若き天才グザヴィエ・ドランが惚れ込み自ら出演を熱望!『神のゆらぎ』の秀逸な脚本

映画と本とコーヒーと。

藤ノゾミ

27才にしてカンヌ国際映画祭の常連、グザヴィエ・ドラン

監督としても俳優としても、今もっとも注目を集めるドランが脚本に惚れこみ出演した話題作『神のゆらぎ』(ダニエル・グルー監督)が8月6日に公開されます。

神のゆらぎポスター

本作は、飛行機事故をめぐるサスペンスタッチのヒューマンドラマ。製作国のカナダでは5億円の大ヒットとなりました。

ドランは脚本のどんなところに惹かれたのか。また、タイトルは何を意味するのか? 秀逸で深いストーリーの魅力を一足早く紐解きます!

グザヴィエ・ドランって?

とは言うけど、グザヴィエ・ドランって誰なの?という人のために、まずはドランの紹介から。

神のゆらぎドラン 

ドランは1989年3月20日、カナダ第二の都市モントリオール生まれ。

20才の時、『マイ・マザー』(2009)で監督・脚本家としてデビューし、カンヌ国際映画祭の「監督週間」で取り上げられます。

「監督週間」は作家性の強い監督をフォーカスする新人の登竜門的存在で、ジム・ジャームッシュやソフィア・コッポラ、北野武もこのセクションを通過して「ある視点」やコンペ部門で上映されるようになりました。

ドランも2010年、長編2作目『胸騒ぎの恋人』が「ある視点」で上映され、以後は……

と、作品を発表するたび世界で高く評価されています。

昨年は史上最年少でカンヌの審査員を務め、最新作の『It’s Only The End Of The World』は今年、パルムドール(最高賞)に次ぐグランプリを受賞しました。

デビューから10年も経たずしてこの経歴! ドランはその動向が絶えず注目される、世界的映画作家のひとりなのです。

〇〇じゃなくても出たい!『神のゆらぎ』の魅力

監督作のほとんどに出演しているドラン。本人の意識としては俳優業の方こそ先にあり、

ただ待っていてもやりたい役のオファーが来ないので自分で自分に役を与えるために監督になった

引用元:『神のゆらぎ』公式サイト

と語っています。

そんなドランが「いままで演じたことがない新しい役どころだった」と出演を熱望したのが、『神のゆらぎ』のエティエンヌ役。末期の白血病で死の危機にある難しい役……ですが、実は、主人公ではありません

本作の主人公は彼の婚約者ジュリー(マリリン・キャストンゲ)。自分が主演じゃなくても出演したいと思ったというところにも、ドランの脚本への惚れこみようがうかがえます。

脚本のここがすごい① 命か、信仰か。究極の選択

ジュリーとエティエンヌは家族ともども「エホバの証人」の信者で、それゆえに白血病を治すための輸血を受けるかどうか悩みます。

というのもエホバでは、聖書が「血を避けるように命じている」として、自分の血を誰かにあげたり、ひとの血をもらったりすることは禁忌とされているからです。

「その魂、つまりその血を伴う肉を食べてはならない」――創世記9章4節

日本ではなかなかピンとこない感覚かもしれませんが、宗教上のタブーを犯すということは、自分がこれまで信じてきたものを根本から否定すること。看護師であるジュリーは輸血すればエティエンヌが助かるとわかっていても、信仰と死の恐怖の狭間で揺れ動きます

はたして2人はどんな「選択」をするのか?

シンプルな、けれどとても難しい問いが観客の心を惹きつけます

神のゆらぎジュリーとエディエンヌ 

脚本のここがすごい② 交錯する過去と現在

ある夜、南米行きの飛行機が轟音とともに墜落します。

生存者がたった一人しかいない未曽有の飛行機事故……ここから物語は複雑に交錯し始めます。

老年のW不倫カップル、アルコール中毒の妻とギャンブル狂の夫、過去のあやまちを償うためにドラッグの運び屋となって故郷に戻ってくる男――さまざまなエピソードが描かれます。一見、ジュリーとエティエンヌには関係なさそうに見えますが、次第にこれらのエピソードが過去のものだとわかってきます。

それぞれに葛藤を抱えた彼らは、例えば不倫カップルがお互いのパートナーを捨てて南米に逃避行する飛行機に乗るかどうかを選ぶように、何らかの「選択」を迫られます。

仮面夫婦は円満を装うために南米旅行にでかけるか? 仕事を終えた男は故郷にとどまるか南米に戻るか?――彼らは全員、墜落する飛行機に向かっているのです

神のゆらぎ過去 

脚本のここがすごい③ 謎――生存者は誰?

輸血しなくてもエティエンヌが治るという奇跡を願うジュリーにとって、事故で唯一助かった生存者はまさに「奇跡の人」。ジュリーは強く惹きつけられ、献身的に看護します。

ただ、生存者は助かったとはいえ重傷で、全身を包帯にくるまれ、顔はわかりません

過去のエピソードの登場人物のうち、いったい誰が生存者なのか?

謎は終盤まで明かされず、観客は過去のエピソードに移るたび、飛行機に乗るのか乗らないのか、彼らの行動にハラハラさせられます。

そして最終的に生存者の病状が悪化し、ジュリーはある「選択」を迫られるのですが……

悩んだ末、彼女が下した決断とは。また、エティエンヌはそんな彼女にどう向き合うのでしょうか。「結果」はぜひ劇場でご覧ください。

タイトルの原題は「奇跡」だった

『神のゆらぎ』の原題は『MIRACULUM』、ラテン語で「奇跡」を意味します。

善も悪も関係なく、病魔は誰にもでもふいに訪れ、ほんのわずかな行動がひとの生死を左右する。「奇跡」とは、神様のきまぐれのようなものでしかない・・・邦題にはそんな思いが込められているのかもしれません。

ただ、「信仰とかエホバとかよくわからない」という方もご心配なく。

『神のゆらぎ』はサスペンスとしても、ジュリーとエティエンヌの愛をめぐる物語としても楽しめます。そして、見終わった後はきっと深く心に響くものがあるはず・・・

21世紀の若き才能の今後に注目!

ドランの監督作は先に挙げた5作品が日本でもDVDになっています。

出演作としては、精神病院を舞台にしたサスペンス『エレファント・ソング』(2014年)もオススメ。ドランは問題児の患者を怪演し、失踪した精神科医を探そうとする同僚医師を翻弄します。

また、最新の監督作『It’s Only The End Of The World』は来年2月に公開予定。

21世紀の天才グザヴィエ・ドランの今後の活躍に注目しましょう!

 

(C) 2013 Productions Miraculum Inc.

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  • foxiiikxxs
    -
    グザヴィエ・ドランの恋人役が女性?!と思ったら エホバの証人は同性愛禁止だからなのか 最後のセリフが深かった〜皮肉を込めて〜
  • benno
    3.8
    最初に、ドランの監督引退宣言はとてもショックで残念っს…ただ俳優業は継続とのことなので一安心!!…今後また監督に復帰してくれることを期待します𐦊ෆ* 今作の原題『Miraculum』はラテン語の『奇跡』…。 奇跡を待つこと…それもひとつの運命…。 輸血の出来ないエホバの証人の信仰者たち…輸血をすれば助かる命…しかし彼らにとっての命よりも大事な信仰とは…?? ただひたすら奇跡を願うだけなのでしょうか…?? 信じることは自由…ただひとたび戒律を破ると排斥…とても排他的で、町で会っても無視されます…選択肢の無い世界、違う意見を享受出来ないのも理解し難い信仰世界です…。 想像以上にエネルギーを要する作品でした…。 今作は様々な決断を前に心のゆらぎを持つ4組の人々のストーリー…其々のストーリーが時間軸を超え行ったり来たり…そして墜落する運命にあるキューバ行きの飛行機へと収斂していきます…。 ✧︎ 末期の白血病を患うエティテンヌ(グザヴィエ・ドラン)と彼に付き添うフィアンセで看護師のジュリー(マリリン・キャストンゲ)…ふたりともエホバの証人の信仰者です…。 ✧︎ 老齢でありながらも情熱的なダブル不倫を続けるバーテンの男性とクロークの女性…。 ✧︎ お互い、既に愛情もなく偽りの暮らしを続けるギャンブル狂の夫とアル中の妻…。 ✧︎取り返しのつかない過ちを償う為にドラッグの運び屋となったひとりの男性…。 ドランが脚本に惚れて出演を希望しただけあり…見事な構成と展開…4組其々のストーリーと時間軸の操作は一瞬複雑そうに見えますが、素晴らしい劇伴と共にとてもナチュラルに入り込めます… 音楽のセンスもとても好き… ♪ Get Thee Behind Me Satan / エラ・フィッツジェラルド ♪ One of Those Summer Days / ライ ♪ Pair of Wings / Frankie Rose … etc. 其々の人物が交錯する空港のエスカレーターや待合室のシーンが然りげ無く美しい…。 そしてジュリー役のマリリンの透明感が天使のように美しい…看護師として飛行機事故で唯一生き残った、まさに"奇跡"の人物を介護しながら、一方でひたすらに"奇跡"を信じてエティテンヌに寄り添い続ける…彼女の心のゆらぎがあまりにも辛く苦しい…。 「飛行機が落ちるのは…全能の神がいないせいだ」 真っ向から信仰を否定され…そして、ジュリーはある決断を下します…。 自分の決断が知らない誰かの運命を変えてしまうかもしれない…人間に許された最良の決断とは…??
  • じゃんくショック
    3.6
    良い邦題 逆マグノリア
  • あだも
    3.4
    選択によってその後の運命が大きく左右される 8人の男女の群像劇 最終的なストーリーの終着点が綺麗にまとまっている 実は原題が「奇跡」らしい。う~む、感慨深い エホバの証人の信者であるエティエンヌ(ドラン)は白血病を自覚しながらも、信仰の為に治療をしない 同じエホバ信者のジュリーは説得しきれず、弱る彼を見て複雑な表情を浮かべる そしてジュリーが働いている病院に飛行機事故の生存者が運ばれる 患者と血液型が一致したジュリーだったけど、信仰があって輸血が出来なかった 決断をする苦しさが何とも言えん 正しい選択ってなんなんだろうね・・・ どうなるかはわからないけど、どうするか決めるのは自分しかいない エホバの証人はなんとなくしか知らんけど、結構ルールに厳しいのね 死後のことを考えて生きるっていうのは驚き
  • ぴぃ
    -
    ドランの作品は余韻がすごい.. 刺さるものがあったのに言語化出来ない。 ✍︎ 群青劇 ✍︎ エホバの証人
神のゆらぎ
のレビュー(3399件)