2001年、21世紀に入って最初の劇場版名探偵コナンシリーズとなったのが、劇場版第5弾にあたる『名探偵コナン 天国へのカウントダウン』です。
本作でも、シリーズでもこの映画固有の魅力が多数盛り込まれており、TVアニメシリーズや他の劇場版とのつながりがあったり、意外にも少年探偵団の面々が活躍する映画となっています。中でもタイトルにもなっている“カウントダウン”にはある切ない気持ちを抱かずにはいられないので、どういったポイントに注目して観るとこの映画をより楽しめるか紹介していきます。
『名探偵コナン 天国へのカウントダウン』(2001)あらすじ
コナンら少年探偵団は、西多摩市にある完成間近の日本一高い双子(ツインタワー)のビルに立ち寄った。最先端のハイテクビルには、その建設にからんで暗躍した怪しい面々が集っていた。そして、ビル内で第一の殺人事件が起こった!その近くで、コナンは信じられないものを目撃する。黒のポルシェ356A-。≪黒の組織≫がここに!? さらに灰原哀が密かに何者かとコンタクトを取り始め……。
※以下、『名探偵コナン 天国へのカウントダウン』のネタバレを含みます。
今回の映画の主役は灰原哀!?
この映画、劇場版シリーズでも唯一と言っていいのが、映画の前半で“灰原哀”にスポットが当たっている点です。夜中に一人で誰かに電話をしている灰原。作中ではそれに重なるように、黒の組織が何者かと連絡を取り合っており、一見灰原がコナンたちを裏切ろうとしているかと思わせます。
しかし、実はそれはミスリードであり、灰原は組織によって殺された宮野明美の声を聞くために、宮野明美の留守番電話へメッセージを残していたことが明らかになります。それに対して黒の組織は逆探知によって灰原の所在を突き止めようとしますが、コナンの機転により間一髪でそれを阻止され、難を逃れます。
宮野明美というキャラクターは、シリーズでも比較的初期に登場したキャラクター。TVアニメ128話「黒の組織10億円強奪事件」に登場し、黒の組織の一員でもあった彼女は、組織を裏切ったことをきっかけにジンによって殺されてしまいます。宮野明美は灰原にとっては実の姉であり、その後も何度か彼女のことを振り返ることがありましたが、『名探偵コナン 天国へのカウントダウン』はシリーズでも唯一、彼女のことを思う灰原の一面が描かれた劇場版となりました。
映画では初めての黒の組織との対決!
シリーズで初めてのポイントとして忘れてはいけないのが、劇場版シリーズに黒の組織が登場するのも今作が初めて。黒の組織が映画に登場するのはシリーズ第13弾『名探偵コナン 漆黒のチェイサー』(2009)、シリーズ第20弾『名探偵コナン 純黒の悪夢』(2016)など、数あるシリーズの中でも限られた本数しか存在しないので、どれだけ貴重なことかが分かるでしょう。
本作ではツインタワービルを爆破させてしまったり、灰原哀を始末しようとしたりと、作中では数々の暗躍を繰り返し、コナンたちを窮地に陥れます。一方で、髪型が似ているという理由で園子を誤まって殺してしまいそうになったり、原佳明を殺した際にダイイングメッセージを残させてしまったりと、意外と迂闊な一面が見られるのも面白いところですが、コードネームをダイイングメッセージで残しても、逮捕にはなかなか繋がらないと思うと、ジンもわかっていながら現場を離れたのかもしれません。
ちなみに黒の組織は、お酒やカクテルの名前をコードネームで呼び合いますが、黒の組織のメンバーのはずの原佳明のことは、そのまま原と呼んでいたりすることから、組織でも末端であったり、重要な人物ではなかったのかもしれません。
意外な繋がり?劇場版映画第1弾「時計じかけの摩天楼」
黒の組織のメンバーである原佳明も珍しいですが、今回の映画で登場する容疑者の一人、風間英彦は本作でも特殊なキャラクターです。
映画の舞台となるツインタワービルを設計した建築家なのですが、作中でも言及している通り、実は森谷帝二の弟子であることが語られます。この映画だけを観た人には誰のことかわからないでしょう。森谷帝二とは、劇場版名探偵コナンシリーズの第1弾『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』(1997)に登場した人物であり有名な建築家。しかしその正体は、自身の過去の建築物のデザインに納得がいっておらず、自ら爆破させてしまうという危険な思想を持っている人物でした。そんな人物の弟子ということで、本人も作中で皮肉ぶりながら“自分は爆破させないから安心しな”と語っているわけです。
森谷帝二は原作には登場しない劇場版オリジナルのキャラクターです。そんな限定的な登場人物との繋がりを設けることはシリーズでも珍しい例であり、劇場版シリーズを追っている人にはニヤリとする演出でした。
しかも、本作では風間英彦のセリフがそのまま伏線だったかのようにツインタワービルは爆破されてしまいます。森谷帝二の弟子という設定が、実は彼も犯人なのでは? とミスリードを誘う演出にもなっていました。結果的に、殺人の犯人は如月峰水で、爆破の犯人は黒の組織だったわけで、風間英彦としては自分の建築物をことごとく爆破させられてしまい、自分も命の危険に晒されてしまうという、なかなかかわいそうな人物でした。
少年探偵団の活躍に拍手を!
そしてこの映画で珍しいこととして忘れてはいけないのが少年探偵団の活躍。灰原哀の活躍は前述の通りですが、そんな「居場所がない」と囁く灰原に対して、今の彼女にも存在意義があると励ます役目を担うのが、歩美・光彦・元太の三人です。
しかも活躍はそれで終わらないところが、本作の熱いポイント。少年探偵団の面々が言葉だけでなく行動で示す見せ場が最後の最後に用意されています。
それがさ爆弾の爆風に合わせて、隣のビルに移ろうとするクライマックス。灰原は途中まで爆弾のそばで爆発までのカウントダウンをすると言いながら、時間になっても車に乗り込もうとせず、自身の命を犠牲に全員を救おうとします。しかし、そこで活躍するのが元太。爆発まで数秒という状況の中、灰原を抱えて、車に乗り込むファインプレーを見せます。
そして、シートベルトをつけていないせいで宙に舞いそうになる灰原の手を取るのが光彦。大人の腕力でも大変そうなのに、子供の腕力で車から落ちそうになる灰原を引き止めました。
もちろん、そんな爆風を利用したビル移動を成功させたのは歩美の正確なカウントダウンであり、まさに少年探偵団が映画のラストを担う大仕事をした映画となりました。
微笑ましい少年探偵団の恋模様?
そんな歩美のカウントダウンには、実はコナンと一緒に居ると心臓の鼓動が1秒丁度であるという秘密も最後の最後で明らかになりました。思えばコナンと蘭の恋愛模様はなんども描かれているのに、歩美とコナンの恋愛模様はほとんど描かれることがないので、そんな歩美の気持ちがクライマックスに据えられるという意味でも、本作が貴重な映画と言えます。
名探偵コナンと言えば、恋愛要素も魅力の一つに数えられていますが思えば、少年探偵団の面々のドラマが描かれれることが少ないので、歩美や光彦が蘭に恋愛相談をするシーンも貴重な場面の一つ。歩美のコナンに対する思いも、光彦の灰原に対する思いも、いずれは叶わない恋だと観ている我々はわかっているだけに切ないです。
新一のことを待ち続ける蘭の切なさこそよく描かれますが、思えば相手に好意すら気づかれていながらも健気に思い続けている歩美の姿は、蘭以上に儚く思えるものではないでしょうか。
本作のタイトルにもなっている歩美の“カウントダウン”は、コナンへの気持ちが表れた微笑ましい演出ではありながら、実はいずれ歩美の元から消えていってしまうコナンという存在の儚さもはらんでいるもの。最後に見せる歩美の笑顔を思うと、どうにか歩美にも幸せになって欲しいと思えてしまいます
『名探偵コナン 天国へのカウントダウン』は、コナンが高校生の姿に戻れないまま、歩美と共に成長していく未来もあってもいいかな……なんて思えてしまう、そんな映画でもありました。
※2021年4月23日時点の情報です。