原作・岩井俊二、総監督・新房昭之、脚本・大根仁、制作総指揮・川村元気という、すごい布陣で制作されたアニメーション映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』。
その内容は、時間が巻き戻ったりと不思議な印象のある青春映画となっていました。映画の中にはいろんな違和感があったりするようなので、今回はそんな本作の疑問を解き明かす、知っていると映画がより見やすくなるポイントなどを紹介していきます。
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(2017)あらすじ
海岸沿いの町、茂下(もしも)町。ここに住む典道は、親友の祐介とプール掃除をしに来たところ、プールサイドで、密かに典道と祐介が思いを寄せているクラスメイトのなずなに遭遇する。
水泳の勝負で賭けをする三人だったが、勝負に勝った祐介は、なずなにその晩行われる花火大会に誘われるのだった。
そうとも知らずに放課後、典道は祐介に花火大会に行かないことをなずなに伝言するようお願いされる。事情を飲み込めず、なずなにその事を伝えた直後、実は家出で試みていたなずなは親に捕まってしまうのだった。
「もしもあの時、勝負に勝っていたら……。」
そう考える典道はなずなの持っていた謎の玉を投げたことをきっかけに、水泳の勝負をしていた時間へと戻っていくーー。
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※以下、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』のネタバレを含みます。
「もしも」というキーワード
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』で、キーワードとなるのが“もしも”というフレーズ。典道はなんどもこの“もしも”というフレーズを使って、過去の選択をやり直しますし、典道達の住む町がそもそも茂下(もしも)町という名前になっています。
実はこのフレーズ、何度も登場するのにも理由があります。その理由とは、もともと『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』という作品は、1993年にフジテレビ系の『if もしも』というオムニバス形式で描かれた実写ドラマの作品の一つとして制作された作品だからです。
ドラマの監督、脚本を務めたのは『花とアリス』、『リップヴァンウィンクルの花嫁』、『ラストレター』などを手がけてきた岩井俊二です。ドラマ版は評価が高かったこともあり、長編作品として再編集が行われ、劇場公開もされるほどの作品となりました。
アニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は、この実写版をかなり意識して作られており、セリフやカメラアングル、カット割りなどなど多くの要素をそのままアニメーションに取り入れています。
ちょっと幼いキャラクターの設定
アニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を見ていると、時折、典道たちが子供っぽく見える瞬間があるかもしれません。特に男性陣はすぐに下ネタを口にしたり、あからさまに女性の体を意識していたりと、思春期にしては幼稚すぎる印象があります。実はそれには秘密があり、前述の元となるドラマ版では典道やなずなといったキャラクターたちが小学生として描かれているということがあります。
セリフや展開などを多く実写版の物を取り入れている結果、そんな小学生を想定した演出などがそのままアニメ映画でも典道たちの正確に反映されてしまっています。とは言え、女性に比べると男性の方がいつまで経っても子供っぽい言動をしてしまうのはよくある話。意外と作中で描かれるぐらいの幼なさが、実際の中学生に近いのかもしれません。
映画のタイトルの意味とは?
実はこの映画のタイトルも、ドラマ版の影響を受けています。『if もしも』で描かれるドラマはどれも“AかBか”という二択式のタイトルが選ばれています。意外なことに岩井俊二が書かれている小説ではタイトルが違います。
小説版のタイトルは「少年たちは花火を横から見たかった」。ドラマ版のタイトルは放送当時のルールに合わせたもので、小説版のタイトルが本来岩井俊二がタイトルにしたかったものだったことが、小説版のあとがきで書かれています。
ドラマでは二択が問われる作品だったものの、アニメ映画版では典道はいくつもの時間をやり直すことになります。そう考えると実は、小説版のタイトルの方が作品には合っていると言えるでしょう。
花火は実際に横から見るとどう見えるのか?
そんなタイトルにもなっていて、作中でも何度も繰り返される疑問、「花火を横から見るとどう見えるのか?」。映画の中では、平面に爆発するシーンが描かれたり、はっきりとその答えを明言していなかったりで、本当の答えが気になる人も居ると思います。現実で、花火を横から見るとどう見えるのでしょうか。
答えは丸く見える、が正解。打ち上げ花火は「煙火玉」という紙製の球体を打ち上げて、空中に到達したタイミングで破裂させるという仕組みのもの。玉を中心に放射状に爆発するので、360度どの角度から見ても円状に見えます。
だからこそ、もし水泳勝負に勝ったらと時間をやり直した典道が、平面の花火を見たときに違和感を感じたと言えるでしょう。
ただし、最近は平面に爆発する特殊な形の打ち上げ花火も存在はするので、一概に丸く見えるというのが答えではないようです。映画でははっきりと何が答えか、とは明言しないところに、典道がやり直した世界というのを必ずしも否定はしない、優しさのようなものも感じます。
さり気なく描かれる世界の異変とは
花火の形であったり、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』では、典道が時間をやり直す度に、次々と世界に異変が起こり始めます。周囲の人間の主張が変わっていたり、世界をドーム状に何かが覆っていたりと物語が進んでいく度にエスカレートしていきます。
実は異変の一つに、風力発電のプロペラがあることには気づいたでしょうか。
映画の最初には時計回りで回っていたプロペラですが、典道が玉を投げて時間をやり直して以降、その回転の向きが逆回転になります。そして、典道となずなが電車に乗り、追っ手から逃げ切った世界ではプロペラはついに停止してしまっています。このプロペラの異変からも世界が異変していることがわかります。
そして、このプロペラは映画のクライマックスで再び元の時計回りに戻る瞬間があります。それが、花火師によって時間をやり直すきっかけとなる玉が打ち上げられた時。割れて街を覆うガラス状の物が割れる共に、停止していたプロペラが再び回転を始めます。この時、典道やなずなは元の世界に戻ってきた、という証拠なのかもしれません。
ラストシーンの解釈、二人はどこへ行ったのか
そして、この映画の最大の謎。二人はどこへ行ってしまったのか、疑問に思う人も多いでしょう。映画のラストシーン、典道の学校のクラスが描かれますが、そこにはなずなも典道も居ません。なずなはそもそも転校するはずだったので、これがもし新学期のシーンなのであれば、その場に居ないのはおかしくありません。
しかしここに、引っ越す予定のない典道が、点呼の呼びかけに応じず、そこに居ないのは不自然です。一体どこへ行ってしまったのでしょうか。
その答えは、その直前のなずなとのやりとりにあると言えます。なずなと一緒なら、おかしな世界のままで良いと言う典道に、なずなは泳ごうと海へ誘います。そして、玉の破片にそれぞれの思い描くもしもの世界を眺め、ついに意を決して、典道は海へ飛び込みます。典道はまさにあの瞬間に、なずなと生きていくことを決めたと言えます。
「次会えるの、どんな世界かな? 楽しみだね。」と囁くなずなのセリフの答えこそ、あのラストシーンであり、典道はなずなと共に生きていくことを選んだのでしょう。切ない終わり方も多い、ひと夏の経験の青春物語を描いた作品ですが、二人が結ばれたと言う着地を思うと珍しくこの映画はハッピーエンドで終われた作品ではないでしょうか。
この映画のように、「もしもあの時……」なんてことを思うことは多々ありますが、典道のように思い切った選択をすることで、思ってもみなかった体験が待っているのではないでしょうか。
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様々な解釈ができるような余白として用意されたこのラストシーン。自分はどんな風に感じたか、観た人と語り合うのも面白いかもしれません。果たしてこの後、なずなと典道はどうなってしまうのか。なんて想像をめぐらしていっても面白いでしょう。語りがいのある映画として『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を重ねて何度も観てみてはいかがでしょうか。
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(C)2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会
※2020年8月1日時点の情報です。