真野恵里菜は、「SPEC」シリーズの堤幸彦にはじまり、「みんな!エスパーだよ!」シリーズの園子温、現在公開中の映画『不能犯』では白石晃士と、何ともアクの強い鬼才監督陣に好まれる印象だ。
女優としてますます伸びゆく真野の最新出演作は、『ソラニン』や『陽だまりの彼女』などで魅せた温かみのある映像美が特徴的な、三木孝浩と組んだ青春映画『坂道のアポロン』である。小玉ユキが描いた同名原作は、「このマンガがすごい!2009」オンナ編で1位を獲得し、テレビアニメ化され、満を持して実写映画化となった。
「いつか三木監督の作品に出たい」としていた真野は、愛に生きる美しい女性・深堀百合香をオーディションで見事に勝ち取り、艶やかに演じた。
思えば、ハロー!プロジェクトの研修生からキャリアをスタートさせ、ソロ歌手としてデビューし、女優となった真野と、ジャニーズのHey!Say!JUMPとして活動しながら俳優として活躍する主演・知念侑李は、どこか相通じるところがあるように見える。そのことを真野に問えば、「私もすごく興味がある部分だった」と明かし、知念の現場での姿に「尊敬」という言葉を用いて、表現者としての居方を讃えた。
真野の想いを、単独インタビューで聞いた。
――真野さんは原作をご存じでしたか?
知っていました。元々、幼稚園の頃からピアノをやっていたので、音楽ものには敏感ということもあって。ただ、まさか私が百合香役で出演させていただけるとは思っていなかったです。全然イメージが違うので。
――百合香と言えば、ミステリアスな美女、という。
大々的にキャラクター紹介でそう書かれると、観ている人にも、当然そう思わせないといけないですよね。千太郎(中川大志)が一目惚れをする相手でもありますし、「観ている方に納得してもらえるのだろうか」というプレッシャーはすごくありました。
――とはいえ、お話がきたときはうれしかったですか?
今回、オーディションだったんです。事前に台本をいただいて、スケッチするシーンの読み合わせをさせていただきました。そのときは、百合香は自分とあまりにも違う女性なので、決まれば新しい表現の挑戦だと思っていました。作品に出会えること自体、運だったりもするので、縁があればいいなと思っていたら決まったので、すごくうれしかったです。
――三木監督とはオーディションからご一緒でした?
オーディションのときはお会いできなくて、ビデオを撮っていただいて。でも、5~6年くらい前かな、三木監督のワークショップに参加していたんです。「いつか三木監督の作品に出たい」とずっと思っていて。それまでにも、実は作品のオーディションを受けてはいたんですが、なかなか巡り合えず。やっと今回ご一緒できたので、夢がかなった感じでした。三木監督の映像は、画のタッチやキラキラした感じ、繊細な恋模様が魅力的で、「私もこの画の中に入りたい」と、ずっと思っていたんです。
――念願かなった現場で、実際、撮影中の印象は?
三木監督は声を荒げることもなく……って、私、園監督の現場で、役者として育っていた自負があるので(笑)。
――そのイメージ、すごくあります(笑)。
園監督の現場では、ズバッと指摘されて「悔しい!!」という思いでやってきたので、逆に(何も言われないので)不安になってしまう自分もいました(笑)。でも、「言ってほしいなあ」という感覚もどこかでありながら、三木監督のカラーに染まっていきました。現場は本当に監督によって全然違うので、「三木さんの現場はこういう空気なんだ、素敵だなあ」と思っていました。優しい空気が流れていたんですよ。
――もしかしたら、役としても優しい空気感が必要な要素だったかもしれないですね。
そうですね。大体現場だと役名で呼ばれるんですけど、なぜか、百合香は現場でも「百合香さん」と「さん」づけで呼ばれていたんです(笑)。だから「真野恵里菜、出ちゃダメ!」と思ってやっていました。
――百合香のファーストカット、登場時の海辺のシーンは説得力のあるいでたちで、まさに「さん」づけがぴったりでした。非常に大人っぽく感じました。
本当ですか、ありがとうございます! 元ヤンだったり、気の強い役を演じさせていただくことが多いので(笑)。そう感じていただけていたら、よかったです。台本をいただいて「こうやって演じたいな」と思うんですけど、最終的には、衣装さんやメイクさんの力を大きく借りて、その役が完成すると私は思っているんです。白いワンピースを着て海にいて、つばの広い帽子をかぶっている格好は、普通からしたらあまりない設定じゃないですか。そうやって外見から作っていただけると、いつもと違う自分になれるといいますか。
――ご自身の役の形成プラスアルファで、その他の要因も大きな力になった。
白いワンピースを着たら、大股で歩かないだろう、と(笑)。佇まいも変わるんですよね。おしとやかだろうな、と見た目から作り上げていきました。私は活発に走り回って、男の子たちと鬼ごっこをしてドッジボールをする環境で育ってきたので、「こういう女性がいたら憧れるだろうな」という、自分の理想のお嬢さま像を作ったつもりです。
――三木監督から、特に「こうしてほしい」というようなリクエストはなかった感じでしたか?
そうですね。大人の女性の余裕、佇まいについては言われました。早口だったり、声が大きいと子供っぽさが出てしまったりするので、しゃべる間も焦らないようにしました。私はせっかちだし、結構しゃべるほうなので、自分に足りない部分を百合香さんからもらったなと思っています。役を経て、自分の人生の勉強にもなりました。
――百合香は淳一(ディーン・フジオカ)とのシーンも多いですよね。おふたりがスクリーンですごくマッチしていたので、内心驚きました。
そう言っていただけることが、一番うれしいです! 見た目的な見え方や年齢の差を、私は結構気にしていて、ディーンさんと横に並んだとき、自分が子供に見えてしまわないか、すごく不安だったんです。現場に入ってからも、ずっと。でも……ディーンさんは、撮影現場で淳兄だったんです。うまく言えないんですけど、パッと横を見ると「淳兄がいる」って。百合香は淳兄についていく思いがあったので、知識が豊富でいろいろなことを教えてくださったし、気遣ってくださって……。淳兄……、そりゃ百合香もこれだけ好きになるわ!、って(笑)。説得力がありました。
――印象深いシーンは特にどこになりますか?
淳兄が(東京に)行ってしまうとき、「私も行く」と髪を切るシーンは、百合香にとって一番大事なシーンでした。あの日は、朝からソワソワしていて。狭い家の中で撮っていたので、皆が黙々と作業をしていて、その中で私たちもちゃんと表現をしないと、と。女性の一番奥に持っている芯の強さが百合香にはあるので、そこはきちんと表現したいと思っていたんです。なかなかデリケートなシーンなので、いつもと違う空気は流れていて、三木監督もちょっと後ろで見守っていて、何かあれば言ってくださって。空気をゆだねてくれる感じがありました。今まではそれがプレッシャーに感じていたんですけど、今では淳兄と百合香の空気が撮影現場には流れていると感じられるようになって。不安はあったし苦しいシーンではあったけど、やっていて楽しかったです。
――ディーンさんとはお話も重ねられたんでしょうか?
いろいろなお話をさせていただきました。クランクインの日が、タクシーで淳兄とふたりだけのシーンだったんです。運転手さんは地元のエキストラの方で、セッティング中、運転手さんとディーンさんと私だけで、車内で待っていたんですね。なかなか車の中って難しくて、運転手さんはもちろん私たちに気を遣われますし、私たちもしゃべりすぎてもいけないし、初日で緊張もしていましたし。「この三人で、どうしよう……」と思っていて。
――結構長く感じる時間ですよね。
そうなんです。タクシーは実際に当時の年代の車をお借りしていたそうで、ディーンさんが、「この車は何年代のものですよね」と、とてもナチュラルにお話を始めてくださって。運転手さんの今までやっていたお仕事についても尋ねたりされていて。まるで、淳兄と百合香が本当にタクシーに乗っている中での会話というか。決してそのシーンの空気を壊すことなく、皆でできる会話をさせてもらったんです。自然にそういうお話ができるって、本当に素敵だなと思いました。
――空気を壊さず、役に似た状態で会話ができると。すごいことですね。
もしかしたらディーンさんは気を遣ってくださったのかもしれないんですけど、とてもナチュラルに空気ができていたんです。「あ、今、淳兄といる」と初日から思わせてくれました。本当に感謝しています。
――ディーンさんはトランペットも披露していますよね。酒場のシーンでは知念さん、中川さんも加えて、本当に素晴らしいセッションを奏でていましたが、真野さんはどうご覧になっていましたか?
素敵でした! もう、鳥肌ものです。私はシーンの途中から出てくるので、現場に後から入ったんです。そのときは、緊張感もありつつ、皆さんが本当に音楽を楽しんでいるいい空気があって。待ち時間に知念さんがピアノを弾いていたり、中川さんがドラムをたたいたり、ディーンさんがトランペットを吹いたり。それもすごくリアルな世界だと思っていて。作品の空気感を守りつつ、皆さんが楽しんでいる感じがとても素敵で、自由に放ってくれるのが三木監督ならではだなと思いました。
――ピアノ歴の長い真野さんから見て、知念さんの演奏はいかがでしたか?
10カ月の練習であそこまで弾けちゃったら、私の10年、何だったのって(笑)。すごかったです。役者はできないことも当たり前にできる役が突如きたりするので、もちろん助っ人でプロの方が入ってくれたりもしますけど、この作品に関しては、本当に皆さんが自分で演奏をされているので。ちゃんと届けられる作品になったのは、皆さんの努力の結晶が形になったと思っています。私は全然(演奏が)なかったので、ちょっと寂しさもありました。
――現場で「弾いて」とお願いされたりは?
言われました(笑)。酒場のシーンで、ちょっとだけ触りました。けど趣味でやっていた私と違って、知念さんは役でピアノをやったわけじゃないですか。本当に弾けると、やっぱり画の強さが違ってくると思うんです。手元が違うのかと思いきや、きちんと流れで顔も入って、ピアノを弾いている表情もすごく素敵なので、実際に弾いているからこそ出る、やわらかい表情なんだろうなと感じました。普段グループの活動もされていたりする中で、きちんとピアノも弾けて……本当に感動しました。
――アイドルとして活動され、俳優として演技も行い、今回に関してはピアノ演奏もあり、こうして見ると真野さんと知念さんは共通項が多く、さらには演技に対してのストイックさという点でも近しいように見えます。
知念さんとそういう話はできなかったんですが、その点は、私もすごく興味がある部分でした。「アイドル活動」をしていると、良くも悪くも芝居に反映されてしまうときがあると思うんです。もちろんいいときもありますが、悪く言うと「アイドルがお芝居の世界にきた」という見方をされて、「本気で芝居をやりたいのか」と思われるときもあるかなって。でも、私たちは常に全力ですし、知念さんは男性アイドルとしてやっているので、そこはすごく聞きたかったことでした。だけど、聞かなくても、現場で一緒にお芝居をしていたらわかる空気でもあって。10カ月のピアノ特訓もそうですし、東京を離れてこっち(※ロケ地は長崎)で1カ月近く撮影に臨んでいることは、相当な覚悟を決めてやらないとできないことです。
どのシーンであっても、知念さんは一切妥協をしないんですね。大変なシーンのときでも集中力がすさまじいですし、この作品を担う方として、何も言わなくても知念さんから出てくる空気や意思があり、そこに「皆がついていこう」という現場でした。年下の方ですけど、関係なく尊敬しています。
――一緒に現場に入っている演者同士で伝わるものがあるんですね。
そうですね。勝手に私が感じ取っていたんですけど。だから……本当に観てほしいと思います。原作を実写映画化すると、いろいろな意見が生まれるのは当たり前だと思うんです。だけど、今回、皆さんのお芝居や音楽に対する想いを現場で私は一番近くで感じていたので、私もきちんと力になりたいし、自分の色を出さなきゃと思ってやっていました。一見、若者向けに見えますが、大人の方が楽しめる作品になっているので、まずは「観てほしい!」と、とにかく思っています。(インタビュー・文:赤山恭子、写真:You Ishii)
映画『坂道のアポロン』は、2018年3月10日全国ロードショー。
(C)2018 小玉ユキ・小学館/映画『坂道のアポロン』製作委員会
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