芝居でも、善悪の境目がわからなくなってくるんです。

銃

――『銃』はモノクロの階調が豊かな作品です。役作りするにあたって、もしくは演じるにあたって、普段と違う影響はありましたか?

広瀬:洋服の色は、すごく考えましたね。

村上:あったね!

広瀬:グレーでも、明るいグレーから黒に近いグレーまで、いろいろな色があって。衣装は、カラーにしたら相当派手な色ばかりを着ていました。

村上:基本赤だよね?

広瀬:赤ですね。演じる上では特に違ったことはなかったですけど……モノクロって“映え(バエ)”なんだな、って(笑)。

村上:“映え”ね! ほかの情報を消すんですよね。色って、やっぱりすごい情報量じゃないですか。色を消すと情報量を減らしているから、顔を見つつも、目の形とかがやっぱりすごく見えたりしました。

村上虹郎

――モノクロで撮られることはなかなかないと思いますが、ご覧になっていかがでしたか?

広瀬:トオルの心情みたいなものがモノクロそのもので、パートカラーに向けていくところでは、より一層リアルに感じました。音も、すごく近くで聴いているかのような感じでしたし、どんどんどんどん、『銃』の世界にのめり込んでいって観てしまいました。

村上:僕、『ランブルフィッシュ』(※基本的にモノクロ、一部カラー)が、もともと好きで、読んだ瞬間に「うわ! 『ランブルフィッシュ』じゃん!」と思ったんです。『ランブルフィッシュ』の何が好きって、全体の雰囲気なんです。モノクロだからかもしれないし、撮り方かもしれないし、俳優のバランスかもしれないし、台詞の言い方かもしれないし、言語化できない理由の“好き”で。ある種、そうしたカオス感みたいな、混沌としたものが、『銃』にもあるんじゃないかと思いました。

あと、僕、趣味でちょっと写真を撮ったりするんです。モノクロの写真が好きで、モノクロには似合う、似合わないがあると思うんですけど、広瀬さんは似合うんです。

広瀬:やだ~、うれしい(笑)。

村上:あと、僕もそうですが、顔がちょっと濃い人はモノクロ映えする気がします。でも、リリーさんの似合い方も、それこそ奇妙だし、そのバランスが全部、それぞれ面白くて。

広瀬アリス

――中盤で、トオルとリリーさん演じる刑事とのやり取りで、核となる場面がありました。そこでのエピソードを伺いたいのと、広瀬さんには、あの場面をどうご覧になっていたのかなども教えてほしいです。

銃

村上:僕は、広瀬さんの感想のほうが興味あります!

広瀬:本当? 何と言うか……これだけ無秩序な作品で、その状態の中に、リリーさんの存在感と、あのしゃべり口調が……逆にめちゃくちゃ怖かった……。

村上:気色悪いよね(笑)?

広瀬:そう、そう! いい意味で、すごく気色悪かったんです。精神状態の崩壊とか、そういう流れできたところに、リリーさんのちょっとゆったりとした、壁がそんなになさそうな、柔らかい、スルスルスルッと狭い隙間にも入ってくるようなあの感じが、すごく違和感を覚えました。私はその現場にいなかったから、余計新鮮に観られたんですけど。リリーさんならではの空気感を出されていたので、その「気持ち悪さ」こそが褒め言葉です(笑)。

村上:刑事は「全部、端からわかってますよ」という存在ですよね。トオルも刑事もタバコを吸っているのですが、トオルは「BLACK」というコンビニに売っていない、ちょっと特殊なタイプを吸っている。武監督は「得体が知れない、みんながよく知らないタバコだから、これでいい」と言っていました。だけど、リリーさんは「HOPE」。あの場面の最後で、トオルが刑事にずっと言い負かされて、終いにはコーヒーもなくなって、タバコもなくなって、「くそ」となったときに、「じゃあ」と刑事の置いていくタバコが、HOPEなんです。ずっと「何で刑事はHOPEなんだろう」と思っていたけど、映画的にHOPEってマッチしているから……そこが超怖かったですね。(インタビュー・文=赤山恭子、撮影=林孝典)

村上虹郎×広瀬アリス

映画『』は2018年11月17日(土)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー。

銃
(C)吉本興業

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