アジアの知られざる才能に出会える映画祭!「東京フィルメックス」ルポ

映画と本とコーヒーと。

藤ノゾミ

東京国際映画祭から街の小さなイベントまで、映画祭が目白押しの秋から冬。皆さんはどこに足を運ばれましたか?

私が毎年楽しみにしているのは、アジアの新しい才能が集う国際映画祭「東京フィルメックス」。今年も11月19~27日の9日間、イランやイスラエル、フィリピン、台湾などなど、アジアならではの独創的な映画世界をたっぷり堪能してきました。

上映作品はこれから劇場公開されるものもあり、映画祭が終わった後も要チェック!今年から新たに設けられた「Filmarks賞」の結果とあわせ、東京フィルメックスの魅力を紹介します。

西島秀俊『CUT』はフィルメックスから生まれた!

東京フィルメックスが初めて開催されたのは2000年今年で17回目を迎えました。

今でこそアジア映画は、今年のヴェネツィアでフィリピンのラヴ・ディアス監督『The Woman Who Left』が金獅子賞を獲るなど、世界で注目される存在ですが、東京フィルメックスが始まった頃、日本ではまだまだ知られていませんでした。

このため、あえてアジアに特化した東京フィルメックスは「未知の才能に出会える場」としてじわじわ人気が広がります。映画ファンはもちろん、監督や脚本家など映画の作り手にも足しげく通う人は多く、会場で知った顔を見かけることも。

俳優の西島秀俊さんもそんなフィルメックスファンのひとりで、2005年には審査員を務めました。そこでイランの巨匠アミール・ナデリと出会い、「日本映画を変えるような映画を一緒に作ろう!」と意気投合。西島さんが映画のために「殴られ屋」となる監督の役を熱演した『CUT』(2011年)が生まれます。

CUT

殴られるたびにリスペクトする映画監督の名前をつぶやき、顔中が腫れあがっていく主人公の姿は、自由な映画づくりを求めて亡命したナデリ監督の先鋭的な映画への愛そのもの。2人の出会いは、個性の強い作品が揃うフィルメックスだからこそ起こった化学反応と言えるでしょう。

世界の巨匠続々!歯に衣着せぬゲストトーク

会場で出会えるのは、日本の映画人だけではありません。

フィルメックスは毎年、海外からも多くのゲストを招いていて、例えば今年はオープニング作品『The Net 網に囚われた男』の上映にあわせ、キム・ギドク監督が来場しました。

ゲストと言えば、上映後のQ&Aにだけ登場するのが普通です。けれど、フィルメックスの場合は何気なく隣に座った人が世界の巨匠ということも。

『ザーヤンデルードの夜』上映後のトークで、イランのモフセン・マフマルバフ監督がふいに観客席に呼びかけ、投げキッスを送りました。そこには『CUT』のアミール・ナデリ監督の姿が。ナデリ監督は今年、『山<モンテ>』で招待されていましたが、自作の上映がない日でも他の作品を見に会場を訪れていたのです。

『ザーヤンデルードの夜』

『ザーヤンデルードの夜』は1978年のイラン革命を扱った映画で、検閲のため、長らく国内外での上映が禁じられていました。ようやく今回、復元版のお披露目となりましたが、本来100分あった作品のうち、実に40分近くが失われています

Q&Aでは会場から「映画で社会は変えられるか?」という質問があがり、マフマルバフ監督は「変化は起こせる。今は色んな娯楽があり、生活にも忙しく、みんなあまり映画館で映画を見ない。でも、映画は誰かと見ると、一緒に泣いたり笑ったり、気持ちが通い合う。ファーストフードのような映画はもうたくさん。心の栄養になるヘルシーな映画を共に見よう」と熱く語りかけました。

今年の最優秀作は…

さて、そんな今年のフィルメックスで最優秀作品賞に輝いたのが中国の『よみがえりの樹』です。『山河ノスタルジア』や『罪の手ざわり』のジャ・ジャンクーが若手監督をプロデュースする「添翼計画」の最新作で、チャン・ハンイ監督はこれがデビュー作となりました。

舞台は監督の生まれ故郷である中国陜西省の山間の村。住民が次々に去り、消えゆく山村の寒々しさを背景にしながら、死んだ妻の魂が息子に憑依し、生前に植えた樹を別の土地に植えかえてほしいと夫に頼むという幽霊譚を淡々と描いています。

『よみがえりの樹』

私が注目したのは、フィリピンの『普通の家族』主人公は路上で暮らす16歳と17歳のストリート・チルドレンのカップルで、なんと2人の間には生後1ヵ月の赤ちゃんがいます。

この赤ちゃんが誘拐されてしまい、2人は何とか探そうとするのですが、まだ幼い2人はちょっとしたことでお互いを罵り、ケンカになってしまいます。かと思えば、周りが2人をバカにし、乱暴に扱う中、身を寄せ合ってお互いを守ったり……。不安定な2人の道行きに、いつしか引き込まれてしまいました。こちらは学生審査員賞を受賞しています。

『普通の家族』

また、今年から新設された特別賞「Filmarks賞」は韓国の『私たち』(ユン・ガウン監督)に決定。この賞は、映画祭で上映された全作品を対象に、★評価の最も高かった作品に贈られるもので、誰でも投票できる参加型の賞です。

『私たち』は友達をうまく作れない10歳の少女ソンのひと夏を描いていて、子供たちの生き生きとした表情が鮮烈な印象を残し、★4.2点の高評価となりました。

『私たち』

他にも4点以上の作品は多数あるので、ぜひチェックしてみてください!

■参照:【★4.0以上作品多数!】第17回東京フィルメックス最優秀作品、Filmarks賞決定

来年はぜひ東京フィルメックスの会場へ!

普段映画を見る時は、どうしても監督やキャストの名前に目がいきがちです。特に日本だと俳優さんのイメージが映画の役より先にあり、ストーリーの人物より「俳優」が前に立ってしまうことも。

ですが、フィルメックスは新鋭監督の作品が多く、良い意味で、監督も俳優も知りません。あらすじから「この映画を見よう!」と決め、俳優を俳優として意識することなく純粋にストーリーを楽しめるのは、フィルメックスのような映画祭ならではの映画体験だと言えるでしょう。

今年の上映作品では、『The Net 網に囚われた男』が来年1月7日に公開され、他にも劇場公開が決まりそうな作品もありますが、東京フィルメックスを逃すとなかなか見る機会のない作品が多いのも事実。

アジアの知られざる映画世界を体験しに、ぜひ来年は会場に足を運んでみてください!

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  • みかんぼうや
    4.3
    【国家思想という南北に張り巡らされた網にとらわれ、個人的人権を奪われた男。韓国映画の政治・社会課題とエンタメ性の絶妙なバランス感を堪能!】 韓国の名匠キム・ギドク作品は本作が初めて。フィルマのレビュアーちぃさんさんきっかけで知った作品ですが、個人的には今まで観た韓国映画の中でもかなり上位に食い込む面白さでした。 北朝鮮のとある漁師が自分のもつ漁船が故障したことで韓国の領地に流されてしまい、韓国側で北朝鮮のスパイと思われ理不尽な尋問を受け始める・・・という設定なのですが、韓国映画の十八番芸というべきか、こういう政治・社会問題という小難しいテーマを題材としつつ分かりやすいエンタメ作品として観やすく面白く仕上げるのが本当に巧い!社会派とエンタメのバランスがとにかく絶妙。 事故で北から南へ、というセンシティブながらユニークな設定の中で、北朝鮮共産党への絶対服従と制限という“お決まり”の描写はもちろんのこと、韓国側での、なんとかスパイに仕立て上げたい捜査官による理不尽的な尋問(「殺人の追憶」などで見慣れてはいますが)、維持でも南(韓国)へ亡命させたい韓国上層部の意向、さらには 資本主義に支えられ“自由”であるはずの韓国におけるその資本主義が生んだ格差社会への皮肉的描写など、自国側の社会的課題にもしっかり切り込んでいるあたりが、“南>北”のような短絡的な流れにならず、作品としてより妙味あるものになっていると思います。 ネタバレになるので詳しくは書きませんが、後半の展開やラストも含めて、この南北それぞれの異なる国家思想という張り巡らされた網に囚われ、個人的な人権を奪われていく男を通じて描かれる南北それぞれでの体験は、まさに両国が抱える問題への皮肉の連続。南北問題の根深さを感じます。 本作を観て、改めて韓国映画が凄いと思わされるのは、この政府・外交問題に躊躇なく切り込んでいくことと、その裏にある韓国政府のエンタメに対する寛容さ。本作もかなりセンシティブなテーマだと思いますし、現在の政治への揶揄も目立ちますが、業界的にも受け手側にも少なくとも映画表現においてはそれが許容される度量の深さがあって、だからこそ、監督始め製作陣も、そういう力強い作品を創り、送り出せるのでしょうね(中国や中東の国によっては制限がかかる場合もあると思いますので)。 最近の邦画でも、社会格差やいじめ、認知症など、家庭における身近な社会問題を描いた作品は多々見られますが、国家・政治・外交レベルの課題に対して批判的にグイグイ切り込む、ある種の反骨精神と迫力を兼ね備えた作品はあまり思い浮かびません(なんとなくですが、昭和時代の作品のほうが戦争映画等が多いことも含め、そういった社会への反骨心と迫力を持った作品が多い印象があります)。これは国民の姿勢が表れているのか、一見自由に思える日本のエンタメ界において、タブーに切り込むことへの暗黙的制限があるのか。もちろん国の置かれている状況も違うので、当然複合的な要素によるものだと思いますが、“繊細さ”と“丁寧さ”においては韓国映画に引けを取らない邦画も、“力強さ”や“迫力”(派手という意味ではなく)においては、韓国映画のほうが抜きんでている印象を勝手に持っています。 キム・ギドク監督作品、本作で気になり少し調べてみると、結構当たりはずれが激しいようですが、フィルマレビューを参考にしつつ、今後も気になる作品を観てみたいと思います。面白い作品がありましたら、ぜひお薦めなどご紹介ください!
  • いろどり
    3.9
    初キム・ギドク。テンポよく分かりやすくて面白かった。さすが韓国映画。 南北分断による悲劇を北朝鮮の小市民の視点で描く。 政治の犠牲になるのはいつもか弱き民。正義なんてどこにもない。 北も南もきっとスパイだらけなんだろう。 主演のリュ・スンボムの熱演が素晴らしかった。暴力描写が控えめなのも良い。重くずっしりと分断された人たちの悲哀が突き刺さる。
  • チッコーネ
    5
    監督のフィルモグラフィ内では『最後のまともな作品』といった位置づけだが、見応えずっしり。 南北朝鮮の分断や敵対を描いた映画は韓国で数多く制作されているが、近年の事情をここまで踏み込んで戯画化した作品は、観たことがない。 不慮の事故から境界線を越えてしまった一個人が、ふたつの国防に振り回される不条理が力強く描かれており、前半は韓国、後半は北朝鮮に等しく批判的な眼差しが注がれる。 その視座は疑問の余地を差し挟むことが不可能なほど、真っ当だ。 そして設定は朝鮮半島内の事象に留まらず、高度資本主義、共産主義、イスラム原理主義、そして宗教など、世界中の個人を翻弄するismおよび権力の愚行に置換可能。 本作を『他人事』としてしか観れない人は、よほどの厚顔無恥と言わざるを得ない。 また独裁国家という特殊な環境下で生きてきた主人公が、資本主義社会の文明や人間に触れるソウルロケ場面はどこかユーモラスで、ヘヴィーな展開の中に豊かな感情を吹き込んでいた。 『無名の門外漢』としてスタートした監督は海外からの評価が高まるに連れ、韓国内での地位を「認めさせてきた」叩き上げ。 チャン・ドンゴンやハ・ジョンウ、そしてマ・ドンソクといったビッグネームが監督作に出演してきたが、本作にはリュ・スンボムが登場。 委縮し、内面に怒りを蓄積させていく主人公を体当たりで好演している。 また好漢を演じたイ・ウォングン、悪漢を演じたキム・ヨンミン共に熱演が印象的なほか、『絶対の愛』に主演したスキャンダル女優、ソン・ヒョナもチョイ役で顔を出している。
  • orixケン
    4
    南の網からはなんとかリリースされたが北の網からは逃げられるかどうか。 取調官が北も南も嫌な奴だが南はイデオロギーが偏りすぎ、北は金に汚い。 何かの象徴だろうか 統一されない国家のために普通の市民が悲劇に真子混まれるというのはまだまだあるんだろうな 主演俳優がなかなか味があってよかった。
  • yuichi
    5
    国と国のくだらない軋轢が産み出す悲劇を何の罪もない国民が背負わなければならないのは何故だろう? トップ同士が殴り合いして決着つければいいのに 根性ないから下の人間にやらせるんですよね。 人間の醜さをこれでもかと表現した本作は 悲しいけど素晴らしい。 いつになれば皆んなで手を繋げるんでしょうか? 自分にはわかりません。 小さな世界に落ちた一雫 その意味はまだわかりはしない でも生暖かい深紅が描く実感 心の奥底に忍ばせた感情に 穏やかな意味と脈を打つ
THE NET 網に囚われた男
のレビュー(2077件)