性転換手術を受けた美しい主人公ヘドウィグの半生を、ロックミュージックとともに荒々しく描き出した衝撃作『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(以下、『ヘドウィグ』)の主演、かつ生みの親として知られるジョン・キャメロン・ミッチェル。いうなれば、陰と陽の両方の魅力をあわせ持ち、世界中に熱烈なファンも多いジョン監督が、『ヘドウィグ』を彷彿とさせる音楽の高まりや、色彩の豊かさをぶちまけたような、たまらないアート欲を全開にした新作長編映画『パーティで女の子に話しかけるには』を完成させた。
タイトル通り、パーティ会場にてエル・ファニング演じる美少女ザンに惹かれ「話しかけたい」と勇気を振り絞り、交流を重ねる内気な少年エン(アレックス・シャープ)による不思議な経験をエキセントリックに綴る本作。めくるめく世界に思いのたけを込めたという、ヴィヴィアン・ウエストウッドの洒落たスーツに身を包んだジョン監督に、現代の若者に届けたい胸の内を明かしてもらった……はずだったが、話はなぜか昨年の大ヒット映画『君の名は。』や日本の死生観にまで及んだ。ノーカットでお届けしたい。
――何と言ってもエルが演じたキュートなエイリアンに心を奪われました。エルをザン役にした経緯から教えていただけますか?
エルのことは、もともと大好きだったんだ。『ジンジャーの朝 ~さよなら、わたしが愛した世界』を観たときに、本当に抜きん出ていて、リアルに存在感があった。実際にエルと会って「もう彼女しかいない」と思ったよ。エイリアン的なフレッシュさを持ち合わせているし、ユーモアがあって、その気持ちをすぐに表現することができる。自分の気持ちにすごくダイレクトにアクセスすることができる。そして、素敵な人柄なんだ。初めての、ムービースターとしての彼女の力量を余すことなく見せられた役なんじゃないか、と自負しているよ。本当に一緒に仕事できて楽しかった。
――冒頭のライブハウスのシーンは『ヘドウィグ』を彷彿させました。ご自身の作品にオマージュを捧げたような意味もあるんですか?
そういうわけではないよ(笑)。全然考えてなかったかな、それは。
映画の中で、僕はカメオ出演はしているんだけどね。みんながクラブで暴動状態になるとき、天井を突き破るのが僕だよ(笑)。
――監督を探す楽しみもありますね。ライブハウスの場所にはこだわりましたか?
スクイーズバーという実在したクラブへのオマージュ、と言ったほうが近いかもしれないな。90年代のクラブだったんだけれど、ちょっとパンク、パーティ、クラブみたいな。実は『ヘドウィグ』を企画発案したのが、そこだったんだ。本当に素晴らしいパフォーマーに出会った場所でもあったし、あのエネルギーというものを、ある種、再現していると思うよ。
今回は映画用にオリジナルのバンドを作ったんだ。イギー・ポップのマネージャーが友人で、ボーカリストの方を紹介してくれて、そのボーカルと、ギタリストが2人でコラボして楽曲を作ってくれて。ギタリストはブライアン・ウェラー。僕は今、新しくポッドキャストのシリーズのミュージカルを作っているんだけど、ブライアンとコラボしているんだよ。
――それもとても楽しみです。『ヘドウィグ』ではロックミュージックをフィーチャーしていて、本作ではパンクミュージックをフィーチャーされていますよね。そもそもなぜ「パンク」だったんでしょうか?
パンクが生まれたのはニューヨークで、それからロンドンに飛び火したんだ。ニューヨークとロンドンが経済的にも犯罪という意味でも最悪な状態だったとき、それでも家賃が安かったから、そこにはアーティストがたくさん集まっていた。だから、逆に言えばワクワクする時代でもあったね。元々パンクとは、嫌悪感から生まれたものなんだ。当時、ロックンロールが非常にビジネス化してしまって、自慰的なバンドばっかりになった。50年代のロックの持っていたエネルギーが失われていたんだ。そういうものに対する嫌悪感と、それから夢も希望もない若者たちのその感情、「未来はどうなるんだ!?」という気持ちから生まれたのが、パンクだと思うんだ。
今も若い世代では、そういうふうに感じる方が多いんじゃないかと思うよ。「この世界の状況は、なんなんだ?」「自分の両親たちの世代が環境をボロボロにして!」と。でも、残念ながら、以前だったら若者たちがその嫌悪感から変革に向かっていたものを、デジタルが入ってしまったことによって、こう(下がって)しちゃうんじゃないかと思っているんだ。だから、やっぱりより大きなムーブメントとしてのパンクの動きというのが、生まれにくくなっていると思う。
――若者に向けてのメッセージも強く詰まっているんですね。
若い子たちはスマホとかに気が散ってしまって、物事を始めても終わらせることができない。別に、若い世代がより馬鹿になっているわけじゃないんだけど。クリエイティビティも、以前の世代と同じくらいある。だけれども、生産性では以前よりも弱くなっているし、それはやっぱりこわいからだと思うんだ。結果的に、もう疲れ切ったお年寄りみたいに今の若い子たちがなっているように僕は思えてしまう。エイリアンのスパイたちが、若者たちがその喧嘩を起こさないように、デジタルというものを我々に与えてくれたような気さえしてしまうぐらい。
僕は若い子たちに「どんな映画を作るんですか? コメディなの? ドラマなの? アクションなの?」と言われることに、すごくフラストレーションを感じている。「何でひとつのものじゃなきゃいけないんだ!?」と思ってしまう。それは、やっぱりネットからきているんじゃないかと思うんだ。例えば、自分はゲイだから、レディ・ガガを好きじゃないといけないとか、ストレートだったらスポーツが好きじゃなきゃいけないとかね。
だからこそ、僕は『パーティで女の子に話しかけるには』は若い子たちに観てもらいたいな。いろいろなものがミックスされている作品に慣れていないから、レッテルをひとつひとつ貼らないと気が済まない彼らに、感じてほしい。若者だって、人生は複雑なものだって知っているはずだから。幼くして、全てをカテゴライズしていかなきゃいけないっていうふうに思うのはすごく奇妙だと思うんだ。
――音楽と人物による深い結びつきも、監督の作品ならでは、という印象を受けています。そのあたりは、いかがでしょうか?
僕が手掛けたすべての作品は、音楽、それからユーモア、視覚的なアニメなどの要素を取り入れるところが共通している。それはやっぱり70年代の、自分の育ってきた環境っていうものが大きいかな。あの頃は真夜中に映画を観に行くことがあって、みんな飲んだくれていてね(笑)。大抵あまりいい映画じゃなかったりしてさ。でも、『ロッキー・ホラー・ショー』は、僕はファンではなかったけれど、コンセプトはいいなと思っていたよ。サミュエル・ベケットも、ハロルド・ピンターも好きだったし。立ち戻るのは、常に、自分が10代のときに好きだったものかな。
それからパンクを発見して、デヴィッド・ボウイ、グラムロックに大ハマりしたけれど、僕が(ゲイであることを)カミングアウトするまで、パンクであることは理解ができなかった。自分の肉体がこわかったし、自分の持っている女性性もこわかった。それから男性性も恐れていたし、とにかくこわかった。だけど、80年代にカミングアウトしたときに、すごく解放された気持ちになって、少しずつパンクに惹かれていったんだ。
――以前は、そういう性が怖かったんですね?
そう。そういうものが昔はこわかった。それからの僕は、テレビとかブロードウェイとかで役者としても活動していったんだけれど、ちょっと自分にとっては大人しいと感じる戯曲や脚本が多かった。そういうものにちょっと飽き飽きしたのと、当時のエイズに対する政府のリアクションに対しての怒りがあった。それで、怒りを抱える被害者意識を持った、そしてヒーリングを求めるキャラクターが生まれてきたんだ。だから、解放もあるんだけれど、癒しもなければいけない。その両方の側面が、僕の作品には絶対になければいけないんだ。
――ジョン監督のInstagramを拝見していると、滞在を楽しんでいる様子がうかがえます。そんな日本のカルチャーで「好きだな」と思うところと、「これは理解できない」と思うところを、ぜひ教えてほしいです。
面白いのは、日本みたいな国は、ほかにないというところ。島国だからということはあると思うし、亀みたいにほかのものを浸透させないっていうところは(笑)、ときにあると思うんだ。でも同時に、異文化の影響をすごく好むところもある。移民に対しての恐怖心はありながらも、それを楽しんでいる。だから不思議かなあ。歓迎はするんだけれど、こわい、みたいな(笑)。だから、ほかの国で起きないことが日本では起きたりして、文化がミックスすることによって、ワクワクする。物語のストーリーテリングにおいて、偶然のアナーキーが生まれて……、僕はそれが大好きだ。世界中の方も、やっぱり日本独特のクレイジーなミックスが大好きだと思う。
あとは伝統的な死生観みたいなものがずっと残り続けてもいて、物語にどこか死の影がつきまとうような感じもする。死がまるで美しい、全てのものを照らすブラックライトのような。美しいものというのは儚いものであるという日本のその感覚は、日本人はそのことを理解しているからこそ、日本のラブストーリーはすごくメランコリックなのだと思う。アメリカのラブストーリーはすごい平易というか、シンプルなものが多い。死のことを考えなくていいっていうのは、すごくリラックスにはつながるかもしれないけれど、僕には、日本の素晴らしいアート作品は、いい意味での闇があると思っているんだ。
美しいポップ映画である『君の名は。』でさえ、超ポップなのに、超悲しくもある。常に何か恐ろしい、災害がそこに影を落としていて、そして赤い糸があるんだけれど、つながらなくて、つながらなくて、みたいな。僕はすごく素晴らしいと思うし、ユニークでもあると思うよ。(インタビュー:市川沙希、文・写真:赤山恭子)
映画『パーティで女の子に話しかけるには』は新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国順次ロードショー。
(C)COLONY FILMS LIMITED 2016
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