イスラームの美しい風景、文化、人の心に触れよう!イスラーム映画祭2015

映画と本とコーヒーと。

藤ノゾミ

「イスラーム」と聞いて、あなたは何を想像しますか?

モスクでの礼拝、女性が身に着けるヴェール。……あるいは、「イスラム国」?

イスラーム教は言わずと知れた世界三大宗教のひとつ。信者数は16億人を超え、2070年にはキリスト教徒の数に並ぶとも言われています。

でも、はたして私たちはイスラームの人たちが何を考え、何を感じ、どんな風に暮らしているか――“イスラームのほんとうの姿”を知っているでしょうか

12日から東京・渋谷の「渋谷ユーロスペース」で、日本国内で初めて「イスラーム」をテーマにした映画祭が開かれます。上映されるのは、劇場未公開作も含め全9作品。

初めての開催とあって、芸能界や著名人からも反応は続々。エジプト出身のタレント、フィフィさんがTwitterで「本当のイスラームを知るために」とお勧めしたり、大竹まことさんが文化放送のラジオで取り上げたり、期待が高まっています。

パリやアメリカでのテロなどイスラム国に絡むニュースを見ない日はなく、ともすれば「イスラーム」に対して偏見に満ちた語り方も散見されます。そんな今だからこそ、映画を通してイスラームの文化や歴史に触れてみませんか。

先行公開!『禁じられた歌声』"赦し"とは何か。

映画祭のオープニングを飾るのは、世界遺産にも登録されているマリ共和国の古都ティンブクトゥの美しい砂の町を舞台にした『禁じられた歌声』(2014年/フランス=モーリタニア)です。12月26日からの一般公開に先駆け、上映が実現しました。

禁じられた歌声

(c)2014 Les Films du Worso (c)Dune Vision

あらすじ

ティンブクトゥからそう遠くないある町で、少女トヤは父キダン、母のサティマ、そして羊飼いの少年とつつましくも幸せな生活を送っていた。しかし、町はいつしかイスラム過激派に占拠され、音楽や煙草、サッカーさえもが禁じられてしまう。不条理な懲罰が人々を苦しめる中、トヤの家族はティンブクトゥに避難するが、ある出来事を境に彼らの運命は大きく変わってしまう……。

「セザール賞」で最優秀作品賞を受賞した期待作

音楽を心から愛する家族が非暴力で抵抗する姿を真摯に描いた今作は、シャルリー・エブド事件が起きた1ヶ月後に、フランスの最も権威ある映画賞「セザール賞」で最優秀作品賞ほか7部門を獲得しました。

弾圧する側の過激派も、人物像を一人一人丁寧に描いているのが特徴で、世界に悲劇をもたらすものは何か、悪とは何か――そして“赦し”とは?というアブデラマン・シサコ監督の問いかけが胸に刺さります。「世界が今、冷静さを取り戻すためにも必要な作品」(「イスラーム映画祭」公式Facebookより)です。

禁忌の豚をめぐる大騒動『ガザを飛ぶブタ』

オープニング作品以外にも、いくつかお勧め作品を紹介しましょう。まずは、イスラームで禁忌とされる豚をめぐって繰り広げられる痛快コメディ『ガザを飛ぶブタ』(2010年/フランス=ベルギー)です。

ガザを飛ぶブタ

あらすじ

パレスチナ人の貧しい漁師ジャファールは、ある日、豚を引き揚げてしまい驚く。当局に知られる前にこの不浄な動物を処分しなければと焦るが、金に困っていた彼は、知人の入れ知恵でユダヤ人女性エレーナに商売を持ちかける。

思わず吹き出してしまうシーンが盛りだくさんのコメディ

ユダヤにとっても豚は禁忌とされます。そんな動物をコメディのネタに使ってもいいの?!と思ってしまいますが、イスラーム映画では「それもあり」。明るくおかしく、思わずふき出してしまうシーンも盛りだくさん、純粋に楽しめます。

一方で、現実のイスラエルとパレスチナの対立は今なお解決の道筋が見えません。特に壁によって封鎖されているガザ地区は深刻で、今のままだと「5年後には人が住めなくなる」との調査結果を国連が発表しています。

15日(火)の上映後には、『ガーダ パレスチナの詩』や『ぼくたちは見た ガザ・サムニ家の子どもたち』の監督で、20年以上現地を取材しているフォト・ジャーナリスト、古居みずえさんをゲストに迎え、トークイベントも。連日こうしたイベントが企画されているのも、この映画祭の特色です。

もしも兄弟が過激思想にそまったら『神に誓って』

親子や兄弟姉妹でも、お互いの心の奥深くまではわからないもの。欧州では移民家庭の若い世代がイスラム国の過激な思想にそまり、家族の間ですら溝ができてしまうケースが社会問題化しています。同じことがイスラム教の国、パキスタンで起こったら?

 

あらすじ

共にミュージシャンの兄弟。しかし、内向的な弟が過激派の思想に染まり、兄は弟を気遣いながらもアメリカへ留学する。ロンドンに住む従妹メリーは英国人の恋人と結婚する予定だったが、それを快く思わない父親に原理主義の村へ嫁がされ……。

歴代興行記録を塗り替えてパキスタンで社会現象を起こした作品

遠く離れた弟のことを心配する兄。しかし、9・11テロが起こり、なんら過激思想とは関係ない兄自身まで、アメリカに渦巻く反イスラーム感情に巻き込まれていきます。重量級の社会派ドラマであるとともにエスニックな音楽に彩られた上質のエンターテイメントでもあり、パキスタンでは歴代興行記録を塗り替えて社会現象にまでなりました。

日本でも、宗教や極端な政治思想にはまり、家族ですら理解できなくなることはあるもの。「過激思想なんて遠い話」と思わず、“身近な家族ドラマ”として見たい1本です。

ちなみに、字幕監修を手がけた元東京外大准教授の麻田豊さんによると、今作のショエーブ・マンスール監督は「パキスタンでも稀に見る人格者」だとか。揺れ動くパキスタン社会に対し、監督は何を想い、映画を通じて何を訴えようとしているのか。麻田さんのトークイベントは13日(月)に開かれます。

イスラーム=中東ではありません『ムアラフ 改心』

イスラームと言えば中東をイメージする人も多いかもしれませんが、実はイスラーム人口の最も多い国はインドネシアで約2億人。東南アジア地域で世界のイスラーム人口の半数近くを占めています。と言うわけで、次は多民族国家のマレーシアから、ヤスミン・アフマド監督の『ムアラフ 改心』(2007年)を紹介します。

あらすじ

父親の虐待から逃れて暮らす敬虔なムスリムの姉妹。小さな町に身を寄せた2人は、時に反発しあいながらも支えあって生きていたが、ある時、華人で敬虔なカトリックの教師と出逢い、お互いの世界観を広めてゆく。

東南アジアを深く知りたい方におすすめの作品

2009年に51歳の若さで急逝したヤスミン監督。遺作となった『タレンタイム』(2009年)は民族も宗教も異なる高校生たちが恋や死、家族と向き合いながら、音楽コンクールの決勝を目指す姿をみずみずしく描き、世界中で喝采をあびました。

自身も敬虔なムスリムだったヤスミン監督は、第5作目の今作でも宗教の異なる者同士の心の交流を淡いユーモアをたたえながら描き、“人を赦す大きな力の源”を謳いあげます。

地理的にも文化的にも近い東南アジアを深く知るためにもぜひお勧めの1本。なお、『タレンタイム』は来年、劇場公開される予定です。

恋は宗教の壁を越えて……『二つのロザリオ』

最後は、トルコの歴史都市イスタンブールを舞台に描かれる、イスラームとカトリックの男女の恋物語『二つのロザリオ』(2009年/トルコ)です。

 

あらすじ

モスクで礼拝の時刻を告げる仕事に就いた素朴な青年ムサ。彼は隣に住むカトリックの女性クララに恋をするが、告白することができない。ある日、ムサはイスタンブールに長く暮らしている古書収集家の老人と出逢う。

イスタンブールを舞台にした恋物語

古くはローマ帝国、またオスマン帝国の首都として栄え、キリスト教にとってもイスラム教にとっても大切な古都であるイスタンブール

ただし今ではトルコ国民の99%はムスリムで、伝えたくても伝えられない青年ムサの恋心は宗教の壁とさりげなく重ねられています。ムサの誦するアザーン(礼拝への呼びかけ)は切なくもどかしく胸をしめつけ、見事の一言。アジアとヨーロッパの文化が交錯するイスタンブールの風景の美しさにも、きっと息を飲まれることでしょう。

親日国としても知られるトルコ。現在はイスラム国やロシアとの関係で混乱する中東問題の真っただ中にいますが、一日も早く平穏が訪れることを願ってやみません。

ほか4作にも注目!ぜひ全9作コンプリートを

映画祭では、これまでに紹介した作品以外にも、『禁じられた歌声』の舞台と同じマリのトンブクトゥで開催される音楽祭を描いたドキュメンタリー『トンブクトゥのウッドストック』や、確執を抱えた父子のメッカ巡礼の旅物語『長い旅』、厳格なムスリムに嫁いだ女性の自立と成長を描く『カリファーの決断』、イラン製の国際結婚コメディ『法の書』をラインナップ。

また、会場では、特別協賛した旅行カルチャー雑誌TRANSITの提供で、各回上映前に特別編集号「美しきイスラームという場所」から、世界中のイスラームをめぐる数々の写真をスライドショーで流すそうです。

映画祭は18日(金)までの1週間。ぜひ映画を通してイスラームの美しい風景に酔いしれ、文化に触れ、人の心に触れましょう!全9作品をコンプリートしたあかつきには、きっと違った世界が見えてくるはず……。

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  • cozy
    4
    レビュー少なっ! そんなに、地味だったり、アートべったりだったり、とっつきにくい、という事はないです。 アマプラで観れますよ 6/19 2021
  • うらぬす
    3.7
    日常が静かに恐怖と暴力に侵食されていく様子が真に迫っていて、気が滅入る。変に飾らなくとも、明確なビジョンを持ってひとつひとつのシーンを丹念に撮ることで映像に魔力が宿ることを、監督はよく理解していると思う。
  • c
    3.9
    イスラム過激派によって占拠された街では兵士たちが作る新たなルールによって人々の生活は制限され、その支配下に置かれる。音楽・タバコ・サッカーの禁止、服装の規制、怪しいと疑われると武器や携帯は没収される。そこにいる人々の生活や日々の楽しみは理不尽に奪われる。命の安全、人権の保障すらされていない。街の外れにテントで暮らす3人家族(父、母、娘トヤ)を中心に、淡々と街に住む人たちの様子を映す。静かだけど強烈な作品。 過激派の兵士たちが街の人たちと普通に会話する場面があるのはちょっと不思議というか、へえ、と思った。祈りを捧げる場の入り口にいるおじさんに「ここには武器はいらない」と諭されて入るのをやめる兵士たち。思想が違う者同士で一対一で話してるシーンもあった気がする。音楽を奏でる家を探し当てると「神様に捧げた歌」だったと報告する兵士(内容によっては音楽禁止も見過ごされることがある?)。過激派の中にも隠れてタバコを吸う者と、それを黙認する者。事情聴取での、トヤの父の静かな訴え(死は怖くない運命も受け入れるただ死ぬ前に一目娘に会いたい、同じく子どもがいる立場ならこの気持ちはわかるはずだ)に気持ちはわかるとしつつも罰を変えることはしない兵士。 牛を殺された相手に復讐しに行くトヤの父のシーンは凄まじい緊張感。銃声の後の静けさ。美しい陽に照らされて広い川を渡る彼を捉えるロングショットは素晴らしいの一言。オープニングとエンディングの逃げる鹿、それを追う兵士の車と銃、またエンディングのトヤの走る姿も印象的だった。サッカーは禁止されているのでエアでゲームをする人たち、故郷の歌を歌う女性、手作り雑貨の店の女性と踊る男性の姿は、とてもまぶしくてうつくしかった。だからこそ罰を受けるシーンは本当にショッキング……(鞭打ち、『戦場のメリークリスマス』のボウイのように土の中に埋めて頭だけ出した状態で石打ちで死刑、トヤの父と母のラスト) 神の教えに囚われすぎて、ただ目の前にいる人が見えなくなるのはかなしい。行きすぎた正義に固執してしまうと、自分に都合のよく新たな解釈を作り出して、一線を越えてしまう。恐ろしいけどそれって誰でも陥る可能性があると思う。少し前に見た『ラジオ・コバニ』で、コバニの街が解放された後でIS兵士(過激派組織イスラム国)が尋問を受けて「こんな大ごとになるなんて思わなかった、早く家に帰りたい…」と泣き出す場面があって(それはあまりにも無責任では…?)と一瞬びっくりした。でも若者が「洗脳」されることもあるし、若くなくても判断能力がなかったり誘惑があれば道を踏み外す、ゲーム感覚でのめり込むこともあるかもしれない。誤った正義に走らないためにどうしたらいいのか、そのためには「正しい教育」と「確かな正解のない問題を学び続ける姿勢」を大切にしていくしかないんだよなー、とぐるぐると考えた。 GPSという名の牛、男の子
  • クリーム
    3.8
    イスラム過激派に占拠された街で、歌う事、サッカーをする事、服装まで強制される。何でも神にこじつけて制裁をくだす。本当にただ神のせいにしてねじ曲げてしまう。私には、理解出来ない世界。マジでそちら様方の信じる神が存在するなら、まず、イスラム過激派を制裁して頂きたい。こう言う事実を映画として世界に発信するのは、大変危険にもさらされるし、勇気のいる事なんじゃないかと思う。有り難く勉強させて頂いた作品。
  • ゆれる木
    3.3
    サッカー
禁じられた歌声
のレビュー(400件)