どうも、侍功夫です。
「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」は、今でこそ東のディズニー・ランドの向こうを張る西を代表するテーマパークだが、初めてその名を聞いた時は、しばらく意味が解らなかった。
「日本にユニバーサル・スタジオの“スタジオ”無いじゃん!」
ということで、私の困惑を理解してもらうためにも、今回は「映画とスタジオ」をテーマにしてみる。
テーマ・パーク「ユニバーサル・スタジオ」
photo by Kevyn Keulen
そもそも。アメリカにあるテーマ・パーク「ユニバーサル・スタジオ」は1915年(100年以上前!)アメリカのユニバーサル・スタジオの前身、ユニバーサル・ピクチャーズ・カンパニーが建設した巨大なオープンセットやスタジオを有した「ユニバーサル・シティ」を、観光客の見学にも開放したことから始まっている。
その本場ハリウッドのユニバーサル・スタジオ・パークの人気アトラクションの一つ、「スタジオ・ツアー」は実際に映画撮影で使われている巨大な倉庫のようなスタジオ脇から始まる。いくつも連なる“スタジオ街”を抜けると、50年代風レンガ壁のマンションや『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ヒルバレーの時計台などが現れる。それらの建築物は、いわゆるオープンセットと呼ばれる屋外に作られた擬似的な街角だ。遠目にはレンガやコンクリートの建築物に見えるが、スタイロフォーム製の簡易的な素材で出来ている。
ツアーはこの先、キングコングの暴れるニューヨークを抜け、大洪水や大地震に襲われる、いわゆる遊園地のアトラクション然とした楽しいものになっていくのだが、そこまでの、倉庫のようなスタジオとオープンセットはホンモノの映画撮影のセットだ。
かつて。このツアーに参加してはトイレに隠れてツアーを抜け出し、“ホンモノ”の方のスタジオに入り込んで実際の撮影風景を覗き見し、管理人と顔なじみになると毎日通って空き部屋を勝手に使って自身の企画の売り込み営業をしていたのが、若きスティーブン・スピルバーグである。
B級映画
アカデミー賞に取り上げられたり、特大ヒットを飛ばすような面白い映画が「A級映画」で、どこかワキの甘い作りの映画が「B級映画」だと思っている人は多いだろう。言葉は時代と使われ方によって変化していくので、今ではその意味で間違いないが、言葉が生まれた当初は映画自体をランク付けする意味は無かった。
まだテレビが一般家庭に普及しておらず、映画は人々の“娯楽の王様”とも言える存在だった時代。映画会社は生産性を高めるために従来のスタジオの隣に新しいスタジオを建設した。新しく出来たスタジオを「Aスタジオ」、古い方を「Bスタジオ」と名付け、「Aスタジオ」では大スターを起用した大作映画が作られ、「Bスタジオ」は量産されていたプログラム・ピクチャーにあてがわれていた。
このことからAスタジオで撮影されるようなタイプの映画は「A ムービー」Bスタジオのそれを「Bムービー」と呼んだのが最初である。
ちなみに、後にゴダールやトリュフォーといったフランスの映画好き、元祖“シネフィル”たちを魅了したのは「Bムービー」の方である。
日活ロマンポルノ
70年代。東宝、東映、松竹などと肩を並べた映画会社「日活」はテレビ時代の到来による収益減を前に、大幅な方向転換を決断する。ポルノ映画の製作と上映だ。俗にいう「ロマンポルノ」とは、この時代に日活で自社制作されたポルノ映画だけを指す言葉である(他の製作プロダクションが作ったポルノ映画は「ピンク映画」と呼ばれる)。
低予算で粗製乱造と言うべき作品も多いポルノ映画群において「ロマンポルノ」が今もなお特別な存在となっている理由のひとつは、かつて名作時代劇や無国籍アクションを支えたスタジオ“撮影所”の存在があるだろう。
映画のために作られた施設なのだから、ロケ撮影よりも勝手が利くのはもちろん。撮影所付きの撮影監督や証明さん、大道具さんの職人的技術や、豊富な衣装や小道具が活用され、低予算を補っていた。
また、隔週で入れ替えられる上映枠を埋めるために、とにかく早く映画を完成させなければいけない状況は、経験を多く積んだ名監督を生み出した。平成ガメラ・シリーズなどの金子修介監督もロマンポルノでデビューしており、そのデビュー作『宇能鴻一郎の濡れて打つ』は、後の大成を予感させる楽しいコメディ・ポルノになっている。
映画を作るためだけに作られた施設
スタジオについての話といえば、他にも「007」シリーズを支えたスペクター秘密基地のバカバカしくも壮大なスタジオセット。ヴィスコンティやフェリーニに貢献しながら、後にテリー・ギリアムを地獄の底へ突き落としたイタリアのチネチッタ。ロバート・ロドリゲスが自宅の敷地内に作ったCG合成用のスタジオだけで撮影した映画群。『ラ・ラ・ランド』を始め、映画撮影スタジオを舞台にした傑作群などなど。語るべき話が多くある。
特に、映画における「夢のような場面」の表現において、CGでの加工が常套手段となっている今、スタジオが果たした映画への貢献を改めて認識するのも映画を理解するためのポイントになるだろう。
というあたりで、今回はおしまい。それはそれとして。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは楽しい。