夏にこそ観たい映画『アラビアのロレンス』【隠れニアBL映画】

腐女子目線で映画をフィーチャーしてみる。

阿刀ゼルダ

夏こそ砂漠! 『アラビアのロレンス』

長雨がようやく終わり、やっと夏感が出てきた今日このごろ。皆さんは夏になると観たくなる映画、ありますか?
私のイチオシは、砂漠を舞台にした大作歴史映画『アラビアのロレンス』(62)です。

砂の大海原の中、真っ白なアラブ服に身を包み、遊牧民(ベドウィン)の大軍を指揮して戦うロレンス……幻想的な砂漠の光景と壮大なスケール感が魅力の、名画中の名画ですよね。
暑い時には涼しくなるホラーが定番、でも、エアコンの効いた部屋から熱い砂漠にワープしてみるのもまたオツなものです。

アラビアのロレンス2
砂漠のゲリラ戦を指揮するロレンス

ただこの映画、レビューサイトなどでは「退屈」という感想もちらほら。
3時間以上にわたる長さもその原因でしょうか……もう一つ、ロレンスの胸のすくような大活躍が描かれる反面、彼が導いた勝利がむしろ悲劇と深い挫折感を生み出してしまうという屈折したストーリーも、流れに乗りにくい大きな理由かもしれません。
もっとも、まさにその毀誉褒貶(きよほうへん)の激しさこそが、アラビアのロレンスことT.E.ロレンスを知る上で鍵になる要素
少し彼の背景を知った上でこの作品を観てみると、俄然話が面白くなることは大いにありそうです。

というわけで、今日は映画アラビアのロレンス』を観る上で軽く役立ちそうな予備知識と、ホモセクシュアルだったとされるロレンスのセクシュアリティに着目したみどころをご紹介したいと思います。
(以下はネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください。)

1分で読める『アラビアのロレンス』あらすじ

主人公のロレンス(ピーター・オトゥール)は、第一次世界大戦中、イギリス軍の将校として中東戦線で活躍した実在の人物。
当時アラビア半島は、イギリスの敵国オスマン・トルコの領土。イギリス軍部は、対トルコ戦を有利にはこぶため、アラブ民族のトルコからの独立を支援する名目でアラブ遊牧民=ベドウィンを味方につけようとします。そのベドウィンとの仲介役として白羽の矢を立てられたのが、考古学研究者でアラビア語が堪能なロレンスでした。

イギリスでは変人で通っていたロレンスですが、この任務では水を得た魚のようにたちまちのうちに統率力とカリスマ性を発揮して、ベドウィンたちの絶大な信頼を得るまでに
彼はトルコに反旗をひるがえしたメッカのシャリフ(首長)の三男ファイサル王子を担ぎ、王子の名の下にベドウィンたちをまとめ上げて、砂漠で対トルコのゲリラ戦を展開。
めざましい戦果を挙げたロレンスは、イギリス本国でも一躍英雄にまつりあげられます。

T.E.Lawrence
実在の「アラビアのロレンス」ことT.E.ロレンス

しかし、アラブ民族独立を支援するとは口先だけで、イギリスやフランスは戦後旧トルコ領を両国で分断する密約を交わしていたことが明らかに。
ベドウィンと共に戦いながら彼らを騙す結果になったロレンスは、失意のうちにイギリスへ帰国。(ロレンスより処世術では数段うわ手だったファイサル王子は、後にイラク国王に。)
祖国イギリスでは中東戦線の英雄になった反面、今日にいたる中東紛争の元凶を作った一人とみなされることになったロレンスの、野望と挫折、絶望……そしてハリト族の首長アリ(オマー・シャリフ)などベドウィンの戦士たちとの心の交流が描かれていきます。

アラビアのロレンス4
ロレンス(左端)とハリト族のシャリフ・アリ(右端)

ロレンスの戦いは誰のためのものだったのか?

この映画の中でロレンスは、必要もないのに素手でマッチの火を消してみせたりするちょっと風変わりな人物かと思えば、砂漠の戦場ではゲリラ戦の天才になったり、時には自分の力を過信しすぎたり、残虐な一面を見せたりと、多くの側面を持った人物として描かれています。
ただ、確かなことは、ロレンスはアラブ人を裏切る結果になったことを恥じ、苦しんでいたということです。

実在のロレンスは、中東戦線での功労に対する国王ジョージ5世からの叙勲を頑なに断った上、一兵卒として戦車隊に入隊するなど、徹底して「英雄のいるべき場所」から遠ざかろうとし続けました。
彼は生涯、彼がイギリスの権益のために働いたのではなく、ましてや栄誉が欲しくて戦ったわけではないことを身をもって主張し続けていたように見えます。

じゃあロレンスは一体なんのためにアラブ独立を目指したのか? 彼はアラブ人ではないのに。
パリ講和会議(1919年)の際、この問いを投げかけた知人に、ロレンスは、
「一人のアラブ人が好きだったから」
と答えたそうです。
「一人のアラブ人」とは、誰だったのでしょうか?

或るアラブ人少年への想い

T.E.ロレンスがホモセクシュアルで、研究者時代カルケミシュ(シリア・トルコ国境)の発掘現場で知り合ったダフウムというアラブ人の少年に恋心を抱いていたことは、今や通説と言ってもいいかと思います。
彼の自伝小説「知恵の七柱」の冒頭には、「S.A.」なる人物に捧げられた“I love you.”で始まる献詩が記されているんですが、S.A.というイニシャルはダフウムの本名サリム・アハメドに一致します。
あくまで推測の域を出ないものの、ロレンスが好きだったという「或るアラブ人」も、ダフウムだった可能性は高いように思えます。

そんな彼が「知恵の七柱」に記した、大戦中(1917年)デラアでトルコ軍の軍政官に鞭打たれ、レイプされた話も、物議をかもしたエピソード。
この事件が起きたとされる日にはロレンスはデラアにはいなかったとする研究も発表されていて、だとしたらロレンスはなぜそんなエピソードをよりにもよって輝かしいアラブ時代の記録に書き加えたのかも全く謎。
ここでは詳しく書きませんが、鞭打ちの件に関してはさらに、戦後十数年にわたってロレンスに(彼自身の)鞭打ちを依頼されていたと証言する人物が現れたことで、謎が謎を呼ぶ事態に。
デラア事件一つとっても、ロレンスのミステリアスな一面が垣間見えるところです。

ニアBL?にも見える濃厚なブロマンス

こうしたロレンスのバックグラウンドを知った上でこの映画を観ると、目から鱗が落ちたようにいろんなことが見えてきます。
デラアのシーンでなぜトルコの軍政官がロレンスの肌をねっとりした手つきで撫でまわすのか? その意味もよく分かるし、また、何も予備知識がないうちは気に留めていなかった人間関係も気になってきたり。
気になる人間関係とは、ロレンスとハリト族のシャリフ・アリの関係。
デラアでロレンスに何があったかを知っているのもアリだけ。しかもこの人、ロレンスのことになると人一倍熱くて、しばしば意味深な言動を見せるんですよね。

例えば、ベドウィンたちの最終目的地・ダマスカスへの進撃の日、ひたすら地平線を見つめながらロレンスが姿を現すのを待つアリの表情。
ダマスカス攻撃に参加する兵は皆ロレンスから金を受け取った中で、アリだけは受け取らなかったことも、この場面のアリのセリフから分かります。
アリの中でロレンスへの友情はほかの誰よりも純粋で深いものだったことが伝わるシーンです。

そして極めつけは、ダマスカスでベドウィンの国を作る夢に破れたロレンスが、アラビアを去る決意を、アリとアリ同様にロレンスを慕っていたアウダ(アンソニー・クイン)に告げるクライマックス。
アウダはロレンスを引き留めようとしないアリに、
「(ロレンスを)好きだろう?」
と問いただしますが、アリは肯定も否定もせず、
「敬愛しつつ、恐れていた。彼も彼を恐れ、憎んでいたんだ」。
と抽象的な言葉で煙に巻きます。

しかし、言葉とは裏腹に、動揺を露わにするアリ。
アリの動揺ぶりを見たアウダは、彼の本心を確信したようです。
去っていくアリの背中に、アウダが投げかけた言葉も印象的。
「おい覚えておけ、アラブ人は一生茨の道を歩き続ける宿命なんだ」
このセリフ、いかにも、相手を想うがゆえに本心を告げずに去っていく男の苦しみを(そしてその後の分断されたアラブ民族の苦しみを)言い当てているように聞こえます。

アラビアのロレンス3
ロレンス(左)とハウェイタット族のアウダ(右)

映画の中のロレンスとアリは、戦場で生死を共にする同志ならではのホモソーシャルな絆で結ばれた関係なんですが、時としてアリの側が限りなくホモセクシュアルの領域に踏み込みそうになる瞬間があって、ドギマギさせられます。
主要登場人物に女性が1人もいないだけに、そういう「匂い系」の要素も作品のほどよい隠し味になっている気がしますね。

「外国人はいつもここへ教えにやってきます。ここでは学ぶべきことのほうが多いのに」(※)

これは、戦争前、ロレンスがダフウムと知り合ったカルケミシュの発掘現場から両親に送ったという手紙の一節です。
映画の中では、ロレンスもまた「教える側の外国人」のように描かれていますが、ロレンスのアラブ独立への情熱の原点にあったのは、アラブ民族への敬意(多分、一般の西欧人には理解しにくいもの)だったのでは……という気がしてなりません。
そういう純粋な想いが、いつの間にか国家の利権争いの渦に巻き込まれ、利用されたのだとしたら、彼もまた戦争に人生を狂わされた犠牲者の一人と言える気がします。

知れば知るほどミステリアスで、その生き方に惹きつけられるアラビアのロレンス。デヴィッド・リーンの描く陰影深いロレンス像を、夏向きの幻想的な砂漠の映像と一緒にぜひ味わってみてください。

※スコット・アンダーソン著「ロレンスがいたアラビア」(白水社 山村宜子訳)による。

アラビアのロレンス1
アラビアのロレンス』発売中
Blu-ray ¥2,381(税抜) / DVD ¥1,410(税抜)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(C)1962, renewed 1990, (C)1988 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

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  • J1review
    3.4
    イギリス軍の変わり者ロレンスがアラビアを舞台に活躍する話。 ツタヤでおススメによくあるなぁと思いつつ、あまりの長さに敬遠していた作品をついに鑑賞。スキマ時間で見ていたら1週間掛かった。 ゆっくりとした描写が砂漠のスケール感、絶望感をよく表していて、特に前半は素晴らしい。ちょっと後半はよく分からない。転落していく話と壮大な音楽の違和感。wikiを見ると自分は1/10も理解できていないみたい。
  • ストーンポニー
    4.5
    多分30年振りくらいに2日間かけて鑑賞。前回観た時は中東の歴史、地理的な背景に詳しくなく何となくの鑑賞だったが、今回はその辺の知識をもっての鑑賞だったので面白かった。 オスマン帝国からのアラブ人独立のために命をかけて戦うイギリス将校ロレンス。アカバへの遠征途中、ラクダから消えた一人の仲間を宿命だと言って助けにも行かないアラブ人の反対を押し切って助けに向かうロレンス。その仲間を見つけて生還しアラブ人の心をガッチリ掴んで族長の衣装をプレゼントされるシーン良かった。でもアカバ攻撃前夜に部族間で殺人が発生。アラブ人部隊分裂寸前の中、ロレンス自らその混乱の主犯を処刑するシーン。主犯はロレンスが命がけで助けた男だった。切ない。アカバ攻撃も現代ならCGとかで作っちゃうだろうけど当時は、本物の大量の馬を使っての撮影はど迫力。 アカバからカイロへ勝利の報告のためにシナイ半島横断。その横断途中にも従者の少年を流砂で失う。 数々の悲劇を乗り越えてアラブ人から英雄的な存在となったロレンスに率いられたアラブ人部隊はついにダマスカス攻略。念願のアラブ人国家樹立かと思いきや、イギリス政府にその気はさらさらなし。アラブ人も部族間で自らの権利を主張するばかりでまとまりなし。失意の中イギリスに帰国するロレンス。 今日まで続く中東問題に起因する歴史的な見地として、とても勉強になりエンターテインメントとして楽しめる作品。その後のイスラエル建国に関しては、さすがにハリウッド映画だけに全く触れてないけど。 エジプト人俳優オマー・シャリフとアラブ人を演じ切ったアンソニー・クイン、あともちろん主演のピーター・オトゥールの演技も素晴らしかった。
  • KentaMakiyama
    4.1
    第一次世界大戦が勃発し、オスマン帝国からのアラブ独立を導いたイギリス陸軍将校のトマス・エドワード・ロレンスの壮大なストーリー。イギリス人とアラブ人が砂漠の中で団結し共に戦う姿は見応えある。 歴史的名作を4Kで観れて良かった。3時間以上あるが、あのスティーヴン・スピルバーグを映画監督になる決意をした作品だけある。
  • Koumett
    4
    なっっっっっ、がい!!!笑 長いから、自分も砂漠に住んでる気になった。 というか、砂漠が好き。 これは、砂漠の美しい風景とラクダを愛でる映画である。。 それはさておき 話は途中から難しくてよく分からなかったけど (政治関連は苦手) あんなことやこんなことが起こって 後半は何だかいたたまれない気持ちになったな。 ロレンスは何か怖かった 何だろうこの狂気のニオイ^^;? 良い人なんだか変な人なんだか?? おめめがやたらと綺麗なブルーなところも 砂漠の雰囲気とミスマッチで 彼の異質で異端な感じがよく出ていたね。 しかし思ったより古い映画だったんだな。 それでこの映像美、戦闘シーンの迫力はすごい。 馬の大軍、砂ぼこり、爆薬、、 CGないんでしょ?壮大すぎるよ。 あとラクダはよくいうこと聞いてる。 生死をかけたやり取りが繰り広げられてても のんびり、え?っていう顔して立ってる。 基本闘ってるから、この映画の癒しポイントは、ここだけ。笑
  • ポンデリング山田
    4.3
    長いので2日かけての鑑賞。 冒頭、ロレンスがバイクの事故で死亡するカットから始まる。そこから過去へと遡り彼が″アラビアのロレンス″として活躍していた頃が映し出される… 何よりもその壮大さに驚いた。1962年の作品だから勿論CGなんて使っていない。なので砂漠の奥の奥の方から人がやって来るシーンや大勢の人がラクダに乗り砂漠を横断するシーン、それこそ戦いのシーンなんかは感動以上に感動したし、その技術に驚いた。 前半は普通の兵隊のロレンスが配属された砂漠で好成績を収め少佐へと昇進し、アラブ人からは″オレンス″と親しまれる存在になる。 しかし、後半からはそんな英雄的存在ではなくなる。自分は″普通の人間″だと気づいた瞬間に、段々と堕落して行き狂っていて行く様が惨たらしくも美しかった。 ラストでロレンスの表情が曇ったガラスで見えない所も色々考えてしまう。壮大なアクション映画!だと思って見たけど予想以上に哲学的思想が鏤められていて面白かった。
アラビアのロレンス
のレビュー(5606件)