【犬王特集 vol.1】鬼才・湯浅政明の映像表現が爆発する変幻自在のミュージカルアニメ『犬王』の魅力

日本界アニメきっての個性派、湯浅政明監督の最新作『犬王』が5/28(土)、いよいよ公開されます。

室町の動乱の時代に活躍した実在の能楽師、犬王の知られざる生涯を描くこの作品は、湯浅監督らしい大胆な解釈によって生まれた斬新なロック・ミュージカルです。滅んだ者たちの声を現代に届ける『平家物語』から連なる物語として、忘れ去られた歴史を浮かび上がらせ、世界に問いかける一大エンターテインメイントでもあります。

FILMAGAでは、全3回の連載で映画『犬王』の魅力をお届けします。
初回である今回は、完結したばかりのTVアニメ『平家物語』と映画『犬王』の関係性から探っていきましょう。

『平家物語』に連なる『犬王』の物語

「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり――」

多くの人の耳に冒頭の一節が刻まれている大古典「平家物語」。800年前に起こった出来事を琵琶法師たちが語り継いだ物語は、2022年、山田尚子監督によってテレビアニメ化され、大好評のうちに最終回を迎えました。

シリーズ構成を担当した吉田玲子氏は、13巻からなる長大な原作から独自の視点でエピソードを厳選し、全11話のシナリオに落とし込みました。主役となるのは、未来を見通す不思議な力を持った少女・びわ。平家の者たちと関わりを持ち、その滅びの行く末を知りながらも、彼らの生き様を見届けます。高名な一大「叙事詩」が、多くの人々の運命を見つめる「叙情詩」として再構成されているのです。びわが奏でる琵琶の語りとともに、平家の盛衰を後世へと語り継ぐこの作品は、うつろってゆくものへの慈しみに溢れた感動作でした。

「平家物語」の現代語訳は数多く刊行されていますが、今回のアニメ化は、2016年に出版された古川日出男氏による現代語訳版をベースにしています。その古川氏が独自に紡ぎあげた「平家物語」のスピンオフ「平家物語 犬王の巻」を原作としたのが、5月28日から公開される湯浅政明監督による最新映画『犬王』です。

「平家物語」は、1,000人を超える登場人物と膨大なエピソード数で知られていますが、古川氏はそれでもまた知られていない物語があるはずだと考え、独自に平家に連なる物語を生み出しました。『犬王』は、いわば「平家物語」異聞録のような位置づけなのです。

室町の動乱の時代に活躍した実在の能楽師、犬王の知られざる生涯を描くこの小説に、湯浅監督は大胆な解釈によって新たな命を吹き込みました。忘れ去られた歴史を浮かび上がらせ、滅んだ者の声を聞けと、高らかに問いかける斬新なミュージカル・アニメーションです。

本作のアニメーション制作を担当したサイエンスSARUは、『平家物語』のアニメーション制作も担当しており、2つの作品はそれぞれ独立した作品ながらも、密接な関わりを持っています。

湯浅政明×野木亜紀子×松本大洋×大友良英の豪華すぎる競演!

平家物語』の山田尚子監督は、繊細な芝居を丹念に積み重ねて心の機微を掬い取っていくスタイルですが、『犬王』の湯浅政明監督はダイナミックに変化していく変幻自在のアニメーションで観客を魅了していきます。

犬王』は、アニメ『平家物語』で描かれた平家の時代から約200年後の物語。呪いを受けて生まれた犬王と、盲目の琵琶法師・友魚が出会うところから、物語は始まります。脚本を担当したのは、テレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』や『獣になれない私たち』などで知られる野木亜紀子。アニメも歴史ものも初挑戦となりますが、バディである異形の犬王と盲目の琵琶法師・友魚の友情を情熱的に描き出し、新境地を開拓しています。

キャラクター原案は、『ピンポン』や『鉄コン筋クリート』など、独自の世界観とスタイリッシュな絵柄で多くの人を魅了してきた松本大洋が手掛けています。湯浅監督は、2014年に松本氏の『ピンポン』のテレビアニメを監督しており、抜群の相性を見せました。2人のファンにとっては今回、嬉しい再タッグとなります。

琵琶をはじめとする邦楽にも現代のロックのようなスタイルを取り入れ、その独創的な音楽の世界を作り上げたのは、NHKドラマ『あまちゃん』や映画『花束みたいな恋をした』の大友良英。能楽の黎明期に活躍した犬王を現代的なポップスターとして再解釈することで、本作をまるでフェスに参加しているかのように気分が「ぶちあがる」作品に仕上げています。

犬王は自身のパフォーマンスによって平家の魂を鎮め、その度ごとに身体が変化していきます。湯浅監督は、中世の能楽師をポップスターとして描くために、名作ミュージカル映画やシャッフルダンス、バレエなどからインスパイアされたダンスシーンを用い、新旧東西のあらゆる要素がミックスされた稀代の表現者「犬王」を作り上げています。

その異形の身体による切れ味鋭いダンスや、ライトアップによって鯨を現出させるステージ演出など、ダイナミックな湯浅版・能楽を描き切ったのは、アニメーションの「動き」にこだわり抜くスタジオ、サイエンスSARU。

平家物語』『犬王』両作を観比べると、同じ古川日出男原作の物語、同じサイエンスSARU制作のアニメーションでも、監督によってこうも多彩な表現になるのかと感嘆させられるでしょう。

滅びた者たちの物語を語り継ぐ

滅びの中で歴史に埋もれた者たちの魂をすくいあげる『平家物語』と『犬王』。異なる魅力を持つ二作品は、単体で観て面白いのはもちろん、両方見たら楽しさ倍増! 特に『平家物語』を観終えた人は、その先の『犬王』の物語を観ずにはいられないはず。

平家物語』はもともと、敗者となり忘れ去られてしまう運命だった平家の物語を、琵琶法師が一つ一つエピソードを拾い上げて、継承していった物語の総称と言えます。山田監督はその想いを、びわというオリジナルのキャラクターに仮託し、現代の私たちに届けようとしました。

そして湯浅監督もまた、実在したにもかかわらず、その楽曲は1つも残っていない犬王の物語を、かつての琵琶法師のように拾い上げて現代の私たちに届けようとしているのです。物語ること、伝え続けていくことの大切さを、映画というフィクションを通じて描くこの作品は、日本の歴史の知られざる一面を掘り起こすとともに、世界の多彩さに対する想像力を与えてくれるはずです。

当時の楽器の琵琶を用いて現代的な音楽を構成している点も、現代を生きる私たちと、遠い昔に生きた人々を繋ぐ架け橋になっています。湯浅監督は「歌って踊って、神様に捧げるような興奮こそが音楽の根源」とし、本作を観る人にも「リズムに乗って、踊ってほしい」と語っています。この言葉通り『犬王』には、音楽のリズムに合わせて自然に身体が躍り出したくなるような興奮に溢れています。

次回は、そんな見る者聞く者の心をとらえて離さない、知られざる中世日本のポップスターのパフォーマンスと、とにかくテンションが上がる「犬王の音楽」の魅力をお伝えします。お楽しみに!

◆『犬王』information

上映時間:98分
公開日:2022年5月28日(土) 全国公開!
配給:アニプレックス、アスミック・エース
公式サイト:https://inuoh-anime.com/
(C) 2021“INU-OH” Film Partners

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  • ヘンリークリンクル
    3.5
    ミュージカルアニメ映画 その歌声・音楽、映像は圧巻というか、釘付けになりました。ただそこはあえてロックっぽくしなくても、もっと和楽器メインでも良かった気はしますね…。 多分ミュージカルパートに時間を費やしている分、お話し自体は結構サクサクと進む。と言うか進んでいる。 自分的にはもう少し物語を楽しみたいので、全体がもっと長くなってもいいので、そちらにも時間をかけて欲しかったなぁ。そっちのほうが絶対に面白いのにぃーって思いながら観てました。(ノーカット未公開版みたいの出ないかなぁ) 音楽は、和風なのに、なんかQueenっぽいなと思いました。
  • Rita
    3.8
    狂騒の舞。 室町時代の京都。猿楽の一座である比叡座に生まれた異形の子、犬王は、盲目の琵琶法師の少年と出会う。すぐに意気投合した2人は手を組むことにし、やがて互いの才能を開花させて唯一無二のステージで乱世の人々を熱狂させていく。 日本の伝統や文化の美しさ、美徳、人間の欲深さなどの恐ろしさも描かれている。"歴史に隠された能楽師"犬王。彼が描いた作品は現在までいっさい残されていない。600年前の出来事ですが、今にも名を残す犬王の歴史を着想に描かれたミュージカル映画。 盲目の少年が広島の生まれというのは嬉しかった。というのも私は生まれも育ちも広島で少年の広島弁が身近に感じたからである。幼い頃から母によく連れられて行っていた宮島も室町時代の宮島と今と大して変わっていないと知ると何だか無性に宮島に行きたいと言う考えで頭がいっぱいになった。 少年が鳥居を見上げるシーンを見ると中学時代、宮島に友人と夏の花火大会を見に行った時のことを思い出した。昼は潮が引いていたので私と友人は鳥居の傍に行き真下から鳥居を見上げた。私が見た景色が少年と重なり、アニメーションの作画が美しいことから鮮明にその記憶が蘇り感動した。いやぁ、湯浅監督の映画を観ると口調まで湯浅流になっちゃいますよ。 自分語りになってしまいましたが、本当の見所は犬王の存在そのものです。才能を武器に上へ上へと駆け上っていく姿がかっこいい。差別問題にも着目しているのはとても良かった。
  • sen
    3.9
    噛めば噛むほど美味しい系でした。良かった。
  • KeigoWatanabe
    3.6
    30分経ったくらいから、いい意味で思ってたのと違う!ってなる。 琵琶と軍記物とロックが混ざり合う クイーンだし、ビートルズだし、ディープパープルだ めっちゃドラムとベースの音するやんとか、もう舞じゃなくてダンスじゃんとか言わせない満足感
  • kzw
    3.5
    3Dの空間に平面のイラスト素材を置いているかのような画面が印象的。 ジブリ作品の中で初めて3Dデジタル技術を使って制作された宮崎駿監督のもののけ姫は、3Dによる違和感を徹底的に排除して、3Dであることを忘れさせるような絵作りにこだわった。 この作品ではむしろそういった3D感を強調させることで、逆に人物の平面感が強調され、ユーモラスなキャラクターや世界観が表現されている。
犬王
のレビュー(15232件)