浜辺美波&北村匠海コンビ主演の大ヒット作となった『君の膵臓をたべたい』。本作は、同名の小説が原作となっていたり、アニメーション映画化も果たしていたりと、様々なメディアでも楽しむことができる作品となっています。
知っているとより楽しめる秘密も実は多数。今回はそんな“キミスイ”のいろんな秘密を解き明かしていきます。
『君の膵臓をたべたい』(2017)のあらすじ
高校で国語教師をしている「僕」(小栗旬)は、その寡黙で消極的な性格から、教育者として続けていくことを悩み、机の引き出しには辞職届が控えられていた。そんなある日、勤務先の高校が図書館の老朽化により取り壊されることになり、図書委員の生徒と本の整理をすることになる。実はこの図書館は、「僕」が高校生の頃に図書委員をしていた場所でもあった。
「僕」の12年前の記憶が蘇る……。
盲腸で通院していた時、偶然「僕」(北村匠海)は、同級生でクラスの人気者の山内桜良(浜辺美波)が落とした本を拾う。そこには彼女が膵臓の重い病気と戦っていく上での本音が描かれていたのだ。秘密を知ってしまったことで、「僕」は桜良の願いを聞いてあげることになるのだった。
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※以下、『君の膵臓をたべたい』のネタバレ、また作中に登場する「星の王子さま」のネタバレを含みます。
印象的な「僕」という名前の謎
小栗旬さん、そして北村匠海さんが演じる「僕」。公開当時から、映画の公式サイトではキャラクター名の表記ではなく「僕」という紹介のされ方をされていました。なぜこのような設定になっていたのでしょうか。
まず「僕」が人との関わりを出来るだけ持たないように生きている人物という点があるでしょう。彼自身が特定の誰かではなく、周囲の人間にとっても、その他大勢の一人でしかないといった消極的な意味合いを感じさせます。
そして次に、桜良の書いていた本“共病文庫”で「僕」の名前が伏せられていたという点もあります。共病文庫を読んだ親は、名前の知らない誰かが桜良とかけがえのない体験を過ごしたことを知るわけですが、まさにそれと同じ体験を映画を観ている人がする仕組みになっていたのです。
そして、この物語は「僕」という名前で終わりません。映画の最後に彼の名前が“春樹”であることが明かされます。物語においても、彼が不特定多数の誰かではなく、彼が桜良にとって唯一の存在になっていくことを象徴していると言えます。
「星の王子さま」を読んでいると作品の深みが増す!?
そして、この「僕」という名前にはもう一つ大きな秘密が隠されています。それは作中で桜良が貸してくれる本である「星の王子さま」。この本の内容とも共通する部分が隠されています。
「星の王子さま」の簡単なあらすじを紹介します。
実は「星の王子さま」は飛空士の「ぼく」がサハラ砂漠に不時着するところから物語が始まります。孤独な彼はその砂漠で他の惑星からやってきた王子と出会います。王子はこれまで周囲が理解してくれなかった「ぼく」のことを理解してくれて、いつしかかけがえのない存在となるのですが、砂漠で井戸を発見し壊れた飛行船が直った日、王子は突然別れを告げます。
別れを惜しむ「ぼく」に優しい言葉をかける王子は、ヘビの力を使って砂漠で倒れてしまうと、翌日にはその姿を消しているという物語でした。
実は、『君の膵臓をたべたい』のストーリーの大筋は「星の王子さま」と一緒なのです。飛空士の「ぼく」は春樹であり、星の王子は桜良。孤独な春樹が、大切な存在となる桜良と出会い、それをきっかけに生きるために必要な友人を手に入れて、最後には桜良と離ればなれになる。すでにこの物語の結末が、序盤から暗示されていたわけです。
王子さまとバラのエピソード
もう一つ、「星の王子さま」で王子さまが自分の惑星で出会ったバラとのエピソードも『君の膵臓をたべたい』を思わせる内容があります。
作中では、王子さまがもともと住んでいた惑星の話を語るくだりがあります。王子が一人で住んでいた惑星に見慣れない芽が芽吹き、それを大事に育てた結果一輪のバラが咲きます。王子様はそのバラを大切に思うのですが、程なく失う恐れのある存在であることに気づき、その儚さから、自分の星に残して旅立ってしまうのです。
後々、地球にやってきた王子は、そこで無数に咲くバラを発見します。大切だと思っていたバラはこれほどまでにありふれた存在だったのか、と王子はショックを受けるのですが、地球で出会ったキツネに同じ形であっても、全く違う感情を抱くことはできると諭されます。こうして、王子は惑星に残してきたバラの大きな価値に気づくという話です。
これは「僕」という存在が迎える境遇に似ています。『君の膵臓をたべたい』は無数に居る人間のただ一人であったはずの「僕」が、春樹として価値を見出していく物語でもあります。
もう一度見ると気づく!様々な秘密
映画をよく観てみると、実は、映画の随所にも後のシーンを示唆する出来事やアイテムが隠されています。
例えば、作中の冒頭の授業シーン。作中では本当にわずかなシーンでしたが、実はここで教えている作品の題材が、実は「星の王子さま」になっていました。
また他にも、桜量が亡くなってしまうきっかけとなる通り魔事件も、実は映画の冒頭で桜良が紹介する新聞記事で、事件が頻発していることが示唆されていました。このシーンで桜良が語る「一日の価値は一緒。」という言葉も物語の結末を思うと、強く響いてくる言葉です。
このように『君の膵臓をたべたい』では、随所に工夫がいくつも隠されています。
実写映画の大胆アレンジ!実は原作にあのシーンはなかった!?
こうして工夫に富んだ実写映画『君の膵臓をたべたい』を語る上で、忘れてはいけないのが、実写映画でのみ大きくアレンジした部分があること。なんと、春樹が迎える12年後の世界のエピソードは、原作『君の膵臓をたべたい』には存在しないオリジナルの内容だったのです。
映画のクライマックスとなる結婚式場のシーンや、桜良が図書館に残すいたずらのシーンもこの映画のために作られたものだったのです。ある意味、映画の一番の盛り上がりの場面でもあるので、原作を知らなかった人には驚きの事実ですよね。
当時はまだ若手俳優だった北村匠海や浜辺美波という役者陣にパンチを加えるために、小栗旬や北川景子といった実力派の人気俳優を据えた、という穿った見方もできるでしょう。ですが、それ以上に原作で描いた世界を広げる素敵なアレンジとも受け取れます。
『君の膵臓をたべたい』は実写版の公開の後に、アニメーション映画版も公開されています。こちらは比較的原作の物語を忠実に描いたものとなっています。アニメーション映画『君の膵臓をたべたい』では桜良のキャラクターや、春樹と恭子が最後に迎える結末などに違いがあります。実写映画しか観ていない人も改めて楽しめる内容となっているので、実写映画を観て面白かったという人には、こちらもぜひ鑑賞をおすすめします。
原作、アニメーション映画、そして「星の王子さま」と広がりのある『君の膵臓をたべたい』。この映画との出会いをきっかけに、物語のその広がりや深みをぜひ調べてみるのも良いでしょう。もしかすると、この作品との出会いが、あなたにとってもかけがえのないものとなるかもしれません。
(C)2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (C)住野よる/双葉社
※2020年9月4日時点の情報です。