犬ヶ島』は、日本を舞台にしたストップモーション・アニメ。近未来、犬インフルエンザなるものが蔓延したメガ崎市では、人間への感染を断絶するため、すべての犬を離れ小島の犬ヶ島へと送り込むことになっていた。怒りと哀しみを抱えながら犬たちが必死に生きる中、愛犬を探しにひとりの少年アタリがやって来る。アタリは心優しい5匹の犬とともに、捜索にあたる。
ボイスキャストにはアタリ役に新星コーユー・ランキンが、5匹の1匹、ゴシップ好きの犬・デュークにはウェス監督作品常連のジェフ・ゴールドブラムが選出された。コーユー11歳、ジェフ65歳、年の差にして54歳(!)のふたりに来日を記念して対談を実施。作品内容についてはもちろん、お気に入りの場面、俳優としての意識まで、多くを語ってもらった。何より、恥ずかしがり屋のコーユーを、あの手この手で引っ張りながらトークを軽やかに展開するジェフの語り口が痛快。ノーカットでお届けしたい。
――まずはジェフから。実写と声のみの演技の違いをお聞きしたく、演じ分ける上で一番意識した部分はありますか?
ジェフ 声だけの演技は、前にもやったことはあるんです。ある意味、純粋な演技だと思っています。時間のことを気にしたり、太陽のことを気にしたり、そういうことがないだけに、非常に集中できる。でも、今回のウェス・アンダーソンとの仕事は特別でした。とにかく、脚本がすごく綿密に書かれていて、「この台詞を言ってほしい」というのがきっちり決まっていたからね。
僕、彼と2時間しか仕事してないんですよ(笑)。僕はロサンゼルスにいて、彼はニューヨークにいてレコーディングをしたので。
――つまり、ウェス監督は遠隔で演出を?
ジェフ そう。ウェスはすごく頭がいい人だし、いわば俳優側の監督なんです。要求がはっきりしているし、俳優をどう扱っていいかをわかっているし、笑わせてもくれる。ウェスと、そのまま非常に細かいところ、微妙なニュアンスまで一緒に作っていけるというのが素晴らしかった。
ところで、コーユーは、日本に何回も来たことがあるんだよね?
コーユー (うなずく)
――コーユーはお母さまが日本人で、お父さまがカナダ人なんですよね?
コーユー そう。
ジェフ:君は何度も日本に来ているし、僕よりいろいろ知っているよね?
コーユー ふふっ、そうかもしれないです。
――日本を舞台にしたこの物語を、どのように捉えて臨まれたんでしょうか?
ジェフ これまでウェスとの作品だと『ライフ・アクアティック』も『グランド・ブダペスト・ホテル』にも出ているんだけど、各映画をスタートするときに、その映画のインスピレーションとなった様々な作品や生活、人生にものすごく興味を持っているんですよ。学ぶべきことがすごくあるんですね。だから、今回の作品が日本ということにも驚かなかった。ウェスってすごく心が広くて、世界にいいものを提供する、美しいものを作り上げるけど、それが日本の精神につながっているんじゃないかと思ったからなんです。ちなみに、僕自身も日本が大好きで、何回か来ています。一番好きな食事も日本食だし、日本の人々が好きです。
コーユー 3年前、僕が8歳のとき、オーディションでニューヨークに呼ばれました。僕は、お話が全然わからなくて。練習なしでアタリの台詞を読み始めました。最初、アタリの台詞だけだったので、犬たちが出ているお話とは思わなかったくらい。5時間ぐらいレコーディングをやって、1年後に「アタリが僕に決まった」というメールがきました。
ジェフ 1年も!? すごいね!
――「決まった」と聞いたときは、どうでした?
コーユー びっくりしました、本当に。本当に嬉しくて。僕はもう「駄目だなあ……」と思っていたところだったんですけど、メールがきて、「うえっ!?」と思って(笑)。
ジェフ え~、どんな感じだったの? 電話がきたの? メールがきたの? ウェス本人からきた?
コーユー いえ、プロダクションからでした。「アタリは君のものだ。アタリが決まった」って。
ジェフ 泣いた? 踊った? 何をしたの?
コーユー ただただ、びっくり!
ジェフ そうだよね。その気持ち、わかるよ!
――ジェフは遠隔で演出を受けたということでしたが、コーユーに関しては、どのように導かれましたか?
コーユー 3年前に、ニューヨークで初めてウェス監督に会いました。僕は『ファンタスティック Mr. FOX』も観ていましたし、最初緊張していました。けど、ウェス監督は本当に優しくて、落ち着いている人。レコーディングのときには、ウェス監督が「ここは嬉しく言って。ここは悲しく言って。ここは怒って言って」と言ってくれるんです。彼は日本語をしゃべらないのに、指示ができるのは本当にすごいです。
――世界が注目する作品の真ん中に立つこと、改めてどうですか?
コーユー アタリがメインキャラクターとは、本当に知らなかったんです。アタリが僕に決まったというメールがきたときに、「主人公がアタリ」というのも書いてあっ? ?。僕としては、「え、え、え、えっ、アタリが主人公?」って(笑)。
ジェフ 本当かい? それで脚本を全部読んだのかい?
コーユー それで脚本を全部読ませてもらいました。
ジェフ すごいよ! 難しい役だしね。実のところ、コーユーとは、会ったことがなかったわけなんです。映画は全部アタリとのシーンばかりなのに、レコーディングもひとりでやっているし、一緒に演技をしたかったな、というのは今思っている正直なところかな。
――実際、演じた役に重なる部分や気づいたことなどはありましたか?
コーユー アタリは優しくて、勇気がある男の子。僕も優しくて勇気がある男だと思います。
ジェフ その通り、君も勇気があるよね。僕はね、ドン・キホーテの『ラ・マンチャの男』! (※突然歌い出す)ね、この歌の歌詞! 僕のキャラクターは、ちょうどこの気持ちですよ。歌詞、後で調べてくださいね(笑)。
とにかく、愛するもののために戦うことは非常に共感できるし、僕だって戦うと思う。勇敢じゃなくても一生懸命頑張ると思いますし。自分は、演技というものを愛してきて、ずーっと、そのためには命を捧げてきたようなところがありますから。もちろん努力もしたし、一生懸命やったし。今は、結婚して妻と二人の息子がいるから、彼らを守るためには何だってする。愛のために戦うというところが重なっていると思います。
――特にお気に入りの場面はありますか?
ジェフ 全部だよ。ずーーっと口が開いてました。3回観たんだけど、もう1回観たいし、観るべきものがいっぱいあるんですよね。
コーユー ほとんど全部ですけど、アタリが、チーフに「Good boy.(いい子だ)」と言うところが、本当に感動しました。
ジェフ キャストが本当にいっぱいいるから、観ていて「あっ、あれがフランシス・マクドーマンドだな!」とか発見するのも楽しみだよね。「あっ、あれが」と、いろいろな声を当てていく、みたいな。
僕は3回目は、観客賞を受賞したオースティンで観たんですけど、そのときが一番楽しめたかな。観客がすごく反応するから、皆と一緒に観られたことが楽しかったです。「どこが上手くいっているか」とかもわかるしね。
――ジェフはハリウッドの第一線で長く活躍していますが、これから俳優としてやっていくコーユーにアドバイスがあれば、ぜひ。
ジェフ 僕がコーユーから学んでいますよ(笑)。若い頃は、僕はめちゃめちゃだったので、もう失敗だらけでね。けど、それは学ぶチャンスがいっぱいあったということで。こんなスタートを切った彼に僕からアドバイスはないんだけど、今は何でも可能でしょう? (コーユーに)今回、初めての演技だったの? 本当? 学校とかでもやったことがない? 俳優になりたかったの? どうして?
コーユー 俳優になりたいと思っていました。「ちょっとやってみたい」と言ったら、お父さんがエージェントを探してくれて。
ジェフ どうやって演技を勉強したの? エージェントはどうやって見つけたの?
コーユー お父さんが俳優で、演技をしているんです。今、バンクーバーのテレビに出演しています。お父さんを見て、ちょっと自分もやってみたいと思ったので。今オーディションも、いろいろ受けているところです。
ジェフ じゃあ、お父さんと一緒に演技するっていうこともあるね! ニューヨークで舞台を観たことはある?
コーユー 次のお休みに行きたいと思っています。
ジェフ じゃあ、まだニューヨークの舞台を観たことがないんだね? 絶対観るべきだよ! ぜひ、演劇を観てほしいな。ニューヨークは最高の演劇が観られるからね!
――もし実写で共演されるとしたら、どんな物語がいいですか?
ジェフ ぜひやりたいね!!
コーユー (うなずく)
ジェフ ウェス・アンダーソン映画がいいかな。ウェスが書いたら、何か特別になるから。ところで、『レディ・プレイヤー1』は観た?
――はい、もちろん!
ジェフ タイ・シェリダン(※主人公役)っているでしょう? 彼、テキサス州オースティン出身で、『ツリー・オブ・ライフ』や『MUD -マッド-』に出たりしていて、素晴らしい俳優で、子役のときからクールでさ。タイとは『The Mountain(原題)』で共演したばかりなんだけど、僕はコーユーにも同じような雰囲気を感じています。自信があるし、落ち着いているし、シンプルで、でもパワフルで。僕はまだ学んでいる途中だけどね(笑)。
――今日のジェフのお話を聞いていても、来日したハリウッド・キャストと接してもいつも思うのは、温かくユーモアに溢れています。何か共通意識があるんですか?
ジェフ 人が好きで、日本が好きだからかな? 僕はジャズバンドもやっているんだけど、人を楽しませることが好きなのかも。子供は今、もうすぐ3歳と1歳になる男の子たちがいるんだけど、何かジョーク言うのが好きなんだなあって、自分で最近気づいたんです(笑)。妻にも、いつも「あなた、ちょっとふざけすぎ。いつも笑わせてばっかり!」って。でも子供の笑顔になるのを見るのが、すごい好きなんです。彼らも僕を笑わせてくれるし。(インタビュー・文=赤山恭子)
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映画『犬ヶ島』は5月25日(金)より、全国公開中。
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