M・ナイト・シャマラン監督の新作『ヴィジット』が公開されました。
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多くのメディアでは「『シックス・センス』のシャマラン完全復活!」といった謳い文句で本作の面白さを伝えています。
はぁ?…… ちょっと待ってください!
確かに近年の『エアベンダー』は面白がるには難易度の高い作品だったし、『アフターアース』はウィルとジェイデンのスミス親子の映画だという印象が強くあります。しかし、それでも『シックス・センス』以降良い映画が無かった様な言い草には首を傾げざるをえません。
むしろ『シックス・センス』以降の作品こそ、多くのシャマラン支持者“シャマラニアン”を生み、シャマランへのマトはずれな罵詈雑言に心を痛めるハメになっているのです。そこで、“シャマラニアン”である筆者がシャマラン作品をいかに愛でているのかを詳らかにしていくことで、新作『ヴィジット』の楽しい観賞法の手引きとします。
『シックス・センス』どんでん返しの勘違い
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そもそも。多くの人がシャマランを「どんでん返しの監督」として記憶しています。これは『シックス・センス』のストーリー・テリングの巧みさで多くの人がまんまと裏をかかれてしまったことに起因しています。しかし、よく思い出してみてください。映画中盤あたり、物語が展開していくきっかけになる、本作で一番有名な台詞です。
「ボクには死んだ人が見えるんだ…… (I see dead people……)」
最初っから見えるって言ってるんですよ! 公開前のCMでもこの台詞は多用されていましたし、多くの人が「幽霊を見てしまう少年の物語」として劇場に向かったハズです。オープニングではブルース・ウィリス演じるマルコムの死さえ描かれています。
世の人々の言う『シックス・センス』の「どんでん返し」とは、よもやメインキャラクターを映画が始まる最初の場面で殺すとは思えない、という先入観に対して、素っ頓狂なまでに真正面から豪胆に描いた情景が引き起こした勘違いのことなのです。
シャマランは裏の裏をかいて正面を向く
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『アンブレイカブル』の直訳は「壊れない」です。そこにブルース・ウィリスが大写しになっているんですから、彼が「壊れない」のは明白です。さらに、映画が始まってすぐ、ミスター・ガラスが自身の営むコミック画廊でこんな講釈をたれている場面が登場します。
「コミックのお約束としての悪役の頭を大きく描く特徴が、この作品には顕著に表れているんです。」
その説明をするミスター・ガラスの頭が奇妙に膨らんだアフロ・ヘアーになっているのは彼自身の説明そのままです。
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『サイン』では、宇宙人が飛来した際の痕だとされるミステリー・サークルが、実は宇宙人が次に襲う家を記した「サイン」であったという超ド級のド直球勝負です。さらに、主人公グラハムの奥さんは死の直前にこんな遺言を残します。
「グラハム、見て! そしてメリル、カッ飛ばして!」
終盤、宇宙人に襲われたグラハムは部屋を「見て」バットを見つけ、メリルに「カッ飛ばす」よう指示します。奥さんの遺言そのままです。
『シックス・センス』の「死んだ人が見えるんだ」という告白もそうでしたが、あまりに真正面から描かれ過ぎているので、ほとんど本能的に穿った解釈をしてしまい、結果として裏をかかれるというのがシャマラン映画であり、思う存分穿って見つめて振り回されるのがシャマラン映画の楽しみ方なのです。
『レディ・イン・ザ・ウォーター』野放図な記号表現が生む感動
また、シャマランを語る上で絶対に欠かせないのが『レディ・イン・ザ・ウォーター』です。多くのシャマラン・ファンがこの作品をきっかけに「私はシャマラニアンである!」と、シャンランを批難する世論に対し反旗の狼煙を上げることとなった、シャマラニアン心の1本だと言えるでしょう。
世界を滅亡から救う本のアイデアを作家(シャマラン本人)に伝えるためにやって来た「ストーリー」と名乗る妖精を助けるため、戦士や傷を癒すヒーラーなど役割を持った人々を探しだし、悪の存在からストーリーを守りぬく、という壮大な物語をフィラデルフィアの安アパート1棟のみ、もっさりしたオッサン、オバハンのみで展開させていきます。
例えば、仮面ライダーの人形を手に遊ぶ小さな子供が「ライダーキックだ!」とペットボトルを倒した時、子供の頭の中では怪人が巨大な炎を巻き起こして爆発し、世界の平和が訪れています。実際にはペットボトルがコトンと控えめな音を立てて倒れるだけですが。
シャマランが『レディ・イン・ザ・ウォーター』で描いたのは「世界の平和を守るためにペットボトルを倒す」その情景です。世界の命運を賭けた戦いを、安アパートとオッサンオバハンだけで表わしているのです。この野放図とも言える記号表現を正しく解読した者は感動の涙を流し、受け付けず拒絶した者が罵詈雑言を投げることになりました。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】“シャマラニアン”の秘かな楽しみ
シャマラン作品のもう一つの楽しみに、静謐で真面目なトーンで繰り出されるギャグの数々があります。
『シックス・センス』ゲロ吐いてスッキリする幽霊。『アンブレイカブル』どうしても父親を拳銃で撃ってみたい少年。『サイン』パターソン・フィルムの雪男そっくりに歩く宇宙人やアルミホイルのとんがり帽子。『レディ・イン・ザ・ウォーター』片腕だけ鍛える奇妙な実験に取りつかれた男、などなど。
中でも特に秀逸なシャマラン・ギャグは『ハプニング』の「模造観葉植物に弁明する場面」でしょう。どうやら植物が人間の精神を狂わせる何かを出していると知らされたマーク・ウォルバーグ演じるエリオットは、逃げ込んだ家の観葉植物に弁明を始めます。しかし、プラスティックで出来た模造品だと気付くのですが、それでも「一応言っとくか……」と締めます。
最新作『ヴィジット』で冴えるシャマラン節
画像参照:http://thevisit.jp/
新作『ヴィジット』は無名俳優を起用し、POV方式で撮影された低予算映画ながら上記した様なシャマラン演出が冴えわたっています。
映画監督志望のお姉ちゃんベッカと、やんちゃ盛りの弟タイラーが招待を受け、長らく音信不通でいた母方の両親の住む田舎町へ1週間の旅行に出掛けます。到着した2人を温かく迎え入れてくれたお爺ちゃんお婆ちゃんですが、話しかけても無視することがあったり、夜になると部屋を駆け回ったり、奇行が目につきだします。歳も歳だしボケ始めたのだと納得はしますが、それでも好奇心は抑えられず、驚愕の事実と向き合うハメになるのです。
画像参照:http://thevisit.jp/
お爺ちゃんお婆ちゃんの謎は観賞の楽しみにとっておくとして…… 本作にはシャマラン・ギャグが盛りだくさんに詰め込まれています。特に、ベッカとタイラーが縁の下を迷路に見立てて鬼ごっこをしているところに、何の前触れも無くお婆ちゃんが本気で参戦し始め、猛スピードで2人を追い立てる場面は、凄まじい恐怖と強烈なバカバカしさが同居する、前人未到のギャグシーンになっています。
また、ベッカとタイラーは出て行った父親と、残された母親に、それぞれ負い目を持っています。その負い目からベッカは自分自身を見ることを極端に避け、タイラーは極度の潔癖症となっています。お爺ちゃんお婆ちゃんの謎や、姉弟の負い目、母親への気遣いなどが重なり、連なり、糾わりあって感動を呼ぶ見事な展開を見せていきます。
『ヴィジット』はシャマラニアン的な観点から言っても、見やすくて解りやすい楽しい映画になっています。
画像参照:http://thevisit.jp/
今までシャマランを「どんでん返しの監督」としか認識出来ていなかった人も『ヴィジット』から、逆引き的に過去作もシャマラニアン的な視点で見直してみてはどうでしょうか?
真面目くさった顔でギャグを飛ばしつつ、切実な物語を、奇妙な方法で描いていることが解るハズです。
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※2020年8月30日時点のVOD配信情報です。