隣の住人はどんな人物で、ふだん何をしているのか?
サスペンススリラーの巨匠・黒沢清監督が、不気味な隣人の恐怖をスリラー仕立てで描いた『クリーピー 偽りの隣人』が2016年6月18日に公開されました。
近所との付き合いが希薄になっている今こそ是非とも見て欲しい、本作のおすすめポイントを紹介します。
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タイトルの「クリーピー(creepy)」は「ぞっとする」「気味が悪い」といった意味を持つ言葉。その言葉通り、本作は猟奇的な連続殺人事件を題材にした「ぞっとする」「気味が悪い」描写がふんだんに登場する作品です。
元刑事で現在は大学で犯罪心理学を教える高倉(西島秀俊)が、引っ越し先の隣の住人・西野(香川照之)と関わったことで、彼の怪しげな言動に翻弄され、やがて家庭も崩壊寸前にされてしまう恐怖を描いたサスペンススリラーです。
ストーリー
警察署内で猟奇殺人事件の犯人の取り調べを行っていた刑事・高倉は、部屋を離れた隙に犯人に逃げられてしまう。署内で一般市民を人質にした犯人に高倉は説得を試みるが、犯人は人質を刃物で刺し、駆け付けた署員に銃殺される。その責任を負わされた高倉は一年後、大学で犯罪心理学の教授として教壇に立っていた。
妻の康子(竹内結子)と共に郊外の住宅街に転居した高倉。そこで隣の家の住人・西野と出会う。最初こそ無愛想な西野だったが、交流が進むうち、西野の娘・澪(藤野涼子)も交えた家族ぐるみの付き合いが始まるようになる。
しかし、一見やさしい父親でありながらも時折見せる西野の怪しげな言動から、高倉は彼を信頼することができなかった。ある日、高倉は澪から「あの人、お父さんではありません。全然知らない人です」と告げられる。
そんな最中、元同僚の野上(東出昌大)から6年前に起きた一家失踪事件の調査協力を依頼された高倉は、事件に西野が関わっているのではないかと疑いを持つようになる。高倉が西野の真相を調べる中、康子の近辺では異変が起きていた。その異変に高倉が気が付いた時には、西野の手により康子は取り返しのつかない深い闇の中に引きずり込まれ….。高倉は康子を救うことができるのか。
本作の前半は奇妙な隣人家族の対応に戸惑う高倉夫婦の描写で、ホームドラマ風な展開で話が進みますが、後半、西野宅で死体が登場する場面からは怒涛のホラー展開。竹内結子演じる若妻が罠にはまって奈落の底に堕ちて行く展開に、観客も底知れぬ恐怖を感じることになります。
おすすめポイント1:まさにハマり役、香川照之演じる不気味な隣人は本当に怖い!
本作でまず注目すべきは、不気味な隣人・西野を演じる香川照之の演技でしょう。
無愛想で気難しい性格かと思えば、急に愛想がいい良き隣人になり、やがて冷酷な犯罪者の性格を見せていく。この難しい人物を巧みに演じています。
同じ黒沢清監督作品の『贖罪』でも不気味な殺人犯を演じていますが、その不気味さはさらにパワーアップ。物語が進むに従って変化していく西野を演じ分ける熟練した演技はまさにハマり役です。とても怖い!
おすすめポイント2:工夫を凝らした死体処理シーンは必見
本作は猟奇殺人事件を題材にしていますが、バラバラ死体は登場しません。黒沢監督がR15指定になるのを避けたらしく、工夫を凝らした死体処理方法が登場します。
それはかなり変わった方法で、とても気持ち悪いです。使われる資材がどの家庭にもあるものなので、かなりリアルです。そればかりでなく、死体を処理をするのは西野本人ではないのです。誰が処理をしているのか? それがわかったときにはかなりゾッとしてしまいました。
おすすめポイント3:第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞を受賞した黒沢清監督作品
原作は作家・前川裕の第15回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作で、黒沢清監督の手により珠玉のサスペンススリラーに仕立て上げられました。黒沢監督は本作と同じく猟奇連続殺人事件を題材にした1997年公開のサスペンスホラー映画『CURE キュア』で国際的に注目され、その後、『回路』『アカルイミライ』『ドッペルゲンガー』『LOFT ロフト』『叫』などのホラー作品を手掛けています。
2008年に公開された『トウキョウソナタ』では、リストラされたサラリーマンとその家族の崩壊と再生を描き、第61回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」審査員賞を受賞。ホラー作品以外でも注目を浴びました。しかし、この作品も誰にでも身近に起こりうる恐怖を描いたという点では、ある意味でホラー作品なのかもしれません。
2013年に5年振りとなる劇場公開作品『リアル 完全なる首長竜の日』で、昏睡状態に陥った恋人の意識下に入り込み直接会話を試みるというSF作品を手掛け、世界各国の映画祭にも出品されました。同じ年には前田敦子主演の『Seventh Code』で第8回ローマ映画祭最優秀監督賞を受賞。そして、2015年には浅野忠信が自殺者の幽霊を演じた『岸辺の旅』で第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞を受賞しました。
『クリーピー 偽りの隣人』も第66回ベルリン国際映画祭で正式出品作品に選ばれ、第40回香港国際映画祭では日本映画初となるクロージング上映が決定し、世界から注目を集めています。
サイコパスや超常現象、特異な人物や幽霊が登場する作風で、その難解さゆえに好き嫌いが分かれるでしょう。でも難解な作品ほど記憶に残り、映像の中のシーンを何度も思い浮かべて「あれは何だったんだろう」としばらく考えてしまうのですよね。
常識的な感覚で観てしまうのではなく、黒沢監督が創り出した異次元世界の話だと割り切って観ることが大切でしょう。
おすすめポイント4:西島秀俊&香川照之、西島秀俊&竹内結子の名コンビ復活
主人公の大学教授を演じる西島秀俊と不気味な隣人を演じる香川照之は本作で5回目の共演となります。
その共演作品はTBSとWOWOWで共同制作で同時放送されたドラマ「ダブルフェイス」(2012年10月)、同じくTBSとWOWOWの共同制作で同時放送された「MOZU」(2014年4月)、TBSで放送された「流星ワゴン」(2015年1月)、そして2015年11月に公開された映画『劇場版 MOZU』。
共演を重ねたふたりの息のあった演技は本作の見どころのひとつです。
また、西島秀俊と竹内結子の共演作といえば2010年にフジテレビ系列で放送されたドラマ「ストロベリーナイト」。警視庁捜査一課殺人犯捜査十係主任を竹内結子が演じ、彼女を仕事面でサポートし、密かに恋心も抱く優秀な部下を西島秀俊が演じました。
ふたりの掛け合いが好評で、高視聴率を博し、2013年には劇場版も公開されました。本作では夫婦の関係となったことで、より親密なふたりの掛け合いが観られます。
最後に
誰もが心の片隅に持っている隣人への疑問と恐怖をサスペンススリラー仕立てで映像化した本作は、黒沢清監督の集大成というべき傑作です。ぜひ映画館で観てください!
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(C)2016「クリーピー」製作委員会
※2020年8月30日時点のVOD配信情報です。