【2017年総括】音楽が心に突き刺さった今年の映画3本

映画も音楽も本も好き。

丸山瑞生

昨今の風潮なのか、近ごろは音楽に重点を置いた作品が目立ちますね。
バリエーションは多種多様で、時代設定に合わせた選曲や、物語を活かすための選曲、音楽家の持ち味を貫いた劇伴など、素晴らしさはそれぞれですが、どれも映画を引き立てる名脇役と言えるでしょう。
今回は、サントラを楽しむ目線で今年の映画を振り返ろうと思います。

『メッセージ』

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世界各地に謎の宇宙船が現れ、言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)、物理学者のイアン(ジェレミー・レナー)、アメリカ軍の大佐・ウェバー(フォレスト・ウィテカー)たちは調査を始める。ルイーズとイアンの任務は、宇宙船のなかにいる地球外生命体<ヘプタポッド>の飛来の目的を探ること。
ふたりは試行錯誤を重ね、彼らの円環状の文字の解読を試みる。同時に、ルイーズはヘプタポッドの言語を学ぶほどに、とあるフラッシュバックに悩まされる。それは娘を看取る自身の光景だった。しかし、ルイーズには娘どころか、夫もいないのだった。不思議な出来事に悩まされつつも、ついにヘプタポッドの目的が明らかになる。彼らはルイーズらに伝える。「武器を与える」と。

監督は、ドゥニ・ヴィルヌーヴ。今年は本作『メッセージ』と『ブレードランナー 2049』の監督も務めました。どちらも物語のテーマは壮大ですが、作品の肝の部分は非常にミニマル。また、従来のSF映画よりも静的な印象を与えます。ドゥニ・ヴィルヌーヴの特徴のひとつと言えるでしょう。
『ブレードランナー 2049』は、神話にも似た厳かな雰囲気を漂わせますが、ひとりの男の悲哀と運命を近未来的な世界観と荒れたディストピアを舞台に描いた作品でした。『メッセージ』は、地球外生命体との接触を描いた、SFの王道とも言える物語ですが、本作の核はルイーズという言語学者の人生。物語のスケールとは裏腹に個を丁寧に紡いだ、ドラマチックな作品です。

本作の音楽を手がけたのは、ヨハン・ヨハンソン。ドゥニ・ヴィルヌーヴとのタッグは三度目ですね。ヨハン・ヨハンソンの生み出す音楽は、アンビエント・ミュージックと呼ばれるジャンルの音楽。近年のデヴィッド・フィンチャーの作品もこれらの音楽が使われ、不協和音とも心地よさとも捉えられるその音像は『メッセージ』の雰囲気にもぴったりの音楽でした。
とりわけ、印象に残るのは「Heptapod B」。未知との出会いを描いた壮大さと、言語を扱う本作らしい「声」を音楽に用いた実験的な楽曲です。また、物語の雰囲気に合わせ、非常に重厚なサウンドで彩られているのも特徴のひとつ。宇宙船から発せられる音、ルイーズの息づかいなど、本作の音には重さが感じられます。視覚的な説得力はもちろん、聴覚でも物語の奥深さを味わえる『メッセージ。ぜひ、目と耳を研ぎ澄ませてのご鑑賞を。

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『ベイビー・ドライバー』

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天才的な運転のテクニックで犯罪者の逃走を助ける青年・ベイビー(アンセル・エルゴート)。彼は、子どものころの事故の後遺症で耳鳴りに悩まされている。それを取り除く方法はただひとつ。イヤホンで音楽を聴き、外界を遮断するのだ。すると、耳鳴りは消え、ベイビーは驚異的な運転能力を発揮する。ある日、運命の女性・デボラ(リリー・ジェームズ)と出会い、ベイビーは仕事から足を洗うことを決めるが、彼の才能を惜しむ組織のボス・ドク(ケヴィン・スペイシー)に脅され、無謀な強盗に手を貸すことになる。

監督は、エドガー・ライト。音楽を効果的に用いた演出、コメディが得意な監督のひとりです。ノリノリの音楽が鳴りっぱなしで、なおかつ、軽快なテンポで飽きさせず、派手なドライビングで魅せる、完璧な娯楽映画でしょう。本作のタイトルは、サイモン&ガーファンクルの同名の楽曲から。
音楽に映像を合わせた演出が目立ち、楽曲の起伏、間(ま)など、それをも物語の展開に組み込んだ、まさに音楽に活かされ、音楽を生かした作品。「B-A-B-Y」や「Debora」など、遊び心にも溢れた選曲もチャーミングで、エドガー・ライトらしいなと思います。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』や『アトミック・ブロンド』なども、往年の名曲が随所に散りばめられた作品で、これらの風潮は近年の娯楽作品のひとつの特徴にも感じられますね。ただ、本作『ベイビー・ドライバー』は、これらの作品よりも音楽と物語(映像)の親和性が高く、エドガー・ライトの音楽への愛着がひしひしと伝わるのも感動。
また、本作がドライブのBGMに最適なのはもちろんですが、自身の好きな楽曲を揃えたプレイリストを作りたいなとわたしたちに思わせるのも心憎いなと思います。おそらく、誰しもにベイビーと同様の音楽がありますよね。自身の集中を高めたり、心身を奮い立たせるための音楽とでも言いましょうか。洋楽、邦楽の好みは問いません。すべての音楽が好きな方にお薦めの作品です。

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『20センチュリー・ウーマン』

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舞台は、1976年のサンタバーバラ。思春期の息子・ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)の教育に悩むシングルマザーのドロシア(アネット・ベニング)は、ルームシェアで暮らす写真家のアビー(グレタ・ガーウィグ)、近所に暮らすジェイミーの幼なじみのジュリー(エル・ファニング)に助けを求めた。「息子の教育を手伝ってほしい」と。

監督は、マイク・ミルズ。前作『人生はビギナーズ』では、父親をテーマに描きましたが、本作は母親がテーマ。そして、主人公・ジェイミーを取り巻くふたりを合わせ、年齢も性格も異なる3人の女性を描いた作品です。

本作では、音楽、映画、本、アートなどが多く扱われますが、これらは人生に不必要であり絶対的に必要なものでしょう。それらのものを思春期の多感な時期に、あれほどの感受性の豊かな女性たちから教わるのは素晴らしい経験だなと思います。物語で描かれるすべてがマイク・ミルズ自身の経験とは言えませんが、彼を培った出来事の断片なのかなと考えると、本作のすべてが愛おしいですよね。
また、どこを切り取っても映像が美しく、冒頭の燃える車、ジェイミーたちが暮らす家、洋服、サンタバーバラの街並み、アビーの綺麗に染まった赤い髪など、非常に鮮やかな色味の作品です。

20センチュリー・ウーマン』では、当時のパンク・ミュージックのシーンが語られます。今年は、パンク・ミュージックが題材の作品が目立ち、エル・ファニング主演『パーティで女の子に話しかけるには』や、ジェレミー・ソウルニエ監督『グリーンルーム』など、どれも個性的な作品だったなと思います。
本作は、レインコーツトーキング・ヘッズなどの音楽が用いられ、細かいところでもそれぞれの音楽の趣味が現れます。たとえば、アビーのボロボロのTシャツは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのボーカル、ルー・リードのロゴ入りだったり。ジェイミーもトーキング・ヘッズのTシャツで、それを理由に喧嘩を売られたり。些細な演出ですが、当時を生きた人間だからこその描写なのだろうなと思います。当時のカルチャーがハマる方にはお薦めの作品です。

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さいごに

作品が素晴らしかったのはもちろん、音楽が印象的で、なおかつ、ジャンルの異なる作品を選びました。
メッセージ』だけは毛色が変わりますが、ぜひ、劇中の「音」を味わうべき作品かと思います。
ぜひ、ご鑑賞ください!

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