山下真冬です。長らく映画まみれ。こよなく映画を愛する東京OLです。
「映画はとても個人的なものだ」を胸奥に、低予算映画を中心に紹介してゆくつもりです。
かつてケヴィン・ベーコンを有名にしたのは青春映画『フットルース』の踊る高校生役だった。
ケヴィン・ベーコンは、『激流』(94)、『告発』(95)、『スリーパーズ』(96)などに代表されるように、 今や深刻かつ癖のある役どころを難なくこなす実力派俳優であるがゆえ、最近では2016年に公開された『ブラック・スキャンダル』(15)においても、また2017年に日本で公開された『パトリオット・デイ』(16)においてもFBI局員という離れ業。毎年FBI。役者として信頼されている証拠とも言えますね。哀愁漂う近頃のケヴィン・ベーコンは、渋い味わいでとても素敵です。
しかし、かつてケヴィン・ベーコンを有名にしたのは、青春映画『フットルース』(84)です。映画が大当たりし、主題歌も爆発的にヒットする。『フットルース』はその典型とも言える映画でした。今から30年以上も前に公開された『フットルース』は当時、主演の高校生役を演じたケヴィン・ベーコンを世界的に有名にしました。2011年にはリメイク版も製作され、舞台化もされましたので、ケニー・ロギンスが歌う「フットルース」を聴いたことがある人は大勢いると思います。
1978年の映画デヴュー以来、数多くの映画に出演してきたケヴィン・ベーコンですが、彼の出演映画は、100%までとはいきませんが、7割~8割は観てきました。その中で作品的に好きな映画は、断然、ジェームズ・ワン監督の 『狼の死刑宣告』(07)と、今回紹介する『レールズ&タイズ』(07)です。
『ビューティー・ショップ』(05)をご覧になった方はご承知でしょうが、ケヴィン・ベーコンにはコメディがしっくりこない。きっと観客の多くも人間の内に秘めた凶暴さをケヴィン・ベーコンが今度はどう演じてくれるのかに期待してしまっているのかも知れません。『COP CAR コップ・カー』(15)も正にそんな映画でした。そう考えると、『フットルース』から、数十年かけて、様々なキャラクターを演じ、役者として今の立場を確立したケヴィン・ベーコンには敬服してしまいます。
本作はクリント・イーストウッドの愛娘アリソン・イーストウッド初監督作品
『レールズ&タイズ』の監督は、あのクリント・イーストウッドの愛娘の一人であり、女優経験もある、アリソン・ イーストウッド。その上、音楽はこれまたクリント・イーストウッドの愛息のカイル・イーストウッドです。
『レールズ&タイズ』は、2007年製作の日本未公開作品で、邦題は原題の『RAILS & TIES』をカタカナにしただけの地味なものですが、実は物すごく深読みの余地を持ったタイトルなのです。
決して愉快な作品ではありませんが、映画のない日常は想像すら出来ないわたしが、2009年中に鑑賞した295本の映画の中で、最も好きな映画の中の1本です。
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愛し合いながらも、過酷な現実に向かい合うことで、むしろぎくしゃくしてしまう一組の夫婦。それがケヴィン・ベーコン演じる列車運転士のトムとマーシャ・ゲイ・ハーデン演じる看護師のミーガンです。
妻のミーガンは、あらゆる事柄の中でも女性が心から想像したくないことに直面しています。乳癌です。子供に恵まれず、夫婦二人で長らく暮らしてきたトムはそのことを認められずにいます。
働いている方がマシという状況下でトムが運転していた列車の前に、線路で立ち往生している一台の車。その車中には母と息子。まだ27歳の若い母親は、ほぼ寝たきり。11歳の息子デビーは家事までこなしながら、そんな母に寄り添い生活しています。きっとそれは久し振りの母と息子の外出。そこにトムの列車が車めがけて突っ込んでくる。
前方の障害物に気がついた運転士のトムは、ここで急ブレーキをかければ列車は脱線しかねない、そう判断したわけですね。しかしそのことで母を失うことになったデビーは、列車の運転士トムを恨み、なぜあの時ブレーキをかけてくれなかったのかと里親の元を逃げ出してまでトムのもとを訪ねてくるわけです。
デビーの登場によって夫婦が初めて経験する子供がいる空間。それはデビーにとっても、まるで父と母が揃ったような初めての体験。ぎこちなさの中にたえまない母性と培われてゆく父性をみたとき、胸が締め付けられるようでした。
デビーを演じる当時子役のマイルズ・ヘイザーは抱きしめたくなるほど可愛いくて、こぼれ落ちる大粒の涙は忘れがたいのですが、その子役に全く喰われないケヴィン・ベーコンとマーシャ・ゲイ・ハーデンの凄み。俳優として長らく活躍することの稀有さをこの作品を通して見せつけられました。
登場人物は決して多くはありませんが、無駄のない台詞、それぞれの眼差しが語ることの深さ、 思い知らされる男女の差、人生の皮肉さ。重いドラマとは言えるものの、泣かせましょう的な湿っぽい演出がなされていないところは、流石に乾いた映画を得意とする父親譲りを感じさせる映画です。
本作のタイトル『RAILS & TIES』のRAILS は、線路やレールという意味だけでなく、物事や人々を運ぶための道筋のことでもであり、TIESは、縦横する列車と心が結んだ縁。そしてそれらは、背負った哀しみをほどくものでもあったわけですね。観終わってみれば、まさしくこの映画は、『レールズ&タイズ』。まるでどんよりとした雲の隙間から、透き通るような空が見えたような、寂しさと人恋しさが詰まった温かい映画です。上映時間約1時間40分。このざわめきある静かな余韻を是非。
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