TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社グループが主催する、映像クリエイターと作品企画の発掘プログラム「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM」(以下、TCP)。中江和仁監督『嘘を愛する女』を輩出したことでも知られる本プログラムで、2017年、全268の企画を勝ち抜き、準グランプリ・Filmarks賞を受賞した『モータープール(仮)』ウエダアツシさんにお話を伺いました。
――受賞されて、あらためてTCPについてどう思われましたか?
TCPは、映画業界のM-1グランプリとかキングオブコントみたいなものだと思っています。5000万円の制作支援をもらって映画を作れるというのは、映画業界の中で群を抜いて夢のあるコンテストですし、しかもオリジナルですからね。今後も若手監督にとっての登竜門になっていくんだろうなと思っています。
――『モータープール(仮)』は横浜に住む小学2年生の男の子が、祖母がいる大阪で夏休みを過ごすことで様々なことを経験するというお話ですね。着想はどんなところから?
最初の発想は、『冬冬(とんとん)の夏休み』という侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の映画です。僕はこの映画が大好きで、台湾が舞台の1984年製作の作品なので、国も文化も時代もちがうんですけど、観るたびに不思議と自分の子どもの頃に感じたことを思い出すんです。たとえば、親戚の家に行ったけどなんだか居づらい感じとか(笑)。そういうことをリアルに思い出せる。そういう映画を大阪を舞台にやってみたいというのが、ストーリーをつくる上でのベースになっています。
――ストーリーや企画を作る上で心がけていることはありますか?
アイデアが思いついたら、短く、3行以内くらいで書いてみる。それを読んで、自分が観てみたいと思えるかどうか判断するという基準をもっています。長く説明しないとわからない映画ってやっぱりわかりづらい。ここが面白い映画ですよ、と端的に言えるかどうか。3行でまとまらなかったら、(脚本を)書き始めてもダメだろうなと思ってます。僕はもともと雑誌編集の仕事をやっていたので、記事の頭につくキャッチコピーが面白ければ読もうかなという気になる、っていうことを経験しているのも大きいかなと思います。
――大阪で夏休みを過ごした少年はどれくらい成長するのでしょうか。構想はありますか?
ささやかな成長ぐらいが、個人的には好みです。でも、それは一緒に組んでいただく映画会社やプロデューサーによっては、考え方が異なる部分かもしれない。そこについては、完成した映画がより多くの人に届くものになるように前向きに考えていきたいです。
――逆に、ウエダさんが「ここはゆずれない」というところは?
「夏の生活感」ですね。おばあちゃんの家へ行って、普段使われていない部屋に泊まることになった時の畳の匂いとか、縁側にある蚊取り線香の匂いとか、そういうものがきちんと感じられる映画にしたいなと。映像を見て、自分の過去の経験が蘇って、「こういう夏ってあるよな」とか「夏の夕方の空気ってなんかいいよね」っていう。僕が『冬冬の夏休み』を見て感じたように、なにかを思い出すきっかけになるような、生活に寄ったものが要所要所で感じられる映画にしたい。
――全体よりはディテール、という感じですかね。
そうですね。作品全体のことに関しては、どっちにもふれるのかなと。たとえば、TCPの最終審査員だった阿部秀司さん(映画プロデューサー)が作ってこられた『ALWAYS 三丁目の夕日』のようなエンターテインメント作品にも、是枝裕和監督の映画のように少年の成長をドキュメンタリータッチで描くこともできる企画だと思ってます。
――ノスタルジックな生活感という意味では、まさに是枝監督を彷彿とさせます。
いままで撮ってきた映画は全然是枝監督っぽくないですけど(笑)。でも、成瀬巳喜男監督の映画の中に出てくる日本家屋内の生活感や所作の描写は僕も好きなので。毎回新たな挑戦をしたいと思っていますし、企画に合った撮影方法や演出を考えられればと思っています。
――本作は、美術や空間作りにもウエダさんのこだわりが息づく作品になりそうですね。
はい、今回はそういうことができればいいなと思っています。いままでどうしても低予算だと、まず美術費をかけらないことが多かったので。今回はぜひ実現したいなと思ってます。
(インタビュー・文:斉藤聖、写真:市川沙希)
■TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM 公式サイト
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