実は意外と知られていない助監督の仕事。「監督を“助”けるってどういうこと?」今回、東映株式会社 東京撮影所で10年、プロの助監督として活躍されている加藤卓哉さんに突撃インタビュー! 映画を観る視点がグッと深まる全2編のロングインタビュー、まずは前編をどうぞ。
助監督にはチーフ、セカンド、サードがいる。カチンコを打つのがサード助監督
−加藤さん、本日はどうぞよろしくお願いします。はじめに、助監督のお仕事についてざっくり教えてください!
まず、助監督にはチーフ、セカンド、サードという3つのポジションがあります。それぞれの役割をざっくり分けると、チーフは映画製作全体のスケジュールを組む人。セカンドは、撮影現場の仕切りと衣装・メイクなどの役者さんに関わるところを担当する。サードは主に美術や小道具を担当します。
−最初はやはりサードからスタートするのでしょうか?
そうですね。サードからセカンド、それからチーフというように、経験を積んで順番にポジションが上がっていく感じです。
−加藤さんはいまどのポジションを?
僕は助監督歴10年目で、映画ではセカンドを担当することが多いです。小規模の作品ではチーフも担当しています。
−なるほど。ここに置いてあるのは、カチンコですよね!?
そう、これは撮影所の美術さんにいただいたマイカチンコです。
この白黒タイプは東映のもので、東宝さんや他の会社ではまた色がちがうんです。カチンコを打つのは、サードの助監督の仕事なんですよ。鳴らし方にもコツがあって、ここに小指を置いて…こんな風に打ちます!
−いい音ですね!
桜の木でできていて、いい音が出るように考えて作られています。この合図で撮影現場のすべてが始まるわけです。
−サードとはいえ、重要な役割ですね。
初めの頃は、空振りしたり、カメラ前から早く引けなかったり、落としたり、何百回と怒られました(笑) 間違って二度打たないように、打った後は人差し指を挟むんです。二度打ちは「カット」になってしまうんで。黒板スペースには記録さんと確認してシーンナンバー、カット数、テイク数を書きます。
監督は素人でもできる。助監督はプロにしかできない
−カチンコ以外の助監督の仕事について詳しく教えてください。
助監督は端的に言うと、人を動かす仕事です。というのも、僕ら助監督は武器がないパートなんですよ。撮影部はカメラがあるし、照明部は照明があって、でも助監督には何にもない。
−それで助監督の仕事はイメージがしづらいのかもしれません。
強いていえば、台本とコミュニケーションですね。助監督は、現場でエキストラさんに演出をつけたり、俳優さんの代わりにスタンドインといってカメラ前に立ったり、撮影や照明といった各パートと準備の確認をして、すべてが整ったら監督に「テストお願いします!」「本番お願いします!」と伝える。そういう流れを作って、動かしていくのが助監督の役目。コミュニケーションを武器に、現場を仕切るってことですね。
−監督とは役割がまったくちがうんですね。
そう、全然ちがいます。よく言われるのは、たとえば、いきなり芸人さんが監督をやるように、監督は言ってしまえば素人でもできる。一方、助監督は撮影のあらゆることを段取りしなければいけない。
すべての部署の人の仕事がきちんと頭に入っていて、なおかつ流れもわかっていて、根回しをして、すべての人が動けるように段取りをする。これは、プロにしかできません。特に時間を計算してスケジュールを組むチーフの仕事は、経験がないとできませんね。
−監督の「よーい、スタート」までのすべてを仕切るわけですね。
そうです。昔よく言われたのが、助監督はスタッフルームに誰か来たときに背中を向けてPCを打っていたらダメだと。カメラマンが来たら撮影の話をすればいいし、照明部が来たら照明の話をすればいいし、いざとなったら飲みに行けばいい。各スタッフとコミュニケーションをとることが大事だと教えられましたね。ただ、そればっかりだと、調べ物や原稿づくりができないので、それだけではいけませんけど(笑)
−なるほど。チーフのひとつ下にあたるセカンドの助監督は、どんなことを?
セカンドの重要な仕事のひとつに、衣装香盤づくりがあります。衣装部さんたちと相談して、「このシーンでこの役者さんはこの服を着る」というのを決めてまとめていく作業です。たとえば、僕がセカンドを担当した映画『アゲイン 28年目の甲子園』では、主演の中井貴一さんが野球プレイヤーとして登場します。
(c)重松清/集英社 (c)2015「アゲイン」製作委員会
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そこで、中井貴一さんの役の髪型や服装をどうするかを考えるわけです。時代設定はいつなのか、中井さんの役は元高校球児なのか草野球から始めた人なのか、そうした設定ひとつで服装が変わってくるわけです。
その設定を踏まえたら、今度は野球の雑誌を買い寄せて、「最近のお父さん世代はどういう服装で野球をやっているのか」を調べて、監督や衣装さんに資料を提示したりもする。それもセカンド助監督の仕事なんですよ。
−登場人物の衣装を考えるのは、衣装さんだけの仕事ではないんですね。
そうです。髪型などのメイクに関しても同じです。衣装やメイクは、段取りにも影響してくるところですから。セカンドが作った衣装香盤を踏まえて、今度はチーフ助監督が全体のスケジュールを組む。役者さんの着替えは2回より1回がいいから撮り順を変えようとか、メイクに時間がかかるシーンを先に持ってこようとか。セカンドを経験した人がチーフをやるので、そういうこともきちんとわかっているんですね。
−サード助監督はカチンコ以外にどんなことを?
一番わかりやすいのは文字かな。たとえば、セットの看板やのぼりの旗など実物をつくるのは美術部や装飾部なんですけど、設定を踏まえて、その看板に何を書くのか考えるのはサード助監督の仕事なんですよ。
−実際に映像に映るモノも手がけるんですね。
たとえば、『春を背負って』という映画では、山小屋が舞台になるんですが、その山小屋の設計や家具・インテリアを考えるのは、美術デザイナーさんです。それで、その家具の中に本棚があるとしたら、「山小屋にある本棚にはどんな本が並ぶのか」というのをサードの助監督が考える。台本を読み込んで「こういう本がいいんじゃないか」と考えて、美術・装飾さんと相談して、実際にその本を用意したこともありました。
(C)2014「春を背負って」製作委員会
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】小道具ひとつにかける想い。助監督の仕事はディテールに宿る
−だいぶ助監督の仕事がわかってきました!
実は助監督の仕事を皆さんに知ってもらおうと思って、思い入れのあるモノを持ってきたんですよ。
−それはありがとうございます!どんなモノでしょう?
この写真集です。
以前、成島出監督の『草原の椅子』にサード助監督として参加したんですが、そこで重要な小道具のひとつとして、この写真集が出てくるんです。
−書店に並んでいても遜色ないですね。
これは小道具なんですけど、本物の写真集なんです。つまり、この映画のためだけにスチールカメラマンが一からすべての写真を撮りに行って作った写真集なんです。それも、パキスタンまで行って!
−え!? 小道具の写真集一冊にそこまで!
もしこれがTVドラマだったら、おそらく数ページ分の写真だけあればOKだったと思います。でもこの映画では、実際にこれを手にとった主演の佐藤浩市さんがパキスタンに想いを馳せ、最後にはそこへ行くというきっかけになる重要な小道具なんです。
浩市さんがお芝居で何ページ読むかわからないですし、ましてや「このページしか写真がないので、ここを開けてください」というのは、大げさですが役者さんの芝居を制限していることになりますよね。
役者さんに「本当にその役の気持ちになれた!」って言わせられたら演出家の仕事としては理想だし、現場で「どのページからでもどうぞ!」って言えた方がかっこいいじゃないですか。
−演出にかける強い思いを感じます。
この写真集をつくるためのカメラマン探しから、ページ構成、タイトルづくりすべてを担当しました。カメラマンのギャラや制作費についても、プロデューサーと掛け合いましたね。
−小道具ひとつにそこまでこだわっているとは、知りませんでした。
映画だからこそっていうのはあると思います。TVドラマだと時間も予算も限られているので、なかなかできない。どっちがいい、わるいではなくて、映画とドラマでは仕事の仕方がちがうってことですね。ぼくは幸運なことに映画が多かったので、こういう仕事の仕方は忘れないようにしたいと思ってます。
−映画の世界観づくりに、実は深く関わっている存在こそが助監督なのかもしれないですね。
そうかもしれないですね。小道具ひとつでも演出の一環だと思いますし、監督がすべてをできるわけじゃないので。演出面で監督をサポートするから「助」監督と呼ばれているわけですしね。
前編はここまで!続きは【後編】奥深い映画演出の世界!映画の演出方法や助監督をする上で大切なこと
【加藤卓哉さん プロフィール】
1978年生まれ。東映株式会社 東京撮影所 第二製作部所属。大阪府立大学を卒業後、ソニーに就職し、エンジニアとしてゲーム機開発に従事。東映に転職後、『劔岳 点の記』『孤高のメス』『わが母の記』『あなたへ』『くちびるに歌を』『プリンセス・トヨトミ』など数々の作品で助監督を務める。現在、初監督作品となる『裏アカ』を鋭意製作中。
※2020年11月27日時点のVOD配信情報です。