前作『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』の徹底考察から引き続き、今回は『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』について、であります。
この第3作が嫌い、という人間が果たしてこの地球上にいるのだろうか?いや、そんな輩はいない!全人類この第3作を愛してやまないはず!という訳で、みんな大好き『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』をネタバレ解説していこう。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』あらすじ
1885年の西部開拓時代にタイムスリップしてしまったドク(クリストファー・ロイド)を救うため、マーティ(マイケル・J・フォックス)は、1955年のドクに助けを求める。鉱山に隠されていたデロリアンを掘り起こし、マーティは単身1885年9月7日の過去へ。いきなりネイティヴ・アメリカンの群れに襲われてしまい、気絶したマーティを救ってくれたのは、自分の祖先にあたるシェイマスとその妻のマギー(リー・トンプソン)だった……。
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※以下、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』のネタバレを含みます
11ヶ月に渡って同時に撮影された『PART2』&『PART3』
「PART2」記事で解説したように、元々『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は過去の1955年、現代の1985年、未来の2015年、そして西部開拓時代の1885年を行き来する壮大なタイムトラベル・ムービーとして企画されていた。しかし、計算すると上映時間が3時間30分に膨れ上がってしまうため、監督のロバート・ゼメキスと脚本のボブ・ゲイルは、「PART2」と「PART3」に分けて製作することを決断する。
しかし完全な続き物の「PART2」と「PART3」の公開時期が空いてしまうと、観客を長い間待たせることになってしまう。それを避けるため、2本分をまとめて撮影するという方法が採られた。
今でこそ「ロード・オブ・ザ・リング」3部作や、「レッドクリフ」2部作など、このような撮影体制をとる映画も少なくないが(2021年に公開がアナウンスされている『アバター』続編も、4作品ぶんが一気に撮影されている)、当時としてはかなり画期的なやり方だったといえるだろう。ロバート・ゼメキスはこんな発言をしている。
3本をまとめて見ると、それぞれが影響しあっている。「PART2」の最後で未解答の疑問をいくつも残すというリスクを犯したが、「PART3」で全てが解決する。それが「PART3」を「PART2」の6ヶ月後にリリースしようと計画した理由の一つだ。丸々一年も待たせるのは観客に失礼だと思ったんだ
(『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』パンフレットより抜粋)
撮影は11ヶ月にも及び、ほぼ休みなし。「PART3」を撮影している間に「PART2」を編集するという超過酷スケジュールで、スタッフ&キャスト共に疲労困憊状態。しかし結果的に1,000万〜1,500万ドルの節約に繋がったという。
この撮影期間中に、主演俳優マイケル・J・フォックスは父親の死と息子の誕生を経験している。彼にとっては、実生活においても波乱万丈な11ヶ月だったのだ。
『荒野の用心棒』、『駅馬車』、『続・夕陽のガンマン』…西部劇へのオマージュに溢れた「PART3」
「PART2」は、現在・過去・未来の時制がせわしなく変化するが、「PART3」は、ほぼほぼ1885年を舞台にした西部劇。そしてこの映画には、全編に渡ってクリント・イーストウッド主演の西部劇『荒野の用心棒』(1964)へのオマージュが捧げられている。
開拓時代にタイムスリップしたマーティが名乗る名前が「クリント・イーストウッド」だし、マーティがポンチョの下に鉄板製防弾チョッキを仕込むのは『荒野の用心棒』をパロったもの。そもそも、「PART2」で大富豪ビフが入浴しながら観賞している映画が『荒野の用心棒』だからして、実は前作から周到に前フリされていた訳だ。
イーストウッド繋がりでいうと、マーティが1885年にタイムスリップするドライブインシアターには、無名時代のイーストウッドが出演した『半魚人の逆襲』(1954)と『世紀の怪物/タランチュラの襲撃/TARANTULA!』(1955)のポスターが貼ってあるし、マーティが鏡に映った自分に銃を向けて「Go ahead. Make my day」(撃ちな。遠慮は無用だ)というセリフは、『ダーティーハリー4』の有名なパンチライン。だからという訳でもないだろうが、「PART3」は、イーストウッド監督・主演の「ペイルライダー」のロケ地と同じ場所で撮影されている。
もちろん、『荒野の用心棒』以外のオマージュもてんこ盛り。1885年にタイムトラベルする直前にマーティがつぶやく「ハイヨー、シルバー!」は、アメリカで絶大な人気を誇る西部劇『ローン・レンジャー』のセリフだし、ネイティブ・アメリカンに追われた後に騎兵隊に遭遇するシーンは『駅馬車』(1939)のパロディ。首吊り縄を銃で撃ち落とすシーンは、『続・夕陽のガンマン』(1966)のオマージュだろう。
老人たちが酒場でポーカーに興じるシーンには、『黄色いリボン』(1949)のハリー・ケリー・ジュニア、『ダンディ少佐』(1965)のダブ・テーラー、『ミネソタ大強盗団』(1972)のマット・クラークと、往年の西部劇役者たちが大挙出演。
マーティが線路に沿って歩いてゆき、駅に着くとカメラがゆっくりと上昇して町全体の全景が映る場面は、名作『ウエスタン』(1968)で主人公ジル(クラウディア・カルディナーレ)が駅に到着したシーンの撮り方と全く一緒だ。
「PART3」に横溢する西部劇オマージュを発見するのも、映画ファンならではの楽しみ方と言えるだろう。
クララ役メアリー・スティーンバージェンが起用された理由とは?
「PART1」、「PART2」でマーティの物語をあらかた語り尽くしたと考えていたゼメキス&ボブ・ゲイルは、「PART3」の中核にドクを据えようと考えた。「PART2」で「行けるものなら西部開拓時代でのんびり過ごしたい」と語っていたドクが、1885年に大活躍するというのは理にかなった展開だ。さらにゼメキス&ボブ・ゲイルのコンビは、女性教師クララ・クレイトン(メアリー・スティーンバージェン)という新キャラクターを登場させることで、時空を超えた恋愛の要素を「PART3」に組み入れる。
恋愛沙汰には全く興味のなかったドクが、1885年に最愛の女性と出会ってしまったら? 愛する人を置き去りにして、現代に戻らざるを得ない状況になったとしたら? 映画は俄然ラブ・ロマンスの色合いを濃くするだろう。
その展開は、ジョン・フォード監督による西部劇の名作『荒野の決闘』(1946)に通じるもの。この映画もまた、保安官ワイアット・アープが、友人ドク・ホリデイを追いかけてやってきた美しい婦人クレメンタインに対して、決して許されぬ恋慕の情を抱いてしまう物語なのだから。その証拠に、お祭りのシーンでは『荒野の決闘』の主題歌『いとしのクレメンタイン』が演奏されている。
運命の女性役にメアリー・スティーンバージェンを起用するのは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」スタッフたっての希望でもあった。彼女の映画デビュー作『ゴーイング・サウス』(1978)が、そもそも西部劇をモチーフにしたコメディ。しかもこの映画で、彼女はクリストファー・ロイドとすでに共演を果たしている。そして2本目の出演作『タイム・アフター・タイム』(1979)は、H・G・ウェルズがタイムマシンを発明するタイムトラベルもの。この映画で彼女は、19世紀のタイムトラベラーに恋をする20世紀の女性エイミー・ロビンスを演じている。
西部劇とタイムトラベル映画に出演を果たしているメアリー・スティーンバージェンほど、『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』のヒロインにふさわしい女優はいないのだ!
『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』トリビア
ではそれ以外に、『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』に関するさまざまなトリビアを紹介していこう。
ユニバーサル75周年ロゴ
オープニングに登場するユニバーサル映画のロゴ。実はコレ、75周年の特別バージョン。ゼメキスたちは3部作を統一するために通常バージョンを主張したのだが、スタジオ側の意向で「PART3」だけ異なるロゴとなった。
ドクの祖先はロケット開発科学者?
「自分の祖先の姓はエメット・ブラウンではなく、フォン・ブラウンだった」とドクが述べるシーンがある。これは、有名なロケット開発のドイツ人科学者ヴェルナー・フォン・ブラウンのことを指していると思われる。
編集者M. R.ゲイル
1885年のヒルバレー紙の編集者の名前が、M. R.ゲイル。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの脚本家ボブ・ゲイルの名前をもじったもの。
ズボンを穿いているかどうかチェック
寝込んでいるマーティが今までのことを夢だと思って語っていると、そばにいた人は母親ではなく、驚いて飛び起きる……というのは、シリーズ共通の鉄板ネタ。今回も、1885年のマクフライ牧場にいることを知って飛び起きる。毎回パンツ姿で起きているためか、今回はズボンを穿いているかどうかチェックしている様子が伺える。
ロナルド・レーガンが町長役で出演?
もともと映画俳優だった第40代アメリカ大統領ロナルド・レーガンは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズの大ファン。それならと、スタッフはレーガンにヒューバート町長役のオファーを出したという。残念ながら出演は実現しなかったが、それにしてもトンでもないキャスティング!
ジョーンズ肥料
ビフが毎回肥料の中に頭を突っ込むのも、シリーズ共通の鉄板ネタ。今回も「A.ジョーンズ」と書かれた肥料ワゴンの中に頭を突っ込むことになる。ちなみに「PART1」の肥料トラックの名前には「D.ジョーンズ」と書かれていた。どうやらこの町の肥料は、代々ジョーンズ家がまかなっているらしい。
今なお愛され続ける「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズ
第1作が公開されてから35年という歳月を経た今なお、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は多くの映画ファンから愛され続けている。
最近でもYouTube番組『Reunite Apart』に、マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、リー・トンプソン、メアリー・スティーンバージェン、エリザベス・シュー、監督のロバート・ゼメキス、脚本家のボブ・ゲイル、作曲のアラン・シルヴェストリ、そして主題歌を担当したヒューイ・ルイスが結集し、ファンを熱狂させた。シリーズは「THE END」を迎えても、ファンの熱が「THE END」を迎えることはないのである。
しかし残念ながら、そろそろこの記事は「THE END」を迎える必要がありそうだ。最後に、映画のこのセリフをもって結びとしよう。
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未来は自分でつくるのだ。君らもいい未来をつくりたまえ
(エメット・ブラウン博士)