【イベントレポート 後編】 アカデミー賞ノミネート記念スペシャル「TALK TALK CINEMA~映画 PERFECT DAYSと映画を楽しむ5つの視点~ 」

Filmarksの上映プロジェクト

Filmarksリバイバル上映

米国アカデミー賞国際長編部門ノミネートでも話題になった『PERFECT DAYS』のアフタートークイベント「TALK TALK CINEMA ~映画 PERFECT DAYSと映画を楽しむ5つの視点~」が、国内最大級の映画・ドラマ・アニメのレビューサービスFilmarks(フィルマークス)の協力で2月に開催されました。
ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースとの共同脚本&プロデュースを手がける高崎卓馬さんをメインゲストに、Filmarksプロデューサー渡辺順也が進行役として、全国の蔦屋書店5箇所にてそれぞれ豪華ゲストを迎えて行われたイベント第3回〜第5回の模様をお届けします。

イベントレポート前編はこちら

【第3回 「インディペンデントの意義」 高知 蔦屋書店】

第3回、高知蔦屋書店でのテーマは「インディペンデントの意義」。特別ゲストに迎えたのは高知在住の映画監督・安藤桃⼦さん。安藤さんは映画『0.5ミリ』の撮影がきっかけで2014年に高知県へ移住しています。昨年11月には高知市の中心部に映画館「キネマミュージアム」を開設し話題となりました。

映画館で作品を見ることで生まれる時間とは?


Filmarks渡辺の呼び込みから高崎さん、安藤さんの順に登場し、さっそくトークショーが始まりました。安藤さんがオープンした映画館”キネマミュージアム”の紹介を受け、「『PERFECT DAYS』も映画館がなければこれほど評価を受けていないと思う」と高崎さんが切り出します。「大きなスクリーンが平山の淡々と繰り返す日常の中に疑問や気づきを持つ時間を与えてくれる。劇場で見るということは何にも代えられないインプットですよね」と安藤さんへのリスペクトを込めて映画館の魅力を語ると同時に、海外と日本の映画館の違いに触れます。「今回の作品を通して海外の劇場でお客さんが歌ったり歓声を挙げる場面を目撃しました。自分が映画とリンクできていれば、他人の声も雑音にはならない。日本でももっとみんなで見る喜びを共有できる映画館があってもいいかも知れません」という高崎さんの意見に安藤さんも共感しつつ「いつか歌って踊ったりできる映画館を作りたい!」と笑顔を見せました。

続いて安藤さんから「言葉にできない人間の根源のような、映画の本質そのものを見せてくれているような作品でした」と『PERFECT DAYS』への感想が伝えられました。水面を見ているような、魂の根源のような、ずっと見ていられる、と様々な表現で作品を絶賛する安藤さんに高崎さんから映画のこぼれ話が。「脚本を書く上で指標が欲しくなってヴィム・ヴェンダース監督にこの映画のテーマについて尋ねました。すると、『テーマなんて考えちゃダメだ。それを言葉にできるなら映画を作る必要はないよ』と言われたことが印象に残っています」と”言葉にできない”という安藤さんの感想に制作の中で通ずるものがあったと話す高崎さん。そのおかげでたくさん考える時間ができて、簡単に言葉では表せない現実のような作品になったのではないかと振り返ります。

そして、言葉にせず考える時間を増やすということは作り手だけでなく、観賞側にもいえるといいます。「ラストの平山の涙について理由を尋ねられることが多いけれど、これも簡単に言葉にできるものではありません。現実で他人の感情が露わになった時、私たちはどうして相手が泣いたのか、怒ったのかをまず考える。映画でも同じように、なぜ平山は涙を流したのか考える時間を大切にしてほしい」。高崎さんからのメッセージにメモを取る参加者の姿がありました。

『PERFECT DAYS』の成り立ちから考えるインディペンデントの意義

今回のトークテーマ”インディペンデントの意義”では、企画を立ち上げるまでの経緯が語られます。商業映画が企画書作りから始まるのに対して、今回の映画は企画書を作らずTHE TOKYO TOILETの柳井さんとの熱量の高い話から、高崎さんがトイレ掃除の現場に足を運んで体験したことが映画のヒントになったとか。『PERFECT DAYS』の成り立ちを聞いて「そこにインディペンデントの意義を感じました」と安藤さん。「まず高崎さんがトイレ掃除を体験して、心を動かした。企画書を作って数字を出してという流れでは絶対に作れないものを作れるのが自主映画の魅力だと思う」と商業映画も自主映画もどちらも存在意義があるとした上で、自主映画にしか出せない空気感があると説きました。

高崎さんもその意見に深く共感しながら作品と商品を分けて考える大切さを学んだと振り返ります。「作品と商品を同時に両立させようとすると周りからいいものだと評価されそうなものを作ってしまう。まずは自分の心に従って作品を作って、次に商品としての目線を持ってもらえるように働きかける。今回の作品を通して最初から商品にしないことの大切さに気づけました」。

あっという間に1時間以上が経過し、最後の質疑応答の時間に。高知の酒文化に因んで、「平山のルーティンの中に酒を飲むシーンがあるがこれはどういうことを描いていると考えますか?」という会場からの質問に「初めは平山は修行僧のようなイメージだった」と高崎さん。「現場で監督が平山の感情や娯楽を演出したことで、自分を律しているのでなく望んでこの生活をしていると受け取れるようになった。酒を嗜むシーンが、これは平山が選んだ生活だと教えてくれている」と監督への感謝と共に振り返ります。安藤さんからは「律していないということは、物事に善悪をつけていないということ。だから平山にとって雨が降っても悪い日じゃない。お酒を飲むことも善悪で考えていない人だと思う」と回答があり、平山に対する人物像がぐっと深まる時間になりました。最後はお二人が拍手で見送られトークショーは終了しました。

【第4回 「映画と国境」 京都 蔦屋書店】

第4回、京都蔦屋書店でのテーマは「映画と国境」。『愚行録』(2017)で長編デビューし、その後も『蜜蜂と遠雷』(2019)、『Arc アーク』(2021)、『ある男』(2022)といった作品で国内外から高く評価を集めてきた石川慶監督を特別ゲストにトークがおこなわれました。

映画の純度をどれだけ高められるか


まず『PERFECT DAYS』のプロジェクトの成り立ちから高崎さんの解説があり、東京の公共トイレを巡るプロジェクトにおいて「公共性のアップデート」を考えることが重要だったと語られました。紆余曲折があり、ヴィム・ヴェンダース監督に映像を頼むことになった経緯について触れられると、石川さんは「その飛躍がすごい」と笑いつつ『PERFECT DAYS』のプロジェクトとしての第一印象について振り返りました。

「映画は純粋な推進力のようなものが求められるから、何かをプロデュースする目的のような“邪念”が入ってくると難しいという印象があった。だから最初『PERFECT DAYS』の企画の話を聞いたときはよくわからなかったところもありましたが、作品を観ると映画として素晴らしいものが出来ているのは、すごいプロセスだなと思いました」と石川さん。

高崎さんは「観てもらえないのだったら作っても意味がない。けれど、観てもらうためだけで作っても意味がない。映画としての純度をどれだけ維持できるかが大事だった。そのためにも、ヴェンダースができうる限り快適に撮影できるよう徹底的に準備したんですけど。でも、いつ“今日は空しか撮らない”って言ってもいいですよ、と彼には伝えていました。アートとして、心の声に忠実にやってほしかったから。公開も配給も決まっていないなかだったので、今考えると自主映画ですねこれは」と語りました。

単調な繰り返しがあるからこそ、少しの変化が大きく感じられる作品


それから話題が自然とヴェンダースの撮影スタイルや演出法へと向かうと、さらにトークの熱が帯びていきます。作品のテーマや撮影スケジュールを事前に決めたがらないヴェンダース監督のスタイルが興味深かったと、高崎さんは作品のプロセスについて語りました。そして、『PERFECT DAYS』の劇中で描かれる2週間以外の350日くらいの平山のルーティンを考えることが重要だったと説明。単調な繰り返しがあるからこそ、少しの変化が大きく感じられる作品の特長について話されました。

それを受けた石川さんは、繰り返しによって生まれる「反復とズレ」が小津安二郎の映画を思わせると『PERFECT DAYS』を分析。繰り返しを恐れずに見せる同作に対して感服したとのことでした。

また高崎さんは、平山を演じた役所広司さんが彼の普段の生活を徹底的に想像して準備をしてきたエピソードについても言及。現場に入ったときの役所さんの顔がすっかり平山のものになっていたため、ヴェンダース監督もテストなしでドキュメンタリーのようなスタイルで平山の日々を撮りはじめたとのことでした。

ヴェンダースは“作り方”を作るのが好き


そして話題はメインテーマである「映画と国境」へ。ドイツ人の監督による日本を舞台にした『PERFECT DAYS』を巡って、ポーランドで映画を学んだ経験のある石川さんならではの見解を聞くことができました。

石川さんは自分の作品が、「日本では“ポーランドっぽい”とよく言われますが、自分がポーランドにいたときには、何を作っても“日本っぽい”って言われたんですよ。ポーランドの役者を使っていたし、ぜんぜん日本の題材じゃないのに。ただ、たとえば東京や京都の街を歩いても、海外のひとが見るフレームは自分たちが見ているものと絶対ちがう。だから、劇空間の捉え方がちがうというのは、海外から来たひとが日本を撮るときにプラスになるだろうなと思います」と述べました。

「日本の現場は、スケジュールや予算の問題もあってフレキシビリティがあまりないかもしれません。今回はどんなものになるか誰もわからないという状態でいたので、それが良かったかも。結果的にフィクションの存在を、ドキュメンタリーのように撮るという、ヴェンダースのキャリアならではのものになった。でもその方法はいつもそうしてるわけじゃないと言ってました。作り方は毎回作ると。今回海外の監督とやってみて、長所も短所もやはりある。日本のシステムにももちろんある。だからいろんな国や文化の方法を癒合させていいとこどりできたらいいですね」と高崎さん。

また、石川さんがタイで撮影をおこない現地のスタッフの優秀ぶりに感嘆した経験に触れ、「外国人だから気配りができない、みたいなステレオタイプはもっと良いものを作る可能性を狭めているのでは」と映画制作において国境を越えていくことの重要性を語られたのも印象的でした。

その後トークの終盤で高崎さんは、役所広司さんの役者としての凄みに圧倒された体験についても話され、石川さんも「役所さんとはいつかお仕事をしてみたいですね」と『PERFECT DAYS』の役所さんに強く感銘を受けたことを表明していました。ヴェンダース監督も役所さんを現場では「ヒラヤマ」と呼んでいたそうです。

Q&Aで会場からカセットテープなどの小道具についての質問が挙がると、小道具に限らず、銭湯がアパートから実際に行ける範囲にあるなど平山の人物造形のリアリティデザインをきめ細かくおこなったことが高崎さんから説明されました。『PERFECT DAYS』の誠実な人物描写をよく表すエピソードでした。

他にも多くのトピックが挙がり、あっという間にトークの時間は終了。石川さんが「日本のものが海外に出ていくことによって生まれる新しい展開がある」と話されていたように、国境を越えることでより豊かに広がる映画文化について想いを馳せたひとときでした。

【第5回 「映画と批評」 函館 蔦屋書店】

第5回、函館蔦屋書店では映画解説者の中井 圭さんを特別ゲストに迎え「映画と批評」をテーマに映画の面白さを語り合いました。

「PERFECT DAYS」の誕生秘話


高崎さんは、「PERFECT DAYS」の誕生秘話について語りました。この映画は東京のトイレ改修プロジェクト「THE TOKYO TOILET」から発展。ファーストリテイリング取締役の柳井康治さんがトイレの問題を解決するプロジェクトをスタートし、最終的に「映画を作ろう」というアイデアになったといいます。

「柳井さんが言うには、新しいトイレを作るだけでなく、日本人の公共意識を少しだけ良い方向に向けなければ本質的な解決にはらない。でもどうしたらよいかわからないという話を持ちかけられて、最終的に「映画を作ろう」という話になりました。」と高崎さん。広告的な手法ではなく、アートを通して人々の意識を変えることを目指して映画を選択したとのことです。
それに対し中井さんは「すごくソリューション的なアプローチを感じますよね。ある意味で広告的なのに、仕上がったものを見ると「映画だな」という不思議な形です。」と感想を述べました。
さらに高崎さんは、「自分が広告出身の人間なので、逆に広告的にならないようにとの意識が強くて。広告は、1つの考えを誤差なく皆に伝えることが使命ですが、映画は1を100通り解釈していいし、むしろそうできる作品に魅力がある。僕らは、どう「作品」にするかが始まりだったので、純度高く作れたと思います。」と語りました。

どうやって実現?監督:ヴェンダース×主演:役所広司


続いて、高崎さんからヴィム・ヴェンダースに監督を依頼する過程について語られました。当初、役所広司さん演じる清掃員を軸にしたトイレに関する4つの短編映画にしようと、ヴェンダースに話を持ちかけたそうです。
ベルリンのミーティングで、初めてヴェンダースに自分のアイデアを披露できることに興奮しすぎて、4つどころ何十ものエピソードを書いて持って行ったんだとか。映画としてのプロットではなく、清掃員の男からみたTOKYOのひとたちのことをいろいろと書いたり、清掃員の男の人生観についていくつも書いたそう。ヴェンダースはその紙の束を持ってソファに寝転がり、笑い声を立てながら読んでくれ、そしておもむろに立ち上がり、そこから20話分くらいのエピソードを机に並べて「これ全部撮りたいな。(長編)映画にするか」と言ってくれた。あの瞬間の嬉しさは生涯忘れることはできないです、と高崎さん。

また、中井さんによる「ヴェンダースと高崎さんの共同脚本は、どういう切り分けで作ったのか」との質問から、脚本やキャスティングについての興味深い話が交わされました。

「脚本は日本語なので、文字で言うと僕が書いたんですよね。でも、彼の質問に答える形で書いてたから、自分が書いた気があんまりしないというか。ヴェンダースという同志に導かれて書いたので、彼がいなければ絶対書けない気がしますね。」と高崎さん。

出演オファーするにあたって挨拶に行った際、役所広司さんは「トイレ清掃員の話を映画にするなんて珍妙なアイデアは映画会社からは来ないから、そんな変な映画は面白そうだなと思った」「そんな映画をヴェンダースに頼んでみようなんて、何考えてるか分からなくてすごくワクワクする」「ヴェンダースの作品を断る俳優はいない」とおっしゃっていたそうです。ヴェンダースだからこそ、役所さんや他の俳優たちが作品に強い興味を持ちキャスティングが思った通りに成功したのだそうです。

さらに中井さんから「ヴェンダースは劇映画にこだわらず、何らかの形で世界を切り取ることをやり続けている監督です。『PERFECT DAYS』は劇映画でありつつ、カメラがドキュメンタリー的な立ち位置にあると感じましたが、実際どうだったんでしょう」との問いかけがありました。
高崎さんは「フィクションの存在をどうドキュメンタリーのように撮るかという話は、本当に早い段階からしてて。ヴェンダースは「ドキュメンタリーは、『今の表情良かったら別アングルでもう一回』って撮らないよね」と。それが対象へのリスペクト、自分は絶対そこには踏み込まないけど、記録はするという形だと思うんですよね。この映画はその立ち位置、役所さんが平山を作り上げ、ヴェンダースがそれを記録するという形で作られたので、結果的にドキュメンタリー的要素を持っているのだと思います。」と述べました。

批評とは、芸術に新たな価値を付与すること


「映画と批評」をテーマにした話もさらに深まります。映画レビューサイト「Filmarks(フィルマークス)」のレビューに、『PERFECT DAYS』のテーマやメッセージについての様々な感想が挙がりました。代表的なものとしては、キャッチコピーの「こんなふうに生きていけたなら」のように、「(役所さん演じる)平山さんみたいな生活がしたい、うらやましい」という声が多かったそうです。高崎さんは、映画のタイトルやキャッチコピー制作の過程を語りました。

「これはすごく迷いました。なくて伝わるならなしでいきたいとも。皆見る人の気持ちを規定することになるので。ただ、撮影後ベルリンでスタッフにインタビューしていた時、「ヴェンダースと平山は似てるか?」という問いに「あんなふうになりたいと思ってるはずだ」と答えたひとがいて。撮影中のヴェンダースに僕もその印象を覚えていたので、この言葉は許されるかもしれないと思って書きました。でも今でも何かを得て、何かを失ってはいると思っています。
『PERFECT DAYS』というタイトルも、強すぎるのではないか、こういう生活をパーフェクトと言っていいのか、何かを決めつけることにならないか、という議論はありました。最終的に、「こういう生活をパーフェクトだと考えるのはどうでしょう?」という問いかけに見えるかも、とこのタイトルに決まりました。」と高崎さん。

中井さんは、「僕はこのタイトルで良かったなと思います。僕たちは、お金の有無で勝者と敗者を決め付け、その分断を広げていく社会で全員生きています。『PERFECT DAYS』というタイトルは「これが正解だ」という押し付けでなく、我々が浴びている新自由主義的な価値観に対するささやかな反抗で、そこに「完璧」という揺るぎない言葉を使ったことが素晴らしいなと思ったんですよね。

『PERFECT DAYS』って、明確な答えは何も提示されていない。むしろ何も言っていない作品。たとえばラストシーンの平山さんの表情、これはどうにでも取れるじゃないですか。これは一体何なのか、どう解釈するのかを自分なりに導き出しても、それは確かかどうかはわからない。
でも、その状態を受け入れて我慢することが求められるし、それをずっと提示してくれる作品だなと思って、僕はすごくそこが好きなんですよね。」と感想を述べました。

さらに、高崎さんと中井さんは、映画批評について語ります。

「レビューや批評って、いい悪いを決めるためだけのものじゃなくて、映画をきっかけに思考を楽しむためにあるとも思う。それは、他人を理解する力を養うことなんですよね。映画には自分の知らない世界があって、世界を見る訓練、世の中を素敵なものにするための訓練ができるという。」と高崎さん。
「「考察」がブームですが、考察は作家の考えに合っているかどうかがゴールなんですよ。批評はゴール設定がその先にあります。映画という総合芸術をいろんな軸から分析し、客観的事実を自分なりにつなげて、自分の主観で打ち出すこと。作家の考えに答え合わせする必要はなくて、むしろ批評とは作家が意図もしていない新しい価値を付与する行為なんですよね。それによって映画や芸術全般が強化される。それが批評の立ち位置かなと思ってます。」と中井さんは続けました。

さらに、高崎さんからの「中井さんは解説者として、映画に対して何ができるかという使命感をすごく強く持っている」というコメントに対し、「映画館で映画を見たことが原体験としてあるのと、映画館で見るという行為を残していかなければ、との思いは強いですね。映画館は画面も大きいし音響もいいけど、何よりも「映画と向き合うことしかできない」という現代社会で非常に重要なものがあります。その時間を大事にしたいと思い、僕は使命感として映画を仕事にしている気がします。『PERFECT DAYS』は、音響設計も画面設計も、まさに映画館で見るように設計されているなと感じました。」と中井さんは述べました。

役所広司さん演じる平山はストイックな存在?


最後に、オンラインと会場からの質問が受け付けられました。参加者からは「平山さんはお酒を飲んだ後、ヘルメットをかぶらず自転車に乗り、飲酒運転で帰りました。時代遅れの人という設定なので、違反であることを知らないんでしょうか。」という質問が挙がりました。それに対し高崎さんは平山さんの行動について解説します。
「東京は自転車でヘルメットしている人が少ないので、そうしています。平山さんってストイックに見えて、ときに感情的だったり、とても人間的なひとだと思います。自分を律しているというより、必要なものだけで無駄なく生きている。無口なんじゃなくて、必要がないから喋らない。そのへんがこういう描写につながっていると思います。平山さんって缶コーヒー、ブラックじゃなくてラテ飲むんですよね。ブラックじゃないっていうのが、彼らしさで」

続いてオンライン参加者からの「『PERFECT DAYS』と比較して見て欲しい映画作品はありますか?」との質問に、中井さんは、「ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』は近しい部分がある。合間の時間に詩を書いているバス運転手の日常を追うお話です。ジャームッシュが駆け出しの頃、ヴェンダースからもらったフィルムで映画を撮ったという縁もあったり。今は巨匠の位置にいるこの2人がどちらも日常を過ごす男の話を撮っていたという観点でも面白いですね。」と語りました。
最後まで話は尽きず、盛況のうちにトークセッションは終了しました。

【登壇者のご紹介】


高崎 卓馬(たかさき・たくま)
1969年福岡県生まれ福岡県立修猷館高校、早稲田大学法学部卒業
株)電通グループグロースオフィサー/エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター2度のクリエイター・オブ・ザ・イヤーなど国内外の広告賞、受賞多数。
映画「PERFECTDAYS」(WimWenders監督)では企画・脚本・プロデュースを担当。
著書に小泉今日子の親衛隊の少年たちの青春を描いた小説「オートリバース」、広告スキルをまとめた「表現の技術」絵本「まっくろ」などがある。J-WAVEで毎週金曜深夜「BITS &BOBS TOKYO」MCを担当。


渡辺順也(わたなべ・じゅんや)
Filmarksプロデューサー。現在は、映画館でのリバイバル上映企画をプロデュース。「サマーウォーズ」記念日上映、「PERFECT BLUE」25周年4K上映、90年代の名作シリーズ「Filmarks90’s」(フィルマークス ナインティーズ)として「レオン 完全版」など、邦画・洋画・アニメの名作を全国の映画館で上映することを日々企画中。本イベントでは進行役として登壇。


安藤 桃子(あんどう・ももこ)
映画監督。1982年、東京都生まれ。高校時代よりイギリスに留学し、ロンドン大学芸術学部を卒業。その後、ニューヨークで映画作りを学び、助監督を経て2010年「カケラ」で監督・脚本デビュー。14年に、自ら書き下ろした長編小説「0.5ミリ」を映画化。同作で報知映画賞作品賞、毎日映画コンクール脚本賞、上海国際映画祭最優秀監督賞などを受賞し、国内外で高い評価を得る。
「0.5ミリ」の撮影を機に高知県に移住。ミニシアター「キネマM」の代表や、子どもたちの未来を考える異業種チーム「わっしょい!」を立ち上げる。現在、NPO地球のこどものメンバーとして、全てのイノチに優しいをモットーに、子ども達との映画作りやアートなど、食育、自然、農を通じ、優しい地域の地場づくりを行なっている。
21年には、初のエッセイ集「ぜんぶ愛。」を上梓。23年11月、映画を通じて心と文化を伝える「キネマ ミュージアム」が高知市中心市街地にオープンするなど、多岐にわたり活動中。


⽯川 慶(いしかわ・けい)
1977年生まれ、愛知県出身。ポーランド国立映画大学で演出を学ぶ。長編デビュー作となった『愚行録』(17)では、ベネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に選出されたほか、新藤兼人賞銀賞、ヨコハマ映画祭、日本映画プロフェッショナル大賞では新人監督賞も受賞。恩田陸のベストセラーを実写映画化した『蜜蜂と遠雷』(19)では、毎日映画コンクール日本映画大賞、日本アカデミー賞優秀作品賞などを受賞。2021年には、世界的なSF作家であるケン・リュウ原作の『Arcアーク』を監督。2022年公開の『ある男』は、再度ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門、釜山国際映画祭クロージング作品に選出。国内外で高い評価を得ている。


中井 圭(なかい・けい)
1977年生まれ。映画解説者。WOWOW、J -WAVE、TOKYO FMなどの放送媒体の他、雑誌、WEB、映画トークイベント、劇場パンフレット等で映画評論を展開。京都国際映画祭、京都国際学生映画祭など、各種映画祭で審査員なども務める。近年は、全国のミニシアターを直接訪問し、現地での取材を重ねている。面白い映画を面白い人に見せるプロジェクト「映画の天才」の代表としても活動中。
社会を前進させる情報発信を行う「あしたメディア」編集長。

【イベント概要】

「TALK TALK CINEMA ~映画 PERFECT DAYSと映画を楽しむ5つの視点~」

第3回「インディペンデントの意義」
・会場:高知 蔦屋書店:2024年2月17日(土)開催
・特別ゲスト:安藤桃⼦

第4回「映画と国境」
・会場:京都 蔦屋書店:2024年2月21日(水)開催
・特別ゲスト:石川 慶

第5回「映画と批評」
・会場:函館 蔦屋書店:2024年2月23日(金)開催
・特別ゲスト:中井 圭

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  • きょう
    3.1
    役所広司しゅき
  • NariYamashina
    4
    海外の監督で、日本という国を、日本人からも共感できるかたちで描いてくれてる映画ってなかなかない気がする。(ロストイントランスレーションは映画としては好きだけど、やっぱりどこかズレている。というか、誇張しすぎ。) その点この作品の、場所場所の切り取り方、波のなさ、素朴さは、とっても日本らしい。 ちなみに、国外でこの作品を観たので、より日本が愛おしく感じた。帰ったら銭湯つかりて〜。エンドロール中に帰ってしまった人が多かったんだけど、エンドロール後の"あれ"をちゃんと見て欲しかったな。。日本語の美しさ、日本しかない絶妙な単語だから。 追記:日本の映画館と違った環境で観られたのすごくよかった。みんなくすくすっと笑ったり、おおっと驚いたり、日本人が反応しない部分でもリアクションがあり、おもしろかったなぁ。 鍵閉めると壁が曇るトイレは、ビックリの反応をしてました。
  • 大輔
    3.5
    退屈。それがとてもフレッシュ。 時々霞の中に過去が現れて、未来を混乱させる出来事があって、刺激と摩擦に晒されながら日常を維持する尊さ。 心を岩にして固い意志で自分の生き方を守るやり方もあるけど、こうやってちゃんと笑ってちゃんと泣いて、ちゃんと受け入れて、ちゃんと思いやって自分を守る生き方も素敵だね。 盛り上がりのある映画ではないし、派手さもないけど、とてもキラキラした美しい映画でした。 大地と水と木々と空と、古いものと新しいもののバランスが絶妙すぎて東京の持つ不思議な空気感がとても心地いい。 良かった
  • おていこ
    4.2
    たとえ良いこと、嬉しいことがあっても生活がガラッと変わるわけじゃない。 でも少し自分の心が潤ってくすっと笑っちゃう、明日も小さな幸せを見つけて生きようと思える。
  • nanochi
    4
    圧巻の演技。本当に素晴らしい俳優さんだと、宝だと心底思う。 まるでインスタレーションを見ているようだった。 「本当にトイレ清掃やってるの?」 そのひと言で、ああ彼は、なにか長く辿ってここまで巡ってきたんだと察する。 部屋には余計なものはなく、好きなものと必要なものだけを整然と並べていると思ったら、物置部屋は自らが封印した過去を押し込めたような雑然とした空間で、姪っ子の登場で否応なくそこへ自らも押し込められ、過去がちらりとこちらを見る、後ろを振り返ってはならないし、もう元の場所には戻れない。 実際、戻らなくてもしあわせなんだし、強がりじゃなくてピュアな笑顔に嘘はない。 世界は交わらない でもたまにある交差、他愛のないやり取り いろいろ切ないけれど、切なさを持って生きていくのが日々だとおもう。 同じことをする、でも、同じ一日なんてない。すべてが完璧な、自分だけの世界
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