車いすで生活している大富豪と、介護人として雇われた黒人青年、出会うはずのないふたりが起こした奇跡を描き、日本でも歴代のフランス語映画の中で興行収入第1位を記録した『最強のふたり』は、エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュが共同監督を務めた作品。
この名タッグによる最新作『セラヴィ!』は、フランスの古城で執り行われる結婚式の1日を、ウェディングプランナーと、彼を取り巻くポンコツスタッフたちによる目線で描いた幸せの人間讃歌だ。『最強のふたり』よろしく、腹を抱えて笑うほどのコメディセンスと、じんとくるドラマの割合が絶妙で、本国では公開1カ月で25億円を超える大ヒットを記録した。
日本未公開の3作を含めると『最強のふたり』、『サンバ』に続く本作『セラヴィ!』は、実に6作目のコンビで手掛けた映画となる。「苦しい今だからこそ笑いが大切だ」と強い信念を持ち、製作にあたったエリック&オリヴィエだからこそ、インタビューも終始明るく行われた。そして、その魅力を探ろうとすればするほど、一筋縄ではいかない彼らのトークにより、とんでもない方向に転がり続けた。……しかし、これぞ「セラヴィ!(まあ、これも人生さ!)」。
――ここまで笑うと思っておらず、中盤、新郎に事件が起こる場面では涙が出るほど笑ってしまいました。
エリック 本当に、よかった! 世界各国の上映で、その場面で皆がどんな反応するかというのを、実は映像で撮っていてね、面白いよ(笑)。いろいろな国で、みんなが笑ってくれていたね。
オリヴィエ ヨーロッパの国々はフランスに対して近隣だけど、日本はフランスの文化に遠いよね。けど、同じことに反応しているんだね(笑)。
――こうした、コメディやドラマがミックスし、さらには様々な人物が登場する、いわゆる群像劇を描くときは、どういうところに気をつけているんですか?
オリヴィエ 僕たちはオーケストラの指揮者のような感じで、それぞれの人物を楽器のようなものだと感じているんだ。だから、僕たちは全体の楽譜を書いて、3年間でそれを組み立てて、演奏まで結びつけていくために、シナリオを書いたり、準備をしたりしている。それから編集をして、リズム感を出すのさ。そして、やっぱりユーモアを交えながら、映画として成り立つようなメロディーを描いていきたいなと考えているよ。僕たちはジャズがとても好きだから、ときどきアドリブあり、という感じにしたい。そう作っているんだ。
――アドリブというのは、具体的にどのようなことですか?
エリック スタジオ撮りをするにしても、主義としては、撮影現場でいろいろな人の言うことには耳を傾けるようにしているよ。それから、大体シナリオを書くのに1年半から2年ぐらいかけて書いていて、その間に、「このシーンはこういうふうに」とイメージしているんだけれど、実際の撮影が始まると、予定通りのものは撮りながらも、その間にどんどんどんどん僕たちの中でアイディアが湧いてくる。だから、テスト撮りのついでに、新しいアイディアにも取り組んだり、たくさんのバリエーションを作るんだ。編集もふたりでやるので、そのときにいろいろなバリエーションがあるほうが楽しいというか、作りやすいと思って。
――そうして出た多くのアイディア、バリエーションを編集する上で、意見が割れることはないんでしょうか?
エリック 一番最初のシナリオを書くところからふたりでやっているから、意見が食い違うというのは、あまりないかな。最初のうちに、いろいろ議論を重ねて解決策を見つけていって、ポジティブな形でどんどん進めているんだよ。編集までずっとふたりでやっているし、音楽なんかも自分たちで決めているし、お互いに補完的というか。例えば、意見が合わなかったとしても、それは話し合いのタネみたいな感じなんだ。だから僕たちが作った『最強のふたり』という映画のタイトルの通り、僕たちは“最高のふたり”なのさ(笑)。
――撮影していて困ったことや、演出上でのエピソードはありますか?
エリック 真夏のパリで展開する話なんだけど、その撮影の最中は「1910年以来の大雨」と言われて、セーヌ川もほとんど記録的な水位にまで上がってきてしまっていたんだ。だから、外で撮影するはずだったシーンも中で撮らなくてはいけなかったりして……ちょっとでも陽が差したら、急いで外に出てシーンを撮ったり、本当に大変だったね。主人公(マックス)が、「その場に応じて、うまく対応するんだ!」と言うんだけど、まさに僕らが「適応せよ!」でね(笑)。あとは、ルイ13世が所有していたパリ近郊のお城で撮影していたんだけど、僕たちも城内で寝ていたから、朝起きると王様の気分だったよ!
――撮影中、ずっとお城で寝泊まりしていたということですか?
オリヴィエ うん。このお城に、ずっと寝泊まりしていた。
――すごい貴重で、楽しそうですね。
エリック 本当にお城の城主になった気分でね。お城と、何ヘクタールもある広い森が続いているんだ。週末には、むしろ家族がこっちに来て、皆と一緒にそこで過ごしていたから、全然パリに戻らなかったよ。
――『セラヴィ!』を観ていると、日本とは違う型破りなフランスの結婚式の様子に驚きます。一体どこまでがフィクションなのか、何かを参考にしているのか……。
オリヴィエ でも、日本でも結婚式はお祭りというか、パーティーだよね?
――披露宴、二次会とあって、二次会がどちらかというとパーティー風でしょうか。
< p>エリック そうなんだね。フランスには日本のような「結婚式場」はないけど、いくつか式場になり得る場所は、あったりもするよ。例えば、ホテルで結婚式を挙げることもあるし、本作ではお城でやっているけれども、ブルジョワの人たちはお城でやりたがる傾向にあるかな。「自分たちは昔、貴族だったから、こういうお城に住んでいたから」と言って、ある社会層の人たちが、自分たちの祖先を思い起こさせるような場所を選ぶのはよくあることで。だから、(劇中に出てくる)従僕の衣装を着けた人にサービスしてもらうとかも、よくあるよ。
オリヴィエ フランスでは、ああやってお城を借りてとか、ちょっとお屋敷を借りて結婚式をすることはよくあるので、とてもフランスらしい結婚式だよ。
――本当に素敵で、参加してみたいと思いました。
エリック そうだね、今度呼んであげるよ。
――ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。
オリヴィエ 僕と結婚しよっか?
――ありがとうございます。えっ?
エリック そうだね、それが一番簡単かもよ?
オリヴィエ ああ、でも、まず奥さんに了承を得ないと。それが大丈夫だったら、日本から君の家族を呼んでね。
エリック 僕が証人になってあげるよ。
――急にジョークが炸裂しました(笑)。せっかくおふたりがいらっしゃるので、お互いのご自分にない才能や、近いからこそわかる長所など、ぜひ教えてほしいです。
エリック ……欠点は言っちゃいけないの?
――(笑)。どうぞ。
エリック じゃあ、僕から始めていい? オリヴィエは、いい男、いい夫になる人だよ。いい夫になれるよ!
オリヴィエ 提案なんだけど、例えば、僕は偶数で、エリックが奇数の日に、君の夫になればいいんじゃないの?
――おふたりのユーモアが止まりませんね。
エリック ほら、わかるでしょう(笑)? 彼の良さっていうのは、やっぱり面白いところだと思う。面白くなかったら、1日一緒にいてもつまらない。それに、僕よりもストレスを感じない人なんだよね、落ち着いている。それが彼のいいところさ。欠点はね、欠点はね……。
オリヴィエ 僕の欠点、ないんだ(笑)? たまにあるよ?
エリックは、僕ほどぐちゃぐちゃ、ごちゃごちゃじゃない。シナリオを書くときなんか、ある程度秩序立って書かないと絶対に終わらないんだけど、そういう意味では、彼のほうが段取りがしっかりしているんだ。それが長所だね。
――ありがとうございました。最後に、公開を待ち望んでいる日本のファンや、多くのクリエーターに、メッセージをいただければと思います。
オリヴィエ 日本に来ることができて、本当にうれしいよ。アリガトウ(※日本語で)!
エリック 日本に来ることができるなんて名誉だよ。待っていてくれていた日本の方々に、僕も会いに来たので、ぜひ観て、皆さんの笑いを聞きたいと思うよ。僕たちは、今、苦しい時期に生きているけれども、ヨーロッパでは少なくともそうなんだけども、そういうときに笑いはとても大切で。だからこそ、僕たちが朝起きるのは、笑いを取るためで、大勢の観客の笑いを聞きたいし、日本の方々の笑いが聞きたい。これまでの作品と同じように、多くの方に観てほしいと思うよ。(インタビュー・文=赤山恭子、写真:市川沙希)
映画『セラヴィ!』は2018年7月6日(金)より、全国ロードショー。
(C)2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】
【あわせて読みたい】
※ 映画『セラヴィ!』あらすじ・キャスト・情報【『最強のふたり』監督最新作!】
※ 私の結婚式見つけた!心躍るウェディングシーンが印象的な映画6本
※ これぞ大人のエロス!極上の官能的フランス映画13本
※2022年10月28日時点のVOD配信情報です。