ヒュー・ジャックマン「僕は退屈な男。だから僕みたいな人間は演じたくない」 『フロントランナー』【来日インタビュー】

世界のディズニーを翔る元映画サイト編集長

鴇田崇

当選確実と評されていた大統領最有力候補が、たったひとつのスキャンダル報道で政界から葬られた1988年の事件の真相に迫るサスペンス・ドラマ『フロントランナー』。このほど主演のヒュー・ジャックマンが『LOGAN/ローガン』、『グレイテスト・ショーマン』に続いて3年連続で来日を果たしてインタビューに応じた。“JFKの再来”と言われ、カリスマ性を有する天才政治家でありながら、政界の表舞台から姿を消したゲイリー・ハート役について、そして本作を経て見つめ直した自身について語った。

フロントランナー

ーー本作はフェイクニュースがはびこる現代、政治や報道のあり方などの再考を迫る内容でした! なんでもリアリズムを追求するために記者会見のシーンではジェイソン・ライトマン監督に当日(!)セリフを渡されて、どういう質問が飛び出すかわからないままその場に立っていたそうですが、そういうサプライズの演出はほかにもありましたか?

ヒュー たくさんあったよ。リアルな人生にしたいということで、あるシーンではアドリブで別な人が突然入ってきたりね(笑)。記者会見を行っているシーンでも、余計な人がパッ!と入ってきて耳元でささやくので、それに対応しなくてはいけないということもあった。急にコーヒーを持ってきてくれたり、そういうサプライズばっかりだったよ。

ーーリアルなリアクションが出ちゃいそうです!

ヒュー 記者会見のシーンでは、監督はエアコンをわざと消してね。だからみんな汗をかき出した。たくさんのカメラがあったが、僕を撮っているカメラを気にしないでと言っていた。選挙キャンペーンのチームが電話で話していたり、コーヒーを飲んだり。別室から誰が来るかもわからない状況だったよ。

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ーーゲイリー・ハートにまつわるたくさんの資料を読まれたそうですが、この映画に活かされていないものも含めて、一番驚いたことは?

ヒュー 彼の人生にまず驚いたよ。政治的な意味でもプライベートなことでもね。実はゲイリー・ハートのことはあまり知らなかった。でもモンキー・ビジネスは知っていたし、ドナ・ライスという名前も知っていた。ゲイリー・ハートのあの事件は、どこかジョークみたいに語られていた。でも資料を読めば読むほど、僕にはアメリカの大統領になれなかった偉大な男と言われる彼は、結果として追い出されたと思っている。けれど彼は、自分の意思で辞退している。そして、3週間でいろいろなことが起きている。彼は圧倒的な人気もあった。政治家って当然権力がほしい人たちだと思っているけれど、こういうスキャンダルがあったとしても、彼はおそらく勝利していたと思う。でもなぜ彼は、自分から辞退したのか。とても興味深かった。すごく先見の明も持っていたしね。

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ーーここ数年、二面性のある役柄を演じることが多いと思いますが、そういう役柄に興味を抱く理由は?

ヒュー 全俳優に言えることかどうかわからないけれど、僕は退屈な男でね(笑)。結婚して子どもがいて、仕事が大好きで……だから、僕と同じ人間は演じたくない。だって、自分が常に演じているわけだからね。いままで聞いたことがないようなストーリーに惹かれるし、非常に重要なことを示している作品もいいと思う。そして、やることに恐怖を感じたい。できるかどうかわからないというような恐怖をね。もう50歳なので、言うほど怖いことはなくなっているけれどね。毎日ちょっと怖いことに挑戦しろという言葉を聞いたことがあるかもしれないけれど、だいたい普通は会社に行って、その日何が起こるかはわかると思う。でも僕はラッキーなことに、いろいろなチャレンジができる仕事に就いていると思う。

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ーー政治家と俳優は似ていて、オンとオフの切替が大切そうですが、その境界線はどのあたりに?

ヒュー 僕はそれほど問題にしていないけれど、俳優にはパパラッチなどをすごく嫌がる人もいるよね。人気というものはフェラーリのようなもので――でも正直に言うと――かなり交通渋滞にも巻き込まれるものさ。ガソリン代もかかる、洗車も必要、保険も要る。そんなことを言われても、フェラーリの鍵をちょうだいと言うとは思うよね。大好きな仕事で、大好きな人たちや尊敬する人たちと一緒にいられるけれど、渋滞も起こるもの。ただ、特に子どものことは心配だ。彼らのプライバシーは守りたいし、でも政治家の場合、鍵をもらってフェラーリを運転したら、交通渋滞どころじゃないかもしれない。二度と走れないようにしてやる、みたいな人たちがいっぱいいる。しかもあらゆる方向からね。僕はその鍵は受け取りたくない。いまの状態では、鍵を受け取れない人がけっこういるだろうね。

ーー政治家になってほしい要請はノーなのですね。

ヒュー ノーだよ。でもいい質問でね。けっこう聞かれる。いま政治の世界で一番重要なのは、マーケティングを理解して自分のブランディングを確率することだ。SNSのことだよ。自分の政策や思想よりも大事なことだ。俳優にとってもイメージ作りは大事。でも人気がある有名だからでは、政治家になる理由にはならない。税金の問題、世界情勢、いろいろな国が10年後どうなるか、そういうことを僕はわかっていないのでね。1960年代は、ケーリー・グラントに政治家になるか、大統領になるかって、絶対誰も聞かなかったと思う。レーガン大統領後だよね。知名度があって100万のフォロワーがいたら、もしかしたら当選するかもしれないね。

ーー本当に、政治と報道のありようも考える作品でした。

ヒュー ゲイリー・ハートはものすごい知識人で、僕以上にオーストラリアの政治について詳しい人だ。すべての分野に詳しい。でもいまは誰も耳を傾けない。けれども、100万人のフォロワーがいるブロガーには耳を傾ける世の中だよね。

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ーー大学時代にジャーナリズムを専攻していたそうですが、当時の自分にどんな言葉をかけますか?

ヒュー ジャーナリズムは、そこまで頑張らなくていいよ、かな(笑)。僕は先生やまわりの学生ほど、ジャーナリズムに関して情熱が持てなかった。アマチュアの演劇をちょうどやっていたころで、それに90%以上の時間を費やしていたよ。ドラマスクールに移ってからは、1日も休まなかった。演劇はいろいろなストーリーを語りながら世の中を見るもので、ジャーナリズムは真実を明らかにすることで世界を知るということ。究極的には両方とも、世の中を知るということだよね。僕は人に興味があったし、今回のような役柄をやればものすごくリサーチするわけで、演じるためにすごく知ろうとするので、こっちのほうが自分に合っていたと思う。でもジャーナリストたちには、すごく尊敬の念を抱いているよ。難しい職業だし、大変だと思う。一番大きな声で言う人を称賛するようなところもあるし、僕にはやれないかな。本当は聞きたくない質問もしなくちゃいけないだろうし……編集者に言われてね、絶対聞いてこいと。だから、ほかの俳優たちよりは、僕はみなさんに同情的だと思うよ(笑)。

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ーー最後になりますが、多忙な日々、シアワセだと感じる瞬間は、どういう時でしょうか?

ヒュー 家族といる時だね。今回は娘と一緒に来日しているけれど、学校サボってね(笑)。日本が世界で一番好きな国だそうだ。いろいろ学ぶことがあるからね。それと、今度ワンマンショーでワールドツアーをする予定だけれど、歌って踊って、そういう時が一番幸せかな。(取材・文=鴇田崇)

映画『フロントランナー』は2月1日(金)より、TOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開

フロントランナー

監督:ジェイソン・ライトマン
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.frontrunner-movie.jp/

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    4
    流れで政治物をと思って見たらそういうのじゃ全くなかった。劇的なストーリーなはずなのに人間臭いヒューマンドラマになってて、終始淡々として感情的な瞬間なんてないのにじわっときた。すごいわ。面白かった。 オープニングがアルトマン調の長回しで誰が監督なんだ!?と思ったらジェイソン・ライトマン!昔好きで作品追ってたけどもうどんなんだったか忘れたー!と思って見終わったら思い出した。人間の良いところも悪いところもジャッジせずごちゃまぜに見せてしまう温かさ。オープニングだけでなく精神性もアルトマン!? 覗き見してるような、カメラを意識させる撮り方が面白い。映画世界に没頭させるような演出ではない。切り返しもなく喋ってる人物の背中からとか、会話してるシーンでも一人の人物の表情だけとか、映さず語る演出が良い。話も、映画映えしそうなシーンはことごとくスルーして前後のシーンだけで語ってる。言わずもがなな部分はわざわざ映さないってのが粋。十分伝わるしラストの人物たちの表情とか仕草、会見の言葉から何を言いたかったのかがブワーッと感じられて良い映画体験だった。ワーキャーする劇的なシーンがないって心地よいものなんだなと。淡々としてて凄く良かった。この感じジェイソン・ライトマンだ!!って。 ワシントン・ポストの記者にトルストイを貸すシーンがあり、記者が度々出てくるから不倫の話だし「アンナカレーニナ」をなぞる何かがあるのかな?と思ったらトルストイの精神性の方なのか、個々の人々の集合が形作る世評や風潮、時代に翻弄され、運命が転がっていく様みたいな部分に繋がりがあるようなないようなそんな感じがした(無理やり?)
  • アン
    3.5
    マスコミは何がしたいんだ…
  • 随你行
    3.5
    不倫の事実で大統領選から撤退した男の映画。不倫の事実があったかは定かでないが、報道の影響力がいかにすごいかが反映された出来事だ。
  • 長内那由多
    -
    88年の大統領選で最有力候補ながら不倫スキャンダルで失脚したゲイリー・ハート候補を描く。原作は2014年だが、明らかにトランプを意識した“政治家の資質”についての映画。ライトマンの器用な演出でオールドスタイルの政治群像劇になっている。
  • モニオ
    4.3
    いろいろな意味で名作だ。 ストーリー展開が巧みで惹きつけられる。 不倫で自滅した本人も愚かだがマスコミもクズでしかない。 それでも米国は正義を信じて進歩してゆく。 「若くハンサムで将来がある人間には責任が伴う」 醜態の実話を映画化するアメリカの力量に比べて、このようなスキャンダル実話が映画された試しがない日本映画界とメディアの不甲斐なさ。。。小泉進次郎の不倫スキャンダルを映画化にでもするくらいの気概はないのか!!
フロントランナー
のレビュー(1970件)