『真実』是枝裕和監督×ジュリエット・ビノシュ、“女優”という仕事に向き合って――リアルな映画が撮れる理由【来日インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

是枝裕和監督の最新作『真実』は、初の国際共同製作映画。全編フランスにて撮影された本作には、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークという豪華名優陣が名を連ね、「是枝組」の空気に染まりきった。

真実

大女優ファビエンヌ(ドヌーヴ)が自伝本を出すことになり、お祝いにと、アメリカに住んでいる娘リュミール(ビノシュ)と家族がやってくる。和んだ空気もつかの間、原稿に目を通したリュミールは、「この本のどこに真実があるの?」と憤慨。「女優が本当のことを言って何が面白いのよ」と意に介さないファビエンヌだったが、本に書かれていない「真実」こそが、彼女らの心に影を落とし、溝を生んでいたーー。

女優としての誇りを胸に、確固たる地位を築き上げてきたファビエンヌ、そんな母親に寄り添ってもらえず常に乾いた気持ちを持ち続けてきたリュミール。複雑な距離感の母娘、そして女同士の心の揺れ動きを、是枝監督が綴った。FILMAGAでは、是枝監督とビノシュの貴重な対談をお届けする。

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――母と娘、女性同士ならではの親子関係がすごくリアルでした。是枝監督は何に気をつけて脚本を書かれたんですか?

ビノシュ:是枝さんは、男装した女性だから書けたんじゃない(笑)?

全員:(笑)。

是枝監督:そうなんです。僕の中に大事に育ててきたおばちゃんがいるから……(笑)。

ビノシュ:(笑)。

――是枝監督の中に女性がいるから、ここまでリアルな筆致が……。本当のところは?

是枝監督:今回は本当に長い時間をかけて、ドヌーヴさんにもビノシュさんにもインタビュー……というかしこまった形ではなくて、何度もご自宅にお邪魔してお話をしたんです。自分の母親と自分の関係や、自分と娘さんの関係とかをいろいろ聞かせてもらったりして、脚本に取り入れました。もちろんドキュメンタリーではないから、そのまま引用しているわけじゃないけど。

僕は日本語で書いているので、通訳さんが一言、一言、フランス語に戻してくれて、それを皆さんに読んでもらって、修正も加えました。現場で演じながらも「ここは、こうしたほうがいいんじゃない?」という意見はお二人から出てくるので、取り入れながらなるべくリアルな方向に着地していく、ということをちゃんとやれたんじゃないかなと思います。

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ビノシュ:現場の通訳の方も苦労しながら、一語一語丁寧に訳してくださったけど、言語の違いは確かにあったわね。具体例を挙げると、日本ではすごく謝ることが多いじゃない? フランス人は全然謝らないから。あるシーンの最初のセリフが、日本語では「すみませんが」という謝罪から入ったんだけど、フランス語だと「どうしていきなり謝っているの?」となる。そういう違いは確かにあったわね。

――そのほか、脚本を読んでの第一印象はいかがでしたか?

ビノシュ:フランスの世界に溶け込もうとしていることを、脚本からは感じたわ。違う文化の映画作家がフランスに来て撮っている、にも関わらず、フランスで私たちの関係性がどのように織り成されているのかを理解して書いた脚本、というのが第一印象だった。

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――ビノシュさんにとって、是枝組での撮影は独特でしたか?

ビノシュ:異文化の違いは感じなかったけど、是枝さんの撮影方法はすごくやさしく、人間関係のハーモニーを大事にするやり方、という印象を受けたわ。是枝さんにとっては、まったく言葉の通じないところで、フランスに適応して仕事をしなければいけなかったわけで、私は逆のことを河瀨直美さんの映画(『Vision』)で経験したのよね。日本のやり方は集団作業のハーモニーを大事にするけど、フランスだと、もう少し個人主義で、各セクションがそれぞれの場所で、ある意味エゴを持って仕事をするの。

是枝監督:日本の場合は、スタッフが全員集まって「シーン1、2・・・」と、総合打ち合わせを1日かけてやるんです。でも、フランスにはその習慣がない。カメラマン、美術の人、衣装の人、みんな1対1で打ち合わせをしたがるんだよね(苦笑)。とにかく1対1を求めるのは徹底していて、「2人だけで話したい」というのが、彼らの持っているプライドだったりする。「え、1回にしたい……」と内心思ったけど、フランスのやり方だから全部やりましたよ。

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――ドヌーヴさんとは初共演になりました。ご一緒してのエピソードはありますか?

ビノシュ:ドヌーヴさんは、とてもタバコが好きでヘビースモーカーなの。逆に、それを利用して仲良くなろうと思ったわ。というのも、フランスでは「vous(※あなた)」か「tu(※あんた、きみ)」、ふたつの二人称があるけど、ドヌーヴさんは誰に対しても、距離のある「vous」で話すの。だから、「どうやって近づこう?」と考えたときに、タバコを利用しない手はない、と思って。あるときドヌーヴさんに、「タバコ1本貸して」と声をかけたら、「貸して、と言いながら返さないでしょう?」と言って、くれなくて(笑)。「1本貸してくれたら、箱で返すわよ」と言ったら、リハーサル中にポンと1本投げて貸してくれたの。そんな感じで、タバコを通じて、ちょっと親しくなれたわ。

それにしても、フランスでも、あれほどタバコを吸う人はいないっていうくらい、ドヌーヴさんは常に吸っていたわね。是枝さんはタバコが嫌いみたいだから、慣れるのにかなり苦労していたみたいね(笑)?

是枝監督:最初はね、「これが2か月続いたら死ぬ」と思った(笑)。でも、途中から苦にならなくなって、自分でもびっくりしました。

ビノシュ:彼女は、現場で吸いはじめるんじゃなくて、吸いながら現場に入ってくるのよね! エレベーターの中でも吸っていたし、「禁煙」の場所でも吸っていたし(笑)。ただ、緊張をほぐすためのツールなのかもしれないけれど。

是枝監督:どこでも吸うからね。窓が締まっ? ?いる車の中でも吸っていて、(役としては)吸っていないシーンの撮影だったんだけど、本人は「大丈夫よ、本番になったら消すから」と言う(笑)。カメラが回って「よーい……」まで吸っていて、ようやく消して、「……はい!」までの間、みんなで煙を手であおぎまくったな(笑)。

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――日本とパリで撮影の勝手の違いは様々あったかと思うんですけど、一番楽しかった違いは何でしたか?

是枝監督:現場でやっている演出自体は、そんなに変わらないです。一緒に作っていく感じでね。今回楽しかったのは……、プロセスでいえば女優の話なので、通常と同じように取材をしました。例えば、弁護士の話をするときには弁護士の取材をして、弁護士事務所に通って、日々の仕事ぶりを見る。それと同じように、事前にドヌーヴさん、ビノシュさんのご自宅に伺って、長い時間「演じる」ということについて話を聞かせてもらったんです。もちろん脚本に反映させるためでもあるんだけど、あの時間というのは、お互いがお互いを理解するために、とても有意義だったと思う。その間に、リュミールという役を僕もつかんでいくから、そこから演出が始まっている感じでした。

何度目かの打ち合わせで、ビノシュさんの家でファビエンヌとリュミールの話をしていたとき、ビノシュさんが「もしかして、ファビエンヌは映画の中で母親役を演じるためにリュミールを産んだのかもしれないわね」とポロッと言ったんです。「うわ、怖い」と思いつつ、「事実はそうじゃないかもしれないけど、リュミールはそう思っちゃったかもしれないですよね」という話をしたのは、すごく印象に残っていて。そういった一言をヒントに、あの母と娘のわだかまりを(書いた)。もちろんストレートに台詞にするわけじゃないんだけど、そうやって裾野がどんどん広くなっていく作業が今回は一番面白かったし、ためになりました。

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――ためにもなったんですね。

是枝監督:ビノシュさんから聞いた、「女優がどう役と向き合って役作りをしていくのか」という話が、本当に面白かったんですよ。

ビノシュ:「女優とは何か」を考えるのは、是枝さんとお話する以前から、いろいろと考えているの。是枝さんがおっしゃったように、演技論をいろいろ戦わせたんだけど……、あまり私の言ったことはシナリオに入っていないように思えるわ(笑)。

是枝監督:いやいやいや(笑)。

ビノシュ:私の言ったことが全然脚本に見当たらないのよ。たぶんドヌーヴさんのバージョンのほうを、より多く入れたのね(笑)? ファビエンヌがリュミールのことを「本当にあの子は真面目すぎるんだから」と言うんだけど、あのセリフを読んだときに、「カトリーヌ・ドヌーヴは私のことをそう思っているのかしら……? もしくは是枝さんがそう考えているのかしら?」って思いました(笑)。

是枝監督:いやあ、そんな……。氷山のここ(土台)がビノシュさんなんですよ(笑)。(取材・文=赤山恭子)

映画『真実』は2019年10月11日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開。

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出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ ほか
監督・脚本:是枝裕和
公式サイト:gaga.ne.jp/shinjitsu
(C)2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA、photo L. Champoussin (C)3B-分福-Mi Movies-FR3

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  • Keengoo
    3.4
    クセの強すぎるお母さん。 急にガラッと性格入れ替わったように見えた。 やっぱりイーサン・ホーク好き。
  • 千年女優
    3.5
    自伝本「真実」を発表した著名な女優ファビエンヌが、出版祝いに訪れた娘のリュミール一家との交流を楽しんだのも束の間に、本では綴られなかった真実を巡って母子間に生じる感情のすれ違いを、ファビエンヌの出演映画の撮影と並行して描いた是枝裕和監督の初の海外制作作品です。 是枝監督の得意とする家族物語で、持ち味である表情やニュアンスを含めた繊細な人物描写が、フランス人キャストの演技でも言葉の壁を越えて伝わってくる作品です。直近の『三度目の殺人』や『万引き家族』のような大胆な仕掛けはありませんが、キャラクター達の感情の機微がテンポの良いストーリー展開に乗せて軽やかに舞い踊ります。 過去作品も通して一貫して描かれる「本当に大切なことが「本当の事」とは限らない」というテーマを本作では「記憶は不確か」という形で表現し、それを「演技」を生業とする女優をメインに描くことで浮き彫りにさせます。「演じることと嘘をつくことは違う」厳然たる真実と、それを隠す嘘と、それを覆う演技を巡る優しいお話です。
  • いーやま
    3.5
    これリメイクなんか このタイミングで日本人監督がやるにはぴったりすぎる
  • クロ
    4
    カトリーヌ・ドヌーブとジュリエット・ビノシュ、2人の演技を見てるだけでも贅沢で幸せな映画。 あくまでも「女優」としてプライド高く身勝手で毒舌な母、ファビエンヌが強烈。そんな母に愛憎の入り混じった思いを抱く、脚本家の娘、リュミール。 ラストでシャルロットがリュミールに「あれは真実?」と尋ねた時のジュリエット・ビノシュの表情が素晴らしい。そして『母の記憶に』のラストシーンを撮り直したいと言ったファビエンヌの、髪の匂いを嗅ぐ演技。 演技と脚本。嘘と真実。 私自身、母のことは好きでもあり、嫌いでもあった。母に愛されてるのか不安だったこともあるし、母を愛してると思ったことも、憎く思ったこともある。母も自分の母親に似た感情を抱いていたように思う。母の生前のうちに一緒に見れば良かったな。 出演者はフランスやアメリカの俳優さんで舞台もフランスですが、是枝監督らしいテイストで、何だか不思議な感じ。日本で撮影したらもっと湿っぽくなったかも?
  • Toshiko
    3.7
    母と娘の関係はややこしいのね
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のレビュー(6794件)