観る者の「愛の価値観」を揺さぶる――鮮烈な傑作『MOTHER マザー』

実際に起こった「少年による祖父母殺害事件」をモチーフに、『さよなら渓谷』などで知られる実力派・大森立嗣監督が、長澤まさみを主演に迎えて生み出した映画『MOTHER マザー』(7月3日公開)。観る者の心に強烈な爪痕を残す、恐るべき骨太作だ。

今回は、大いに話題になるであろう本作の魅力を、3つのポイントでご紹介する。

これまでにない「親子」の関係性

本作が持つ衝撃性――。それは、「親子」の概念を粉々に破壊する点にあるだろう。生まれた時から母親・秋子に使われ、金の無心や犯罪に加担させられてきた息子・周平。しかし2人の間には、常人には理解できない「愛」を超えた「絆」があって……。母親との関係性が、どうやって「殺人」へとつながっていったのか。その真実を目にするとき、得も言われぬ激情がこみ上げてくる。

本作は、単なる犯罪映画ではない。秋子と周平、2人のラブストーリーでもあるのだ。

  • ■秋子と周平の関係性が、最後まで紛れもなく家族の形をしているのが苦しかった。(かしわばらさん)
  • ■“母子”という 誰も立ち入ることのできない聖域の闇と神々しさを思い知らされる。(nori8さん)
  • ■ どれだけ体が大きくなって成長しようが、母親は周平にとってどこまでいっても「親」であり、「社会」であり「世界」なんだなって..。(ひろちゃんさん)
  • ■ 共依存になる程の愛。それが歪んでいてお互いを苦しめていたとしても2人を繋ぐ絶対になってる。(オガワさん)

全身にまとう狂気――長澤まさみの新境地

一言では表現しつくせない強烈な母親に扮したのは、長澤まさみ。まず間違いなく、彼女のキャリアの中でも代表作となるであろう狂気の怪演ぶりで、観る者の度肝を抜く。冒頭の「息子の膝をなめる」鮮烈なシーンから、周平を時に恫喝し、時にはすがり……。究極に生々しい姿で、戦慄させることだろう。

生きるために男を次々に誘惑するファム・ファタル的なただれた色香を放ち、ラブシーンや暴力シーンにも果敢に挑戦。女優・長澤まさみのイメージは、本作を観る前と見た後では180度変わるに違いない。

  • ■ まず長澤まさみの演技力に脱帽。(mamiさん)
  • ■ ポジティブで天真爛漫… そんなイメージが定着しつつあった 女優・長澤まさみが 明らかに殻を破って進化した。(nori8さん)
  • ■ 秋子役の長澤まさみさんは狂気をはらみながらも、「女」の顔が美しく、男が惹かれるのも無理はないと思わせる表情がさすがだと思う。(ぎーこさん)
  • ■ここまで不快に思うのは、長澤まさみさんの演技力ゆえ。
    無邪気な笑顔からは想像のつかない新たな一面を見てしまいました。(mmmさん)

大森立嗣監督&スターサンズの強力タッグ


まほろ駅前多田便利軒』『さよなら渓谷』『タロウのバカ』……不格好で痛々しく、間違ってしまう人間の本質を、鋭く見つめ続けてきた大森監督。本作では、彼の突出した洞察力がえぐるようなエネルギーとなって、波のように押し寄せてくる。観たことがない、だが確かに人間の内に存在する、感情の“核”とでもいうべきもの――。その熱が、どっしりと構えたカメラワークのなか、胎動しているのだ。

本作の制作・共同配給を担当したスターサンズにも、注目したい。『新聞記者』『宮本から君へ』『愛しのアイリーン』『あゝ、荒野』など、攻めた作品を続々と世に放ってきた同社が手掛けたならば、突き刺さる鑑賞体験は約束されたようなもの。大森監督とのコラボレーションによって、その期待を十二分に上回る作品が出来上がった。

  • ■起こした罪を問う作品ではなく 何がそこまで母子を追い詰めたのか? “狂気のマザー”秋子とは何者なのか? 126分、ひたすらその心象に 光をあてて描ききっている。(nori8さん)
  • ■ 凄く心臓がひりひりする作品だった……最高じゃん……。(真山さん)

 

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MOTHER マザー』は、我々が持っている固有の価値観に挑戦する映画だ。愛、家族、幸福、倫理や道徳――。そのどれもが、秋子と周平の前では意味をなさない。彼らがスクリーンに描き出すそれらの“色”は、私たちとは根本から異なっている。ゆえに、本作を観終えた後はショックで打ちのめされ、なかなか言葉が出てこないだろう。ただそれは、豊かで、刺激的な映画である証拠だ。覚悟して、劇場に足を運んでほしい。

◆『MOTHER マザー』information

あらすじ:男たちとゆきずりの関係をもち、その場しのぎで生きてきたシングルマザーの秋子は、実の息子・周平に奇妙な執着を見せる。母からの歪んだ愛しか知らず、翻弄されながらも、応えようとする周平。彼の小さな世界では、こんな母親しか頼るものはなかった。
やがて身内からも絶縁され、次第に社会から孤立していく中で、母と息子の間に生まれた“絆”。それは成長した周平をひとつの殺害事件へ向かわせる——。

上映時間:124分
公開日:2020年7月3日(金)公開!
配給:スターサンズ、KADOKAWA
公式サイト:https://mother2020.jp/
(C)2020「MOTHER」製作委員会

 

【執筆:SYO】

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