【ネタバレ含む】話題作『エクス・マキナ』に練り込まれた“s.f”の味わい深さ

映画館に頻繁に出没する横分けメガネゴリラ

YMG

突然ですが、スペキュレイティブ・フィクション(Speculative Fiction) という言葉を耳にしたことはありますか? 省略するとSFになります。
「いやいや、SFってサイエンス・フィクション(Science Fiction)だろう? 」と多くの方が疑問を抱かれたと思います。実はこの二つの言葉は、昔から混同されてきたようです。
先日から公開されている『エクス・マキナ』は、人間と人口知能を持った機械との間のチューリング・テスト(イミテーション・ゲーム)を主軸に描いた映画です。そうなるとサイエンス・フィクション(以下SF)なのは言わずもがなですが、同時にそこに練り込まれているのがスペキュレイティブ・フィクション(以下s.f)でもあるのです。
今回は『エクス・マキナ』を題材に、この「s.f」について紹介していきたいと思います。
※本記事には一部『エクス・マキナ』のネタバレを含みます。
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SFと哲学の切り離せない関係

人工知能

そもそもスペキュレイティブとは「思弁」を指しており、深く考えを巡らせる行為を意味しています。それは、哲学的考察を無視することができない行為です。
例えば、チューリング・テストの結果を機械が判断することができないように、機械の感情を「人間の感情のようだ」と判断するには、柔軟かつ規制のない人間の判断能力や感情が必要になります。また、それを作り上げるには人間の感情とは? 心とは何か? などを考え、プログラミングしなければ人口知能を作ることはできません。
本作には疑いようもなくそういった哲学的考察、スペキュレイティブが練り込まれています。
一方で大枠のSFというジャンルは、スケールの大きさ、多用されるCG、空想の設定や背景が描かれる、などの理由から「大衆的」で「一過性のジェットコースター映画」というイメージが強いのではないでしょうか。
そんなSFに、s.fが練り込まれるとあら不思議、一転して名作だらけです。

s.f 映画は名作だらけ

列挙しますと、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』をはじめ、『時計じかけのオレンジ』やスピルバーグが監督したキューブリック原案の『A.I.』もs.fです。
他にもジョセフ・サージェント監督の『地球爆破作戦』、リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』、ジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター」シリーズ(個人的には3のラストは最高にs.f)、ハロルド・ライミス監督の『恋はデジャ・ブ』、元ウォシャウスキー兄弟の『マトリックス』、ポール・ヴァーホーヴェン監督の『ロボコップ』や『インビジブル』、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『デッドゾーン』や『スキャナーズ』などなど。
挙げ出せば切りがありません。それらはSFであり、同時に深い深いs.fが練り込まれているのです。
少しだけ具体的に述べると、
『時計じかけのオレンジ』 → 自由意志
『恋はデジャ・ブ』→ 永劫回帰
『マトリックス』 → 懐疑論
『ロボコップ』 → 実存主義
『インビジブル』 → 善悪とは何か?
『デッドゾーン』 → 運命論
といったテーマに対して深い哲学的な考察が練りこまれています。

堂々たるs.fの傑作『エクス・マキナ』

エクスマキナ

(C)Universal Pictures

そして本作『エクス・マキナ』も堂々たるSFであり、美しいs.f映画です。片手で数えられるほどの登場人物数だけでなく、CGもほとんど使わず、一つの敷地内でその物語のほぼ全てが描かれるにも関わらず、です。見下されるような「大衆的」要素は一切ありません。
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あらすじ

13歳から作り始めた検索エンジンによって巨万の富を得たネイサンは、広大な土地で身を隠すように生きている。そんなネイサンのインターネット会社“ブルーブック”の社員ケイレブは抽選の結果、ネイサンの元へ訪れる権利を得た。到着したケイレブはネイサンに言われるがまま、人形人工知能“エヴァ”とのチューリング・テストを始める…。

天才ネイサンに誘われる凡人ケイレブ、そして出会うエヴァ

本作の物語はケイレブの見ること、体験することを通して進行します。ケイレブの驚きや喜び、不安や感動に観客は寄り添うわけです。

次第にネイサンの真意が別にあり、ケイレブは手のひらの上で踊らされていることに気付きます。疑問だらけの物語の中で観客は、ただただ宙ぶらりんにさせられるのです。

さらにエヴァとのチューリング・テストでも、エヴァはケイレブに好意があるように振る舞います。しかし、彼女の脳は検索エンジンです。過去に彼が検索した情報からエヴァは、ケイレブの好みや願望をガンガン突き、ケイレブを錯乱させます。他人の好意に疑心暗鬼を覚えがちな僕はブルブル震えていました。

本作が炙り出すのは「人の心」の複雑さとその豊かさです。それはまさしく劇中で出てくる人工知能の脳の造形が、宇宙を象徴していることからも理解できるように、「人の心」は掴み切れない無限の宇宙のようなものなのです。

置いてけぼりのケイレブと観客

物語は終盤にさしかかると一変し、主人公だったケイレブはエヴァによって閉じ込められ、物語そのものから置いてけぼりにされます。それは観客が信じ、願ったことさえも置いてけぼりにするような展開です。なぜエヴァはそんなことをしたのか、ただただ悶々と考え続けることしかできません。

チューリング・テストの判断結果、「人の心」を持っていると判断されながら、決して「人」として扱われなかったエヴァ。その尊厳が認められないなら尊厳とは一体なんなのか? なぜ人は自由を求めるのか? なぜエヴァはケイレブの自由を奪ったのか? なぜネイサンは、エヴァに痛覚を与えなかったのか?
「人の心」があるとされながら人ではないなら一体何を持っていれば人は、人になるのか? そもそも「人の心」とは一体なんなのか? 同時に、私が人だと言い切れる保証が一体どこにあるのか?
これもまた挙げ出せば切りがないほど、本作には多くのスペキュレイティブが練り込まれ、観る者に向かって投げ掛けられます。
その疑問に対する答えを本作は一切述べていません。
それはまるで彼女の存在そのものようです。もしかすると、横にいる「人」であることを疑いの余地もない人が「彼女」かも知れません。本作が描いたs.fは、それくらい現実の真横にあるものです。だからこそ本作のあの結末に強烈な恐ろしさと「心」の豊かさを強く強く感じることができます。

スペキュレイティブ・フィクションの圧倒的な味わい深さ

s.fは必ずしもSFとセットのものではありません。あらゆるジャンルと相性バッチリです。中でも顕著にs.fを感じられるのはホラーです。
ホラーというジャンルは、恐怖が感じられてナンボのものですが、それはSF同様、一過性のジェットコースターになる場合が多いジャンルでもあります。
例えば“ビックリ表現”は一過性のshockerであって、horrowではありません。恐怖は劇場を出てもなお、背後が気になるような普遍的なものです。それは『エクス・マキナ』の彼女のように「今この場所にいないと断定できない」ような落ち着かないものである必要があります。
そして「面白い・怖い」と感じられたホラーは往々にして「終わっていない」という結末を迎えます。それはSFとて同じです。それが真横にあることを無視しなければその恐怖や不安、疑問や面白さはずっとずっと付いて回るのです。それこそがスペキュレイティブ・フィクションの最大の魅力であり豊かさであって、圧倒的な味わい深さといえます。
大嘘なSFやホラーなどの物語が本当のことのように思えた時、そこにはきっとスペキュレイティブ・フィクションがあるはずです。
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※2021年1月23日時点のVOD配信情報です。

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  • むさじー
    3.8
    <欲望に満ちた、AIと人間の近未来> 世界的検索エンジンの企業でプログラマーとして働くケイレブは、CEOのネイサンが所有する山間の別荘に招かれる。しかし、人里離れた別荘で待っていたのは女性型ロボットのエヴァだった。ケイレブはそこで、エヴァに搭載されている人工知能(AI)のチューニングテストに協力することになる。 AIの活用とその脅威が何かと話題になる昨今だが、10年以上前にこんな映画が作られていることを知らなかった。表現が斬新だし、当時としては未知の領域に踏み込み問題の核心に迫っていることに驚かされる。 アリシア・ヴィキャンデル演じる美しいAIロボが、自我を持ち自らの意思で行動する、そんな人間的な部分を持ち得るのかというのが物語の核になっている。そして、頼りなげなプログラマーはAI美女と恋愛することが出来るか、最後までどこに向かい、どう終息するのか分からなかった。SFというと科学的なややこしい理屈が付き物だが、その辺のSFっぽさはなく、人間の欲望に満ちたドラマ作りと丁寧な演出に惹き込まれる。 また、AIに加えビッグデータの活用という側面も更なる説得力を持っているかと思う。AIはネットを通して最大公約数的な人間の思考を学び取っている訳だが、人間は身勝手な欲望に走りやすい存在だから、AIに善悪の取捨選択がどこまで出来るか、多数に偏向する危険性はないか。その学びの過程こそが大切と、現代社会に警鐘を鳴らしているようにも思う。 SFとはいえ昨今の情勢も考え合わせると、AIと人間の関係性は新時代に突入したことを感じさせる。「人のように判断する」存在から「感情を持って思考する」疑似人間になるのか、興味は尽きない。映画は、自然の映像美と無機質な研究空間を用意して、そこで繰り広げるエゴイスティックな人間たちの耽美的世界。突っ込みどころは散見されるが、大人向けSFの稀有な傑作かと思う。
  • SAW
    3.8
    おもろい
  • HIMAWARI
    3.8
    金持ちの考えることは凄いね〜下衆いね〜となるが、映像が美しく雰囲気が良いから芸術的作品に見える。ラストはスッキリ。
  • starchild
    -
    エンディング草
  • まっちゃ
    3.8
    こっわ! AIって凄いけど…ある意味こわいよね。 全て記憶してしまうからこそ、情報流出してる企業とかあるくらいやしね…。 でもこの映画の公開時の2015年より10年経った今、遥かにAIが進化してるからこの先こんなことが起きかねないよね…。 エヴァ役のアリシア・ヴィキャンデルが人工知能ロボットの動きや仕草が上手くてリアルで見入ってしまった…! AIは上手く程よく使いこなそう。
エクス・マキナ
のレビュー(63528件)