【ネタバレ】映画『ほつれる』結末どうなる?タイトルの意味と夫婦が抱える秘密を徹底考察

わざわざ聖地で結婚式を挙げた映画ドラマオタク

古澤椋子

『ドードーが落下する』を手がけた加藤拓也が脚本・監督を務める映画『ほつれる』。ガラス細工のように繊細な世界の中で描かれる綿子の感情は何を表現しているのか。『ほつれる』といタイトルの意味も含めて、解説する。

『ドードーが落下する』で第67回岸田國士戯曲賞に輝き、演劇やテレビドラマなどで脚本を手がけた加藤拓也が脚本・監督を務める映画『ほつれる』。

主人公は多くの映画やテレビドラマで主演を務め、繊細な芝居を見せている門脇麦。脇を固めるのは田村健太郎、染谷将太、黒木華と豪華な俳優陣だ。ガラス細工のように繊細な世界の中で生々しいほどの人間の感情が描かれた作品になっている。

タイトルのほつれるとは一体何を指すのか、主人公・綿子のなかにはどんな感情が生まれているのか徹底考察していきたい。

ほつれる』(2023)あらすじ

ほつれる

綿子(門脇麦)と夫・文則(田村健太郎)の仲は冷め切っていた。夫には本心を隠して上辺だけの会話を重ねている。綿子は友人の紹介で知り合った木村(染谷将太)と頻繁に会うようになっていた。木村といるときだけは、本当の自分でいられるのだ。木村からもらったぺリングを見つめる表情はとても幸せそう。ある日、木村は綿子の目の前で事故に遭い、帰らぬ人となってしまう。冷め切った夫婦生活を覆い隠すように心の支えとしていた木村の死を受け入れられない綿子。変わらない日常を送りながらも、すがるように木村との思い出の地をなぞっていく。そして木村の死をきっかけに、夫と自分の人生に向き合っていくのだった。

 

※以下、本作のネタバレを含みます。

綿子の生き方

本作は綿子の心の動きを丁寧に描いていく。木村と過ごす時の可愛らしい笑顔、夫に対する上辺だけの笑顔と本心をぶつけようとしない逃げるような態度、真反対のように見えてどちらも綿子の内面を見せる表情だ。

綿子は、木村と不倫していることも文則との関係に向き合わないことも、よくないことだというのはわかっているのだろう。でも向き合おうとしない。そのどちらもから逃げて、結論を出そうとしない曖昧な場所に佇んでいる。

一見、逃げ続けて葛藤なんてしていないように見える。だが、綿子の二面性は綿子にとってのある種の答えなのだ。文則との関係がどんなに息苦しくても、木村といれば息をしていられる。それが葛藤した末にだした綿子の答え。自分が自分でいるために、木村という場所が綿子には必要だった。

正しくない行いをしている自分に対して、葛藤することが正しいとは限らない。綿子は自分が自分でいるためには倫理感を捨てざるを得なかったのではないだろうか。それが綿子の生き方なのだ。

綿子はなぜ木村を助けなかったのか

綿子と木村がキャンプに出かけた帰りに、木村は綿子の目の前で事故に遭ってしまう。綿子は一度は救急車を呼ぼうと電話をかけるが、途中で切ってしまった。

物語の終盤に綿子は文則に対して、救急車を呼ぼうとしたが他に誰か呼ぶだろうと考えて、途中で電話を切ったと語っている。この行動は文則に不倫がバレたくなかったからとも考えられるが、綿子に当事者意識がないことの表れとも捉えられる。綿子は自分が誰かの人生に影響を及ぼすことを避け続けているのだ。

木村と文則の関係に答えを出さず逃げ続けた末に、綿子にとってかけがえのない人物だった木村を失ってしまった。そして自分の一瞬の行動を責め続けることになってしまう。この出来事は、綿子の人生に大きな影響を与えることになる。

夫婦がお互いに抱えている秘密

綿子は木村を失ってから、文則と向き合わざるを得なくなる。しかし綿子の頭の中にあるのは、木村との思い出だけ。文則との約束をすっぽかし、木村との思い出を辿るように過ごしてしまう。

そのおかしな行動に文則は異を唱え、木村とのペアリングを見つけた文則は、不倫をしているんじゃないかと綿子を問い詰める。綿子は、文則だって元妻と不倫しているじゃないかと問い詰め返す。文則は、元妻との間にいる子供の面倒をみると嘘をついて、元妻と不倫をしていたのだ。

木村とのペアリングについて指摘された綿子は「好きな人にもらった」と、木村を「好きな人」と表現する一方で、文則は前妻と「体の関係」を持っていたことが明らかになる。ふたつの不倫が並ぶことで、綿子と木村がより“心の繋がり”を重視していたことが色濃く描かれる。

綿子と文則はお互いに不倫をしていたが、綿子は文則が不倫していることに気づき、その寂しさを埋めるために木村に会っていたのだ。綿子も文則も自分のなかに生まれた寂しさを他の人で埋めている後ろめたさがあったから、上辺だけの会話を重ねていた。

お互いが不倫をしていたことを責め合い、綿子が木村の死を語った時の会話が一番綿子自身の本心をさらけ出していた。隠しておきたかった秘密をさらして初めて本心を語ることができるなんて、なんと皮肉なことだろう。

『ほつれる』というタイトルの意味は?

ほつれるとは、編んだ糸がほどけるという意味を持つ。編んだ系は1本の糸がほどけはじめると、もう片方の糸も不安定になってゆるみ、最後には同じようにほどけてしまう。

綿子の人生は、木村との関係、文則との関係の相対するものが絡み合って形成されていた。人生の片方であった木村との関係を失ってしまったことで、綿子の人生はほつれ始めてしまったのだ。木村との関係を失ったことで、文則との関係もさらに歪み、形を保てなくなってしまう。文則との関係もほつれてしまったのだ。このタイトルは、綿子の人生を1本の糸として表現しているのだろう。綿子の人生は少しずつ形が歪んでいき、最後にはほどけてしまう。

ラストシーン綿子は文則との別れを選び、荷物をまとめてレンタカーで走り出す。自分の人生を形成していた木村、文則と別れ、新しい人生を紡いでいく。

 

※2023年9月15日時点の情報です。

(C)2023「ほつれる」製作委員会&COMME DES CINEMAS

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