【ネタバレ解説】映画『ソー:ラブ&サンダー』タイトルの本当の意味は?“神殺し”が象徴するものとは?徹底考察

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

映画『ソー:ラブ&サンダー』ソーのキャラ変の意図とは?ミドルエイジ・クライシスとは?ネタバレありで徹底解説!

「マイティ・ソー」シリーズ第4弾『ソー:ラブ&サンダー』が、2022年7月8日より劇場で絶賛公開中だ。

監督は前作に引き続きタイカ・ワイティティ、出演はクリス・ヘムズワース、クリスチャン・ベール、テッサ・トンプソン、ナタリー・ポートマン。という訳で今回は、『ソー:ラブ&サンダー』についてネタバレ解説していきましょう。

映画『ソー:ラブ&サンダー』(2022)あらすじ

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの仲間たちと旅をしていたソー(クリス・ヘムズワース)。そんな彼の前に、あらゆる神々を抹殺しようと目論むヴィラン、ゴア(クリスチャン・ベール)が現れる。一方、ソーのかつての恋人ジェーン(ナタリー・ポートマン)は、不治の病に冒されていた……。

※以下、映画『ソー:ラブ&サンダー』のネタバレを含みます

MCUの屋台骨を支えてきたマイティ・ソー

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のフェーズ1から登場し、すっかり古参キャラとなったマイティ・ソー。2022年7月時点で、単独主演作が4本に上るキャラは彼しかいない。それだけMCUの屋台骨を支えてきたキャラクターと言えるだろう。

にも関わらず、マイティ・ソーはなかなか路線が確立しなかったシリーズでもある。MCUのヒーロー単独作のほとんどはシリーズを通して同一監督が担っているが、マイティ・ソーは3作目までバラバラなのだ。

「アイアンマン」シリーズ

『アイアンマン』(2008年)監督/ジョン・ファヴロー
『アイアンマン2』(2010年)監督/ジョン・ファヴロー
『アイアンマン3』(2013年)監督/シェーン・ブラック

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズ

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)監督/ジェームズ・ガン
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017年)監督/ジェームズ・ガン
『ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー Vol. 3(原題)』(2023年公開予定)監督/ジェームズ・ガン

「アントマン」シリーズ

『アントマン』(2015年)監督/ペイトン・リード
『アントマン&ワスプ』(2018年)監督/ペイトン・リード
『アントマン&ワスプ: クアントゥマニア (原題)』(2023年公開予定)監督/ペイトン・リード

「スパイダーマン」シリーズ

『スパイダーマン: ホームカミング』(2017年)監督/ジョン・ワッツ
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)監督/ジョン・ワッツ
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年)監督/ジョン・ワッツ

「マイティ・ソー」シリーズ

『マイティ・ソー』(2011年)監督/ケネス・ブラナー
『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013年)監督/アラン・テイラー
『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)監督/タイカ・ワイティティ
ソー:ラブ&サンダー』(2022年)監督/タイカ・ワイティティ

マイティ・ソーの方向性が定まったのは、タイカ・ワイティティが監督に就任した第3作『マイティ・ソー バトルロイヤル』からと言っていいだろう。本作の好評を受けて、2作連続で彼が「マイティ・ソー」シリーズの演出を務めることになった。

試行錯誤の「シェイクスピア路線」、「ハイ・ファンタジー路線」

もともとマイティ・ソーの映画化を企画したのは、『死霊のはらわた』シリーズで知られるサム・ライミ。彼は『ダークマン』(1990年)製作後にプレゼンを行なったものの、20世紀フォックスの重役たちは首を縦に振らず、企画は流れてしまう。もしそのまま映画化されていたら、彼のアメコミ熱は燃え尽きてしまって、サム・ライミ版『スパイダーマン』三部作は生まれていなかったかもしれない。

ようやく映画化に向けてプロジェクトが動き出したのは、2006年から。マシュー・ヴォーン(代表作:『キングスマン』シリーズ)、ギレルモ・デル・トロ(代表作:『パシフィック・リム』、『シェイプ・オブ・ウォーター』)といった名前が監督候補として上がったが、ケネス・ブラナーがその任に当たることになる。

ケネス・ブラナーといえば、王立演劇学校を首席で卒業し、数多くの舞台でシェイクスピア劇を上演した後は、『ヘンリー五世』(1988年)、『から騒ぎ』(1993年)、『ハムレット』(1996年)などの映画を世に放ってきた、生粋の“シェイクスピア俳優”であり、“シェイクスピア監督”。「マイティ・ソーの物語は、シェイクスピアのような古典劇である」という上層部の判断からの起用だったが、確かに「アスガルドの王オーディンと、その二人の息子の対立の物語」は、どこか『リア王』を思わせる。

だが重厚なシェイクスピア路線は、2作目の『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』で早くも変更を余儀なくされる。当初はケネス・ブラナーも続編に意欲を見せていたものの、やはりCG過多のアクション映画は水に合わなかったのか、あっさり降板。代わって、TVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』で優れた演出手腕を見せたアラン・テイラーが抜擢される。本格的なハイ・ファンタジー路線に舵を切ったのだ。

だが、3作目でアラン・テイラーも降板。三たび監督探しが始まることになる。監督候補に上がったのは、ルーベン・フライシャー(代表作:『ゾンビランド』、『ヴェノム』)、ロブ・レターマン(代表作:『名探偵ピカチュウ』)、ローソン・マーシャル・サーバー(代表作:『なんちゃって家族』、『レッド・ノーティス』 )といった面々。そして最終的にその座を射止めたのは、優れた映画監督にしてニュージーランドを代表するコメディアンでもある、鬼才タイカ・ワイティティだった。

タイカ・ワイティティが打ち出した「ご陽気路線」

彼が「マイティ・ソー」シリーズに注ぎ込んだのは、ありったけのユーモア。ソーは粗暴ながら正義感が強いヒーローから、若干KYな面白キャラに劇変。ソーとロキとのやりとりは、まるでトムとジェリーのようなコミカル描写。ワイティティ自身も、全身岩石のコーグ役として出演。丁々発止のやり取りが楽しい、ゴキゲンなご陽気アクション映画へと生まれ変わったのである。

筆者が特に好きなのは、主演クリス・ヘムズワースの兄ルーク・ヘムズワースがソー役を、マット・デイモンがロキ役を、サム・ニールがオーディン役を演じる寸劇。今作『ソー:ラブ&サンダー』では、ヘラ役でメリッサ・マッカーシーまでが登場。無駄に豪華すぎるキャスティング! 茶番劇をインサートすることで、若干ケネス・ブラナーの重厚シェイクスピア路線をからかっているような気もしなくもない。

ワイティティの「ご陽気アクション」に舵を切ったことにあたり見逃せないのは、父オーディン(アンソニー・ホプキンス)、弟ロキ(トム・ヒドルストン)、ヘイムダル(イドリス・エルバ)、ウォーリアーズ・スリーと呼ばれるヴォルスタッグ(レイ・スティーヴンソン)、ファンドラル(ジョシュア・ダラス)、ホーガン(浅野忠信)など、一作目からのレギュラー組が軒並み駆逐されてしまっていること。今作『ソー:ラブ&サンダー』では、最愛の女性ジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)まで失ってしまう。

代わって、ヴァルキリー(テッサ・トンプソン)、コーグ(タイカ・ワイティティ)など、第3作『マイティ・ソー バトルロイヤル』からの出演組がレギュラーとして確固たる地位を築いている。タイカ・ワイティティ以前、タイカ・ワイティティ以降で、登場人物も大きく様変わり。「マイティ・ソー」シリーズの大きな特徴の一つと言っていいだろう。

ソーの“ミドルエイジ・クライシス”

タイカ・ワイティティにとって、「マイティ・ソー」シリーズの4作目を手がけることは青天の霹靂だった。「MCUはヒーロー1人につき3本しか作らない」と思っていたからだ。マーベル・スタジオの重役達は、ソーの進むべき道は「ゴキゲンなご陽気路線」であることを確信し、かなり早い段階で『ソー:ラブ&サンダー』の開発にグリーン・ライトを灯す。ここでワイティティのコメントを抜粋しよう。

「前作と同等かそれ以上のものを作ろうと、新しいアイデアを出し切らなければならなかった。2作目の小説のようなものだから、より大変だったね。このキャラクターをどうすれば新しいと感じられるか、ファンを満足させられるか、そしてクリス・ヘムズワースがこのキャラクターで何か面白いことができるかを考えなければならなかった。すぐに私たちは、ソーがミドルエイジ・クライシスを経験し、人生のこの時期に自分の進むべき道を考えるようにしよう、と思ったんだ」
(タイカ・ワイティティへのインタビューより抜粋)

注目したいのは、彼がミドルエイジ・クライシス(中年の危機)という言葉を用いていること。人生折り返し地点の中年期に、自分のアイデンティティを改めて問いただす。そんな“第二の思春期”をヒーロー映画で描こう、と考えたのだ。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)におけるサノスとの最終決戦を経て、ソーはガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの面々と共に宇宙へ旅立っていった。仲間と楽しい時間を過ごしつつも、自分はこれからどうしていくべきなのか、内面では不安と葛藤が渦巻いている。そんな彼に新たな一歩を踏み出させたい…。そんなワイティティの想いが、『ソー:ラブ&サンダー』の大きな原動力となっている。

ワイティティはすぐさま、ナタリー・ポートマンにコンタクトをとる。彼女は『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』の出来に不満で、『マイティ・ソー バトルロイヤル』には不参加だった。しかしワイティティは、ポートマンの自宅に押しかけて新作への出演をオファーする。

「私は彼女の家に行って、こう伝えた。“あなたとずっと一緒に仕事がしたかったから、この作品に戻ってくるべきだ。素晴らしい映画になるし、お蔵入りになった前回よりも良くなる。スーパーヒーローになったり、ソーのハンマーを持ったり、もっといろいろなことができる。8年ぶりに登場人物たちとの再会を楽しむこともできるよ”と」
(タイカ・ワイティティへのインタビューより抜粋)

かくしてナタリー・ポートマンは久々に「マイティ・ソー」シリーズに復帰。久々にソーとジェーンは再会を果たし、恋の炎が再び燃え盛る(そして本当に再会シーンで炎が燃え盛る!)。二人はまるで四六時中いちゃつくティーンエイジャーのようだ。だが彼女はガンを患っていて、二人は永遠の別れを迎えてしまう。ぽっかりと空いたソーの心の空洞を埋めるのは、“神殺し”ゴアの愛娘ラブ。彼は彼女を自分の娘として受け入れるのだ(しかもラブを演じるのは、クリス・ヘムズワースの愛娘インディアである!)。

ソー:ラブ&サンダー』は、ソーがジェーンと“雷”のように再び“恋”に落ち、雷神がラブ(愛)を子供として迎えることで、ミドルエイジ・クライシスを乗り越える物語だ。いくつになっても、精神的危機を救済してくれるものは、“愛”なのである。

“神殺し”が象徴するものとは

ソー:ラブ&サンダー』は、“神殺し”で幕を開ける。敬虔な信徒であるゴアは、神ラプーが人間を救う存在ではないことを知り、妖剣ネクロソードを手にとって殺害するのだ。

思えば『マイティ・ソー バトルロイヤル』でも、絶対的存在であると思われてきたオーディンが、かつて帝国主義を標榜した暴君であったことが暴露される。タイカ・ワイティティは、神という存在から神性を徹底的に剥ぎ取るのだ。

特に印象的なのは、『グラディエーター』(2000年)の頃の面影は微塵もなく、ぶくぶくと太ってしまったラッセル・クロウが演じるゼウスが、乱痴気騒ぎ大好きな最低神だったこと。そんなサイテーなゼウスを、ソーはあっさりと殺してしまう(ミッド・クレジット・シーンで、実は未遂であったことが明かされるのだが)。

タイカ・ワイティティは、別にアナーキストを標榜している訳ではないだろう。それはおそらく、絶対的権威に対する異議申し立てに過ぎない。いかにもインディペンデント出身らしい、体制に対するカウンター精神が、『ソー:ラブ&サンダー』を貫いている。

もう一つ印象的なのは、ワイティティはこの映画で人種の問題にも言及していることだ。

「アスガルドは場所ではなく、民だ」

この言葉は、『マイティ・ソー バトルロイヤル』でオーディンがソーに投げかけた言葉だが、本作でも大きな意味を持っている。かつてイスラエルの地を追われたユダヤの民のように、アスガルド人もまた故郷を失い、ノルウェーの小さな村にコミュニティを作っている。そして子供たちがゴアにさらわれ、ソーはその救出のために尽力するのだが、面白いのは子供たちは全てアスガルド人ではない、ということだ。ソーは故郷の子供たちを救うミッションに挑むのではなく、未来を築く全ての子供たちを救おうとするのである。

ワイティティは、ニュージーランドの先住民族マオリとロシア系ユダヤ人のハーフという、珍しいルーツを持つ。そんな彼の出自が、場所=国という単位で人種が縛られるのではなく、個人が個人として生きていくことを肯定していくようなストーリーを紡がせたのかもしれない。

映画のエンディングで、ジェーンは死後の世界“ヴァルハラ”に辿り着く。本来は、勇敢に戦死したアスガルド人のみが行くことを許される、安息の地。設定的にはありえないことだが、それでもワイティティはあえてこのシーンを最後の最後でインサートさせた。そこに筆者は、作り手の強烈な想いを感じてしまうのである。

(C)Marvel Studios 2022

※2022年7月15日時点の情報です。

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS