『ハウルの動く城』にはあまりにも多くの謎が溢れています。それでありながら、しっかり面白い映画に仕上げているのがまた不思議な魅力を持つ映画です。今回は改めて、『ハウルの動く城』の映画の中では語られていない、謎の数々の答えや手がかりを紹介していきます。
『ハウルの動く城』(2004)あらすじ
亡くなった父の帽子屋を切り盛りする少女ソフィーは、兵隊に絡まれているところを魔法使いのハウルによって助けられます。しかしその夜、そんなハウルを追う荒地の魔女によって、呪いをかけられてしまうのでした。呪いによって老婆の姿になってしまったソフィーは、呪いを解く手がかりを探して、ハウルの住む動く城へと行き着くのだが……。
※以下、ネタバレを含みます。
『ハウルの動く城』の世界はどんな世界?
そもそも『ハウルの動く城』とはどういう世界なのでしょうか。まずは、映画で描かれているソフィーたちの住む世界がどういうところなのかを紹介します。
本作の世界では魔法が発達した世界で、電気よりも蒸気機関が発達した世界です。街を行き交う車も蒸気で動いています。戦争が起こっている様子ですが、明確に誰と誰が、どの勢力とどの勢力が対立しているのかは描かれていません。しかし、映画の最後、ハウルの師匠であるサリマンが戦争に対して動こうとするセリフが用意されています。
しょうがないわね。総理大臣と参謀長を呼びなさい、この馬鹿げた戦争を終わらせましょう。
このセリフからわかるのは、総理大臣と参謀長という存在がおり、戦争になんらかの関わりを持っていること。そしてサリマンはこの戦争を快く思っていないことが分かります。
無事サリマンが戦争の終結に向けて動き出したことでハッピーエンドを迎えたように思えますが、実は戦争はすぐに終結しません。宮崎駿はラストシーンの絵コンテに「とはいえ戦いはすぐには終わらない」という一言を添えており、戦争を終わらせることが簡単なことではないことを示唆しています。
誰と誰の思惑で戦火が降り注ぐのかが分からない、けれども簡単には解決しないという特徴は、まさに現実の戦争の在り方とも似ているでしょう。
カルシファーとは何者だったのか?
『ハウルの動く城』には個性的なキャラクターが多数登場しますが、中でも物語に大きく関わる重要なキャラクターがカルシファー。見た目は炎に目と口がついただけの、どこか可愛さを伴うビジュアルなのですが、本人は悪魔だと名乗ります。カルシファーは、ハウルとの契約内容を見抜いて、束縛を解くようにソフィーに依頼をしますが果たして、その契約とはなんだったのでしょうか。
実はその答えは映画で描かれています。映画終盤、ソフィーは少年時代のハウルに出会います。流れ星が降り注ぎ、ハウルはその一つを手ですくい上げ、飲み込みます。このハウルが飲み込んだ流れ星こそカルシファーであり、このシーンこそハウルとカルシファーが契約をするシーンだったのです。
流れ星たちは、地上に降り立ったと同時に命を失ってしまいます。それを見たハウルは気の毒に思い、星に自分の心臓を譲る契約をします。こうして生き延びたカルシファーは、ハウルに膨大な魔力を与え、城の動力源としてハウルに尽くす存在となるのでした。とはいえ、二人は契約以上の絆を持っており、カルシファーは命を与えてくれたハウルへ感謝しているようです。悪魔とはいえ、よくあるイメージの悪い存在とはないですよね。
ソフィーはなぜ突然若返るのか?
荒地の魔女によってソフィーは呪いをかけられ、老婆の姿に変えられてしまいます。この呪いを解くために、ソフィーは旅に出ることになります。
しかしこの呪い、なんの説明もなく時折解ける場面があります。急に若返ったかと思えば、再びお婆さんの姿に戻ったりします。これは、ソフィーの精神性が影響しています。
消極的で自分の容姿に自信のない普段のソフィーは老婆の姿となってしまうのですが、一方でソフィーが好きなハウルのことを思ったり、自信に溢れる態度になった時に、ソフィーは若い姿に戻ることができていたのです。
最後にはソフィーは若い姿となり、呪いが解けたように思えますが、はっきりとどのタイミングで解けたのかは明らかにされません。カルシファーがハウルとの契約を見抜けば呪いを解くと契約をしていたので、もしかするとソフィーがハウルとカルシファーを救った時に解かれたのかもしれません。
しかし、それをわざわざ明らかにしないのは映画において重要なことではないのかもしれません。『ハウルの動く城』は“老い”も一つのテーマとなっています。老いの呪いは解けたかどうかをはっきりと描かなければ、年齢に固執する荒地の魔女は哀れな姿で描かきます。
そこには、実際の年齢に関わらずどんな年齢でも若々しく生きることができ、老いを恐れなくても良いというメッセージが込められているのかもしれませんね。
ソフィーに秘められた不思議な力とは?
ハウルとカルシファーの契約は、映画のクライマックスでソフィーによって解かれることになります。めでたしめでたしな結末なので、深くは疑問に思わない人も多いと思いますが、本来命を失うはずだったカルシファーも生きており、ただ契約が解かれただけには思えない結末ですよね。
実は、原作となる小説「魔法使いハウルと火の悪魔」では、この結末にしっかりと理由が用意されています。その理由とは、実はソフィーにも本人は知らない魔法の力があるということ。映画では一切明言はされませんが、ソフィーは言霊の魔法を使うことができ、その力で命を与えることができます。これにより、映画のラストで、ソフィーが二人の存命を願ったことでハウルとカルシファーは生き延びたのです。
ではなぜソフィーに魔法を持っていることがわかるようには描かなかったのでしょうか。宮崎駿は後に、「そのルールを逐一説明するような映画は作りたくなかった」(参照:『続・風の帰る場所ー映画監督・宮崎駿はいかに始まり、いかに幕を引いたのか』)と語っています。
一方で、実は映画のソフィーは魔法が使える存在とは描かれていないのではないようにも見えます。魔法のような未知の力で解決する夢物語ではなく、魔法が使えなくても、人間の願いや思いにも魔法のような力があるように語っているようにも見えます。
幻の『ハウルの動く城』とは?
宮崎駿の様々な思惑が巡らされているであろう『ハウルの動く城』。不思議な魅力のある映画でしたが、実は本来は別の人間が監督を予定していたことは有名な話です。その監督こそ『サマーウォーズ』や『バケモノの子』で知られる細田守です。その他にも、脚本には『猫の恩返し』や『映画聲の形』の吉田玲子、作画監督には多くのジブリ作品で原画を担当する近藤勝也の名前が挙がっていました。
途中まで進行していたこの制作体制での『ハウルの動く城』ですが、制作の途中で中止となってしまいます。のちに宮崎駿によって企画が再始動することになります。細田守は当時を振り返って、「もう映画が作れない」というぐらいに落ち込んだことを語っています。幻となってしまった『ハウルの動く城』の制作布陣も、現在のメンバーの活躍を思うと、そのバージョンも観てみたかったという気持ちになりますよね。現在のような謎に 溢れた味わいの『ハウルの動く城』とは全く違った作品になっていたかもしれません。
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※2023年1月6日時点の情報です。