【ネタバレ解説】映画『犬神家の一族』石坂浩二×市川崑版の製作秘話、華麗な演出テクニックを徹底考察

ヒットガールに蹴られたい

竹島ルイ

映画『犬神家の一族』(1976)をネタバレ解説。製作の背景、数々の映像テクニック、ビジュアルへのこだわり、音楽家の起用など徹底考察。

突然ですが、クイズです。

高倉健、中尾彬、渥美清、西田敏行、鹿賀丈史、石坂浩二、豊川悦司、片岡鶴太郎、上川隆也、稲垣吾郎、長谷川博己、吉岡秀隆、加藤シゲアキ…

日本を代表する名優からジャニーズ系まで、多士済々なメンバーが並んでいるが、彼らの共通点がお分かりになるだろうか?

正解は……

過去に名探偵・金田一耕助を演じたことがある人!

その真打ちといえるのが、監督・市川崑と組んで『犬神家の一族』(1976)に主演した石坂浩二だろう。

犬神家の一族

それまでにも金田一耕助役を演じた俳優たちは存在したが、「フケ症のボサボサ頭、ヨレヨレの着物にお釜帽」という“金田一スタイル”を映像的に確立したのは、彼が初めてだった。

映画監督の岩井俊二はこの『犬神家の一族』を「自分の映画作りの教科書」と絶賛し、今なお日本ミステリー映画の傑作として燦然と輝いている。

犬神家の一族

という訳で今回は、本作の製作秘話、市川崑の演出テクニック、「エヴァンゲリオン」に影響を与えたタイポグラフィなどをテーマに石坂浩二×市川崑版『犬神家の一族』についてネタバレ考察していきましょう。

映画『犬神家の一族』あらすじ

信州きっての財閥・犬神佐兵衛(三國連太郎)が、莫大な財産を残してこの世を去った。遺産相続のため犬神家の一族が集まり、名探偵・金田一耕助(石坂浩二)が立会いのもと、遺言状が発表される。その内容とは、3人の孫の誰か一人と結婚する条件で、佐兵衛の恩人の孫娘・珠世(島田陽子)に全財産が相続されるというものだった。

孫たちは珠世をめぐって争奪戦を繰り広げるが、それを契機にして世にもおぞましい殺人事件が発生する……。

犬神家の一族

※以下、映画『犬神家の一族』のネタバレを含みます

中堅出版社だった角川書店が映画製作に乗り出した理由とは?

『犬神家の一族』は角川映画の第一弾として知られているが、規模としては決して大きくない中堅出版社が、なぜ映画製作に乗り出すことになったのだろうか?

犬神家の一族

1945年に創立した角川書店は、もともと文芸作品や辞典などを手がける地味な出版社だった。しかし1970年代に入ると、若くして社長に就任した“出版界の革命児”角川春樹が、大衆小説路線に大きくシフトチェンジ。

さらに当時のオカルトブームに乗じて、“過去の人”と目されていた横溝正史をスター作家として大々的に売り出し、ベストセラーを記録する。

さらなる売上向上を目指す角川春樹が目をつけたのが、映画だった。

「映画を作るというのは、映画を当てることにあるわけですよね。映画を当てれば本が売れるというのは分かっていますから。だから、映画は本を売るための巨大なコマーシャルと考えればいい」

(NHK番組『アナザーストーリーズ 犬神家の一族』より)

映画化作品としてまずリストアップされたのが、横溝作品の中でもオドロオドロしさ屈指の「八つ墓村」。角川書店は松竹に話を持ちかけて企画がスタートするが、松竹の都合でズルズルと撮影が延期される事態に陥る(最終的に『八つ墓村』は監督・野村芳太郎、出演・萩原健一で公開される)。

八つ墓村

映画が延期になってしまうと、肝心の本が売れるのも先送りになってしまう。

業を煮やした角川春樹は、今度は東宝と組んで、自ら映画製作を行うことを決意! 原作も『犬神家の一族』に変更して、「出版社が映画をつくる」という前代未聞のチャレンジが始まったのだ。

「読んでから見るか、見てから読むか」− メディアミックスの成功

角川春樹が監督として白羽の矢を立てたのが、市川崑

「銀残し」という現像手法でノスタルジックな映像表現を追求した『おとうと』、当時のドキュメンタリーではありえないほど映像美にこだわりまくり、「記録映画か芸術作品か」という論争を呼び起こした『東京オリンピック』など、日本映画界のトップランナーとして活躍してきたフィルムメーカーだ。

市川崑

市川崑は、初めて会った時の角川春樹の印象についてこう語っている。

たいへんな現代青年でねえ。盛んにいろんな計画を立てていて、この映画もその計画の一つである、と言っていましたよ(笑)

(洋泉社「完本 市川崑の映画たち」より)

それまで一本もミステリー映画を手がけていなかった市川崑だが、実は大の探偵小説好き。彼の脚本家としてのペンネーム・久里子亭(くりすてい)は、尊敬する女流推理作家アガサ・クリスティの名前をもじったもの。ミステリー映画を撮ることは、彼にとっても長年の夢だったのである。

続いて角川春樹は、映画音楽を担当する作曲家に大野雄二を指名。後に「ルパン三世」を手がけて一躍人気作曲家となる大野だが、この時点で映画音楽の経験はゼロ。それでも角川春樹は、「それまで映画界が見落としてきた音楽に力を入れよう」と、当時映画1本につき50万円程度の費用だった映画音楽(サウンドトラック)に、その10倍となる500万円もの予算を投下したのである。

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