超話題のインド映画『RRR』映画ファンから高評価される理由は?ネタバレありで魅力を徹底解説

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世界中の注目を集めたインド映画『RRR』の魅力をネタバレありで徹底解説! ミュージカルシーンに隠された本当の意味とは?

インド映画『RRR』は衝撃的な面白さを有する作品である。映画ファンほど、映画冒頭から続く怒涛の展開に、横っ面を殴られるくらいの衝撃を受けるだろう。

しかも、この映画が繰り出してくるパンチは、プロボクサーが放つ計算しつくされた右ストレートだ。荒唐無稽で馬鹿らしいことをやっているように見えて、実はすべてが計算の上に成り立っている。『RRR』はそんな映画なのである。

今回は『RRR』が持つ、さまざまな魅力について迫っていきたい。

RRR』(2022)あらすじ

舞台は1900年代前半のインド。当時のインドは大英帝国の植民地であり、現地の人々は白人の権力者から差別的なあつかいを受けていた。

そんなインドに生きるビーム(N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア)は、インド総督のバクストン(レイ・スティーヴンソン)に誘拐された少女・マッリを救うため、大英帝国の本拠地・デリーに潜入する。しかし、バクストンが住む総督公邸は警備が固く、安易に侵入できなかった。ビームは総督公邸に侵入するべく、スコットの姪・ジェニー(オリヴィア・モリス)に接近していく。

一方、大英帝国に忠誠を誓うインド人の警察官・ラーマ(ラーム・チャラン)は、デリーのどこかに潜んでいるビームを追っていた。

思想も立場も異なるふたりが出会うとき、インドの歴史が大きく動き出す……。

※以下、『RRR』のネタバレを含みます

映画としての懐の深さ

『RRR』は「ジャンルのるつぼ」状態になっている映画だ。アクションはもちろん、ロマンス、コメディ、歴史、そしてミュージカル。実在の人物を基にしていることも考えると、ブロマンスや歴史改変SFの要素も入っているだろう。

1つの作品で、これほど多くのジャンルを有しているのも珍しい。しかも、本作はそれぞれの要素が互いを邪魔することなく結び付き、ひとつの大きなストーリーを語っていく。

また、本作は大きく移り変わっていくロケーションも魅力のひとつだ。こちらも先述したジャンルと同じように、完全なるつぼ状態になっている。冒頭は山奥にある村からはじまり、ラーマの本拠地である山岳地帯や市街地、ビームが活躍するジャングルと、映画冒頭だけでも怒涛の場面転換がおこなわれた。

下手したら観客の頭の中が大混乱になる構成だが、違和感を覚えることはいっさいない。ジャンルも舞台も、すべてを包み込んでしまえる、四次元ポケットくらい懐の深い映画なのだ。

貧血を起こすほど興奮するアクション

基本的に本作のアクションは、「そんなのありえないだろ(笑)」の連続である。阿吽の呼吸でロープを使った救出劇をおこない、動物たちを操って総督公邸に殴りこむ。挙句の果てには、肩車を使った、世界一かっこいい脱獄シーンが用意されている。誰も観たことがない画期的なアクションシーンの連続は、往年のジャッキー・チェン映画を思い起こさせるだろう。

本作のアクションが持つ最大の特徴は、“キメ”が用意されていることだ。一連のシークエンスを終わらせた際、ビームもラーマも、しっかりキメ顔を披露する。本国インドであれば10分に1度は、拍手喝采が起こるはずだ。それくらい盛り上がるシーンの連続で、普段静かに映画を鑑賞する筆者でさえ、つい身体が前のめりになってしまう。許されるなら、大きな拍手を送っただろう。

特に映画冒頭、ラーマが数千人の群衆相手に、たったひとりで立ち向かっていくシークエンスは必見だ。ラーマは実在した人物だけあって、超能力やスーパーパワーのたぐいは使えない。では、なにを武器に数千人と戦っていくのか? 答えはハートである。精神力である。

スーパーパワーで数千人の群衆を蹴散らせば、それはそれで気持ちいいだろうが、ラーマは拳と拳のぶつかり合いで倒していく。時には地の利を得て、時には並はずれた執着心で、ひたすらドロドロの戦いを繰り広げていくのだ。そして最後には、物理的な強さに裏付けされた、“覇気”で群衆を圧倒する。

一方、ビームは、なるべく優しい(痛々しくはあるが)方法で虎と戦う。火を象徴するラーマと、水を象徴するビームの対比がおこなわれている。冒頭2箇所のアクションシーンだけで、ふたりの性格や思想の違いが如実に描かれているのだ。

ストーリーが熱い!

ラージャマウリ監督が多くのインタビューで語っているように、本作はクエンティン・タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』から影響を受けた作品である。ラーマとビームは実在した革命家であり、1900年代前半にイギリスの植民地支配に反旗を翻した。

しかし、ふたりが実際に出会ったという記録は残っていない。本作で描かれる友情や戦いはすべてフィクションであり、「ラーマとビームが出会っていたら……」という“もしも”の世界を描いた、歴史改変SFなのである。

多くの日本人はインドの歴史に明るくないため、史実とフィクションの境目が非常に曖昧になってしまうが、パンフレットやネットなどで史実を知っておくと、さらに楽しめるはずだ。出会うはずのなかったふたりの出会い、辿るはずがなかったルートへと突き進んでいく展開は、誰しも胸が熱くなるだろう。

もちろん、前知識がなくても楽しめる作品であることは間違いない。近年はMCUや「ワイルド・スピード」シリーズなど、面白いアクション映画はあるが、どれも複雑化している。過去作が多すぎるうえ、時系列も前後しているため、観るのを断念してしまった人も多いだろう。

一方、『RRR』は前知識が一切不要! インド映画の経験も、もちろん不要! ゼロから始めることができるのだ。

そして、1度映画を楽しみきったら、ラーマとビームに関する知識を入れて、もう1度劇場に足を運んでほしい。ふたりががっちり手を握り合う瞬間の感動が、2倍、3倍に増すはずだ。

ミュージカルの重要性

RRR』を語るうえで、ミュージカルは欠かすことのできない要素のひとつだ。劇中で使われた楽曲「ナートゥ・ナートゥ」は、本年度のゴールデングローブ賞で歌曲賞を受賞。アカデミー賞へのノミネートも有力視されており、ミュージカルの本場・アメリカでも高く評価された。

「ナートゥ・ナートゥ」は、楽曲だけでなく、ミュージカルとしての完成度も抜群に高い。このシーンでは支配階級にいる白人側に対し、ビームとラーマが暴力を一切使わずに、一矢報いることに成功している。ふたりが使う武器は音楽であり、インドの文化そのものだ。

ふたりのダンスは、白人女性たちをも巻き込み、誰にも止められない熱狂へと昇華していく。次第に人種や性別、立場の間にあった壁は薄くなっていき、あれほどビームを小ばかにしていたエドワードをはじめとする白人男性までもが、埃だらけになって踊りだす。このシーンは非暴力による勝利を描いた、ある種の理想が体現されたシーンにも思える。

終盤には力による復讐も果たされるわけだが、「ナートゥ・ナートゥ」のシーンは現代まで続いている、ヨーロッパ中心主義に対するカウンターパンチだ。そんな楽曲が2023年のショーレースを騒がせているのは、『RRR』ファンからすれば、非常に感慨深いものがある。

映画の枠を超えていけ

本作の盛り上がりを見て、まず最初に思い浮かぶのは、ラージャマウリ監督の前作『バーフバリ』2部作だ。当時は応援上映が各地でおこなわれ、インドの映画館さながらの熱狂が巻き起こっていた。『RRR』もただ“鑑賞”するだけではなく、観客も映画に“参加”して初めて真価を発揮する作品であることは間違いない。

2022年も数々の名作が公開されてきた。日本でも爆発的なヒットになった『トップガン マーヴェリック』や、世界を席巻した『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』など、後世に残る大作映画も次々と公開され、映画ファンにとっては“当たり”の年だったといえる。

しかし、なにかひとつだけ、心の底から面白いと思えるエンタメ作品を挙げるなら、間違いなく『RRR』だ。

もし、『RRR』を観たことがない、という人がいたら、この言葉を送ってやろう。

「“ナートゥ”をご存じか?」

RRR』作品情報

監督・脚本:S・S・ラージャマウリ
音楽:M・M・キーラヴァーニ

(C)DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

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