スティーヴン・ソダーバーグは何故、映画界に舞い戻ってきたのか?【フィルムメーカー列伝 第十回】

ヒットガールに蹴られたい

竹島ルイ

「スティーヴンという名前の映画監督といえば?」という質問に対して、「スピルバーグ!」ではなく「ソダーバーグ!」と答える人は一握りだろう。っていうか、「え? ソダーバーグ? 誰ソレ?」と首をかしげる紳士淑女の皆さまも、少なからずいらっしゃるかもしれない。

いや、ちょっと待って! スティーヴン・ソダーバーグってホントはすごい映画作家なんですよ! とっても重要なフィルムメーカーなんですよ! だってだって、

“史上最年少でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した天才!”
“『オーシャンズ11』などオールスター総出演のハリウッド大作を手がけるヒットメイカー!”
“監督のみならず脚本・プロデュース・撮影・編集も務めるマルチクリエイター!”
“テレビドラマにも進出し、数々の話題作を手がける映像界のフィクサー!”

なんですよー!!!!!!

その才能&実績と比べるとあまり語られる機会の少ない映画作家、スティーヴン・ソダーバーグ。せめて、映画感度の高いFILMAGA読者には彼のすごさを知っていただきたいと思います。という訳で【フィルムメーカー列伝 第十回】は、ソダーバーグについて考察していこう。

史上最年少の26歳でカンヌを制覇した“早熟の天才”

スティーヴン・ソダーバーグは1963年1月14日、ジョージア州アトランタ生まれ。まだ高校生だった15歳で大学のアニメーション科に入学し、16mmフィルムを製作していたというから、映画に関してはかなりの早熟! ちなみに父親のピーター・ソダーバーグはルイジアナ州立大学の教授で、スティーヴンもいくつかのクラスを受講していたらしい。

高校卒業後はハリウッドに移り、フリーランスの編集者として働いたあと、ロックバンド「YES」のライヴを収録した「9012ライヴ」を手がける。この作品はグラミー賞の最優秀短編ミュージックビデオ賞にノミネートされ、高い評価を得た。

1989年には、ソダーバーグにとって初めての長編映画『セックスと嘘とビデオテープ』を発表。一本のビデオテープによってある夫婦の真実が明らかになるという低予算のインディーズ映画だったが、いきなりカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞! しかも26歳という史上最年少での受賞だった。

っていうか皆さん、26歳ですよ! 26歳っていったら、日本の芸能人だと前田敦子さんと一緒なんですよ(その比較に何の意味があるのかは自分でもよく分かりませんが)!

かくして、早熟の天才・ソダーバーグは颯爽と映画界に登場したのである。

セックスと嘘とビデオテープ

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低迷期を脱出、アカデミー監督賞受賞へ

その後ソダーバーグは、フランツ・カフカをモチーフにした不条理サスペンス『KAFKA/迷宮の悪夢』、大恐慌時代のセントルイスを舞台に12歳の少年のひと夏を描く『わが街 セントルイス』、1949年製作のフィルム・ノワール『裏切りの街角』をスタイリッシュにリメイクした『蒼い記憶』と、野心作を次々に発表。

しかしいずれの作品も商業的成功には至らず、華々しいデビューとは裏腹にその後は低迷期が続く。1996年には、資金節約のために監督・脚本・撮影のみならず自ら主演も務め、おまけに奥さんと子供も俳優として出演させ、わずか5人のスタッフで作り上げたという超低予算映画『スキゾポリス』を発表。

スキゾポリス

自己言及的でありながらスラップスティックでシュールな本作は、フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』や、北野武の『TAKESHIS’』と同じく、映画監督ソダーバーグの内的葛藤をそのまま引き写した映画といってもいいかもしれない。ある意味でこれは、究極のプライベート・フィルム。ソダーバーグがネクスト・レベルへステップアップするために、『スキゾポリス』をつくることは不可欠だったのだ。

自分自身と正対したソダーバーグは、その才能を再び世に知らしめる。ジョージ・クルーニーを主演に迎えた『アウト・オブ・サイト』(全米映画批評家協会賞の作品賞を受賞)、名優テレンス・スタンプを主演に迎えた『イギリスから来た男』と、スタイリッシュなクライム・ムービーを立て続けに発表。クロスカッティングやフラッシュバックを多用する“ソダーバーグ”タッチはこの辺りから洗練を極め、批評家からも絶賛を浴びた。

アウト・オブ・サイト

イギリスから来た男

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そして2000年には、PG&E(パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー)を相手に巨額の和解金を勝ち取った女性環境運動家の活躍を描いた『エリン・ブロコビッチ』、アメリカとメキシコを舞台に麻薬密輸に関わる闘争をサスペンスフルに描いた『トラフィック』を発表する。

ソダーバーグはこの2作でアカデミー監督賞にダブルノミネートを受け(監督賞でダブルノミネートを受けたのは、マイケル・カーティス以来62年ぶり2人目の快挙だった)、『トラフィック』でみごと受賞

長い低迷期を抜け、映画界の天才児は再び日の当たる場所に帰還を果たしたのだ。

トラフィック

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ハリウッドを代表するヒットメーカーの座を手中に

その後の活躍は、周知の通り! あらゆる映画賞という映画賞をかっさらってきたソダーバーグは、アート系ムービーからエンターテインメント大作に舵を切り、映画マーケットで旋風を巻き起こす。その代表格は、やはり『オーシャンズ11』だろう。

オーシャンズ11

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これは1960年に公開された『オーシャンと十一人の仲間』のリメイクで、ラスベガスの巨大金庫に眠る1億5,000万ドルを狙って、多士済々な犯罪のプロフェッショナル達が金庫破りに挑む痛快作。ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、ジュリア・ロバーツというスターが勢揃いしたことでも話題となった。

人気を博してその後も『オーシャンズ12』、『オーシャンズ13』と続編が作られ、2018年には主要キャラクターを全て女性キャストで固めたリブート作品『オーシャンズ8(原題)』が公開される予定だ(ソダーバーグは監督を離れてプロデュースにまわっている)。

スティーヴン・ソダーバーグは、複数の登場人物が入り乱れるオールスター・ムービーの手法を「オーシャンズ」シリーズで体得し、2014年のウイルス・パニック映画『コンテイジョン』でも、マリオン・コティヤール、マット・デイモン、ジュード・ロウ、ケイト・ウィンスレットといったスター俳優たちを集めて、世界が未曾有の危機に陥る様子を描いている。ハリウッドを見渡しても、スター俳優をここまで操れる監督はそうはいない。

コンテイジョン

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その後もソダーバーグは、革命家チェ・ゲバラの半生を描いた二部作『チェ 28歳の革命』&『チェ 39歳 別れの手紙』、総合格闘家のジーナ・カラーノを主演に迎えて撮ったスパイ・アクション『エージェント・マロリー』、男性ストリッパーのサクセスストーリー『マジック・マイク』などあらゆるジャンルを横断した映画を撮りまくる。

ソダーバーグが“あまり語られる機会の少ない映画作家”なのは、節操がないくらいにあらゆる題材を取り上げ、スタイリッシュに仕上げてしまうからだろう。もちろん映画の端々には彼の強烈な作家性が刻印されているのだが、あまりにも要領が良すぎるがために、映画作家としての語りしろが見当たらない。決して監督として議論に値しないからではなく、ちょっとイラッとするくらいに(笑)器用すぎるがゆえに語られにくいのだ。

撮影も編集も手がけるスーパー・マルチクリエイター

スティーヴン・ソダーバーグ監督、脚本、製作に止まらず、撮影も編集も手がけるスーパー・マルチクリエイターでもある。

アカデミー監督賞を受賞した『トラフィック』の撮影監督はピーター・アンドリュースだが、実はこれがソダーバーグ自身! ハリウッドではユニオン(組合)が力が非常に強く、その職分が侵されることを非常に嫌う。そこでわざわざソダーバーグは父親ピーターのファーストネームとミドルネームから名前を拝借し、ピーター・アンドリュースという別名義でクレジットさせたのだ。

編集にクレジットされているメアリー・アン・バーナードも、ソダーバーグの結婚前の母親の名前に因んだ別名義。とにかく、彼はなんでもやりたがるタイプなのだ。

ちなみに『マジック・マイク』の続編『マジック・マイクXXL』は、ソダーバーグの盟友グレゴリー・ジェイコブズがメガホンをとっているが、何とソダーバーグは撮影監督と編集を自ら買って出て担当している。ただでさえ監督業とプロデュース業で忙しいはずだが(しかも彼はシナリオも手がけているのだ)、ここまでくれはビョーキに近いワーカホリックぶり。っていうか、自分の師匠格が撮影と編集をやっている訳だから、グレコリー・ジェイコブズは相当やりにくかったことだろう……。

突然の引退宣言、そして映画界復帰作『ローガン・ラッキー』へ

順風満帆のクリエイティブ・ライフを謳歌していたソダーバーグだったが、2013年の『サイド・エフェクト』を最後に、「映画からしばらく離れたい」と突然の映画監督引退宣言!

サイド・エフェクト

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ゆっくり過ごして充電期間に当てるのかと思いきや、活躍の場所をテレビに移し、さらなるワーカホリックぶりをスパークさせる。医療ドラマ「The Knick/ザ・ニック」、青春コメディ「レッド・オークス」、高級コールガールを主人公にすえたドラマ「ガールフレンド・エクスペリエンス」などで演出・プロデュースを担当。どんだけ働くんだソダーバーグ!!!

しかし彼は4年も経たないうちに映画の世界が懐かしくなったらしい。映画監督復帰作となる『ローガン・ラッキー』が、11月18日より公開中だ。レベッカ・ブラウンのオリジナル脚本を映画化した本作は、一攫千金計画に挑む強盗団をスリリングに、そしてちょぴりコメディタッチで描くクライム・ストーリー。

映画界に再び舞い戻ってきたソダーバーグ。その華麗なる復帰作を、ぜひ映画館で体感してみてはいかがだろうか?

ローガン・ラッキー

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※2021年1月23日時点のVOD配信情報です。

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    2.8
    ちょっと一度で細かく理解するのが難しかった でももう一度見ようとはあまり思えない STARZPLAYで視聴
  • Kamiyo
    4
    トラフィック(2000) 監督 スティーヴン・ソダーバーグ 原題""Traffic""で、輸送・往来・取引の意。ここでは麻薬取引のこと。 前作”エリン・ブロコビッチ "" でみせたソダバークの社会派としての 視点によりクールなリアルさが加わっている。 アメリカの陰の部分といえば、銃と麻薬。 奥深い問題となっている「麻薬」について その麻薬を、製造する者、売りさばく者、使用する者、取り締まる者。 いろんな視点から麻薬を取り巻く現状を描いている。 セミドキュメンタリータッチのサスペンス映画。 舞台は、シンシナティ、ワシントン、サンディエゴ、ティファナ(メキシコ)と多く、そこで同時に進行するエピソードを、微妙に絡ませ 時に乱暴とも思えるやり方で繋いで行く。 1.麻薬カルテルに関わる軍の将軍や警官への賄賂が横行するメキシコで、カルテル撲滅に立ち向かうメキシコ州麻薬取締警官。 ロドリゲス(ベニシオ・デル・トロ)とパートナーのサンチェス(ヤコブ・バーガス) 2.麻薬の密売で巨万の富を得るカリフォルニアの密輸業者を摘発するものの、有能な弁護士と密告者麻薬密売人ルイス(ミゲル・フェラー)の抹殺で敗北する麻薬取締捜査官 麻薬取締局の囮捜査官、ゴードン(ドン・チードル)とカストロ(ルイス・ガスマン)。 3.麻薬撲滅担当大統領補佐官ウェークフィールド(マイケル・ダグラス)に任命されるものの、娘キャロライン(エリカ・クリステンセン)が麻薬中毒となっていることを知る東部のエリート判事。  この3つのストーリーが、時に交差しながら、進行していく。 ソダーバーグ監督は「場面ごとに色を変える」と言う 大胆な手法をとって来ました。 1.メキシコの情景は、黄色がかったコントラストの強い ざらついたもの。 3.シンシナティは、青い色のフィルターをかけた映像。 2.サンディエゴは自然光に近い暖かい色合いでまとめられ 3.ワシントンは人工的(蛍光灯の照明?)な色合い。 これで統一されているから、場面切り替えの時に下の方に出るテロップを見落としたとしても、何処で起きている事なのか観客に判るようになっている。 麻薬取引を巡っての群像劇。 北米自由協定(NAFTA)が皮肉にも追い風になって 巨大産業になった麻薬ビジネスが、アメリカとメキシコの アングルから多角的に描き出されます。 「みんな野球は好きだろ?チュアナの球場には照明が無い。 ナイター設備があれば誰も夜出歩かない。ヤクをやったりしない。 チュアナにもっと関心を持ってくれ」 メキシコの刑事、ベニチオ・デル・トロが呟く。 ラストシーンの夜間照明が設置されたメキシコの公園 暗くなってもそこで野球をして遊ぶ子供達の姿と見守る家族達 それは転落した国の中でも、たった一人であっても、誘惑や脅迫に揺るがず戦い抜けば、そのような地獄の底からでも子供達を守り次世代に繋げ再生していくことは可能なのだとのメッセージだ 麻薬王の(スティーヴン・バウアー)夫が密売組織に絡んでいたことを知らされ最初こそ呆然、困惑するものの、贅沢な暮らしを捨て去ることができず、夫の手助けをしてしまう妻(キャサリン・ゼダ=ジョーンズ)のエピソードがドス黒い背景を覗かせていて不気味だった。 そして、同僚を失い、裁判に失敗し、密売業者に完敗しながらも 盗聴器を仕掛けて復讐戦を挑むカリフォルニアの 麻薬取締捜査官(ドン・チードル) がいい。 麻薬対策本部長(マイケル・ダグラス)に就任した相手に 報道陣がこうインタビューする。 「家族がいるのに麻薬と対決を?」 娘キャロラインが麻薬に溺れているロバート判事が 娘のクラスメイトから、  「(麻薬は)買うヤツが悪い」 と言われる所でしょう。  麻薬常習者であるクラスメイトが言う、これは「開き直り」でしかないのですが、実際に、娘の麻薬使用を止められなかったロバート判事は、その後、自分の無力さを思い知って麻薬摘発の担当就任演説を途中で放り出してしまう。 政府の力で麻薬の流れを断ち切るのではなく、家族の愛で、麻薬を必要ないものとする環境を作り出すことが大事、 ラストに演説で「私は家族を敵とみなすことはできない。失礼する」 マイケル・ダグラスの選択に涙 取り調べ中に麻薬組織の男(ミゲル・フェラー)が 刑事に向かってこう言う。 「お前達は敗戦を知らずに孤島にいた日本兵だ。 政府はとっくに麻薬戦争に負けている」 この作品は麻薬の汚さ、恐さ、悲惨さ等を訴えているような種の作品ではない。いろいろな視点から、ただただ淡々と麻薬問題の現実を描いている。だからこそ、アメリカ、メキシコ、さらには世界を取り巻く麻薬の現状に絶望に似たものを感じずにはいられない 社会派ドラマにありがちな安易な正義感を前面に押し出すことなく それぞれの立場から苦闘する姿を描き、社会に巣食う麻薬と 解決の難しさも併せて描きながら 3人の主人公がそれぞれの世界で苦闘する人間の姿 麻薬問題の根深さと同時に、希望への光を宿すラストが秀逸。 2001年度のアカデミー賞の4部門受賞作 メキシコの麻薬取締警官を演じたベニチオ・デル・トロが アカデミー助演男優賞
  • サウナー
    3.9
    久しぶりにこういう映画を映画館でみたい。 麻薬群像劇なんだけど、エピソードは断片的で線でつながると言うよりは点で世界観が浮かび上がってくるような作りは良かった。 結構凄い映画だと思うけど、途中で集中力きれてしまった。 南米に産まれたらきっとこの年まで生きれてないだろうなとリアルに感じれた。
  • トムヤムクん
    3.5
    数ヶ月前に見たのに、あまりにつまらなさにレビューを忘れていた…。麻薬戦争を3つの視点で描いた群像劇なのだが、内容がシリアス&ヘビーすぎて肌に合わず。しかも結構な長尺なので、余計にしんどかった記憶がある。
  • datemasamune
    2.5
    3つの話が同時に進んでいるのだが、最後までどう関連するのか、話が全くわからなかった。
トラフィック
のレビュー(3367件)