公開前に大炎上した『不屈の男 アンブロークン』は本当に反日映画なのか?

俺は木こりだいい男よく眠りよく働く

谷越カニ

不屈の男 アンブロークン

2014年、人気女優アンジェリーナ・ジョリーが監督した『Unbroken』がアメリカで公開されました。賛否あったものの、大人気女優の監督作ということで注目を集め、映画ファンは日本での公開を待っていたのですが…

2015年、週刊文春による「反日映画」のレッテル貼り記事がきっかけで大炎上。日本兵の食人描写があるとか、国辱ものだとか。誰も本編を見ないうちに噂が噂を呼び、どの配給会社も映画を買い付けることはありませんでした。業界がネットの声に負けたのです。

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しかし、2月6日に『不屈の男 アンブロークン』というタイトルでまさかの日本公開が決定!噂された内容は本当だったのか、アンジーが伝えたかったメッセージとは何なのか?徹底解説します。

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あらすじ

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1936年、5000m走のアメリカ代表としてベルリン・オリンピックに出場した青年ルイス・ザンペリーニ(ジャック・オコンネル)。1940年の東京オリンピックでの大活躍を目指していましたが、日中戦争の影響で日本が開催権を返上し、中止になってしまいました。

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米陸軍航空隊に入隊した彼が乗った爆撃機が太平洋上に不時着、47日間の漂流の末に日本海軍の捕虜となり、捕虜監視員のワタナベ伍長から酷い虐待を受けることになりました。彼を陸上選手として育て上げた兄の「耐え抜けばやれる。自分から挫けるな」という言葉を思い出しながら。

なぜ『Unbroken』は炎上したのか

『Unbroken』が週刊誌、ネットで炎上した理由は以下の3つ。

1.日本軍によるルイス・ザンペリーニへの執拗な虐待描写が日本人を侮辱している

2.ポスターが反日的

3.日本軍によるカニバリズム描写がある

それでは、一つ一つ誤解を解いていきましょう。

1.日本軍によるルイス・ザンペリーニへの執拗な虐待描写が日本人を侮辱している

これはアンジーがルイス・ザンペリーニをどのように描きたかったのか、何を象徴させたかったのか、という点を考えればわかります。本作のテーマに繋がる話のですので、後述します。

2.ポスターが反日的

ザンペリーニの目元に赤い日本列島を配置し、まるで血の涙のように解釈できるポスターが反日的だ!と散々騒がれていましたが、このポスターはアメリカの一般人が作ったファンポスターであり、公式ポスターではありません。

3.日本軍によるカニバリズム描写がある

そんなことはしない!とか、国辱的な描写だ!などという反応がありましたが、このような描写は本作にはありません。なぜなら、ザンペリーニとは全く関係ない話だからです。

ではなぜ騒がれたのか?それは映画の原作本に小笠原事件、九州大学生体解剖事件に触れた一文があったからです。どちらも実在の事件ではありますが、ルイス・ザンペリーニは目撃者でも被害者でもないので、本作では一切触れられません。

アンジェリーナ・ジョリーは何を伝えたかったのか

本作は三部構成になっています。

1.ザンペリーニのアスリートとしての成長

2.ザンペリーニが乗っていた爆撃機が海上へ不時着、47日間の漂流

3.虐待の日々と勝利

中盤から終盤にかけて延々と続く虐待シーンがあまりにも長く凄惨であることが日本人へのマイナスイメージを植え付けるのではないか、という主張が大きかったようです。実際、映画を見た人たちの感想は虐待シーンへの言及にとどまっていました。

しかし、注目すべきは第二部。ザンペリーニの47日間にも及ぶ漂流をじっくりと映しています。この意味は何なのか?読み解く鍵は、なぜ彼は漂流するような事態に陥ったのか、ということです。

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漂流も虐待も、戦争が生み出したものです。戦争がなければ彼はトップアスリートとして1940年東京オリンピックに出場し、メダル争いをしていたはず。彼はアスリートとしての人生を戦争に打ち砕かれます。

虐待の加害者であるワタナベ伍長は冷酷非情な人物として描かれますが、クライマックスにザンペリーニがワタナベ伍長の家族写真を見つめるシーンがあります。これこそアンジーが本作を通して伝えたかったメッセージなのです。

つまり、戦争を憎んで人を憎まず。

「神がキリストにおいてあなたがたを赦してくださったように、互いに赦し合いなさい」

というキリスト教の教えに従って許す物語だったのです。

ザンペリーニは立っているのもやっとの状態になるまで衰弱しますが、その状態で重い木材を持ち上げ天に掲げるよう命じられます。

普通に考えれば無理な話。しかし彼は見事にやってのけ、ワタナベ伍長に勝利するのです。その姿はキリストの処刑と復活を連想させます。アンジーはザンペリーニをキリストとして描いていたのですね。日本軍はキリストを迫害したローマ帝国でしょうか。

戦後、ザンペリーニは彼を虐待した日本兵と後に再会しており、1998年には長野オリンピックの聖火ランナーを務めています。赦しの教えを体現する存在だったのです。アンジーが彼を通してキリスト教の教えを説いたのは不思議なことではありません。

ただ、虐待シーンについての指摘にも一理あります。とはいえ過剰だとは思いました。数々の名監督とコンビを組んだアンジーは彼らから多くを学んだのでしょうが、監督としての経験の無さがアメリカでの賛否両論に繋がっているのでしょう。

日本では2月6日に全国公開されます。どのような反応が見られるのか、楽しみです。

2016年2月、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!

監督:アンジェリーナ・ジョリー
原作:ローラ・ヒレンブランド
脚本:ジョエル&イーサン・コーエン、リチャード・ラグラヴェネーズ、ウィリアム・ニコルソン
撮影:ロジャー・ディーキンス
音楽:アレクサンドル・デスプラ

出演:ジャック・オコンネル、ドーナル・グリーソン、MIYAVI、ギャレット・ヘドランド、フィン・ウィットロック

www.unbroken-movie.com2014年/アメリカ/カラー/137分/PG-12

(C) 2014 UNIVERSAL STUDIOS

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※2020年9月22日時点のVOD配信情報です。

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    4.4
    感動した。 第二次世界大戦で日本軍と戦った元オリンピック選手で米軍兵士の物語だ。 走るのが好きな自分は凄く感情移入出来た。 自分はMIYAVIのファンでもなんでもないけどサディストっぽい表情や挙動が抜群に良かった。 実はMIYABI演じた悪役の渡邊伍長は実在の人物でYoutubeに動画まである。喋り方といい確かにコンプレックスが強そうな人物ではあった。 戦後は戦犯として裁かれるのが怖くて山に長いことこもってたらしい(それを出来る根性は普通に凄いと思うが) ちなみに彼は手記も出してる。 で、捕虜を虐待するものだから同じ収容所にいた他の日本人からも嫌われていたそうだ。 肝心のジャック・オコンネル演じる主人公、ルイス・“ルイ”・ザンペリーニの証言は色々検証していくと結構ずれてたりするらしい。 ただ爺さんの昔話と考えたら部分的に間違ったりするのは無理ないと思うけどなあ… 人間は細かく全てを記憶できるわけじゃないんだから。 あとオリンピックまで出た人が大嘘つきだとは俺は思えない。 多少映画的な脚色はあるもののほぼ実話だろう。 冒頭の爆撃機パートも凄まじい映像で第二次大戦の空中戦の恐怖が良く描かれていた。少し前に公開してたミッドウェイよりよほど良い出来。 ただこの映画は捕虜になってからが本番だと思う。 漂流シーンがいくらなんでも長すぎる。そこは短くして欲しかったな。 重い木材を持ち上げるシーンは鳥肌立つくらい良かった。 あそこがこの映画のピークだよね。 それにしても一体どこが大騒ぎされたほどの反日映画なのかさっぱりわからない。 日本軍の捕虜は全員5つ星ホテルに泊まれてメイドでも付くと思ってんのかな。戦争中に。 日露戦争の頃と違って捕虜を優遇する余裕が最前線にいるストレスだらけの将兵にあるわけないことくらい少し想像力を働かせたらわかりそうなものだけどな… 何なら戦争なんてしてなくても虐待や虐めなんて毎日日本で起きてるのにね。学校でも家庭でも。 この程度の内容で反日だとか言ってるバカは日本人全員が聖人君子だとでも思ってんのだろうか。 平和な現代ですら自国内で毎日のように犯罪が起きてるのに何で戦時中の日本兵は清廉潔白な模範的人物しかいないと思えるんだろう。 どういう思考回路? 中学時代を想像して欲しい。たった30~40人の生徒ですらそれぞれ全然違う性格をしていたではないか。 どうして陸海合わせて300万人以上もいた日本軍が全員ロボットみたいに一律で同じ性格だと思えるんだろう… そりゃ良い奴も沢山いるし悪い奴も沢山いるという話だ。 この程度でわざわざ公開中止だとか言って大騒ぎしてるから日本じゃオッペンハイマーの公開日すら中々決まらないのだろうな。 ところでこの映画の原作では日本兵が人肉食う描写があるらしい。 映画内にそんな描写はないものの、公開前にこの映画が騒がれていた理由の一つがそれだ。 だが小笠原事件のように余興で捕虜の肉を食べた実例もあるし、ゆきゆきて神軍で元日本兵が語ったようにレイテ島でも人肉を本当に食べ生き延びたようなケースもあるだろう。 だったらあながち大嘘でもないと思うんだよなあ… 俺は原作読んでないが。 まあ日本人が少しでもマイナスに見えるようなものには過剰反応する頭の悪い人間がいるということだろう。 こういう人種こそ真に日本の恥だと俺は思う。 アンジーは素晴らしい仕事をした。
  • Makoto
    3.5
    実話、当時は酷いことしてたな。
  • TAKUSHI
    4
    これのどこが反日映画なのか。立派な反戦映画じゃないか。脚色はあると思うけど、日本描写はしっかりしてて丁寧なつくりだと思ったし、タイトル通りの不屈の男っぷりには熱くなったよ。漂流シーンも見応えがあったな。
  • かたゆき
    3
    ルイ・ザンペリーニ、またの名を不屈の男――。 第二次大戦前夜、ベルリン・オリンピックにも出場したトップ・アスリートの彼は、次の東京オリンピックでのメダルを目指し練習を重ねていた。 だが、そんな充実した彼の人生にも時代の荒波が押し寄せてくる。 突如として日本が真珠湾を攻撃し、アメリカは戦時体制への移行を余儀なくされたのだ。 兵士として太平洋戦線へと送られた彼は、大日本帝国を相手にいつ終わるとも知れぬ戦いの日々を過ごすことに。 そんな彼を新たな悲劇が襲う。 ある日、乗っていた飛行機が故障し、広大な太平洋上に不時着してしまったのだ。 見渡す限り何もない洋上で、二人の仲間と共に小さなゴムボートでただひたすら漂流を続けるルイ。 食料も水も底を尽き、来る日も来る日も波に揺られ続けるという極限状況に次第に心が挫けそうになりながらも、ルイは神に縋ることで何とか理性を保っていた。 すると、そんな彼の願いが聞き届けられたのか、とうとう彼らは陸地へと辿り着く。 だが、そこに掲げられた旗を見てまたもや絶望に打ちのめされるのだった。 何故ならそこには立派な日の丸が描かれていたから……。 どんな状況でも決して挫けず常に前を向いて生きてきた男の生涯を、実話を基にして描いた伝記ドラマ。 アンジェリーナ・ジョリーの監督二作目にして一部で内容が反日的だとして話題になっていた本作、いやいや別にこれくらい普通ですやん。 これで反日なら、ナチスを扱った映画など全て反ドイツ映画になっちゃいますって。 まあ騒いでいるのは一部の人たちなんでしょうけど。 肝心の内容の方なのですが、ストレートな脚本ながら最後まで一気に見せきったところは素直に評価されてしかるべきでしょう。 事実の重みも相俟って、この〝不屈の男〟ルイの波乱万丈の生涯といついかなる時も希望を見失わなかった生き様にただただ圧倒されるばかりです。 最後、長野五輪で多くの日本人に声援を送られながら走る実際の映像など、同じ日本人なら誰もが何かしら思わずにはいられない。 ただ、本作には極めて致命的な欠点が一つ。 それは、「人間を全く描けていない」ということ。 例えば主人公、どうして彼がそこまでの愛国心を抱き、生への希望を捨てなかったのか、その理由が一切描かれていないのです。 だから、この主人公はほとんど泣いたり怒ったりしません。ただ淡々と困難を乗り越えてゆく。 なので観客である僕たちも特に心を動かされることもない。 意図してそう描いたのかもしれませんが、映画としてこれは大きなマイナス・ポイントと言わざるを得ないでしょう。 それは、捕虜となったアメリカ人や冷酷な渡辺軍曹以外の日本兵にも言えることです。 まるで書割に描かれた絵のようにしかそこに存在していない。 これは監督の資質によるところが大きいのかもしれません。 優れた監督は、脇役の一人一人にまで人間性を与えるものです。 史実を知るための再現ドラマとしてはそこそこよく出来ているがそれだけ、というのが僕の率直な感想です。
  • sayaka
    4
    コールドプレイの曲からこの映画を知り、見て良かった作品です。
不屈の男 アンブロークン
のレビュー(2742件)