遂に本日より三谷幸喜監督の新作『ギャラクシー街道』が公開になります。
2016年はNHK大河ドラマ「真田丸」もありこちらも大注目ですが、ハテサテ彼とその作品に期待していいものか?今回の作品の見どころはもちろん、より楽しむために過去の三谷監督作品の傾向なども合わせて紹介していきましょう!
ギャラクシー街道は「何もない」??
さてさて、まずは本作のストーリーを簡単ではありますが追ってみましょう。
時は西暦2265年、木星と土星の間に浮かぶスペースコロニー「うず潮」と地球を結ぶ「ギャラクシー街道」。
その中央にひっそりと佇む、小さなハンバーガーショップ「サンドサンドバーガー・コスモ店」にやってくる客が織りなす、人間模様、いやさ宇宙人模様が描かれたSF超大作!! です。
登場するのは、スペース警備隊、スペース客引き、スペースシンガーに、スペースパートタイムのおばさん・・・と、全員が宇宙人。しかも、三谷幸喜監督自身、「ライバルは『スター・ウォーズ』」と豪語していますが、会話中心でアクションシーンはゼロとのこと。
出演者の大竹しのぶさんに至っては、10月5日、東京・TOKYO DOME CITY HALLにて行われた完成披露試写会舞台挨拶で「ほんとにくだらなくて、何もない映画なんですけど」と衝撃(?)発言をしたそうです。(参照:http://natalie.mu/eiga/news/161929)
さらに見どころの一つは、両性具有の宇宙人を演じる遠藤憲一さんが出産するシーンということで、もはや「情報がたくさん入ってくるわりには、実際見てみないとサッパリ分からない」状態。
とりあえずハッキリしているのは「出演者が全員宇宙人で、彼らが織りなすロマンティック・ラブコメディー」。
ということです!
香取慎吾の包容力
三谷映画の特徴といえば、「主役級がズラリ」の豪華なキャスト。今回の主役は、綾瀬はるかと香取慎吾です。
特に慎吾君は、インパクトの強いルックスのせいか、役者としては忍者ハットリくんや両さん、孫悟空など、特殊な設定とオーバーアクションな演技を求められがちです。
ところが三谷作品では、逆にアクの強い登場人物をサポートする役が多いのです。
映画『THE 有頂天ホテル』のベルボーイ、ドラマ『合言葉は勇気』の役場職員。どちらもちょっと普通じゃない主役(演じるのはどちらも役所広司)にツッコミも入れつつサポートする「イマドキの青年」を見事演じています。
今回も天然ボケの綾瀬はるかを始めとした、濃すぎる共演者に「巻き込まれながらも丸く収める」抜群の包容力を存分に発揮してくれています。
豪華キャストには「枠」がある
「えっ、こんなところに?」という少しのカットに大物俳優が顔を出し、活き活きと役割を演じるのを見るのも三谷映画の楽しみ。中には思わぬキャラクターをあてがわれ、自分でも気が付いていなかったであろう魅力を花咲かせる方もいます。
ここからは過去の作品も踏まえて、それらを「枠」に分けてご紹介しましょう。
【メイン枠】
主役は断トツで役所広司が多いのですが、なにより印象的だったのが、『ザ・マジックアワー』でダメダメ男役を披露した妻夫木聡。
その抜けた感が気に入られたのか、『清須会議』では本格的なバカ殿に抜擢(?)。チョビ髷の大泉洋さんに負けず劣らないディープインパクトを残しています。
「なんも考えてない笑顔」とはまさにこのこと。三谷監督、おそるべし……。
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梶原善、近藤芳正、阿南健治、浅野和彦は三谷映画のオイシイところを持っていく顔なじみです。
【芸人枠】
『みんなのいえ』ココリコ田中、『古畑任三郎』アリtoキリギリス石井正則ほか、舞台では青木さやかなど、お笑いの人の抜擢が多いのも特徴です。『ギャラクシー街道』ではミラクルひかるが、本名「田村梨果」で新境地を開きます。
【舞台才人枠】
そもそも三谷監督自身が舞台畑であり、舞台通の人は知っているけれど、世間的には認知度があまり高くなかった人を巻き込むのも得意です。
ドラマ『総理と呼ばないで』『ラヂオの時間』で一気に顔が知られた戸田恵子や『THE 有頂天ホテル』の堀内敬子(元劇団四季)も今ではすっかりお茶の間の人気者です。
【憧れの人枠】
『ザ・マジックアワー』では、三谷監督がリスペクトするジャズ歌手であり俳優・声優でもある柳澤愼一が出演。
【歌がうまい枠】
布施明さんが常連ですが、『ギャラクシー街道』ではTMR西川貴教さんが『カエル宇宙人』なるスットコな役で登場。
三谷監督は脚本を、俳優さんを実際に思い浮かべて「当て書き」するそうですが、今回の三谷監督のコメントによると
「宇宙を背景にフランク・シナトラのように歌い上げる歌唱力のある人」とカエルはともかく、歌の実力を買ってのキャスティングの様子。
「でも人間じゃないんですね」などというツイッターでの鋭いコメントに、西川さんも「新手のイジメだと思っています」とつぶやき(ボヤキ?)返しています。
見直しておきたい作品2選『ザ・マジックアワー』『笑の大学』
監督作をはじめ、原作・脚本での参加を含めると11作目。その中でも、特に彼の「笑い」への価値観を強く感じる作品を2つご紹介します。
『笑の大学』(2004年)
三谷幸喜は原作・脚本を担当。大好評の舞台の映画化です。
笑いを「不謹慎だ」と検閲して削ってしまう戦争。作家と検閲官のチグハグでおかしな2人のやりとりから生まれる笑いから「笑いの無い世界」の悲しみを予測させる……。彼の笑いに対する価値観が強く出た、ある意味真骨頂と言えるでしょう。
『ザ・マジックアワー』(2008年)
「どこまでも真面目な人たちが空回りの末、起こす奇跡」。
三谷映画の多くはプロ意識が強すぎる人たちが混乱を起こします。当作も、売れない役者の村田(佐藤浩市)はじめ、全員がいたって真剣、自分の役割を全うしようと必死。
そんな思いがもみくちゃになりながら、いつの間にか大団円につながります。マジックアワーとは「太陽の光が一日のうちで最も美しく輝く時間帯」。表舞台に出ることができない村田に向かい老俳優が呟く言葉が優しく響きます。
「マジックアワーを逃したらどうすればいいか知ってるか。簡単なことさ、次の日まで待てばいいのさ」
絶望しなくていい。次があるんだから。なんともホッとするセリフではありませんか。
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毎回上映前から様々な仕掛けで私達を楽しませ、期待させてくれる三谷監督。
上映前も、終わってからも、作品に関わる時間はみーんなコメディー。体を張り空回りする彼自身を見て笑って肩の力を抜いて、難しいことを考えず巻き込まれてナンボ。主役級の豪華キャストにあざとさを感じるよりミーハー上等、「人生みんな主役よね」とどっからでも楽しめばいいのです。
「それだけアピールするんだからよっぽど笑わせてくれるんだろうな、三谷!」などと肩をいからせ観るのは野暮というもの。
映画館のソファ椅子に体をあずけ、ポップコーンを頬張りながらノホホンと、目の前に映るドタバタ、宇宙のハンバーガーショップの騒動をちょいと覗いてみようではないですか。2015年の「芸術の秋」、最高にノンキで幸せな時間を堪能しましょう!
あれ?期待するなと書いた肝心の私が、結局かなり期待してしまっているような……。
※2022年9月29日時点のVOD配信情報です。