映画『屋根裏のラジャー』百瀬監督&西村プロデューサーにインタビュー&あらすじを紹介!「もう一歩だけ想像を膨らませて観てみて」【Filmarksファンミーティング レポートvol.1】

2023年12月15日(金)より公開のスタジオポノックの長編アニメーション映画『屋根裏のラジャー』。作品へ込められたメッセージについて、百瀬義行監督と西村義明プロデューサーにインタビュー!

先日開催された、Filmarksユーザー&映画好きのための交流会「Filmarksファンミーティング」。

イベントには、『メアリと魔女の花』のスタジオポノック最新作となる長編アニメーション映画『屋根裏のラジャー』の百瀬義行監督と、スタジオポノックのプロデューサーである西村義明さんがスペシャルゲストとして参加。今回のイベントレポートでは、お二人のトークとともに、『屋根裏のラジャー』の魅力や見どころ、本作に込めた想いを紹介します。スタジオジブリ時代から数多くのアニメーション映画制作に携わってきたお二人ならではなお話がたくさん聞けました!

ファンミーティングの様子も、後日公開予定!

映画『屋根裏のラジャー』あらすじ&キャスト紹介


物語の主人公・ラジャーは、愛をなくした少女・アマンダの想像から生まれた“イマジナリ”。世界の誰も、彼の姿を見ることはできない。そんな“イマジナリ”には、「人間に忘れられると、消えてしまう」という運命があった。失意のラジャーがたどり着いたのは、人間に忘れさられた想像たちが身を寄せ合って暮らす「イマジナリの町」。そこで出会うのは、エミリや怪しげな猫・ジンザン、老犬、そしてラジャーを付け狙う怪しい男……。

『メアリと魔女の花』のスタジオポノックの長編アニメーション2作目となる今作。原作はA.F.ハロルドの「ぼくが消えないうちに」。制作の指揮をとるのは、百瀬義行監督と、西村義明プロデューサー。
「大人になると消えてしまうイマジナリ」という繊細なテーマとともに描かれる美麗なタッチと色彩による背景美術、そしてスリリングな展開に、子供も大人も楽しめる作品となっている。
また、声の出演にも注目が集まっている。主人公・ラジャーの声は寺田心、アマンダを鈴木梨央。アマンダの母親リジー役は安藤サクラが務める。他にも、仲里依紗杉咲花山田孝之高畑淳子寺尾聰イッセー尾形など豪華な顔ぶれ。
「世界は残酷で愛に溢れている。」というキャッチコピーが示すものとは? ラジャーはこのまま消えてしまうのだろうか? 2023年12月15日(金)公開。

『屋根裏のラジャー』
百瀬義行監督×西村義明プロデューサーインタビュー

Filmarksが開催した交流会「Filmarksファンミーティング」スペシャルゲストとして登壇した百瀬監督と西村プロデューサー。終始和やかな雰囲気の中で、お二人にはスタジオジブリや高畑勲監督との思い出を振り返っていただきながら、『屋根裏のラジャー』の制作に至るまで、そして作品に込めた想いについてたっぷりとトークしていただきました!

監督:百瀬義行
アニメーション演出家。高畑勲監督作品『火垂るの墓』(88)での原画担当を機にスタジオジブリへ入社。以降『おもひでぽろぽろ』(91)、『平成狸合戦ぽんぽこ』(94)、『もののけ姫』(97)、『千と千尋の神隠し』(01)など、数々のスタジオジブリ作品で中核的役割を担った。『ギブリーズ episode2』(02)で短編初監督。その後、スタジオポノック短編劇場『ちいさな英雄』(18)の一編『サムライエッグ』、2021年にはオリンピック文化遺産財団芸術記念作品となる短編映画『Tomorrow’s Leaves』を監督。

プロデューサー:西村義明
アニメーション制作会社スタジオポノック代表取締役兼プロデューサー。2002年スタジオジブリに入社。宮崎駿監督初のTVCM『おうちで食べよう。』シリーズ(04)から製作業務に関わり、『ハウルの動く城』(04)、『ゲド戦記』(06)、『崖の上のポニョ』(08)の宣伝を担当。その後『かぐや姫の物語』(13)や『思い出のマーニー』(14)でプロデューサーを務める。スタジオポノック設立後は『メアリと魔女の花』(17)、スタジオポノック短編劇場『ちいさな英雄』(18)、『Tomorrow’s Leaves』(21)をプロデュース。

百瀬監督と西村プロデューサーが経験したスタジオジブリ時代

−スタジオジブリ時代が長いお二人ですが、その中でも高畑勲監督とのお仕事が多いイメージがあります。

百瀬さん:ジブリに入ってからの初仕事は高畑さん監督の『火垂るの墓』(88)。公開時、知り合いに「二度と見たくない」と言われましたね。内容が悲しすぎて(笑)。

西村さん:その「二度と見たくない」という絵コンテを描いたのが百瀬さんですね(笑)。

百瀬さん:高畑さんとの仕事はとても印象的でした。高畑さんって、アニメーション制作に対して緻密に仕上げていく、というイメージがあった。実際はそうではなくて、描き手に委ねてくれる人だった。自分ですべてを決めるのではなくて、描き手から出てくるものを待つ、というタイプの人。

−そこは宮崎駿監督とは違うんですか?

百瀬さん:宮崎さんはアニメーターですから、納得できないと自分で描き直すんですよね。打ち合わせしていないことを思いつくと変更したりもする。それが面白くなったりもするんです。一方で、高畑さんは自分で絵は描きませんから、描き手の力が重要だった。描き手がうまく応えてくれない時は、何度も何度も付き合っていましたね。粘り強さを持っていました。

西村さん:高畑勲という人は審美眼に関して優れている人物なんです。良いものとそうでないものを選択する能力に長けていた。それは絵画でも音楽でも、あるいは人物でも。
一番わかりやすい例で言うと、『風の谷のナウシカ』ですね。制作にあたって、何人かの作曲家の音楽が送られてきたのですが、当時プロデューサーを務めていた高畑さんが「この人がいい」と選んだ。それが、久石譲さんだった。久石さんは高畑さんが見出した方なんですよね。高畑監督の『かぐや姫の物語』で、久石さんに音楽を担当していただきましたが、ずっと宮崎さんとお仕事をされていましたし、当初オファーへの返答を迷われていたんです。でも、「自分を見つけてくれたのは高畑さんだから」と受けてくれました。

−そんなエピソードが……。

西村さん:そんな審美眼の優れた高畑さんが選んだ絵描きは4人しかいません。近藤喜文さん、田辺修さん、宮崎駿さん、そして百瀬さん。百瀬さんは高畑さんに見出された方でもあるんです。

−すごい! 

百瀬さん:高畑さんとの仕事で思い悩むってことはあまりなかったですね。高畑さんがどういう風にしたいかを打ち合わせして、それをもとにカット割をするのだけど、細かく説明されるわけじゃない。でも、僕は雰囲気でなんとなく分かるんですよ。

西村さん:ディレクターはアニメーターに発注するわけですが、感覚が合わないアニメーターだと、要件は満たしていても“感じ”が出ないこともある。例えば、「驚く」という表現ひとつでも「もっと左肩あげて」と言われて、ただ左肩上げる絵を描かれても“感じ”が出ないんですよ。「驚く」ってそういうことじゃないよねって。その“感じ”が共有できるかが大切だったりするし、高畑さんと百瀬さんは感覚の近しさがあったんでしょうね。

高畑勲監督から学んだのは「映画の見方」

 

−西村さんも長い期間、高畑さんと制作されていましたよね?

西村さん:『かぐや姫の物語』(13)は長かったですね。最初の一年で5分しかできてなかった(笑)。
でも、高畑さんと仕事をして、映画やモノの見方が変わりましたね。映画ってカメラをどちらから捉えるとか、画面を割って左側が敵で右側が味方だとか、絵画的・記号的な見方がありますが、それ以外にも「構造的な見方」がある。「表面上の物語だけじゃなくて、映画の全体でこうなっているということは、作り手が本当に言いたいことはこれか」という具合に。それは映画だけじゃなくて小説でも何でもです。そういった見方は勉強になりましたね。

−なるほど。

西村さん:以前、高畑さんのご自宅で仕事している時に、「映画の作り方をどうやって学んだんですか?」と聞いたことがあります。そしたら高畑さんが書庫に向かったんです。高畑さんの家は比較的大きな家なのですが、生活空間は実質2DKです。他の全ての部屋は本棚で埋め尽くされていた。地下には車が複数台入るくらいの駐車場がありましたが、そこも本棚だらけだった。そこから持ってきてくれたのが、ある映画の脚本。開くと文章のいたるところに線が引いてあって、カット割が書きこまれていたんです。この脚本は高畑さんが学生の頃のもので、映画館に観に行って面白かったら、街の本屋で脚本を買って、カット割を思い出せるだけ書き込む。そしてもう一度観に行って確認して書き込む。2回見ただけで全てのカット割りやカメラワークを記憶してね。そういうことをやって身につけたそうです。

−ビデオもない時代にすごいですね……!

西村さん:高畑さんに僕が観た映画のことを聞かれることが頻繁にあったのですが、「面白かった」は禁句でした。映画を作る会社に勤めていながら「面白い」とはなんだと。高畑さんは感想を求めていなくて、どういう映画だったのかを求めるんですよ。だから、映画は最初の冒頭・ファーストフレームはこう始まって、次にこのカットで、こういう照明で、そしてカメラはパンナップして、人物はその時こういう表情でとか、事細かに映画のカットや芝居や映像演出を覚えていった。それを再現して高畑さんに伝える必要があったんですね。それを繰り返していくと、映画の演出なり、見せ方というようなものが身についていくんですよね。

「見たことのないもの」を映像化する『屋根裏のラジャー』の難しさ

−今作『屋根裏のラジャー』を制作するに至るまでの経緯を教えていただけますか?

西村さん:元々、子どもが出演している映画や物語が好きで、書店の児童書コーナーにもよく行くんです。そこで原作の「ぼくが消えないうちに」を見つけました。「子どもに忘れられていく友だちを書いたこの本を、きみはきっと忘れない」という帯の文言に惹かれましたね。この物語は、ある少女に想像された、誰にも見えない少年を描いている。『E.T.』とか『リロ・アンド・スティッチ』とか、人間の成長のために人外の存在を使う映画は数多とあるけれど、想像された側から人間を描く作品ってあまりない。すごく難しい題材だけど、挑戦する価値があった。

−テキストベースの物語をビジュアル化するのは大変だと思うのですが、西村さんから百瀬さんにどのように打診したのですか?

西村さん:百瀬さんは自分が10歳の頃に戻れる人なんです。子供の頃に経験したことを映像にできる。そういう方に頼みたいと思った。大人になると頭が固い人が多くなる。例えば、「子供の気持ちってこうですよね」と話をすると、大人がみた子どもを描いてしまう人もいる。大人の視点で捉えようとすると、カメラが高くなるんです。一方、子どもの目線に戻れる人たちがいる。ジブリの作品もカメラは低いんですよ。

−そういう話は百瀬さんに説明したのですか?

西村さん:していないです(笑)。

百瀬さん:西村さんからは「原作があるから読んでみて」って言われて、どう思うかを聞かれました。この物語は着眼点が面白いと感じましたね。想像されたイマジナリの集団と、イマジナリとはぐれてしまった人間たちの話なんだけど、想像された側が主人公という所に広がりを感じたんです。そういう捉え方もあるんだなって、とても新鮮な感覚でした。

−実際に試写会に参加された方のレビューには、

とにかく映像が綺麗なのに尽きる。夜空の映像や空から見える街などは綺麗すぎてビックリした。

背景美術が素晴らしい。イマジナリ世界での美術がとてもきらきらしてて、素敵だった。

旅している感覚で、映画を「おもしろい」ではなく「楽しい」という感想が出てくる不思議な映画。

想像というものがテーマになっているため、さまざまな背景や自然が次々と出てくる中で絶対一つ一つの絵コンテにめちゃくちゃ労力かかってるやろうなとか考えて観てしまった。その分、映像はものすごいものがありそれ自体がもはや芸術の域達していたと感じた。

など世界観の美しさに言及される方が多かったです。

こどもの想像上の相棒である、個性豊かなイマジナリたちのなかに、きっとお気に入りのキャラクターを見つけられると思います。

小雪ちゃんかわいい!

お気に入りのイマジナリを見つける方もいたようですね。想像のイマジナリ世界を描くにあたって苦労されたところはありますか?

百瀬さん:冒頭に「見たこともない鳥、見たことのない花、見たこともない風。見たこともない夜。」と言うセリフがあるのだけれど「見たこともない」ものを絵にしないといけないってすごくハードルが高いんですよ(笑)。それがやりがいにもつながるんですけどね。うまくいけば面白い。イマジナリに対してもそう。イマジナリを想像する子供がアマンダの他にも出てくるのだけど、それぞれの子が想像しているものだから、似たようなものじゃダメなんですよね。絵の作り方も子供の個性で描き分けなくてはいけない。大変だけどやってみたい、という気持ちがあった。
実現にはスタッフの力も大きいです。僕もキャラクターや基本的な設定を書きますけど、例えば背景スタッフの場合には細かい所はお任せするわけです。高畑さんもそうだったけれど、描き手がどう応えてくれるかに期待しちゃう。美術スタッフがアイデアや遊びを散りばめてくれることでふくよかな画になりました。

大人にこそ観てほしい、「ラジャー」の中にあるヒント

−ストーリーに関するレビューもたくさん届いています。

ボロボロ泣いた。きっとこの映画で泣いてしまうのは大人になってしまったからなのかもしれないな。子供は心踊って、大人は涙する映画な気がします。人を選ばない作品だと思います。

観る前に子供向けかな?と少しでも思ってしまった自分が恥ずかしい。もちろん子供も楽しめるけれど、大人にもグサッと響く作品。

アニメの作画もとても綺麗で、音楽も作品の雰囲気にあっており、ストーリー展開もよい良作でした。特に、子供の頃実際にイマジナリーがいた人にとっては救いがあるというか、刺さる作品だと思った。

会場は親子連れの方が多かったですが、親子でこの内容に触れられるなんて羨ましい限り。子は純粋に楽しみ、一緒に来ている親の方にグサリと刺さる内容かもしれません。

夢も希望もないこの時代だからこそ、小さな優しさや儚いものに気付けるこの作品が眩しく光る。儚いのにエネルギッシュな躍動感を持つ本作は、大人にこそ観て欲しいと感じました。

これは名作の仲間入り。私たちにとっての「魔女宅」や「千と千尋」のように、今の子供たちが「これを観て育った」と言うようになると思う。

「大人こそ観てほしい」や、「大人と子供それぞれの感動」をレビューされている方が多いのが印象的でした。

西村さん:僕にとって『屋根裏のラジャー』は問いかけみたいな側面もあるんです。大人になると、子どもの頃に感じていたことを、過ぎたものとして軽んじてしまう方が多い。「子どもの中にも人生の真実がある」ってことを忘れていく。子どもより大人の方が偉いと思っている方もいたりね。大人の方が映画を知っていて、知識があるし、大人の方が映画を語る言葉を持っている。でも、子供の頃に「どうして大人はわからないんだろう?」と思ったことありませんでしたか? 子どもの時や思春期に観た映画に感銘を受けて、今も映画を好きだと思える方が多いと思うし、そういう作品が実は自分の人生を変えていたりもする。そういう方々が、フィルマークスを利用しているんじゃないかと思うんです。

−確かに。

西村さん:今、子供たちは中学校や高校で、温暖化のこと、少子化、日本がダメになっていくことを学んでいるんです。そうやって大人への不信がどんどん溜まっていって、世界中で子どもと大人の間に分断が生まれ始めている。人は見たいものをみて、見たくないものを見なくなってしまうから、世界は分断して見えない世界ばかりになっていってしまう。
「多様性」も同じで、マイノリティを尊重するということは、“理解”が必要になる。でも、すべてのマイノリティを理解することは不可能です。そうすると、「あなたはあなたで勝手に生きていけばよいが、私は無関係だし関与したくない」といった他者を無視する多様性が生まれていく。行きつく先は、世界の分断です。分断し、無縁化した誰にも見えない存在、インビジブルピープルが世界中で生まれはじめている。
僕らは、そういった「見なくなった存在」を「想像のラジャー」に委ねている部分もあります。ラジャーは人間が想像して生まれた存在で、忘れられたら消えてしまう。生まれたくて生まれたんじゃない、死にたくて死ぬわけじゃない。そんな刹那的な人生は、私たちのように見えないところで必死に生きる人間と何ら変わりありません。「子供の想像した、大人から見れば嘘だと思われる存在の中に人間の普遍の真実が含まれている」。それは、僕たちが作るアニメーション映画と同じかもしれないとさえ思います。
映画で描かれる「想像の世界」はファンタスティックだから、観ていてワクワクしたりハラハラしたりすると思います。でもそれは表面上で、「何故このセリフやシーンをここに置いているのだろう」とか、台詞だけでなく大道具や小道具についても、もう一歩だけ想像を膨らませて観てみてください。映画って本当はもう少しふくよかなものなので、そういう見方のきっかけになったら嬉しいなと思います。1回目はぜひ自由に観てください。もし2回目を観る機会があれば、「西村がこんなことを言ってたし、何かあるかもな」と勘ぐっていただけたら幸いです。

トークの中には他にも、スタジオポノックの立ち上げ秘話やアニメ業界の仕事について、まだまだあるジブリ秘話などもあり、密度の濃い時間となりました!

スタジオポノック制作陣のこだわりと想いが沢山詰まった本作。ファンタジーな世界観と設定、スリリングな展開も入ったストーリーで、子どもから大人まで楽しめる作品になっています。

スタジオポノックの長編アニメーション映画『屋根裏のラジャー』は2023年12月15日(金)より公開!

映画『屋根裏のラジャー』作品情報


◾️公開日:2023 年 12 月15日(金)
◾️原作:A.F.ハロルド 「The Imaginary」(「ぼくが消えないうちに」こだまともこ訳・ポプラ社刊)
◾️監督:百瀬 義行
◾️プロデューサー:西村義明
◾️制作:スタジオポノック
◾️公式HP:http://www.ponoc.jp/Rudger
(c)2023 Ponoc

 

※2023年12月15日時点の情報です。

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