【ネタバレ解説】映画『ブレット・トレイン』キーワードは“分身”?タランティーノ映画との共通点とは?徹底考察

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」を原作にした、ブラッド・ピット主演のアクション・コメディ『ブレット・トレイン』が、2022年9月1日(木)より公開されている。

共演は、ジョーイ・キング、アーロン・テイラー=ジョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、真田広之ら。東京と京都を舞台に、殺し屋たちによるスケールのデカいアクションが炸裂する!

という訳で、今回は『ブレット・トレイン』をネタバレ解説していきましょう。

映画『ブレット・トレイン』あらすじ

殺し屋稼業に復帰したばかりのレディバグ(ブラッド・ピット)。彼は東京に赴き、新幹線のブリーフケースを回収するという簡単な仕事を請け負っていた。しかしその列車には、無数の暗殺者たちが乗り合わせていた。やがてレディバグは、ホワイト・デスと呼ばれる犯罪組織の大ボスと対峙することになる…。

※以下、映画『ブレット・トレイン』のネタバレを含みます。また『ファイクト・クラブ』のネタバレについても言及していますので、ご注意ください。

スタントマン=分身としての映画

『ブレット・トレイン』の企画は、『トレーニング デイ』(2001)、『イコライザー』(2014)の監督で知られるアントワーン・フークアによって進められていた。元々は『ダイ・ハード』(1989)のような本格アクション映画を目指していたのだが、何故か途中からコメディ路線にシフトチェンジしていったんだとか。

ブラッド・ピット演じるレディバグは、“世界で最も運の悪い殺し屋”という設定。確かにそのキャラは、行く先々でテロ現場に居合わせてしまう『ダイ・ハード』のジョン・マクレーン(ブルース・ウィリス)を思わせる。

最終的に監督として起用されたのは、『アトミック・ブロンド』(2017)や『デッドプール2』(2018)でアクの強すぎる映画を放ってきた、デビッド・リーチ。彼はスタントマンとしてキャリアをスタートさせた変わり種で、幾度となくブラッド・ピットのボディ・ダブルを務めてきた。そんな彼が、監督としてブラッド・ピットに演出をつけるというのは、なかなか稀有な体験と言えるだろう(ブラッド・ピットはデビッド・リーチへの友情の証として、『デッドプール2』にカメオ出演している)。

インタビュアー:「ブラッド・ピットのスタント代役として『ファイト・クラブ』でキャリアをスタートさせ、その後もいくつかのプロジェクトで彼の代役を務めていますね。ブラッド・ピットを監督するということは、“奇妙”で“シュール”な体験だったと聞いています。いかがですか?」

デビッド・リーチ:「そうですね、シュールです。5年間スタントマンとして仕事をして、その後10年半ほど離れて、いまではお互い違うポジションにいます。でも私たちは、すぐに元の場所に戻れたんです。私たちはいつだってお互いを友人だと思っていますし、とても良い関係を築けていますし、楽しいですよ。彼が私のキャリアを追いかけてきてくれたこと、監督の椅子に座る私へのリスペクト、そして私の作品…特に『アトミック・ブロンド』について知っていてくれたことに、私は謙虚な気持ちでいっぱいになりました」
(出典:GQのインタビューより抜粋)

思えば『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)で、ブラッド・ピットはレオナルド・ディカプリオ演じる俳優リックの専属スタントマン役だった。リックの分身、リックの影としてスターを支えてきたのである。同じようにブラピの分身を演じてきたデビッド・リーチが、彼の主演映画を撮るということは、感慨もひとしおだったことだろう。

ちなみに彼は、『ファイト・クラブ』(1999)でもブラッド・ピットのスタントも務めているが、よくよく考えてみるとこの映画、主人公の“僕”(エドワード・ノートン)とタイラー・ダーデン(ブラッド・ピット)は同一人物だったというオチ。実はここにも“分身”というキーワードを見いだすことができるのだ。

“クセ強”アクションと様式化されたパントマイム性

クレジットはされていないが、デビッド・リーチの実質的な初監督作品は『ジョン・ウィック』(2014)。日本の武道、香港映画のカンフー、イタリアのマカロニ・ウェスタンなど古今東西のあらゆる映画からエッセンスを抽出し、新しいアクション映画のかたちをテン年代に提示した、金字塔的作品である。

その『ジョン・ウィック』で共同監督を務めたのが、チャド・スタエルスキー(クレジットされているのは彼のみ)。小さい頃から武術に明け暮れ、嘉納治五郎が興した柔道の総本山「講道館」にも足げく通ったという筋金入りだ。『マトリックス』(1999)でキアヌ・リーヴスのスタントを務めてキャリアをスタートさせ、その後は『ハンガー・ゲーム』(2012)や『大脱出』(2013)といった作品で第二班監督として研鑽を積み、念願叶って『ジョン・ウィック』で監督デビュー。続く『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017)、『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019)でも監督を務めている。

デビッド・リーチ、チャド・スタエルスキーは共に、今やアクション映画のフィールドで確固たる地位を築いているフィルムメーカー。片方はブラッド・ピットのスタント・ダブル、もう片方はキアヌ・リーブスのスタント・ダブルとしてキャリアを積んだというのは、共通項として非常に面白い。両者ともスタントマンの経験があるからこそ、肉体性を感じさせるリアル志向のアクション・シーンを創出することができるのだろう。

だが、この『ブレット・トレイン』では、リアルな肉体性はあまり感じられない。これはどうしたことだろう? 我らが真田広之が日本刀でバッタバッタと敵を斬り殺したり、タンジェリンことアーロン・テイラー=ジョンソンが超高速で走る新幹線の最後尾にしがみついたり、トンチキJAPANを舞台にしたトンデモ設定の数々によるものなのか? 誇張しすぎたアクション描写によるものなのか? デビッド・リーチのインタビューの中に、そのヒントが隠されていた。

「監督として影響を受けたものはたくさんありますが、『ブレット・トレイン』の場合、レディバグの身体性はジャッキー・チェンやバスター・キートン、ハロルド・ロイドに触発されたものです。そしてこの作品には、彼らへの直接的なオマージュがいくつか含まれています」
(出典:GQのインタビューより抜粋)

バスター・キートン、ハロルド・ロイド! 彼らは映画黎明期を代表するコメディアン。彼らは脅威的な身体性でカラダを張ったアクションを繰り広げ、爆笑の渦を巻き起こしていた(もちろん、ジャッキー・チェンもその系譜に連なるアクション・スターと言えるだろう)。血と汗を感じさせるリアルな肉体性ではなく、様式化されたパントマイム性によって、『ブレット・トレイン』は“クセの強い”アクション映画となっているのである。

タランティーノ監督作品との類似性

筆者が『ブレット・トレイン』を鑑賞して思ったのは、クエンティン・タランティーノ監督作品との類似性。意味のなさそうな会話によってキャラクターが掘り下げられていく手法やダークなユーモア感覚に、どこか共通項を感じてしまう。かつてのヤクザ映画や時代劇を参考にして、日本を徹底的にカリカチュアした描き方は、『キル・ビル』二部作にも通じる精神だ。

特に象徴的なのが、主要キャラがなかなか死なないこと。木村(アンドリュー・コージ)はレモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)から至近距離で撃たれてもクライマックスの集団戦に加わるくらい元気だし、そのレモンも少なくとも2度は死の淵を彷徨っている。この死にそうで死なない感じ、なんか既視感あるなーと思ったら『レザボア・ドッグス』(1992)であった。

ティム・ロス演じるミスター・オレンジは、この映画の中でずーーーーーーっと瀕死状態。どれだけ銃弾を撃ち込まれても、虫の息で生き続けている。そういえば、『レザボア・ドッグス』で宝石強盗のメンバーは、ミスター・ホワイトだのミスター・ブロンドだの“色”で呼び合っていたが、これはレモンとタンジェリンが“果物”で呼び合っている感じと重なる。

また、黒人&白人の殺し屋コンビという設定は、『パルプ・フィクション』(1994)のヴィンセント(ジョン・トラボルタ)とジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)の二人を思い出させる。ジュールスは人を殺す前に旧約聖書の一節を暗唱するが、レモンも物事を『きかんしゃトーマス』で例えるという変なクセがある。ひょっとしたらデビッド・リーチは、『パルプ・フィクション』の二人を参考にしてレモン&タンジェリンのコンビを創りあげていったのかもしれないと、筆者は推察する。

『ブレット・トレイン』には、タランティーノ的なるものがそこかしこに刻印されているのだ。

『ブレット・トレイン』作品情報

■原題:Bullet Train
■上映日:2022年9月1日(木)
■レーティング:R15+
■配給:ソニー・ピクチャーズエンタテイメント
■公式HP:https://www.bullettrain-movie.jp/
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※2022年9月10日時点での情報です。