ミシェル・ゴンドリーの新作MV『GO』からかすかに漂うジョルジュ・メリエスの香り

俺は木こりだいい男よく眠りよく働く

谷越カニ

『エターナル・サンシャイン』『グリーン・ホーネット』などで知られるフランス出身の映画監督ミシェル・ゴンドリー

彼が監督したイギリスのテクノユニットThe Chemical Brothersの最新曲『GO』のMVが5月4日に公開され、話題になっています。ただ、そのMVがちょっとヘンなんです。何がヘンなのか、何に似ているのかを書いてみます。

編集がなんかヘン

まずはMVをご覧ください。

 

 

相変わらずカッコいいです。音と映像のシンクロが相変わらず見事…あれ?何かヘンです。

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たとえば1:01頃のこの場面。バーを回転させているのですが、どうにもスッキリしない編集です。2テイクで撮影していることがバレバレで、違和感がある。もっとスムーズに映像をつなぎ、一連に見せることは可能なはずです。

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続いて1:11頃のこの場面では2本のバーをクロスさせ、それぞれを反対方向に回しているんですが、スムーズに見せる気は完全にありません。カットの始まり部分のダンサーの動きが遅いんです。歩き出しのノロさを隠すつもりがないというのがよくわかります。

なんでこんな編集をしているんだろう?明らかにわざとヘンなつなぎ方をしているのは何故だろう?と考えた時、そういえばこんな感じの編集をどこかで見たことがあることに気が付きました。

それは、あのジョルジュ・メリエスの作品です。

世界初の職業映画監督 ジョルジュ・メリエスと『GO』の共通点

メリエスの作品で一番有名なのは『月世界旅行(1902)』という作品です。ポンキッキでガチャピンとムックがパロディをやっていたので、見たことがある人が多いのではないでしょうか。

彼は元々マジシャンで、映画をショーの幕間で使うために映画製作に乗り出しました。次第に映画の魅力に取りつかれ、数々の映画を監督するようになります。マジシャンの視点から数々の技法を発明し、世界中で彼の映画は大流行するんです。

彼の作品のひとつ『常識はずれの新たな争い(1900)』を見てみましょう。

 

 

女性がボクサーに変身したり、メリエス演じるハゲボクサーが敵をぐるんぐるんと振り回したり、ハゲ頭がとれちゃったりする楽しい映画なんですが、編集がスムーズじゃないでしょ?「あ、繋がり方が微妙だ」と思いますよね。

メリエスは映画をマジックショーの一部に用いました。マジックは観客を驚かせてナンボ。そこで彼が編み出したのが「止め写し」という技法です。いわゆるカメラ内編集のことで、トリックの前後が繋がっているように見せるための技法なんですよ。

役者は前後をつなげるために同じポーズを取るわけですが、全く同じポーズを取ることはできません。そのため、腕の位置が少し低かったり、違和感があるんです。この違和感は『GO』のつなぎの違和感に似ていると思うんですが…。

今年は映画が誕生して120周年の記念の年です。ジョルジュ・メリエスが映画の楽しさを世界中に広めなければ、映画は今日の繁栄を迎えていなかったかもしれない。ミシェル・ゴンドリーなりのリスペクトを『GO』で捧げたのではないかというのがわたしの考えです。二人とも「映像の魔術師」という異名を持つフランス人ですし、あり得なくもないと思いませんか?

初期映画にスポットライトを!

2012年公開の『ヒューゴの不思議な発明』は3D映画が発明された現代からメリエスへ賛辞を送る内容でしたし、『メリエスの素晴らしき映画魔術』というドキュメンタリー映画も日本で話題になりました。初期映画を代表する映画監督への関心は高まっています。

しつこいようですが、今年は映画が誕生して120周年の記念の年です。記念の時でもなければ人はなかなか過去を振り返らない生き物ですから、もっと初期映画を面白がってみてもいいんじゃないか?とわたしは思います。

初期映画は時間が短くて一度にたくさん見ることができるし、今では考えられない表現技法の数々に腰を抜かす事間違いなしです。ぜひ初期映画をたくさん見て欲しい。ギックリ腰になって欲しいです。

…あ、『GO』は素晴らしいMVですよ。ちっとも古臭くないし。

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