クリエイターの発掘を目的にプロ・アマを問わず「良質な映画企画=名作のタネ」を募集する「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM(以下、TCP)」。
「TCP」は、創りたい映画の企画があっても、それを実現するためにはどうしたらいいか? また、撮影した作品をどこに提供したらいいか分からないというクリエイターの悩みを解決するべく誕生し、世に出ずに埋もれてしまっている映像作品を、映画ファンの方に届けるためにTSUTAYAがその架け橋になり企画の実現を全面的にバックアップするプログラム。
第二回の募集にあたり、説明会を兼ねたトークイベントが都内で行われ、TCP初代グランプリの中江和仁監督と第2回準グランプリのヤングポール監督が登壇しました。
TCPで見事その企画が選ばれ、今まさに映像化に向けて走り出している二人の受賞者が語った「どんな映像企画が選ばれるのか?」また「選ばれる企画作成において抑えるべきポイント」「実際に製作に入ってから感じたこと」について、2回に分けてご紹介します。
中江和仁監督は、受賞作『嘘を愛する女』で長澤まさみを主演、高橋一生、吉田鋼太郎らをキャスティングし、2018年に全国東宝系で公開予定。4月末に撮影はすでに終了し、来年公開に向けて現在編集作業に入っているとのこと。そんな第1回目のTCPグランプリを受賞して製作中の今の想いとは?
誰が見ても面白い企画を作るために
−他の企画と比べて、『嘘を愛する女』はどういった点が評価されて受賞されたと思いますか?
中江和仁監督(以下中江監督):最終は審査員の方々の評価によって決まります。多くの審査員の方に評価されることが当然必要になりますが、その方たちの嗜好などを押さえることが重要だと感じました。私の時の審査員の方は、多くの方が観られるようなメジャーな作品を手掛けていた方が多かったので、誰が見ても面白いと思うような企画を意識しました。
ただ一方、昨年TCP第二回で受賞した私と同じCMディレクターの箱田優子さんの作品は、簡単に言うと田舎コンプレックスの話で誰もが共感できる作品ではあるものの、商業映画を作ることを目的としたTCPでは評価されにくいのでは?と思っていたところ、審査員特別賞を受賞しました。作家性があるものすべてが選ばれないというわけではないので、最終的には自分が出したい企画を出すのがいいと思います。
−これに対して、TCP事務局の遠山さんより以下が補足されました。
TCPで募集する企画において、選考の基準は「TSUTAYAで並べられるもの」。つまり最終的にTSUTAYAにDVDやBlu-rayが置くことが到達点です。TSUTAYAにはいろいろなジャンルが存在します。想いが詰まった企画を採用しているが、TSUTAYAに来店するお客様に観てもらうことが目的なので、自身の内面世界を描いて完結するだけのような企画は採用しにくい。エンターテイメントを扱った会社ということを考慮していただければ。
−考えた企画をどういった風にアピールしたか教えてください。
中江監督:一次審査においては、企画書の提出が必要になります。二次審査は脚本、最終審査は壇上にて審査委員の前で10分間のプレゼンが用意されています。自分のやりたいと思っている企画に対して、それを伝える手段が求められます。
ただ企画だけ見るのであれば書類だけでいいのですから、そのプレゼンは「コミュニケーション能力」を見られているのではないかと思います。やりたい企画がどんなことか人に伝えることができるかということが重要な点です。
−ちなみに、プレゼン用の映像にかかった費用を聞かれると、ヤングポール監督は、山梨でロケを行い、カメラマン、メイク、演出制作など何でもしてくれる友人と、ロケハンや撮影時の移動費や食事代など全部含めて20万円ほどかかったと答えました。
一方、瀬戸内海でロケを行った中江監督は、200万円をかけたとか。前例がないということもあり、クオリティをどこまで高めるかということも他の候補者と差を見せるアピールになっていたのかもしれません。なおそれを受けて、今回の第三回はTCP事務局より審査用の映像費用のいくらかを負担するようなことも検討されているとのこと。TCPも回数を重ねる中で試行錯誤を続け、より良い企画が集まるよう工夫して運営されています。
自分の想像を超えたものが出来上がる喜び
−自分が考えた企画が形になっていく中で、予定通りにいかずに苦しんだ点や予想もしなかったことは何でしょうか?
中江監督:今回、5,000万円の製作費用に加え、審査員も務めた阿部プロデューサーがこの企画を気に入ってくれて、さらに東宝が製作・配給に加わることで、映画にかける予算が膨らみました。
10数年自分の中で考えてきた企画ですが、この作品のことを考える人も予算も増えて、観てもらうべきお客さんの数も増えることで、脚本も変わっていき、当初企画したものから修正していくことが大変でした。当たり前ですが、完全に自分だけで考えていたときとは違って自由には映画を作れなくなります。
−長編映画になるとスタッフもキャストも、かなりの人数になると思います。現場で気を配ったこと、工夫されたことなど教えてください。
中江監督:本業はCMディレクターですが、CMも今まで映画を意識して撮ろうと努めてきました。つまり、スタッフもカメラマン、美術、照明など映画の関係者を集め、役者が芝居するときにも、1秒の描写を切り取った絵コンテありきの芝居ではなくて、役者が現場で、長い芝居を自由にできるように工夫してきました。具体的には、その中で使用する芝居がたとえ1秒だったとしても、1分くらいの脚本を書き、それを役者に伝えることで、現場を作るように意識してきました。
CMでは15秒、30秒という制約があるので、計算して映像を作る必要がありますが、映画ではそれ通りにはいきません。むしろ、計算できない何かが映り込み、その何かを発見して、紡いでいくということこそ映画の魂だと思います。
「自分の計算通りになるとつまらない」といったようなことを黒澤明監督も言っていましたが、CMディレクターや映画の監督をやっていて楽しいときは、自分の想像を何かが超えたときですね。
音楽担当の方が思っていた以上のものを持ってきてくれたり、カメラマンの方が想像以上の素敵なものを撮っていたり、役者の方が指示以上のものを演じたり。
特に、役者の方は、演技のアプローチがそれぞれ違うので、想像以上のものが出てくるのを待ったりもします。
長澤まさみさんは、運動神経が良いので、本番回る前までおしゃべりしていても、撮影が始まると魂に火がついて演技に集中できる方。また、何か指摘することにより、さらに火がついて、芝居をする方です。長い芝居を何回もしてもらっても、全く嫌がらずに、ニコニコ笑顔で芝居をしてくれました。
高橋一生さんは、現場の空気に溶け込む方ですね。最初からその場にいるような、演じるというより、自然にそこにいるような芝居をされる方です。
吉田鋼太郎さんは、アドリブを多く使う方で、1回1回の芝居が違うんですね。
芝居に対してのアプローチは、それぞれ違うので当然かける言葉も違いますし、そこで何が生まれるかということを楽しみに待ちます。場を支配しようとするのではなく、みんながやりやすいように、やっていて楽しい現場を意識しました。
商業的であり、作家性もあるバランスを持った作品を目指したい
−現在、Filmarks(フィルマークス)では『嘘を愛する女』を観たいと思っているユーザーが約3,000人いますが、映画好きの方にどんな点を期待してほしいと思っていますか?
中江監督:みんなにどういう風な映画を目指すかということを伝えるためのイメージとして、ポン・ジュノ監督のような映画を目指しましょうと伝えました。ポン・ジュノ監督の映画はエンタメすぎず、アートすぎず、非常にいいバランスが取れたものであり、『嘘を愛する女』も商業的な映画でもありながら、映画好きが求めるようなバランスある作品を目指しました。
映画好きの方に特に期待して欲しいのは、要所要所クスッと笑えるシーンがある点です。吉田鋼太郎さんには、ソン・ガンホのようにとお願いしました。先日プレビューをみんなで見ていたときもそのシーンは笑いが起きていたのでぜひ期待してください。
−これから、TCPに応募しようとしている方へメッセージをお願いします!
中江監督:映画にできるチャンスを探して、7,8年くらい前からサンダンスなどの脚本コンペに応募することを継続していました。クオリティが低くても後々直せばいいわけで、1回応募できるだけのものを作るということを目標にしていました。誰かに見せない限りはどうやっても、何が受け入れられるかということを理解できないと思います。
そのために、脚本を周りの知り合いに見せて、アドバイスをもらいました。そうすることで脚本のクオリティが上がって行きました。
グランプリをもらってから撮影に入るまで、1年以上かかります。企画を出してからが長いので、自分の好きなものを出さないと、後々辛いかと思います。好きなものを出して、いかに多くの人に受け入れられるものを作るかということを考えて、ぜひTCPに挑戦してみてください。
そのために、脚本を書けるプロデューサーに相談しました。そういった方は、忙しくて親身にみてもらえることは少ないかと思いますが、自分は幸運にも、アドバイスをいただける方がいたおかげで、脚本のクオリティが上がって行きました。
グランプリをもらってから撮影に入るまで、1年以上かかります。企画を出してからが長いので、自分の好きなものを出さないと、後々辛いかと思います。好きなものを出して、いかに多くの人に受け入れられるものを作るかということを考えて、ぜひTCPに挑戦してみてください。
■「TCP2017」公式サイト:http://top.tsite.jp/special/tcp/
(取材・撮影・文:柏木雄介)